極私的映画案内

新作、旧作含め極私的オススメ映画をご案内します。時々はおすすめ本も。

2017年のオススメ本《後編》

2017年のオススメ本、《後編》の10冊です。
ここ何年か、脳内積読本になっているロベルト・ボラーニョの未完の大長編『2666』
今年に持ち越しとなってしまいましたが、
(その代わりに読んだ?)ホセ・ドノソ『夜のみだらな鳥』が圧巻でした。
今年もこつこつ、ラテンアメリカ文学を読んでいきたいと思ってます。


▪️私の名前はルーシー・バートン/エリザベス・ストラウト
小川義高訳/早川書房
MY NAME IS LUCY BARTON/Elizabeth Strout/2016

手術を終えればじきに退院出来る筈の盲腸炎で入院が長引くルーシー。
幼い二人の娘にも会えず、仕事に家事に忙しい夫は見舞いもままならず、不安な日々を送る彼女の元を訪れたのは疎遠になっていた母だった。
母と過ごす5日間は、主に故郷の人々の噂話に終始するが、その時ルーシーが一番側にいて欲しかったのはきっと母親だったろうし、その後の人生において、そして作家としても重要な5日間となる。
離婚、再婚、様々な出会い。ルーシーという人間、
作家を作り上げた要素はいろいろあれど、
家族との関係、特に母との関係は特別だったのだろう。
どんなに疎遠になっていても愛がない訳じゃない。
そんなに簡単に家族の縁がきれる訳じゃない。人それぞれに愛情の示し方があって、ルーシーの母にとってそれは、ベッドの足元に座り噂話をすることだった。

「私の母が愛してるという言葉を口に出せない人だったことを、読者にはわかってもらえないかもしれない。それでもよかったということをわかってもらえないかもしれない」

人のことなんかわかりゃしない。
自分のことだってわかってもらえないかもしれない。
それでもルーシーは書く。
そして、エリザベス・ストラウトも書き続ける。

私の名前はルーシー・バートン

私の名前はルーシー・バートン

👇エリザベス・ストラウトのピューリッツァー賞受賞作『オリーブ・キタリッジの生活』はこちら
オリーヴ・キタリッジの生活 (ハヤカワepi文庫)

オリーヴ・キタリッジの生活 (ハヤカワepi文庫)


▪️異国の出来事/ウィリアム・トレヴァー
栩木伸明訳/国書刊行会
A SELECTION OF STORIES/William Trever/1972,1975,1981,1986,1989,1992,2000,2007

旅先という非日常。
見知らぬ人とのつかの間の出会いと別れもあれば、
知っている筈の人の意外な面に驚かされることもある。
“非日常”というだけでも、旅の記憶に残りやすいが、
そこで起きたことはその後の人生において決定的な影響を及ぼしてしまうこともある。
長い人生においては短い時間でも、より劇的。
旅は短編小説そのもの。
傑作揃いだが、一瞬の恋が永遠だった「版画家」、
離婚で自分の人生を歩み始めた女性が苦い現実に直面する「家出」、父と娘がすれ違う「ザッテレ河岸で」、
親友だった少女を引き裂いた秘密を描く「娘ふたり」がお気に入り。
(収録作品)
⚫︎エスファハーンにて
⚫︎サン・ピエトロの煙の木
⚫︎版画家
⚫︎家出
⚫︎お客さん
⚫︎ふたりの秘密
⚫︎三つどもえ
⚫︎ミセス・ヴァンシッタートの好色なまなざし
⚫︎ザッテレ河岸で
⚫︎帰省
⚫︎ドネイのカフェでカクテルを
⚫︎娘ふたり

異国の出来事 (ウィリアム・トレヴァー・コレクション)

異国の出来事 (ウィリアム・トレヴァー・コレクション)


■アメリカーナ/チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ
くぼたのぞみ 訳/河出書房新社
AMERICANAH/Chimamanda Ngozi ADICHIE/2013

ジュンパ・ラヒリ、イーユン・リー、ジェフリー・ユージェニデスなどこれまでにも米国に移り住んだ人々の物語は読んできたが、ナイジェリア人女性の視点で語る本作はとても新鮮だった。
「オールド・ファッションなラブストーリーを書きたかった」そうだが、やっぱり興味深いのはイフェメルが米国へ行って初めて直面した“人種問題”だ。
アメリカ黒人と非アメリカ黒人の間に存在する意識の違い、外国で学び帰国したナイジェリア人と故国との間の生じるズレ。
イフェメルはアメリカで傍目からみればかなり上等な二人の恋人(白人リベラル、アフリカ系アメリカ人)と付き合うが、二人の人種問題に対する態度に違和感を感じる。
結局それが故郷の恋人オビンゼの元に戻る動機のひとつにもなっていくのだが、一筋縄にはいかない人種問題の複雑さについて考えさせられた。
ナイジェリアにいる間は自分が黒人だと意識したことのなかったイフェメルの姿と日本に生まれて暮らしている日本人が重なる。
日本人だって海外に出れば、間違いなくマイノリティであり、差別される側の存在だ。
“ラブストーリー”の効用は、イフェメルの運命の人であるオビンゼの視点を獲得出来たことだろう。
彼の視点があることでストーリーが重層的になっているし、彼がイギリスで経験した挫折は海外に出たナイジェリア人のもうひとつの物語だ。
イフェメルの物語は、自分が自分らしくいられる場所(あるいは自分が自分らしくいられる誰か)を探す旅でもある。
恋愛というのは、自分がどういう人間なのかを知ることなんだとあらためて思う。

アメリカーナ

アメリカーナ


■百年の散歩/多和田葉子
新潮社

フィクションともエッセイとも言い難い不思議な味わい。実在するベルリンの通りや広場の名を冠した章で構成されている。あの人を待ちながら歩く通りや広場、目に映る景色や店や人々の姿、刺激された想像力が解き放たれる。

渡し船には乗らず、横断歩道のシマウマの背中に乗って渡った」
「驚きはミミタブの裏側をカタツムリのようにゆっくりと這い上がった」

(『レネー・シンテニス広場』)

逆立ちしても出て来ないようなハッとする表現にため息。他言語で暮らしているからより洗練された日本語で表現できるのだろうか?全編、素晴らしかった。
「レネーシンテニス広場」のレネーシンテニスはベルリン国際映画祭のトロフィーのクマを制作した彫刻家。通りや広場の名前になったその人への興味もわくし、その場所の歴史にも思いを馳せたくなる。

「蜘蛛を嫌う人、汚職を嫌う人、にんじんを嫌う人、
ナイロンを嫌う人、いろんな人がいていい。
でもユダヤ人を嫌うということはありえない。
トルコ人を嫌うということはありえない。
中国人を嫌うということはありえない。
自分の傷が腐食しかけているのに治療する勇気を出せない憶病者が、無関係な他人に当たり散らしているだけだ。」

(『トゥホルスキー通り』)

「子供は背後に無限に広がる空間に一歩づつ踏み込んでいく。未知の空間での冒険がこんなに日常的な時間に含まれていることを知っているのは子供たちだけだ」
(『コルヴィッツ通り』)

「あの人は言った。若葉がきれいなのは数日間だけだ、と。すぐに色がくすんでしまう恋愛に似ている。必ずくすんで、それから先の時間はずっと失った色のことが気になっている。無理だとわかっていても取り戻そうとする。取り戻せないので再現しようとする。演じようとする。もしも喪失も恋愛のうちならば、ハカナイということにはならない。むしろいつまでも終わらないことが苦しいくらい。恋の時間は長い。」
(『トゥホルスキー通り』)
(収録作品)
⚫︎カント通り
⚫︎カール・マルクス通り
⚫︎マルティン・ルター通り
⚫︎レネー・シンテニス広場
⚫︎ローザ・ルクセンブルク通り
⚫︎プーシキン並木通り
⚫︎リヒャルト・ワグナー通り
⚫︎コルヴィッツ通り
⚫︎トゥホルスキー通り
⚫︎マヤコフスキーリング

百年の散歩

百年の散歩


■母の記憶に/ケン・リュウ
古川嘉通 他訳/早川書房(新・ハヤカワ・SF・シリーズ)
MEMORIES OF MY MOTHER AND OTHER STORIES /KEN LIU/2017

かつての私がそうだったようにSFに苦手意識のあるひとにこそオススメしたいのが、ケン・リュウの短編集。
前作の『紙の動物園』もそうだったように、
ケン・リュウの紡ぐストーリーはSF要素はほんの一部であって、まず、その世界観を理解しなければストーリーに入り込めないというものではない。
今作にはごく短いものから中編と言ってもいいようなものもあるが、テッド・チャンの『あなたの人生の物語』を思わせるごく短い表題作『母の記憶に』、身体機能を拡張強化した女探偵が娼婦殺しの犯人を追う中編『レギュラー』辺りがお気に入り。
中国で生まれアメリカで教育を受けた著者の出自が活かされたゴールドラッシュのサンフランシスコが舞台の『万味調和ー軍神関羽のアメリカでの物語』、中国の史実に材をとった『草を結びて環を銜えん』も良かったです。
(収録作品)
⚫︎烏蘇里羆(ウスリーひぐま)The Ussuri Bear
⚫︎草を結びて環を銜えん
Knotting Grass,Holding Ring
⚫︎重荷は常に汝とともに
You'll Always Have the Burden with You
⚫︎母の記憶に Memories of My Mother
⚫︎シミュラクラ Simulacrum
⚫︎レギュラー The Regular
⚫︎ループの中で In the Loop
⚫︎状態変化 State Change
⚫︎パーフェクト・マッチ The Perfect Match
⚫︎カサンドラ Cassandra
⚫︎残されし者 Staying Behind
⚫︎上級読者のための比較認知科学絵本
An Advanced Reader's Picture Book of Comparative Cognition
⚫︎訴訟師と猿の王
The Litigation Master and the Monkey King
⚫︎万味調和ー軍神関羽のアメリカでの物語
All the Flavors
⚫︎『輸送年鑑』より「長距離貨物輸送飛行船」(〈パシフィック・マンスリー〉誌二〇〇九年五月号掲載)
The Long Haul:From the ANNAL OF TRANSPORTATION,The Pacific Monthly,May 2009

母の記憶に (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

母の記憶に (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

👇ケン・リュウの前作『紙の動物園』もオススメ


■都会と犬ども/マリオ・バルガス=リョサ
杉山晃 訳/新潮社
La ciudad y los perros /Mario Vargas Llosa/1962

どんな時代のどんな学校にもある程度は存在するであろうスクール・カースト
しかし、あらゆる階級の少年達が集まるレオンシオ・プラド士官学校で、その階級を決定付けるのは腕力と狡賢さ。
アルベルトは道化を演じ、ジャガーはその腕力でクラスを支配し、繊細で心優しいリカルドは“奴隷”となる。
バルガス=リョサ二十代半ばの作品だが、
第二部でガンボア中佐の存在感が増し、
テレサに思いを寄せる謎の少年の正体が明らかになる見事な構成は既に見てとれるし、落ち着き払った最近の作品にはあまり見られない“熱”が感じられる。傑作です。

都会と犬ども

都会と犬ども


オープン・シティ/テジュ・コール
小磯洋光 訳/新潮社(新潮クレスト・ブックス)
OPEN CITY/Teju Cole/2011

混血として生まれ幼少期を過ごした土地を離れ何処にもコミットしていないという寄る辺なさと孤独を抱えるジュリアス。
ニューヨークを歩きブリュッセルを彷徨い、
身体はそこにあっても心は距離も時間も超え、
自らの過去、その土地の歴史に思いを馳せる。
冬のNYの痛いくらいの空気の冷たささえ感じられる描写力は素晴らしいし、知的だが、
何処かスノッブで鼻持ちならない。
祖母を思いブリュッセルに向かうも然程必死に探すでもなく、母との間の距離についても多くを語らない。
ジュリアスに対するこうした違和感の正体は、
終盤、同級生の姉であるモジによって暴露される。
国やその土地に眠る暴力の歴史について語りながら、
自分が加害者となった暴力については無自覚なジュリアス。
テジュ・コールはジュリアスについてモジに「精神科医の知ったかぶり屋」と言わせている。
テジュ・コールは読者がジュリアスに抱く違和感など織り込み済みなのだ。人は歴史の傍観者としてならいくらでも善の側に立てるが、
当事者となるとそうはいかない。

オープン・シティ (新潮クレスト・ブックス)

オープン・シティ (新潮クレスト・ブックス)

オープン・シティ (新潮クレスト・ブックス)

オープン・シティ (新潮クレスト・ブックス)


■フロスト始末/R・D・ウィングフィールド
芹澤恵 訳/創元推理文庫東京創元社
A Killing Frost/2008

冒頭、車輌維持経費の書類とにらめっこしてるジャック・フロスト警部の描写だけで、もうニヤニヤが止まらない!相も変わらず慢性人手不足のデントン署管内では、ティーンエイジャーの行方不明事件、死体遺棄事件にスーパー脅迫事件と事件続発。更にデントン署からフロストを追い出そうと画策するマレット署長の刺客スキナー警部登場!ウェールズ出身お芋クンことモーガンはちったあ使えるようになった様子。マレット署長の車はジャガーからポルシェって、署長ってそんなに高給取り?口は悪いが、フロスト警部は紳士です。
下巻突入後は、だから違うって!ブリジットがデビーの携帯を盗んだのはデビーのロッカーじゃないんだって!と心で叫びながらフロスト警部とデントン署の面々と共に最後の事件解決。ついに、とうとう読み終わってしまった…。お世辞にもかっこいいとは言えないくたびれた中年警部のシリーズがここまで支持されたのは、フロストの女性や子供、弱者に対する優しさや悪に対する姿勢が一貫していたからだろう。芋兄ちゃんだ何だと言われながらもモーガンがフロストを慕うのも、何とか一丁前の刑事にしてやろうっていうフロストの親心を感じてたからじゃないかしらん。
なんでも二人組の作家による若き日のフロストを描くシリーズが発表されているということで、これは朗報!現在までに四作発表されているので人気も上々なのだろう。
日本語訳が出るときは、是非とも芹澤恵さんの訳でお願いします。


■神秘大通り/ジョン・アーヴィング
小竹由美子 訳/新潮社
AVENUE OF MYSTERIES/John Irving/2015

「フワン・ディエゴは常に心の中でー記憶のなかではもちろんだが、夢のなかにおいてもまたー自分のふたつの人生を「平行に並べて」繰り返し、たどり直していた。」メキシコ、オアハカのゴミ捨て場の子として生まれ育ち、米中西部アイオワに移り自分が思うよりも人気作家となったフワン・ディエゴ。彼の「平行に並べて」たどり直すふたつの人生のブリッジとなるのは、夢だ。脈絡のない夢に喚起されて記憶が呼び覚まされる。実のところ、読みながらウトウトし、夢の中で物語の続きを見て、目が覚めて、さらに物語の続きを読むという読み方をしている。
オアハカで死んだ徴兵忌避者グッド・グリンゴとの約束を果たすためフィリピンへ向かうフワン・ディエゴ。それは、妖しい魅力溢れる母娘ミリアムとドロシーに導かれる死出の旅。ダンプ・キッドだったフワン・ディエゴの運命を変えたのは聖処女マリアが見せた奇跡。パッと現れ消える母娘は聖処女マリアとグアダルーペを思わせる。人生の終わりに、何よりも大切な少年時代の記憶を取り戻し、母娘との官能的な経験を経て、聖処女グアダルーペの元へ。避けられない運命なら、こんな終わりも悪くないのかもしれない。
アーヴィングが描く衝突コースの人生は悲劇に満ちているが、それでも「開いた窓は見過ごせ」(「生き続けろ」)がメッセージだったと思う。今作も成長することを拒否した女の子、中絶、トランスヴェスタイトエイズ禍とおなじみのモチーフに溢れているが、最期にフワン・ディエゴに「驚きはない」と言わせるあたりは、アーヴィングも年をとったということだろうか?
『第五幕、第三場』作家になったフワン・ディエゴが高校時代のいじめっ子ヒュー・オドンネルと再会するシーンが好き。Dr.ローズマリーが「結婚申し込んでた!」と言うのも納得。
「あなたは女性と話すべきだー何を読んでいるか、女性に聞いてみなさい!」 「女性が本を読まなくなったらーそれが、小説の死ぬときだ!」だそうです。

神秘大通り (上)

神秘大通り (上)

神秘大通り (下)

神秘大通り (下)


■夜のみだらな鳥/ホセ・ドノソ
鼓直 訳/集英社
EL OBSCENO PÁJARO DE NOCHE/José Donoso/1970

「作中人物はいつも不明瞭で、不安定で、決して一個の人間としての形をとらなかったわ。いつも変装か、役者か、くずれたメーキャップとかいった……」語り手であるウンベルト・ペニャローサの作品を評してある登場人物がこう言っているが、この小説にも当てはまる。時制が行ったり来たりという小説は珍しくはないが、それに加えて登場人物、それも語り手自身が変身してしまう。どこまでが(物語中の)事実で、どこまでが語り手の妄想なのかもわからない。読者にここまで混乱を強いる小説は初めて。これを何度も書き直したというドノソ、恐るべし!
ホセ・ドノソ三作目。これまで読んだドノソ作品では、『隣りの庭』の庭(故郷の庭と隣家の庭)、『別荘』の別荘、そして本作の修道院と畸形の王国となるリンコナーダの邸宅も登場人物と同様、あるいはより重要なピースになっている。

夜のみだらな鳥 (ラテンアメリカの文学 (11))

夜のみだらな鳥 (ラテンアメリカの文学 (11))

2017年のオススメ本《前編》

後半の失速により、2017年の読了本は100冊にも満たなかったのですが、ベストを選ぶとなるととても10冊にはおさまらず、結局20作品になってしまいました。
まず《前編》では、10冊を紹介します。
紹介の順番は、読んだ順番です。


■その雪と血を/ジョー・ネスボ
鈴木恵 訳/早川書房
BLOOD AND SNOW/JO NESBØ/2015

ジョー・ネスボは『スノーマン』(〈刑事ハリー・ホーレ〉シリーズ)に続き二作目だが、随分とテイストが違う。
主人公は殺し屋にしかなれなかった男オーラヴ。
売春と麻薬取引を牛耳るマフィアのボスからの新たな依頼は、彼の妻コリナを殺すこと。
しかし、オーラヴは雪のように白い肌を持つ彼女に一目で魅せられてしまう。
コリナは典型的なファム・ファタールだが、もう一人の“運命の女”となるのが彼が助けた聾唖の女マリアだ。186頁と短い小説だが彼女の存在が物語に奥行きを与えている。
あの美しいラストシーンは彼女なしではあり得なかった。
レオナルド・ディカプリオ主演で映画化進行中」とのことだが、どうなんだろう?
読後思い出したのはN・W・レフンの『ドライヴ』だったんだけど。。。
ちなみに『スノーマン』はM・ファスベンダー主演で映画化(監督は『ぼくのエリ〜』『裏切りのサーカス』のトーマス・アルフレッドセン)、
『ヘッド・ハンター』は本国ノルウェーで映画化されていて観ましたがとても面白かった。
こちらもハリウッドリメイクされるというニュースがあったがどうなっているんだろう?


サラエボチェリスト/スティーヴン・ギャロウェイ
佐々木信雄 訳/ランダムハウス講談社
THE CELLIST OF SARAJEVO/2008

1992年包囲されたサラエボの街でパンを買うための行列に撃ち込まれた砲弾によって22名の人々が犠牲になった。
その翌日から現場で22日間鎮魂のためにチェロを弾き続けたチェリストがいた。
サラエボチェリスト”ことヴェドラン・スマイロヴィッチを検索したら出てきた写真の神々しい姿に俄然興味をかきたてられた。
物語の登場人物は、彼を敵方のスナイパーから守る凄腕の女スナイパーアロー、家族の為に水汲みに向かうケナン、妻子を国外へ逃し自身は妹家族と暮らすドラガン。
かつて人々が行き交った通りは命懸けで渡る“スナイパー通り”となり、人々が集った広場は砲撃の標的となった。
いつ自分自身も犠牲になるのかわからない状況下でこの地にとどまることを選んだケナンとドラガン。
そして戦うことを選んだアロー。
想像を絶する状況の中でも人間として“守るべきもの”を失うまいとする三人の姿に胸をうたれる。
当時ニュースや新聞報道で旧ユーゴ、サラエボの状況については多少知っていたはずだが、
果たしてそれは十分だっただろうか?
たかが極東の国の無力な個人が何か知ったところでどうにかなるわけでもないが、
それでも犠牲者や厳しい暮らしを強いられた人々に思いを寄せることが出来なかったことに対して申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
『プリズン・ブック・クラブ』の選書からの一冊。

サラエボのチェリスト

サラエボのチェリスト

👇『プリズン・ブック・クラブ』はこちら
プリズン・ブック・クラブ--コリンズ・ベイ刑務所読書会の一年

プリズン・ブック・クラブ--コリンズ・ベイ刑務所読書会の一年


■ペドロ・パラモ/ファン・ルルフォ
杉山晃増田義郎 訳/岩波文庫岩波書店
PEDRO PÁRAMO/Juan Rulfo /1955

ペドロ・パラモ。
母から知らされたその名だけで顔も知らない父親を訪ねてファン・プレシアドはかつて母が暮らした町コマラを目指す。
しかし、そこは亡霊のささめきに満ちた死者たちの町だった。
生者と死者、この世とあの世の境界線上をファンも我々もさまよい歩く。
現在と過去、あの世とこの世を行き来しつつ、ペドロ・パラモの生涯、そしてコマラの町の栄枯盛衰を知ることになる。
ラテンアメリカ文学の最高峰として共にその名を挙げられるガルシア=マルケスの『百年の孤独』。
ファン・ルルフォとガルシア=マルケス
二人の描きたかった世界にそう違いはなかったのかもしれない。
作品自体が円環構造になっていることもあるが、
続けてもう一度読まずにはいられなかった。
二度目は人物相関図をメモしながら読みました。

ペドロ・パラモ (岩波文庫)

ペドロ・パラモ (岩波文庫)


ポーランドのボクサー/エドゥアルド・ハルフォン
松本健二 訳/白水社
EL BOXEADOR POLACO, LA PIRUETA, and MONASTERIO/Eduardo Halfon/2008, 2010,2014

父方、母方双方にユダヤ系のルーツを持ち、
グアテマラに生まれ、アメリカで教育を受け、
スペイン語で小説を書くグアテマラ人作家エドゥアルド・ハルフォン。
ユダヤ教ユダヤ人としてのルーツに対する彼の距離のとりかたとシンクロするのかもしれないが、
オートフィクションという彼の小説のスタイル、現実からフィクションへの過程で生じる距離感が絶妙。
若き詩人ファン・カレル、まるで本人のようなマーク・トゥエイン研究者ジョークルップ、ルーツに帰るセルビア人ピアニスト、ミラン・ラキッチ、登場人物もとても魅力的で忘れがたい。
一度通して読んで、二度目は三冊の原書の順序でエドゥアルド・ハルフォン版『石蹴り遊び』を堪能した。
どちらの順序で読んでも素晴らしかった!

(収録作品)
・彼方の/「ポーランドのボクサー」
・トウェインしながら/「ポーランドのボクサー」
・エピストロフィー/「ピルエット」第二章
・テルアビブは竃のような暑さだった/「修道院」第一章
・白い煙/「修道院」第二章
ポーランドのボクサー/「ポーランドのボクサー」
・絵葉書/「ピルエット」第三章
・幽霊/「ピルエット」第一章
・ピルエット/「ピルエット」第四章
・ボヴォア講演/「ポーランドのボクサー」
・さまざまな日没/「修道院」第三章
修道院/「修道院」第四章

ポーランドのボクサー (エクス・リブリス)

ポーランドのボクサー (エクス・リブリス)


■ゼロヴィル/スティーヴ・エリクソン
柴田元幸 訳/白水社
ZEROVILLE/STEVE ERICKSON/2007

1969年夏フィラデルフィアから映画の都ハリウッドに出てきたのはスキンヘッドにM・クリフトとE・テイラー(『陽のあたる場所』)の刺青という青年ヴィカー。
映画を愛し、その知識については人並外れたヴィカーだったが映画以外の事となるとお子様並みの正に“映画自閉症”。
セットの建築から始めて編集へと映画業界に居場所を確保していくのだが、彼には彼自身気付いていない使命があった。
映画=人生のヴィカーが最終的に編集という仕事にやりがいを見出していくのが興味深いし、
69年から84年という時代設定も絶妙。
ベトナムウォーターゲートレーガン
そして本物の『裁かるゝジャンヌ』の発見等、
史実を巧く取り込んでいる。
ざっと数えて200本近い映画が言及されているのが本作のひとつの特徴だが、(勿論私も全部は観ていないが)、未見のものも観ているものも(もう一度)観たくなること必至!
久しぶりに完徹して読了。
主人公ヴィカーのエキセントリックさが目立つが、
ヴィカーの家に泥棒に入るアフロヘアの黒人の男、
カンヌでヴィカーの元に送り込まれる高級コール・ガール“マリア”、フランコ政権下の反政府活動家クーパー・ルイスといった映画愛あふれる脇キャラクターも魅力的。
登場する実在の人物の中でも重要なキャラクターがヴィカーの良き理解者となるヴァイキング・マン。
彼のモデルは映画監督のジョン・ミリアス
彼は『ビッグ・リボウスキ』でジョン・グッドマンが演じたキャラクターのモデルにもなっている。


上がジョン・ミリアス、下が『ビッグ・リボウスキ』のジョン・グッドマン

ゼロヴィル

ゼロヴィル

👇コーエン兄弟の『ビッグ・リボウスキ』はこちら


チェルノブイリの祈りー未来の物語/スベトラーナ・アレクシエービッチ
松本妙子訳/岩波書店岩波現代文庫
CHERNBYL'S PRAYER/Shetland Alexievich/1997

冒頭の消防士の妻の証言を読んでいて思い出したのは、東海村の臨界事故時の被害者に対する治療経過を追ったドキュメンタリーだ。
事故直後は何の外傷もないが時間経過に従って細胞が身体の内側から崩壊していく。
これ程残酷な死に方があるだろうか?とかなりショックだったのでよく覚えている。
勿論事故に至るまでにも多くの過ちがあったのだろうしかし、事故後の対応によってはもっと被害を減らすことも出来た筈だ。
原発はクリーンで安全」何処かで聞いたような話がここでも信じられていた。
情報不足や事実の隠蔽、無知が被害を拡大した。
これだけ大きな悲劇が起きながらも、この事故を教訓とすることが出来ずに“フクシマ”に至ってしまったことに対して何とも言いようのない悔しさを感じるなぜ、事故の可能性を自らのこととして考えることが出来なかったのだろう?
事故に運命を狂わされた多くの声なき声、これを無駄にしてはならない。

チェルノブイリの祈り――未来の物語 (岩波現代文庫)

チェルノブイリの祈り――未来の物語 (岩波現代文庫)


■キャッチ=22/ジョーゼフ・ヘラー
飛田茂雄訳/早川書房
CATCH-22/Joseph Heller/1961

イタリア中部ピアノーサ島アメリカ空軍基地所属のヨッサリアン大尉の願いはただひとつ、生きのびること。
仮病や狂気を訴えあの手この手で飛行勤務の免除を勝ち取るべくジタバタするヨッサリアン。
しかし、そんな彼を嘲笑うかのように立ち塞がるのが、謎の軍規“キャッチ=22”。
気の狂った者はそれを願い出ねばならぬが、願い出ることの出来る者は正気である、ゆえに、飛行勤務を免除出来ない。
時系列もバラバラ、さも既に説明済みかのように触れられるエピソードは後々詳細が語られたりとこちらも混乱。一体何が正気で、何が狂気か?
確かにブラック・コメディではあるのだが、
読んでいるうちに次第に息苦しくなってくる。
功を焦る大佐によって次々に増やされる責任出撃回数を始め、戦場の若者たちを死へと追いやる“キャッチ=22”。
一体何の為か謎でしかないルーティンワーク、終わらない意味のない会議、隠蔽される公文書、不祥事だらけの内閣の何故か落ちない支持率etc…。現実の世界においてもキャッチ=22は私達を苦しめる。
そんな世界で私たちは、キャスカート大佐?従軍牧師?ヨッサリアン?それともオアのように?
一体どう生きるのか?それが今現代を生きる私たちに問われている。
【ガーディアン紙の1000冊】

キャッチ=22〔新版〕(上) (ハヤカワepi文庫 ヘ)

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キャッチ=22〔新版〕(下) (ハヤカワepi文庫 ヘ)

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👇マイク・ニコルズ監督による映画化作品はこちら。観たい!

キャッチ22 [DVD]

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■売女の人殺し/ロベルト・ボラーニョ
松本健二訳/白水社
PUTAS ASESINAS/Robert Bolaño/2001
「訳者あとがき」でも触れられているように、収録されている13編はボラーニョの分身(あるいはボラーニョ自身)が語り手になっているものとまったくのフィクションの二つに分けられるが、どちらも素晴らしかった!
歴史に名を残すこともなく消えていった人々、挫折や心の傷を負った人々に対する突き放すでもなく、かといって強く抱きしめるわけでもないセンチメンタル過ぎないボラーニョの距離のとりかたが私には心地いい。
お気に入りは「ゴメス・パラシオ」「ラロ・クーラの予見」(ポール・トーマス・アンダーソンの『ブギーナイツ』を思い出させる)「ブーバ」「歯医者」辺りですが、全部好き!
「ブーバ」の語り手であるアセベトやエレーラ、ブーバが活躍したサッカークラブはバルセロナがモデルだと思いますが、
小説の中でブーバがイタリアのユベントスに移籍した後両チームがチャンピオンリーグで対戦した時のスコア(ユベントスホーム3ー0でユベントスバルセロナホームでスコアレスドロー)が何と今シーズンの結果と同じ!
まあ、ただの偶然なんですけど。
(収録作品)
・目玉のシルバ
・ゴメス・パラシオ
・この世で最後の夕暮れ
・1978年の日々
・フランス、ベルギー放浪
・ラロ・クーラの予見
・売女の人殺し
・帰還
・ブーバ
・歯医者
・写真
・ダンスカード
エンリケ・リンとの邂逅

売女の人殺し (ボラーニョ・コレクション)

売女の人殺し (ボラーニョ・コレクション)


■ビリー・リンの永遠の一日/ベン・ファウンテン
上岡伸雄訳/新潮社(新潮クレストブックス)
Billy Lyn's Long Halftime Walk/Ben Fountain/2012

イラク版『キャッチ=22』と言われているそうだが、ここで兵士達が囚われている場所は戦場ではなく巨大なスタジアムだ。
感謝祭のカウボーイズ対ベアーズ戦。
戦場の英雄たちの凱旋ツアーの最終目的地。
まさに戦意高揚のための宣伝部隊。
彼らの過酷な経験で儲けようとする映画業界。
熱狂的な歓迎と浴びせられる称賛の中で露わになるのはどうしようもなく深い分断だ。
戦地に送る人間と送られる人間との大きな溝。この溝が埋まることのないことを知っている兵士達の深い諦念。19歳のビリーが見た、
アメリカという国の真実の姿がここにはある。
ちなみに、小説の中ではカウボーイズは7対31の大差で負けますが、2004年11月25日の実際のベアーズ戦は21対7でカウボーイズが勝利。まあ小説の中ではこれが在るべき試合結果だと思います。
ハリウッドスターは実名で言及されますが、カウボーイズのオーナー、選手はすべてフィクション。
アン・リー監督による映画が今年公開予定だったのが、賞レースに絡まなかったからなのか何なのか、現時点でいつ公開されるのか未定。
歌姫テイラー・スイフトとの交際発覚で、ビリーを演じた若手俳優ジョーアルウィン知名度がグッとアップして無事公開となればいいんだけれど。
(追記)
結局、映画はDVDスルーとなってしまいました。
詳しくはこちら👉ビリー・リンの永遠の一日 - 極私的映画案内

ビリー・リンの永遠の一日 (新潮クレスト・ブックス)

ビリー・リンの永遠の一日 (新潮クレスト・ブックス)

👇アン・リー監督による映画版はこちら


■スウィングしなけりゃ意味がない It Don't Mean A Thing (If It Ain't Got That Swing)/佐藤亜紀
KADOKAWA

ナチス政権下のドイツ・ハンブルクで“頽廃敵性音楽”スウィングジャズにシビれ歌い踊った若者たちの青春グラフィティ。
どんどん暗く息苦しくなっていく社会でしなやかに強かに生きていく彼らの姿は痛快だが、
そんな彼らも無傷ではいられない。
心身共に傷つきながらも最後の矜持は守りつつ少年から大人の男に成長していく。
史実とフィクションが融合したプロットも素晴らしいが、エディ、マックス、クー、エリー&ダニーのベーレンス兄弟の主要キャラは勿論、登場キャラクターの人物造形がお見事。
マックスのピアノ(レンク教授との連弾、アディとのセッション!)が聴きたい!
彼らの話し言葉が今の日本の若者言葉なのは、これが遠い昔の外国のお話ではなく、今を生きる私たちの物語だという作者からのメッセージではなかったか?
『吸血鬼』に続き、二作目の佐藤亜紀
『吸血鬼』とはまったくテイストが違うことに驚く。

スウィングしなけりゃ意味がない

スウィングしなけりゃ意味がない

今月の読書〜2017年10月,11月,12月〜

2017年の後半は、まったく読書が捗らず、
3ヶ月で9作品(11冊)という体たらく。。。
というわけで、3ヶ月分をまとめました。
とうとう最終作となってしまったR・D・ウィングフィールド『フロスト始末』
読了後、すぐさま最初から再読したジョン・アーヴィング『神秘大通り』ホセ・ドノソ『夜のみだらな鳥』がベスト。


■大鎌殺人と収穫の秋 中年警部クルフティンガー/フォルカー・クルプフル、ミハイル・コプル
岡本朋子 訳
ハヤカワ・ミステリ文庫/早川書房
Erntedank/Volker Klupfel,Michael kobr /2004

ドイツの田舎町を舞台に恐妻家で食いしん坊のクルフティンガー警部の活躍を描くシリーズの第2弾。
大鎌が凶器の連続殺人事件発生。現場には何やら怪しげな暗号も残されていて…というのが事件の発端だが、このシリーズのお楽しみは、妻や部下に気を遣い、ゲーゼンシュペッツレとプラムケーキをこよなく愛する警部のキャラクターだろう。
次々と事件が起きても時間が来れば皆ちゃんと帰宅するのはお国柄だなあと思うし、自宅で収穫したリンゴを絞って瓶詰めし自家用にしたりとバイエルン地方の人々の暮らしぶりがわかるのも面白かった。

大鎌殺人と収穫の秋 中年警部クルフティンガー (ハヤカワ・ミステリ文庫)

大鎌殺人と収穫の秋 中年警部クルフティンガー (ハヤカワ・ミステリ文庫)


■フロスト始末/R・D・ウィングフィールド
芹澤恵 訳/創元推理文庫東京創元社
A Killing Frost/2008

冒頭、車輌維持経費の書類とにらめっこしてるジャック・フロスト警部の描写だけで、もうニヤニヤが止まらない!相も変わらず慢性人手不足のデントン署管内では、ティーンエイジャーの行方不明事件、死体遺棄事件にスーパー脅迫事件と事件続発。更にデントン署からフロストを追い出そうと画策するマレット署長の刺客スキナー警部登場!ウェールズ出身お芋クンことモーガンはちったあ使えるようになった様子。マレット署長の車はジャガーからポルシェって、署長ってそんなに高給取り?口は悪いが、フロスト警部は紳士です。
下巻突入後は、だから違うって!ブリジットがデビーの携帯を盗んだのはデビーのロッカーじゃないんだって!と心で叫びながらフロスト警部とデントン署の面々と共に最後の事件解決。ついに、とうとう読み終わってしまった…。お世辞にもかっこいいとは言えないくたびれた中年警部のシリーズがここまで支持されたのは、フロストの女性や子供、弱者に対する優しさや悪に対する姿勢が一貫していたからだろう。芋兄ちゃんだ何だと言われながらもモーガンがフロストを慕うのも、何とか一丁前の刑事にしてやろうっていうフロストの親心を感じてたからじゃないかしらん。
なんでも二人組の作家による若き日のフロストを描くシリーズが発表されているということで、これは朗報!現在までに四作発表されているので人気も上々なのだろう。
日本語訳が出るときは、是非とも芹澤恵さんの訳でお願いします。


中坊公平・私の事件簿/中坊公平
集英社新書集英社

生前「平成の鬼平」と言われた弁護士、中坊公平氏の半生を担当事件と共に自ら綴る。(衆院選の最中ですが)リンカーンキング牧師オバマ元大統領など、世に名演説と言われる演説は数々あれど、日本人には身近にそういう演説に触れた経験がなかったんだなあと、それで思い出したのがこの本。弁護士の商売道具は“言葉”。中坊さんの言葉の力をまざまざと見せつけるのが「森永ヒ素ミルク事件」の冒頭陳述。勿論、裁判官は法律に則って判断する訳ですが、これに心を動かされない人はいないんじゃないか思う。政治家も「言葉」が大事、ですよね。

中坊公平・私の事件簿 (集英社新書)

中坊公平・私の事件簿 (集英社新書)


■闘う文豪とナチス・ドイツ トーマス・マンの亡命日記/池内紀
中公新書中央公論社

恥ずかしながら、トーマス・マンの作品は『ベニスに死す』を映画で観たくらいなので、こんなに政治的な発言をしていた人だったことは初めて知った。世論に影響力のあるノーベル賞作家の発言はヒトラーに危険視され、マンは講演旅行中に国籍を剥奪され、以後十数年に渡り亡命生活を余儀なくされ、戦後もドイツへは戻らなかった。亡命先からもナチス批判を続けていたが、悪化の一途を辿る情勢にどんなに歯がゆかったことだろう。そんなマンが、戦後、マッカーシズム吹き荒れるアメリカを去らざるを得なくなったのは何とも皮肉。
トーマス・マンの感じていたであろう歯がゆさがわかるがゆえに、読み進めるのがしんどかった。


■神秘大通り/ジョン・アーヴィング
小竹由美子 訳/新潮社
AVENUE OF MYSTERIES/John Irving/2015

「フワン・ディエゴは常に心の中でー記憶のなかではもちろんだが、夢のなかにおいてもまたー自分のふたつの人生を「平行に並べて」繰り返し、たどり直していた。」メキシコ、オアハカのゴミ捨て場の子として生まれ育ち、米中西部アイオワに移り自分が思うよりも人気作家となったフワン・ディエゴ。彼の「平行に並べて」たどり直すふたつの人生のブリッジとなるのは、夢だ。脈絡のない夢に喚起されて記憶が呼び覚まされる。実のところ、読みながらウトウトし、夢の中で物語の続きを見て、目が覚めて、さらに物語の続きを読むという読み方をしている。
オアハカで死んだ徴兵忌避者グッド・グリンゴとの約束を果たすためフィリピンへ向かうフワン・ディエゴ。それは、妖しい魅力溢れる母娘ミリアムとドロシーに導かれる死出の旅。ダンプ・キッドだったフワン・ディエゴの運命を変えたのは聖処女マリアが見せた奇跡。パッと現れ消える母娘は聖処女マリアとグアダルーペを思わせる。人生の終わりに、何よりも大切な少年時代の記憶を取り戻し、母娘との官能的な経験を経て、聖処女グアダルーペの元へ。避けられない運命なら、こんな終わりも悪くないのかもしれない。
アーヴィングが描く衝突コースの人生は悲劇に満ちているが、それでも「開いた窓は見過ごせ」(「生き続けろ」)がメッセージだったと思う。今作も成長することを拒否した女の子、中絶、トランスヴェスタイトエイズ禍とおなじみのモチーフに溢れているが、最期にフワン・ディエゴに「驚きはない」と言わせるあたりは、アーヴィングも年をとったということだろうか?
『第五幕、第三場』作家になったフワン・ディエゴが高校時代のいじめっ子ヒュー・オドンネルと再会するシーンが好き。Dr.ローズマリーが「結婚申し込んでた!」と言うのも納得。
「あなたは女性と話すべきだー何を読んでいるか、女性に聞いてみなさい!」 「女性が本を読まなくなったらーそれが、小説の死ぬときだ!」だそうです。

神秘大通り (上)

神秘大通り (上)

神秘大通り (下)

神秘大通り (下)


■楽園の世捨て人/トーマス・リュダール
木村由利子 訳/HAYAKAWA POCKET MYSTERY BOOKS/早川書房
EREMITTEN/THOMAS RYDAHL/2004

十八年前、妻子を捨てデンマークを後にしたエアハート。たどり着いたフエルテベントゥーラ島でタクシー運転手兼ピアノ調律師として細々と暮らす日々は、ダンボール箱に入れられ餓死した赤ん坊との出会いによって変調する。取り憑かれたように真相を追うエアハート。なぜ、死んだ赤ん坊にそこまで固執するのか?エアハートの周囲の人間も読者も疑問に思うところだが、家族を不幸にした初老の男にとって、何か意味のあること、誰かのためになることをしたい、その最後のチャンスだった。このまま無意味に人生を終えたくない、その気持ちはわかる。
タクシー運転手仲間の間では、“賢者”として何かと頼りにされているエアハート。一時はピアニストも目指しただろう彼がなぜ指を失うことになったのか?デンマークで何を生業としていた?については、三部作だという続編二作で明らかになるのかな?

楽園の世捨て人 (ハヤカワ・ミステリ1915)

楽園の世捨て人 (ハヤカワ・ミステリ1915)


■雪の練習生/多和田葉子
新潮社

サーカスで育ったホッキョクグマが自伝を書く『祖母の退化論』のラスト近くで“クヌート”という名前が登場し、これは祖母、母、息子三代に渡るクロニクルなのだと気付く。クヌートはベルリン動物園のアイドル。そして、母親トスカはカナダ生まれで東ドイツのサーカスで芸をしていた。その辺りの事実が作品の発想だろうが、今作はいつもの言葉遊びが控え目な分、設定が面白い。ソ連から西ドイツ、カナダ、東ドイツと祖母クマの辿った道は多くの人間が辿った道でもあったのだろう。時代に翻弄されるのは動物も同じ。クヌートの孤独が胸に沁みた。
(収録作品)
⚫︎祖母の進化論
⚫︎死の接吻
⚫︎北極を想う日

雪の練習生 (新潮文庫)

雪の練習生 (新潮文庫)

雪の練習生

雪の練習生


■夜のみだらな鳥/ホセ・ドノソ
鼓直 訳/集英社
EL OBSCENO PÁJARO DE NOCHE/José Donoso/1970

「作中人物はいつも不明瞭で、不安定で、決して一個の人間としての形をとらなかったわ。いつも変装か、役者か、くずれたメーキャップとかいった……」語り手であるウンベルト・ペニャローサの作品を評してある登場人物がこう言っているが、この小説にも当てはまる。時制が行ったり来たりという小説は珍しくはないが、それに加えて登場人物、それも語り手自身が変身してしまう。どこまでが(物語中の)事実で、どこまでが語り手の妄想なのかもわからない。読者にここまで混乱を強いる小説は初めて。これを何度も書き直したというドノソ、恐るべし!
ホセ・ドノソ三作目。これまで読んだドノソ作品では、『隣りの庭』の庭(故郷の庭と隣家の庭)、『別荘』の別荘、そして本作の修道院と畸形の王国となるリンコナーダの邸宅も登場人物と同様、あるいはより重要なピースになっている。

夜のみだらな鳥 (ラテンアメリカの文学 (11))

夜のみだらな鳥 (ラテンアメリカの文学 (11))


■湖の男/アーナンデュル・インドリダソン
柳沢由美子 訳/東京創元社
KLEIFARVATN/Arnaldur Indridason/2004

アイスランドレイキャヴィクを舞台にした警察小説の四作目。事件の発端は、干上がった湖で発見された白骨死体。死体は旧ソ連製の通信機にくくりつけられていた。ということで、事件は冷戦時代のヨーロッパに遡る。冷戦時代のアイスランドの社会状況はなかなか興味深いが、事件の真相は今ひとつ意外性に欠けたか。薬物中毒の娘エヴァ=リンドとの関係は相変わらずだが、ヴァルゲルデュルとの仲は少しだけ進展し、エーレンデュルの私生活には微かな希望が見えたか?
「訳者あとがき」で触れられているレイキャヴィク会談(レーガン大統領とゴルバチョフ書記長の歴史的会談)を実現させたヴィグディス・フィンボガドッティル大統領(選挙で選ばれた世界初の女性大統領)の「小さな国にも平和のためにできることがある」という言葉が重く響く。ヴィグディス大統領については『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』でマイケル・ムーアが突撃取材している。彼女のようなロールモデルが存在するアイスランドが羨ましい。

湖の男

湖の男

ツイン・ピークス The Return Episode 18《第18話》

EPISODE 18

■赤いカーテンの部屋

ルーシーに銃で撃たれたバッド・クーパーの身体が炎上している。

黒煙と共にバッド・クーパーが消える。
片腕の男フィリップ・ジェラードが金色の玉、
タネと一緒にクーパーに託された髪の毛をソファの上に置き、親指と人差し指を四回触れさせ、
電気を発生させる。

「電気だ、それは電気」

金色のタネが浮き上がると、
クーパーの化身が生まれる。

「ここは、どこなんだい?」

クーパーの化身は、ラスベガスのジョーンズ家へ。
ジェイニー・Eとサニー・ジムの元へ送り届けられる。

「家…」

※クーパーが片腕の男に「もう一つ」と注文し、
ジェイニー・Eとサニー・ジムに「帰ってくる」と言っていたのはこういうことだったのか!
詳しくはこちら👉ツイン・ピークス The Return Episode 16《第16話》 - 極私的映画案内
でも、本物のクーパーが戻って、恐妻家として幸せに暮らして欲しかった気もする。。。


ツイン・ピークス:1989年

ローラの手を引き、森の中を行くクーパー。
カリカリという貝殻をこすり合わせたような音が聞こえる。
次の瞬間、手を繋いでいたはずのローラの姿はない。
そして、ローラの叫び声が響き渡る。

カリカリという音は、《第1話》で消防士(巨人)がクーパーに聴かせた音。
詳しくはこちら👉ツイン・ピークス The Return Episode 1 《第1話》 - 極私的映画案内
このシーンは前回も登場している。
今シーズンは、“前回の『ツイン・ピークス』は…”的な振り返りのスタイルは採用していなかったので、同じシーンが登場するのは初めて。
詳しくはこちら
👉ツイン・ピークス The Return Episode 17《第17話》 - 極私的映画案内


■赤いカーテンの部屋

ソファに座っているクーパーと片腕の男。

Is it …future…
これは未来か…
or
それとも
Is it …
これは…
past?
過去か?

こう言うと、片腕の男の姿は消える。

赤いカーテンの部屋の隅で片腕の男がクーパーを手招きしている。
片腕の男について行くクーパー。

進化した腕が待っている。

I…am the…arm.
私は“腕”だ
And I sound like…this.
私はこんな音がする
Is…it…the story of the…little…girl…who lived down the lane?
それは通り沿いの家に住んでいた少女の
あの少女の物語なのか?
Is it ?
そうなのか?

ローラがクーパーの耳元で囁いている。

「えっ?」

明らかに意外なことを聞いたと言う表情のクーパー。
絶叫と共に消えるローラ。

次にクーパーを待っていたのはリーランド・パーマー。

Find…Laura.
ローラを捜せ

右腕を前に出し、ドアのノブを回すような仕草をするクーパー。
すると、カーテンの一部がはためく。
そこから外に出ると、8本のシカモア(スズカケ)の木と水たまり。

そこでは、クーパーをダイアンが待っていた。

「あなたなの?本当にあなたなの?」
「そうだ、本当に僕だよ、ダイアン」

「本当に君か?ダイアン」
「ええ」

赤いカーテンが消える。

※片腕の男、リーランド・パーマーのクーパーに対する語りかけは、《第2話》の繰り返し。
詳しくはこちら
👉ツイン・ピークス The Return Episode 2 〈第2話〉 - 極私的映画案内
しかし、進化した腕の「それはあの通り沿いの家に住んでいた少女の、あの少女の物語なのか?」というのはここで初めて出てきた。
通り沿いの家に住んでいた少女の物語については、
オードリー・ホーンも《第13話》で夫チャーリーとの会話の中で言っていた。
これは、ローラ・パーマーのことだろう。
詳しくはこちら
👉ツイン・ピークス The Return Episode 13 《第13話》 - 極私的映画案内


■ハイウェイ

ひたすらハイウェイを行くクーパーとダイアン。
人っ子ひとり住んでいないような荒涼とした地。

「本当に、これでいいの?」

クーパーに問うダイアン。
やがて、前方に送電線が見えてくる。

「そうしてしまったら、この先どうなるか?」
「わかっってる
ちょうど、その地点に来た、そう感じる
見ろ!もうすぐ、ちょうど430マイルになる」

路肩に車を寄せるクーパー。

「430マイル、ぴったりだ」
「クーパー、ねえ、よく考えて」

車を下り、周囲を確かめるように見回し、
時計を確認するクーパー。

車に戻ってくるクーパー。

「ここで間違いない、キスしてくれ
ここを超えれば、すべてが変わるだろう」

キスをするクーパーとダイアン。

「行きましょう」

ゆっくり車を走らせるクーパー。
“その地点”を超えると、
車は夜のハイウェイを走っている。

黙ったまま夜のハイウェイを行くクーパーとダイアン。
やがて、寂れたモーテルに到着する。
クーパーはひとり、事務所に入っていくが
ダイアンは車の中で待っている。

建物の柱の陰から姿を見せたのは、
なんとダイアン。
車の中のダイアンは驚いた様子もなく、
無表情でもうひとりの自分を見つめている。
クーパーが事務所から出てきた時には、
もうひとりのダイアンは姿を消している。

部屋に入る二人。
明かりをつけるダイアン。

「明かりを消してくれ」

明かりを消すダイアン。

「これからどうするの?」
「僕のそばに来るんだ」

クーパーに近づくダイアン。

「ダイアン…」

キスをし、セックスする二人。

下になっているクーパーは
冷静にダイアンを見つめている。
その表情に高揚感は見られない。
クーパーの顔を両手で覆い、
その視線を避けるように
天井を見つめるダイアン。

喜びではなく悲しみの表情を浮かべるダイアン。
これが今生の別れでもあるかのように。

朝日が差し込む部屋。
目を覚ましたクーパーの隣りにダイアンの姿はない。

「ダイアン!ダイアン!」

ナイトテーブルに置き手紙。

「“リチャードへ”、リチャード?」

リチャードへ
読む頃には私はいない
どうか探さないで
私はもう、あなたがわからない
この関係がなんだったにせよ、もう終わり
リンダ

「リチャード?リンダ?」

着替えを済ませ、部屋を出るクーパー。
しかし、そこは昨夜到着し泊まったモーテルではない。
車も乗ってきたものとは別物である。

※ここで登場しました、《第1話》で消防士(巨人)が言っていた430(マイル)。
そして、リチャードとリンダ
オードリーの息子リチャード、ニュー・ファット・トラウト・モーテルの住人ミッキーの妻(あるいは母親)リンダとは関係なかったのか?
あの地点を超えたことで、クーパーとダイアンは、
リチャードとリンダになってしまったのか?
詳しくはこちら
👉ツイン・ピークス The Return Episode 1 《第1話》 - 極私的映画案内

430マイル地点を超えたところまでは、
クーパーもすべて想定内だったようだが、
置き手紙のリチャードとリンダについては明らかに想定外だった様子。
クーパーに「本当に君か?」と問われて、
ダイアンは「ええ」と答えていたが、
柱の陰にもうひとりのダイアンがいた。
クーパーと一緒にいたダイアンは本物だったのか?
それとも化身だったのか?
クーパーの化身のように初めからダイアンの化身も二人存在していたのか?
すべてを知っているのは、
クーパーではなくダイアンだったのか?
一夜明けて、泊まったモーテルが違っていたこと、
乗ってきた車のモデルが現代のものになっていたことを考え合わせると、クーパーは時間を超えたのだろう。


テキサス州オデッサ

目的地がわかっているのかいないのか、
車を走らせるクーパーが目にとめたのは
とあるコーヒーショップ。

JUDY'S COFFEE SHOP

窓際の席に座るクーパー。
ウェイトレスがメニューを持ってくる。

「ウェイトレスは君のほかにもいるのか?」
「いるよ、でも、今日は休み
しかも、今日で三日目」

三人のカウボーイがウェイトレスにセクハラを働く。

「やめてよ!」
「その手を離せ!」

注意したクーパーにカウボーイが凄む。

「なんだ、偉そうに!」
「何が?」
「いいからさっさとそこから出て来いや!」

ひとりのカウボーイが銃を向ける。
あっという間に銃を取り上げ、股間を蹴り上げて倒し、
二人目のつま先を撃つクーパー。

「銃を床に置け」
「銃は持ってない」
「今すぐ銃を床に置け」

カウボーイたちの銃を奪ったクーパーは、
カウンターの中へ。

「紙きれに住所を書いてくれ」
「えっ?」
「もう一人のウェイトレスの住所だ
紙きれに書いてもらいたいんだが」

「これはどうすればいい?」
「なに?」
「どこに置けばいいんだ?」
「上にひっかけるの」

クーパーはポテトを揚げ油の中から引き上げると
カウボーイから奪った銃を油に投入。

「この温度で弾が爆発するかどうかわからないが
下がった方がいい
住所は書いてくれたか?」
「え、でも…あの…」
「問題ない、私はFBIの人間だ」
FBI…」

「今のは一体、なんだったんだ?」

呆然とクーパーを見送るカウボーイたち。

テキサス州オデッサは実在する街だが、
このオデッサ市の象徴が、なんと、野うさぎ。
ジャック・ラビット(JACK RABBIT )なのだ!

《第9話》で発見されたブリッグス少佐のメモに残されていたのが、ジャック・ラビット・パレス
何か意味があるんだろうと調べたらやっぱり!
詳しくはこちら
👉ツイン・ピークス The Return Episode 9 〈第9話〉 - 極私的映画案内


テキサス州オデッサ

もうひとりのウェイトレスの自宅に到着するクーパー。

家の前の電柱のプレートは、

手入れを放棄され、荒れ果てた庭。
家の手入れもされていない様子。
ドアをノックするクーパー。

「どちらさま?」
FBIです」
「あの人、見つかったの?」
「ローラ…」
「見つかったんじゃないの?」
「ローラ!」
「家を間違えてるんじゃないですか?」
「それじゃ、君はローラ・パーマーじゃないのか?」
「ローラ、誰?いいえ、あたしはローラじゃない
もう、いい?」
「君の名前は?」
キャリー・ペイジ
「キャリー・ペイジ?」
「ええ、そうよ、じゃあ、あたしもう戻らないと」
「待って!では、ローラ・パーマーという名前に心当たりはないのか?」
「あのね、なにが目的かは知らないけど
あたしはローラじゃない」
「君の父親の名前はリーランド」
「へえ、それで?」
「母親の名前はセーラだ」
「セ、セーラ…」
「そう、セーラ」
「一体、どういうこと?」
「説明が難しい話なんだが
僕は君がローラ・パーマーという少女だと思っている
君を母親の家へ連れて行きたいんだよ
君がかつて住んでいた家にね
とても重要なことなんだ」
「ええと…あたし…
いつもなら、あんたみたいな男がやって来た時には
さっさと帰れって追い返すのよ
このドアを目の前で閉めてやるの
でも今は、こっから逃げ出さないといけないんだ
いろいろあってね
だからFBIに連れ出してもらえるなら、すごく助かる
で、どこへ行くの?」
ツイン・ピークスだ、ワシントンの」
「D.C.?」
「いや、州だ、ワシントン州
「それって遠い?」
「ものすごく遠い」
「じゃ、支度させて、中入ってよ
ちょっと待ってて」

家の中に入ると、ソファには額を撃ち抜かれた男の死体。
死後、かなりの時間が経っている様子。
壁の飾り棚には、白い馬の置物。
じゅうたんの上には銃(ライフル?)。

「ねえ、ワシントンて北の方だったりする?」
コート、いるかな?」
「あれば、持って来た方がいい」
「二、三枚はある、一枚持ってくる」

キャリーはソファの死体については何も言わず。
電話が鳴っているが、彼女に気にする様子はない。

「どうしよう?食べ物が何もないんだけど」
「途中で調達しよう」
「いいわね!行きましょう!」

※再び登場、電柱のプレートの数字
前回登場したのは、リチャード・ホーンが少年をひき逃げした事故現場。
それ以前、『ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の七日間』でテレサ・バンクスが住んでいたファット・トラウト・トレーラーパークの近くにもあった。
詳しくはこちら👉ツイン・ピークス The Return Episode 6〈第6話〉 - 極私的映画案内
クーパーが命を救った(はず)のローラ・パーマーは、
キャリー・ペイジとして生きていた!
ベンジャミン・ホーンの秘書ビバリーの苗字がペイジだが、関係あるのか?
キャリーは「あの人、見つかったの?」と言ったが、
これは誰のことだろう?
ソファの射殺体のことか?
夫か恋人を殺してしまった彼女が、
彼が行方不明になったと偽りの届け出をしたのか?
少なくとも、彼女が仕事を三日も休んだという理由は、
この射殺体にあるのだろう。
リーランド・パーマーという名前には反応しなかったキャリー。
しかし、セーラの名前には、明らかに動揺していた。
セーラはキャリーにとってどんな存在なんだろう?


オデッサからハイウェイ

「あんた、本当にFBIの捜査官なの?」

バッヂを見せるクーパー。

「そうだ」
「とにかく、この腐ったオデッサの街からは出られそうね」

陽はすっかり暮れている。
同じ車間距離を保つ後続車を気にするキャリー。
彼女は何度も後ろを振り返る。

「誰かにつけられてない?」

クーパーもミラーで後続車を確認する。
やがて、後続車は何事もなかったように追い越して行く。

オデッサの家…ちゃんとした家にしようとしたのよ
いろいろきちんと整えてさ…
もうずっと昔…
あの頃は、若くて何もわかってなかった」

ガソリンスタンドで休憩する二人。
車に乗るキャリーのために紳士的にドアを開けるクーパー。

二人を乗せた車はRRダイナーの交差点を左折する。

「この辺りに見覚えは?」
「ない」

車はパーマー家に到着。

「あの家を見たことは?」
「ない」

「行こう」

ドアをノックするクーパー。

「なんでしょう?」
FBIです、デイル・クーパー特別捜査官
セーラ・パーマーはいますか?」
「誰です?」
「セーラ・パーマー」
「いいえ、そんな名前の人はいませんが」

「セーラ・パーマーをご存知ですか?」
「いいえ」
「この家ですが、あなたの持ち家ですか?
それとも、借りてるものですか?」
「いいえ、持ち家ですよ」
「誰から買いました?」
「(あなた、この家の前の持ち主、なんて名前だっけ?)
チャルフォント夫人から買いましたけど」
「その人が誰から買ったかは知りませませんよね?」
「さあ、そこまでは、待って
(ねえ、チャルフォント夫人の前の持ち主が誰か知ってる?)
わからない」
「あなたの名前は?」
「アリスよ、アリス・トレモンド
「わかりました、夜分にお邪魔してすみません」
「いいえ、いいんですよ」
「おやすみなさい」
「おやすみなさい」

何がどうなっているのかわからないクーパー。

「今は何年だ?」

パーマー家の(はずだった)建物を見上げるキャリー。

セーラがローラを呼ぶ声が聞こえる。
キャリーの絶叫が響き渡る。

家の中の明かりが消える。

ローラはクーパーの耳元で何をささやいたのだろう?

※パーマー家が住んでいた家には別人が住み、
住人の名前は、アリス・トレモンド
そして、前の持ち主はチャルフォント夫人
トレモンド夫人は、二十五年前、ローラが食事の宅配サービスをしていた人で、手品が得意な孫息子と一緒に住んでいた。
ローラが秘密の日記を預けた友人ハロルド・スミスの隣人でもある。
彼女がローラにコンビニエンスストアの二階の部屋の絵を送った。

ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の七日間』では、FBIのチェスター・デズモンド捜査官が、トレーラーハウスの下でテレサ・バンクスがはめていた指輪を拾ったが、そのトレーラーハウスの持ち主がチャルフォント夫人だった。
デズモンド捜査官は、その後、姿を消している。
トレモンド夫人とチャルフォント夫人は同一人物。
ちなみに、アリス・トレモンド役で出演しているのは、この家の実際のオーナーとのこと。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
とうとう最終回を迎えてしまったが、
行方不明のビリーの行方、スティーヴンの生死、
バッド・クーパーがダイアンの化身に送った謎めいたメッセージの数々(「牛が月を飛び越えた」っていうのもあったな)、
ブエノスアイレス、バッド・クーパーが滞在していたというリオ・デ・ジャネイロ、コロンビアといった南米の各都市で何が起きたのか?等々、
数々の謎が残された。
しかし、残された最大の謎は、
オードリー・ホーンはどうなったのか?
彼女自身言っていたように、オードリーは化身だった可能性が高い。
リチャードの父親がバッド・クーパーだとして
オードリーの化身はリチャードを産むために必要だったのか?
しかし、そうなると本物のオードリーは?
セーラ・パーマーがどんな存在なのかも明らかになっていない。
エクスペリメントから卵という形で解き放たれ、
孵化した不気味な虫は、
少女の口から、彼女の身体に入り込んだ。
あの少女はおそらく、セーラ・パーマーだろう。
彼女の存在は、この迷宮の中でかなり重要な存在であることは確かだと思う。
そして、ローラはクーパーに何をささやいたのか?

しかし、前回、
全体像が見えてきた!
と思ったのに、まさか最終回で
さらなる迷宮に放り込まれるとは!
上がり!と思った途端に、
振り出しに戻された双六のようだ。
430マイル地点を超えてクーパーが入り込んだのは
ローラ・パーマーがキャリー・ペイジとして生きているパラレルワールドだった。
あるいは、クーパーもリチャードとして生きている世界なのかもしれない。
キャリーは殺されることなく生きてはいるが、
明らかにトラブルに巻き込まれており、
これまでの人生も思い通りに生きてきたとは言えない、
トラブル続きの人生だったようだ。

人類初の核実験によって、エクスペリメントから悪の根源(種)としてこの世に解き放たれたボブ。
しかし、あの時解き放たれた悪の種はボブだけではなかったはずだ。
世界中のいたる場所、あるいは重層的に存在するパラレルワールドに解き放たれいたとしても不思議はない。

クーパーがフィリップ・ジェフリーズに会いに行った時に、数字の8が示されたが、
数字の8は横に倒せば、無限の記号∞だ。
ローラ・パーマーが殺された世界では、
ボブを倒し、ローラを救ったが、
ローラがキャリーとしても生きる世界では、
また別のボブが存在するのだろう。
デイル・クーパー捜査官の闘いに終わりはない!
悪に対する正しき者の闘いに終わりはないという
デヴィッド・リンチからのメッセージだろうか?

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全18話、再録にお付き合いいただき、
ありがとうござました。
さらなる迷宮に放り込まれ、
まだまだ頭の中は混乱してはおりますが、
今一度、シリーズ全体を振り返り、
気付いたことは〈追記〉という形で更新したいと思っています。
season4製作の噂もちらほら聞こえてきますが、
今はseason3を振り返りつつ、吉報を待つことにしましょう!
(ゴードン・コールとシェリーの再会が見たかった!)

また、滞っていたオススメ映画やオススメ本についてもご紹介していきたいと思っていますので、
そちらの記事も読んでいただけると嬉しいです。

=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=
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TWIN PEAKS THE RETURN
監督:デヴィッド・リンチ
脚本:デヴィッド・リンチ,マーク・フロスト
音楽:アンジェロ・バダラメンディ


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ツイン・ピークス The Return Episode 17《第17話》

EPISODE 17

サウスダコタ州バックホー

ダイアンの化身が姿を消した後の、
FBI支部と化しているホテルの一室。
ダイアンの化身に銃を向けられた時に、
撃てなかったゴードン・コール。
アルバートがワインのグラスを運んでくる。

「大丈夫ですか?」
「私には出来なかった、撃てなかったんだ」
「老いてヤワになったんでしょう」
「何?」
「年をとってヤワになったと言ったんですよ」
「だが、やる時はやる!」

FBIに!」

乾杯するゴードン、アルバート、タミーの三人。

「よく聞いてくれ」

アルバート、この二十五年、
君に隠していたことがある
姿を消す前に、ブリッグス少佐はある存在を発見したことを、私とクーパーに告げたんだ
それは極めてネガティヴな力で、
遠い昔の呼び名は、ジャオディ
だが、時を経てその名はジュディとなった
ブリッグス少佐とクーパー、私で
ジュディへたどり着くための計画を練ったが
その後、ブリッグス少佐に何かが起き、
さらには、クーパーにも起きた
フィリップ・ジェフリーズはもうこの世には存在しない、少なくとも通常の意味では
フィリップはかつてこう言った
その存在に気付いたと、そして姿を消した
さらに、クーパーの最後の言葉は
もし、他のみんな同様、僕が消えたら
あらゆる手を尽くして見つけ出して欲しい
僕は一石で二羽の鳥を狙う
で、今は例の二人のクーパー問題だ
しかも最近、暗号メッセージがレイ・モンローという情報屋から届いたのだ
そこには、刑務所にいたクーパーが座標を探していると書かれていた
そしてその座標を知っているのが、
ブリッグス少佐らしいのだ
この計画については君にも言えなかった
すまない」
「わかっています」
「君はわかってくれるだろうが
それでも、すまない
だが、計画が順調かは見当もつかんのだ
我々のデイル・クーパーからまだ連絡がなくてな」

そこで、電話が鳴る。

「コールだが」

ラスベガスの病院のヘッドリー特別捜査官からの電話だった。

「ヘッドリーです、見つけました
ダグラス・ジョーンズです
ただ、今どこにいるか、わかりません」

「こいつはアホのコメディアンで、
今のはネタですかね?」

アルバートの皮肉が炸裂する。

「わからないとはどういうことだ!」
「ベッドがカラなんです
今そちらに入手した全情報を送っています
コール副支部長、我々はすべてつかみました」

ブッシュネル・マリンズ社長が病室に入ってくる。

「電話の相手はゴードン・コールかね?」
「ああ、そうだ」
「なぜ?」
「伝言がある、ダギーからの伝言だ」
「何だ?どうした?」
「ここにいる男性が、ダグラス・ジョーンズからの伝言を預かったそうです」
「聞かせてくれ!」
「あなたは間違いなく、ゴードン・コールさん?」
「ええ、そうです」
「では、ダギーからの伝言を読みます
僕はこれからトルーマン保安官のところへ向かう
ラスベガスの時間は2時53分で、
合計すると、これは10になる
完成を意味する数字だ
以上です」
「それで、あなたの名は?」
「ブッシュネル・マリンズ、ラッキー7保険の
ダギーの上司です」
「どうもマリンズさん、心から感謝します
私も彼の上司です」

「ダギーがクーパーだと?!
どういうことだ?」
「ダギー・ジョーンズの車は爆破され、
職場の建物前では暗殺者に殺されかけています」
「組織犯罪の大物二人と一緒にいたという目撃情報もあり」
「自宅のコンセントで感電したそうです
フォークを刺して」
「クーパーだとしても、妙です」
「これもまた青いバラ事件のひとつという訳だな」
「さっきまで昏睡状態で、入院していました」
「支度しろ!行き先はわかる!」

「僕は一石で二羽の鳥を狙う」
ゴードンと最後に会った時に言っていたというクーパーの言葉。
これは、《第1話》で消防士(巨人)が言っていたことと同じ。
一石とはタネで、二羽とはダギーとバッド・クーパーのことなんだろうか?
詳しくはこちら👉ツイン・ピークス The Return Episode 1 《第1話》 - 極私的映画案内
ちなみに、《第1話》で消防士が言っていたリチャードリンダ
リチャードは、リチャード・ホーンのことだろうが、リンダは誰だろうと思っていたが、
トレーラーパークの住人ミッキー(カール・ロッドに相乗りさせてもらっていた)の妻(あるいは母親)が確かリンダだった。
詳しくはこちら👉ツイン・ピークス The Return Episode 6〈第6話〉 - 極私的映画案内
レイが情報屋だったということは、連邦刑務所のマーフィー所長もFBIの協力者だったということになる。
しかし、マーフィー所長はバッド・クーパーに弱味を握られていた。
詳しくはこちら👉ツイン・ピークス The Return Episode 7 〈第7話〉 - 極私的映画案内
ミスター・ストロベリージョー・マクラスキーについてはいまだに不明。


ツイン・ピークス:保安官事務所

寝静まっているように見える留置所。
しかし、チャドは目を覚ましていた。

「やっと寝たか」

目を覚ましてしまう酔っ払い。

「クズ野郎!」
「クズ野郎!」
「クソが!」
「クソが!」

※この酔っ払いの顔の傷、すごく不気味。


■ハイウェイ

不気味な音をたてる電線。
夜道をひた走るバッド・クーパーの車。


ツイン・ピークス:保安官事務所

再び、言葉にならない声を発しているnaido。

彼女の向かい側の檻に入れられているジェームズとフレディ。

「あれ、一体、何なんだ?」
「全然、わかんね」
「全然、わかんね」

酔っ払いも同調する。

切なげに声を上げ、ベッドから身を起こすnaido。
彼女の声を真似する酔っ払い。
困惑するジェームズとフレディ。
声に耐えられず、耳をふさぐチャド。


ツイン・ピークス:グレート・ノーザン・ホテル

電話中のベン・ホーン。

「ワイオミング?」
「そうです、あなたがベンさん?」
「ええ」
「男性を保護したんですが
IDはなく、名前も言えません
ただ、あなたの弟で
自分の双眼鏡が人を殺したと言っています」
「確かに弟です、ジェリー・ホーンだ
何か罪を犯しましたか?」
「いえ」
「では、家に戻す手配をします
もう一度、お名前を」
「ウィリアムズです、ジャクソンホール警察の
それと服を送ってください
保護した際、弟さんは全裸でしたので
では、失礼します」

※リチャード・ホーンが電気に打たれて弾けとんだ、
あの大きな岩のあった場所はワイオミング州だったのか!
しかし、いまだにジェリー・ホーンの役割がよくわからない。
今シーズンのベンさんは、身内の尻拭いばかりだな…。


ツイン・ピークス

夜は明けている。
道端に置かれたバッド・クーパーのピックアップ・トラック。

ブリッグス少佐がメモに残したジャック・ラビット・パレス。
そこから東に少し行ったnaidoが発見された場所。
そこに、バッド・クーパーが姿を現わす。

たちこめる白煙に、シカモア(スズカケ)の木。

この場所を保安官事務所の一行が訪れた時と同じように
上空に渦が出現する。
そして、バッド・クーパーの姿は消える。

※ダイアンの化身が最後に送ったメッセージの座標の場所がこの場所なんだろう。
あの座標は、フィリップ・ジェフリーズが白煙でバッド・クーパーに教えた座標と同じだったはずだし、
手に入れた3つの座標のうち2つの同じ座標はこの場所だったはず。
あの大きな岩の場所はなんだったんだろう?
バッド・クーパーがリチャードを厄介払いするために、連れて行ったのか?


■ブラックロッジ?

奥には舞台があり、スクリーンにはバッド・クーパーが姿を消した森の中の映像が映っている。

手前には、ブリッグス少佐の頭部が浮かび、
反対側には、檻のようなものが浮かび、
その中にはバッド・クーパーの顔が。

宙に浮かぶ巨人(消防士)。
スクリーンに映っているのは、パーマー家の正面だ。
消防士が手で合図すると、ある場所が映される。
バッド・クーパーの顔が入った檻が動き出し、
舞台上の金管楽器のような管に吸い込まれる。
すると、そこにバッド・クーパーが移動している。

※《第8話》に続き、再び登場したこの場所。
詳しくはこちら
👉ツイン・ピークス The Return Episode 8 〈第8話〉 - 極私的映画案内


ツイン・ピークス:保安官事務所

留置所のnaidoが何かを察知したかのように飛び起きる。

振り返るバッド・クーパー。
そこは、ツイン・ピークスの保安官事務所の前だった。

「ここは何だ?」

丁度、車にバスケットを取りに来たアンディと鉢合わせ。

「クーパー捜査官ですよね?
クーパー捜査官?やっぱり、そうだ!
この前、噂をしてたとこなんです」
「やあ、アンディ」

留置所では、目を覚ましたnaidoが怯えている。

※《第14話》でnaidoは命を狙われているとアンディは言っていたが、
彼女の命を狙っていたのは、バッド・クーパーだったのか?
彼女が怯えているのは、バッド・クーパーの接近を感じているからなのか?
《第14話》はこちら
👉ツイン・ピークス The Return Episode 14《第14話》 - 極私的映画案内]

「何が起きてる?」
「何か、言おうとしてるんじゃないかな」

皆の注意がnaidoに向いている隙に
チャドは靴の踵に隠していた鍵を取り出す。

一方、保安官事務所前では…。

「また会えて、みんなすごく喜びますよ」
「俺もまた会えて嬉しい」
「入りましょう!丁度、バスケットを取りにきたんです
淹れたてのコーヒーも出しますよ」

「ルーシー!ルーシー、すごいお客さんだ!」
「クーパー捜査官!」
「やあ、ルーシー」
「噂をしてたとこなんです!」
「そうらしいな」

トルーマン保安官が出てくる。

トルーマン保安官、デイル・クーパー特別捜査官です
最後に会ったのは、ウォリーが生まれる前で」
トルーマン保安官?」
「私はフランク・トルーマンだ、ハリーの兄の」
「どうも」
「よろしく、私のオフィスで話そう」

突然の再会に驚きながらも、嬉しそうなアンディとルーシー。
しかし、そのとき、アンディの脳裏に“ある場所”までルーシーを誘導していく自分の姿がよぎる。

留置所では、檻の鍵を開けたチャドがこっそり抜け出す。

一方、保安官のオフィスでは、アンディがバッド・クーパーに椅子を用意している。

「さあ、座ってください
コーヒーはいかがですか?」
「いや、いい、結構だ」
「あなたが来たって、ホークに知らせてきます!」

※本物のクーパーはコーヒーを断らないはず!

留置所では、naidoの興奮が高まっている。
武器庫から銃を取り出そうとしているチャド。

いよいよ激しく声を上げるnaido。
なす術のないジェームズとフレディ。


「一大事だ!一大事!」

ルーシーに声をかけるアンディ。


顔の絆創膏を引き剥がす酔っ払い。
銃を持ったチャドが物陰に隠れている。
ホークを探しに来たアンディ。

「ホーク!ここにいるのか?」

「よおーっ、これはこれは善良なアンディ保安官助手!
世界を救いに来たか?
おめえは女々しいんだよ!アンディ!
てめえの眉間に弾をぶち込んでやる!」

その時、緑色の手袋をしたフレディの右手が炸裂!
檻のドアをチャドにぶち当てる。
アンディは倒れたチャドに再び手錠をかける。

受付で、電話が鳴る。
ビクッとするルーシー。

「はい、ツイン・ピークス、保安官事務所です
誰って?」

かけてきた相手におどろくルーシー。


「なぜ、ツイン・ピークスに戻ったのかね?
クーパー捜査官」
「仕事を片付けに」

トルーマン保安官」
「なんだ、ルーシー」
「2番にお電話が入っています
チカチカしているボタンです」
「伝言を聞いておいてくれ」
「それがとても大事な緊急の電話なんです、保安官」
「そうか、わかった、
ちょっと、失礼
トルーマンだ」

「ハリー!クープだ!
FBI特別捜査官のデイル・クーパーだよ!」
「私はハリーの兄のフランクでね
今、どこかな?」
ツイン・ピークスに入ったところだ
コーヒーはあるかね?」

目の前の男がクーパーではないと気づいた保安官と偽者だと気付かれたと悟ったバッド・クーパーが同時に銃を抜く。
しかし、銃声はバッド・クーパーの背後から。
バッド・クーパーを撃ったのは、ルーシーだった!

「今のは?」

電話口で叫ぶクーパー。
意外な展開に驚くトルーマン保安官。

「ルーシー…」

留置所のアンディが指示する。

「全員、上に移動するぞ!」

※ここまで大忙しのアンディ、グッジョブ!
アンディが消防士から使命を与えられたのは《第14話》詳しくはこちら
👉ツイン・ピークス The Return Episode 14《第14話》 - 極私的映画案内

まだ、電話中だったことを思い出した保安官。

「一人は死んだようだ、クーパー捜査官」
「決して触るな!死体から離れてるんだ!」

留置所にいた面々も保安官のオフィスに集まってくる。
自分がやったことにいまだ呆然としているルーシーがつぶやく。

「アンディ、携帯電話がどんなものかわかった…」

そこへ、ホークも駆け込んでくる。

「これは…」
「触るなとクーパー捜査官に言われた」
「あれがクーパー捜査官だ」
「いいや、あいつじゃない」

突然、オフィスが暗くなると、
レイに撃たれた時と同じように
Woodsmanが3人現れるとバッド・クーパーの傍らにうずくまり、治療するかのように血を顔に塗りはじめる。

そこへ、クーパーとミッチャム兄弟一行が到着する。

Woodsman達が立ち上がると
バッド・クーパー腹部が蠢き、黒い球が出てくる。
それは、ボブだった。
クーパーに襲いかかるボブ。

「おいっ!」

声を上げたのは、フレディだった。

「君がフレディか?」
「そうだ!で、これは僕の運命だ!」

フレディに襲いかかるボブ。
しかし、フレディは緑色の手袋の右手で応戦。
床に穴を開け、燃え上がるボブ。

再び、襲いかかるボブ

「死体袋で弔ってやる!」

血まみれになりながらも、フレディはボブを粉砕する。
欠片になったボブの黒い球は消滅する。

「僕、やった?」
「ああ、見事にな!」

※見事、大仕事をやってのけたフレディ。
でも、イギリス、ロンドンからはるばる呼ばなくてもよくね?
フレディがツイン・ピークスへ導かれた経緯はこちら
👉ツイン・ピークス The Return Episode 14《第14話》 - 極私的映画案内


クーパーは、バッド・クーパーの死体に例の指輪をはめる。
バッド・クーパーの死体は白煙と共に消滅する。

「すごいもん、見たな…」

目の前で繰り広げられたあまりの光景に呆然とする面々。


ブラックロッジの赤いカーテンの部屋の床に落ちて転がる指輪。


「フランク、グレート・ノーザン・ホテルの鍵を持ってるか?315号室だ」
「ええ?どうして知ってる?」
「ブリッグス少佐がトルーマン保安官が持ってるはずだと」

保安官から鍵を受け取るクーパー。

その時、ゴードン・コールほかFBI一行が保安官事務所に到着する。

naidoの存在に気付くクーパー。

「何の騒ぎだ?」

ボビーが今ごろになってオフィスに入ってくる。

「俺もまったく同じことを聞きたいよ」

ブラッドリー・ミッチャムがぼやく。

「ブリッグス少佐だ
ボビー、君の父上にはこうなることがわかっていた」
「一体、何が起きてる?」
「君の父上が何年も前に集めた情報が
父上とゴードン・コールを引き合わせた
今、時間通り到着だ!」

「ゴードン!」
「クープ!」
「結果、我々もこうして導かれ、
そして、この先変わりゆくものもいくつかある
過去が未来を決める」

そこへ、キャンディ、サンディ、マンディの三人組が
サンドイッチを運んでくる。

「サンドイッチ、たくさん作って正解ね」

※とにかく、サンドイッチを運ぶキャンディ、サンディ、マンディの三人組。
結局、セリフはキャンディしかなかった。

「フランク、ハリーによろしく言ってくれ」
「伝えるとも」

naidoがクーパーに駆け寄る。

手の平を重ね合わせるクーパーとnaido。
すると、naidoの顔面が黒く焦げたようになり
そこにはダイアンが。

「ダイアン!」

近づいてキスをする二人。

「クーパー、ただ一人の人」
「すべて、覚えているのか?」
「ええ」

その時、時計の針は午後2時53分で行きつ戻りつしていた。

※ここで時間が止まったということか?

僕らは夢の中に生きている

「また、会えることを願ってるよ、みんなと」

「ゴードン!」
「クープ!」

周囲は暗くなり、クーパー、ダイアン、ゴードンの三人は暗闇を歩いている。

あの奇妙な音の出所。
グレート・ノーザン・ホテルのボイラー室。
ボイラー室の片隅のドアが315号室の鍵で開く。

※ここで、315号室の鍵が必要になるとは!
クーパー→ジェイド→ベン・ホーン→トルーマン保安官→クーパーと、この鍵も長い旅をしてきたことになる。
《第14話》でジェームズがこのボイラー室で奇妙な音を聞いている。
詳しくはこちら
👉ツイン・ピークス The Return Episode 14《第14話》 - 極私的映画案内

「聞いてほしい、僕を追ってこのドアを通らないでくれ
二人ともだ」
「ずっと、きみを思ってるぞ!」
「カーテンコールでまた会おう」

そう言うと、クーパーはドアの向こうに姿を消す。

ドアの向こうでは、片腕の男フィリップ・ジェラードがクーパーを待っていた。

「未来における過去の暗黒を通して
魔術師は見たいと乞い願う
ひとつの声が放たれるのはふたつの世界の狭間
火よ、我と共に歩め」

二人はコンビニエンスストアの二階、
あの階段を登っていく。
Jumping Man の姿。
階段を登った先には、例のモーテルのような建物。
バッド・クーパーがフィリップ・ジェフリーズと会ったあの場所だ。

※《第15話》でバッド・クーパーとフィリップは同じ場所で会っている。
バッド・クーパーは座標を入手。
詳しくはこちら
👉ツイン・ピークス The Return Episode 15《第15話》 - 極私的映画案内


「フィリップ!」
「頼む、明確に言ってくれ」
「1989年2月23日だ」
「君のために見つけよう
ここは滑りやすい
また会えて嬉しいよ、クーパー
ゴードンに会ったら、よろしく言ってくれ
正式じゃない方を覚えててくれるだろう
ここで、君はジュディを見つけるはずだ
おそらく、誰かがいる
君はこれを頼んだか?」

煙の中に、指輪に描かれた記号(ブリッグス少佐が残したメモ、ホークの地図にもあった)が浮かび上がる。
それは姿を変え、ひし形を縦に並べた形になり
そして、数字の8に形を変える。

「よし!いいぞ!きみはもう行ける!
クーパー、忘れるな」

「電気だ!それは電気!」

片腕の男が叫ぶ。

※あの指輪に描かれた記号、あれが表すものが、ジュディなのか?
フィリップの「明確に言ってくれ」とは
日付のことだろう。
1989年2月23日は、ローラ・パーマーの殺された日。


ツイン・ピークス:1989年

1989年2月23日。
ローラ・パーマー、最後の日。
ローラの家にジェームズが迎えにくる。
二人が出かける様子を見ていたのは
ローラの父親リーランド。

ジェームズを愛しているが、
巻き込みたくないローラ。

二人の様子を見守っているのはクーパー。
クーパーは時を遡り、
25年前のローラの最後の日の立ち会っている。

ジェームズと別れ、森の中に向かって駆け出すローラ。
森の中では、ロネット・ポラスキー、レオ・ジョンソン、ジャック・ルノーがローラを待っている。
しかし、ローラが待ち合わせの場所にたどり着く前に会ったのはクーパーだった。

「誰なの?知り合いだっけ?
待って、夢であなたに会ってる、夢の中で」

ローラに手を差し出すクーパー。
手をつなぐ二人。


翌朝、ローラの死体発見現場から
ローラの死体が消える。


「どこへ行くの?」
「家へ帰ろう」


ローラの死体が発見された日の朝。
死体の発見者となるはずだったピート・マーテルは釣りに出かける。
あの時と同じように一日が始まっている。

※とりあえず、ローラを救ったクーパー。


ツイン・ピークス:セーラ・パーマーの自宅

いつもの定位置であるソファにセーラの姿はない。
泣いているのか?
不気味なうめき声が聞こえてくる。
リビングに戻ってきたセーラはローラのポートレートを床に置くと、ガラスをメチャクチャに割ってしまう。
時間が行きつ戻りつしている。

※ここに過去を変えた影響が出ているのか?


ツイン・ピークス:1989年

ローラの手を引いて、森の中を行くクーパー。
目的地はどうやらあのシカモアの木の場所、
naidoが見つかった場所のようだ。

しかし、ふと気づくと、つないでいたはずのローラの手はそこにはなく、ローラの悲鳴が響き渡る。


エンディングの曲、ジュリー・クルーズ『The World Spins 』はこちら👉Julee Cruise - The world spins - YouTube

※ここで、ジュリー・クルーズ登場!
ほとんどお変わりないような。

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あの日殺されたローラを救ったクーパー。
しかし、悲鳴と共にローラは姿を消す。
これから起きること、すべきことを
すべてわかっていたかに見えたクーパーだったが
これは想定外だったようだ。
クーパーが過去を変えたことで、
未来(現在)にどんな影響が出てしまうのか?
戻ってきた(戻れるのか?)クーパーを何が待ち受けているのか?
ジュディとは何なのか?
すべてはサラ・パーマーが鍵を握っているんじゃないかという気がするが、果たして?
クーパーの言うカーテンコールとは?

今エピソードは、ピート・マーテルを演じ、
1996年に亡くなったジャック・ナンスに捧げられている。
丸太おばさんを演じ、撮影後に亡くなったキャサリン・コウルソンはジャック・ナンスの元妻。

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⚫︎ツイン・ピークス The Return (全18回)
TWIN PEAKS THE RETURN
監督:デヴィッド・リンチ
脚本:デヴィッド・リンチ,マーク・フロスト
音楽:アンジェロ・バダラメンディ


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ツイン・ピークス The Return Episode 16《第16話》

EPISODE 16


ツイン・ピークス:某所

バッド・クーパーとリチャードを乗せた車が
夜道をひた走る。
二人はレイから手に入れた座標の場所に向かっているのか?
やがて舗装道路を外れ、
バッド・クーパーは車を止める。

「それで?着いたみたいだけど、この後は?」
「注意してろ、じきにわかる
俺はある場所を探してるんだ
その場所が何なのか、わかるか?」
「場所?」
「三人の人間からその場所の座標を聞いた
うち、二つの座標が一致した
お前だったら、どうする?」
「二つが一致したとこを探す」
「お前は賢いな、リチャード
二つの座標が一致した場所はすぐそこだ
その先を示してる」
「あそこへ行くのか?」
「ああ、今すぐ行ってみよう」

バッド・クーパーが示した場所、
それは丘を登った先の大きな岩だった。

二人の様子を岩とは反対側から見ていたのは、
ジェリー・ホーンだった。

「人か?」

双眼鏡取り出し、反対側から、
しかも片目だけで覗き込むジェリー。

「ああ、神様!」

「あれがそうか?」
「ちょうどあの岩の上にあたるはずだ
俺の方が二十五も年上だよな?
これを持ってあの岩に乗れ
近づくとピーピー鳴る
音が長く続くようになったら、その場所ってことだ
何か見つけたら、知らせろ」

バッド・クーパーに探知機のようなものを渡され、
丘を登って行くリチャード。
岩の上に上ると音が断続的に鳴る。

「よし!ここだ!」

そう叫んだ瞬間、リチャードは電気に打たれる。
電気に打たれ続けたリチャードの身体は
ついにボンっと弾け飛ぶ。

それを見て、倒れこむジェリー。

舌打ちをしたバッド・クーパーはこうつぶやく。

「じゃあな、息子よ」

「悪い子だ!悪い双眼鏡だ!
お前はなんて悪い双眼鏡だ!
なんて悪い双眼鏡なんだ!お前は!
悪い子だ!」

双眼鏡を地面に叩きつけるジェリー。

車を止めた場所まで戻ったバッド・クーパーは携帯でメッセージを送る。

:- )ALL.
:ー)すべて

送信は失敗に終わる。

「じゃあな、息子よ」
リチャードの父親はバッド・クーパーだったのか?
バッド・クーパーはオードリーといつの間にそんなことに?
バッド・クーパーは三人の人間から座標を手に入れたと言っていたが、レイ、コンビニエンスストアでフィリップ・ジェフリーズに再会した時に白煙に浮かび上がった数字、あと一人は誰だ?
ジェリーの役割ははっきりしない。
そして、:- )ALL.とは、
どういう意味なのか?


■ラスベガス:ダグラス・ジョーンズの自宅付近

ツナギ姿のシャンタルとハッチを乗せたバンがダギーの自宅付近に止まっている。
ダギーが姿を現わすのを待っている。

スナック菓子を食べているシャンタル。

「今朝、鳥の声、聞いたか?」
「うるさかったからね」

黒塗りのセダンが二台、ダギーの自宅前に止まる。
いかにもFBIといった車。

「誰だ?ありゃ」
「一体何しに来たんだろう?」

ダギー宅の玄関に向かっているのは、ランドール・ヘッドリー特別捜査官とウィルソン捜査官だ。

「どうやら、誰もいないみたいですね」
「ほー、そうか、
さすが素晴らしい推理だな、シャーロック
このボンクラが!さっさと車をどっか見えない所へ止めて、この家を見張っとけ!」
「了解」

「ああ、ちょっと
じゃあこの後、勤め先の方へ行ってみるとしよう
ラッキー7保険だ
ウィルソン!!さっさと動け!!」

FBI一行の車が、立ち去る

「そうそう、帰れ!」

FBI一行を見送るシャンタルとハッチ。

※シャンタルとハッチの最後のターゲットは
やはりダギー・ジョーンズ。
しかし、この時点では、FBIラスベガス支部もハッチェンス夫妻もダギー(クーパー)が感電事故で入院していることを知らない。


■ラスベガス:病院

フォークをコンセント口に入れて感電したクーパーは入院中。
今だ意識不明のまま。

ベッド脇にはジェイニー・Eとサニー・ジムの姿がある。
そこへ、ラッキー7保険のブッシュネル社長が。

「君から聞いた通りのことを言われたよ
昏睡状態ではあるが、脈や呼吸は異常なし!
強い男だ」
「ええ、でも昏睡状態のまま、何年も眠り続ける人もいるみたいだから」
「いやあ、ダギーはそんなことにはならんよ」
「ママ、昏睡状態って電気となんか関係あるの?」
「いえ、ないわよ」
「まあ、電気でこうなったんだがな」

そこへ今度はミッチャム兄弟の一行が
見舞いにやって来る。

「ブッシュネル、知らせを聞いて飛んで来た」
「こちらはミッチャム兄弟といってね、ジェイニー・E
二人はダギーの友達なんだ」
「ああ、どうも、ほらっ、サニー・ジム
こちらのお二人はね、あの遊具セットを下さった方よ
あと車も、本当にありがとうございました」
「ありがとうござました」
「礼だなんて、子どもは遊具セットで遊ばないとな」
「君が息子さんか、強そうだな」
「で、考えたんですがね
その、こういう時はとても料理なんてできないでしょう?」
「と言っても、病院の食い物は食いたくない
だけど、子どもはちゃんと食わんといかん」

キャンディ、サンディ、マンディがサンドイッチを運んで来る。

「はい、どうぞ、
これ、フィンガー・サンドイッチっていうのよ」
「食ってごらん、そう指でつまんで食うんだ
だからフィンガー・サンドイッチって名前なんだよ」
「ああ、それじゃあ、みんなで外で食べよう」
「いや、いや、いや、すぐに失礼する
みなさんでどうぞ
我々はただ少しでも助けになれればと
それと、ダギーへの敬愛の気持ちです」
「いやあ、でも、こうして見ると元気そうだな」
「ええ、そうなの、先生もよくなる見込みはあるって」
「もし、よければですが、鍵をお借りできますか?
お宅の方にも食料なんかを運んでおこうかと」
「ああ、あっは、あらまあ、すみません、
これです、助かります」
「で、結局、何だったんです?電気ですか?」

※義理人情に厚いミッチャム兄弟。


サウスダコタ州:バックボーン

FBI支部と化したホテルの一室。
様々な機器が動いている。
ゴードン・コールの渋い顏。


■ラスベガス:病院

「ママ、オシッコ、行きたいんだけど」
「わかった、じゃ一緒におトイレ探しに行きましょ」

二人が病室を出て行き、ひとり残されたブッシュネル社長。
すると、ラッキー7保険のフィル・ビズビーから電話がかかってくる。

「はい、ブッシュネル」
「あ、フィル・ビズビーです」
「どうした?フィル」
FBIがダギーを探しに来ました」
「何だって?」
FBIです」
FBIが?」
「ええ、ダギーを探してます」
「ダギーを探してる」
「そうです」
「何をしたっていうんだ?昏睡状態だぞ」
「ええ、ですが、その、えっと…」
「病院にいると言ったのか?」
「ええ、そしたら出て行きました」
「そう言った?いつ出て行ったんだ?」
「10分くらい前です」
「わかった」

電話を切ったブッシュネル社長の思案顔。
クーパーの顏をのぞき込むが、変化なし。


■ラスベガス:ダグラス・ジョーンズの自宅付近

シャンタルとハッチは相変わらずダギーが姿を現わすのを待っている。
スナック菓子を食べ続けているシャンタル。

周囲を巡回中のウィルソン捜査官の車がハッチェンス夫妻のバンの向かい50メートルほどの位置に止まる。

「長い一日になりそうだな
あいつ、覚えてるか?サニー」
「うん」
「死んだってさ」
「へー」
「いいヤツだった、金、借りてたんだよ」
「悪いとか思ってんの?」
「いや」

そこへジョーンズ家の家の鍵を預かったミッチャム兄弟のリムジンがバンを従え、差し入れを届けにやってくる。

「何が始まんだ?
あん中のひとりがダギーか?ダグラス・ジョーンズ」
「どいつがうちのボスに似てるっていうんだよ!バカ!
あの中にダギーはいない」
「何、イライラしてるんだよ?」
「これで最後なんだよ!最後!
もう、これが最後の一袋なの!」
「今、生理中か?」
「だったら、なんだっていうんだよ!」
「べつに」

キャンディ・サンディ・マンディの三人が差し入れを家の中に運び込んでいる。

「なんだ、あれ?まるでサーカスのパレードだね」

見張り中のウィルソン捜査官。

「でっかいリムジンにピンクの服の女
ダグラス・ジョーンズはいない」

荷物を運び終えたミッチャム兄弟のバンが去ると
入れ替わりに、車体に“ZAWASKI accounting.inc”の名が入った車がハッチェンス夫妻のバンの前に止まる。
車の持ち主は会計士のようだ。

「なに?この車」

「ちょっと、どうも
車が入れられないんだが」

車から降りてきた男はここの住人らしい。

「このままでも入れんだろ?」
「あんたんちなんか、かすってもいないだろうが
ふざけんなよ!わかったら、消えな!!」
「車を動かす」

そう言って、自分の車に戻った男はアクセルをふかして、ハッチェンス夫妻のバンにぶつかってきた。
アクセルをふかし続け、無理矢理バンをどかそうとする。

「くっそー、なめやがって!」

腹を立てたシャンタルは男の車のフロントガラスに一発、撃ち込む。

「何やってんだよ、シャンタル!」
「あいつがなめた真似するから、ムカついたんだよ!」

車を降り、トランクから銃を取り出した男が反撃。
シャンタルは腕を撃たれる。

「シャンタル!」
「うーっ、腕をやられた!」
「なんだよ!計画がメチャクチャだよ!」

ハッチがショットガンで応戦。
ハッチェンス夫妻はこの場はひとまず逃走しようとするが、男が持っていた銃はマシンガンだった。

ハッチェンス夫妻は男のマシンガンで蜂の巣となり、
いかにも殺し屋夫婦らしい最期を遂げる。

突然、始った銃撃戦に
銃を手に外へ出てきたミッチャム兄弟。

「おい、ここのご近所、どうなってんだ?」
「みんな、いろいろストレス抱えてるんだよ」
「そうだな」

FBIだ!銃を置いて、手を上げろ!
今すぐ、銃を置いて、手を上げろ!」

ウィルソン捜査官の指示に素直に従う会計士の男。

※突然の闖入者によって、またしてもダギー(クーパー)への刺客は退場させられる。
それにしても、マシンガンで蜂の巣
ハッチェンス夫妻に似合いすぎる最期。


■ラスベガス:病院

昏睡状態のクーパーを見守るブッシュネル社長。
すると、どこからか、妙な音が聞こえてくる。
ベンジャミン・ホーンのオフィスやグレート・ノーザン・ホテルのボイラー室で聞こえていた音と同じ音だ。
その音に誘われるように病室を出て行くブッシュネル社長。

すると、ベッド脇の椅子に片腕の男が姿を現わす。
目を覚ますクーパー。

You are awake.
目を覚ましたな

「完全に目覚めた」

Finally.
ついに
The other one…
もう一人は
He didn't…
戻って…
go back in.
こなかった
He's still out.
まだ外にいる
Take this.
これを

そう言って片腕の男はクーパーにあの指輪を渡す。

「タネは持っているか?タネは持っているのか?」

クーパーが尋ねると、片腕の男は金色の玉を見せる。

「もう一つ作ってもらいたい」

クーパーはそう言って、自分の髪を抜いて片腕の男に渡す。

I understand.
分かった

片腕の男はクーパーから受け取った髪の毛をポケットにしまう。

そこへジェイニー・Eとサニー・ジムが戻ってくる。

「ダギー?」
「パパ!」
「やあ、サニー・ジム!」
「よかった…ダギー」
「やあ、ジェイニー・E!」

ブッシュネル社長も病室に戻ってくる。

「ダギーが戻ってきた!思った通りだ!」
「ジェイニー・E、今すぐドクターを呼んできてもらえると助かる
サニー・ジム、ママと一緒に行きなさい」
「行きましょう」
「ブッシュネル、そこのサンドイッチを取ってくれ
腹ペコだ」
「社から連絡があった、FBIが君を探してるそうだ」
「素晴らしい!」
「なんだか強くなって戻ってきたようだな」

ジェイニー・Eとサニー・ジムがドクターを連れて戻ってくる。

「ああ、ちょっと、もう、何してるんですか!」
「点滴はもう必要ない、バイタルが正常かどうか確認してもらいたい、退院する
ブッシュネル、私の服を取ってくれ
その後ろのキャビネットだ」
「ダギー、そんなことして、本当に問題はないの?」
「まったく問題ない」
「確かにこれなら問題なさそうね
退院許可の書類を用意します」
「ジェイニー・E、車を正面に回しておいてくれ
では、着替える、下で落ち合おう」
「わかった、行くわよ、サニー・ジム、
パパが車を取ってきて欲しいんですって」
「ありがとう、ブッシュネル」

我が夫と我が父の変わりように、ジェイニー・Eとサニー・ジムも驚きを隠しきれない。

「パパ、いっぱいしゃべってたね」
「ええ、ホント、いっぱいしゃべってたわね」

病室では、もちろん自分で着替えているクーパー。

「ブッシュネル、その左脇のホルスターに入れている32口径のスナブノウズを貸してもらいたいんだが」
「了解だよ、ダギー」

クーパーに銃を渡すブッシュネル社長。

「何か問題はないか?何でもするから、言ってくれ」
「ミッチャム兄弟と電話で話したいんだが」
「お安い御用だ、個人的な番号を聞いてる
短縮ダイヤルに入れておいた
もしもし、ああ、ブラッドリーか?
ああ、ロドニー、実はその、ちょっと待ってくれ
ダギーが話したいと言っている」
「ロドニー、20分後に家族をカジノへ連れて行く
ロビーで待っててくれ」
「ああ、何でもするぞ!」
ワシントン州スポケーンへ飛びたいんだが」
「今すぐ自家用ジェットの燃料を満タンにする
ブラッドリー、ワシントンのスポケーンへ飛ぶぞ!」
「では、20分後にロビーで落ち合おう」
「了解した」

「そうだ、満タンにな、スポケーンへ飛ぶ」
「よし、行こう!ロビーで出迎える」
「お嬢さんたち!飛行機に乗るぞ!」
「何する気だろうな?」
「よーし、行くぞ!急げ!」

「ゴードン・コールという男からここに電話がかかってくるだろう
かかってきたらこれを伝えて欲しい」

クーパーはそう言って、ブッシュネル社長にメモを渡す。

「あなたは尊敬すべき人物だ
あなたの親切と良識ある振る舞いは忘れない」

立ち去ろうとするクーパーにブッシュネル社長が声をかける。

FBIはどうする?」
「私がFBIだ」


病院正面に車を回しクーパーを待っていたジェイニー・Eとサニー・ジム。

「代わってくれ、運転する」
「でも、ダギー…」
「ジェイニー・E、心配ない」
「一体、どうしちゃったのよ?ダギー」
「シートベルトをして」

さっそうと走り出すBMW
入れ替わりに、FBIの車列が病院に到着する。

「ジェイニー・E、シルバー・ムスタングへの道を教えてくれ」
「もう、ギャンブルには手を出さない約束でしょう?」
「ミッチャム兄弟に会いに行くんだ」
「パパ、運転出来るんだね!すっごく上手いよ!」

※とうとう!ついに!
デイル・クーパー捜査官が帰って来た!
いやあ、長かった!
そして、あの金色の玉!
あれは化身のタネだったのか!
クーパーが片腕の男に髪の毛を渡していたが、そのDNAを使って複製するということなのか?
バッド・クーパーもダグラス・ジョーンズもクーパー自身の意志で作られた化身だったのか?
そして、なぜクーパーは化身がもう一つ必要なのか?


サウスダコタ州バックホー

FBI一行が宿泊中のホテルのバー。
カウンターでは、ダイアンが酒を飲みながら、
タバコを吸っている。
携帯に届いたメッセージを確認するダイアン。
予期していなかったかのように、驚いている。

:- )ALL.
:ー)すべて

バッド・クーパーからのメッセージ。
気を落ち着かせるかのように、酒を飲み干す。

「覚えてる…ああ、クープ…覚えてる」

「うまく行くといいけど…」

つぶやきながら、ダイアンが送ったメッセージ。

48551420117163956

膝の上に置いたバッグの中には、銃が見える。
何かを決意したかのようにバッグの口金をしめ、
立ち上がったダイアンはエレベーターへと向かう。

向かった先は、FBI支部と化したホテルの一室。
ゴードン・コールはダイアンが部屋に向かっていることを察知していたようだ。
ダイアンがドアをノックをする前に声をかける。

「ダイアン、入ってくれ」

部屋には、アルバートとタミーも待機している。
ダイアンが話し始める。

「クーパーが私を訪ねてきた夜のことを聞いたわね?
それを話しに来た」
「何か飲むか?」
「ええ」

「あれはクーパーからの音信が途絶えて三年か四年くらい経った頃よ
私はまだFBIに勤めていた
ある夜、ノックもなく、ベルも鳴らさず、
彼が入ってきた
私はリビングに立っていたの
彼に会えて嬉しかった
思いきり抱きしめたわ
それから二人でうちのソファに座って話し始めたの
私は全部聞きたかった
彼がどこにいて、何をしてきたのか
彼が知りたがったのは、FBIのその後の様子だけ
尋問されているような気がした
でも私、自分に言い聞かせた
彼はFBIの情報が気になるだけだって
そしたら彼の顔が近づいてきて、私にキスした
それは前にも一度あったことよ
でも、感じた
彼の唇が触れた瞬間、何かがおかしいって
そして、怖くなった
彼は私の恐れを見抜いてた」

「彼、笑ったの、笑ったのよ、彼の顔が
その時だった、彼にレイプされたの
彼にレイプされたのよ!
その後、外へ連れ出された
連れて行かれた先は、古いガソリンスタンドだった
そう、古いガソリンスタンドだった」

泣きながら、そこまで話すとバッド・クーパーからのメッセージを確かめるダイアン。

:- )ALL.
:ー)すべて

「私は保安官事務所にいる…
保安官事務所にいる…
彼に座標を送ったの、保安官事務所にいる!
だって、だって!
私じゃないから!
そう、私は私じゃない!
そうよ、私は私じゃない!」

バッグから銃を取り出し、撃とうとするダイアン。
しかし、逆に、素早く銃を抜いたアルバートとタミーに撃たれる。

しかし、撃たれたはずのダイアンの姿は消える。
後に、何の痕跡も残さずに消えてしまう。

「びっくり!
本当だったのね、今のが本物の化身」
「保安官事務所だと?」


※まさか、ダイアンも化身だったとは!
ということは、ダイアンとバッド・クーパー
化身同士が連絡を取り合っていたことになる。
私は保安官事務所にいる、ということは
本物のダイアンはNaidoなのか?
ダイアンが部屋へ向かうシーンで印象的に使われているのは、この曲 、Muddy Magnolias 『AMERICAN WOMAN 』のデヴィッド・リンチREMIX
👉Muddy Magnolias - American Woman (Slowed David Lynch Style) - With Twin Peaks Visuals - YouTube


■ブラックロッジ:赤いカーテンの部屋

椅子にはバックホーンのホテルの部屋から消えたダイアンの姿がある。
そして、片腕の男。

Someone…
誰かが
manufactured you.
作ったのだ お前を

「わかってるわよ!クソったれ!」

ダイアンの化身は最後の悪態をつく。
すると、ダイアンの顔面は仮面のように割れ
そこから黒煙が上がり、金色の球が出てくる。

白煙と共にダイアンの化身の身体は消え
後には、金色の玉、タネが残る。

※ダイアンの化身を作ったのはバッド・クーパーなのか?
ダイアンがクーパーにレイプされたと言っていたのは、文字通りのレイプではなく、化身を作られたという意味なのかもしれない。


■ラスベガス:シルバー・ムスタング・カジノ

カジノのロビーで一家を迎えるミッチャム兄弟。

「ダギー!よう、なんだよ、すっかり元気そうだな」
「元気そうだ!」
「準備万端、いつでも飛び立てるぞ!」
「どこへ行くの?」

不安気なジェイニー・E。

「すまない、ちょっと失礼する
ジェイニー・E、サニー・ジム、いっしょに来てくれ」

クーパーは二人をスロットマシンのフロアへ連れて行く。

「なんだかダギー、自信たっぷりに話すようになったよな」
「昏睡状態になったせいか?」
「副作用だ!」

「しばらく遠くへ行くことになった
これだけは伝えておきたい
君たちと過ごせて、本当に楽しかった」
「何それ?」
「おかげで心が満たされた」
「ちょっと、何を言ってるの?」
「私たちは家族だ
ダギー、いや、つまり私は、帰ってくる」
「あなたはダギーじゃないのね?」
「えっ?嘘だ…
僕のパパだよね?僕のパパだよね?」
「ああ、君のパパだよ、サニー・ジム、君のパパだ
愛してる、君たち二人のことを」

「もう行かないと、すぐにまた会える
赤いドアから帰ってくる、そして、ずっとそばにいる」

「行かないで!」
「わかってくれ」
「あなたが誰でもいい、ありがとう」

キスでクーパーを送り出すジェイニー・E。

※ずっと赤ん坊状態だったクーパーだが、その間の記憶はしっかりとあるらしい。


■ラスベガス:ミッチャム兄弟のリムジン

「ダギー、もう一回、整理させてくれ」
「待った待った、俺もそれを聞きたい
キャンディ、ブラッディメアリーはまだか?」

「保険会社ってのは嘘で、実はFBI捜査官だが
この二十五年、行方不明だった
で、俺たちはあんたをツイン・ピークスって町の保安官事務所へ連れて行く必要がある」
「ダギー、あんたを好きだ
でも俺たちは昔からそういった場所じゃ歓迎されないんだよ」
「というか、そういった人たちにな
警察関係の方々には」
「言いたいことは理解した
友よ、それももう変わる
君たち兄弟が黄金のハートを持っていることは
この私が保証する」
「本当よ、本当に持ってるんだから」

キャンディの賛同にご満悦のミッチャム兄弟。


ツイン・ピークス:ロードハウス

ロードハウスの今夜のゲストは
Edward Louis Severson III

演奏している曲 Eddie Vedder『Out of Sand 』はこちら👉Eddie Vedder Out of Sand Twin Peaks - YouTube

演奏の途中で、オードリーとチャーリーが店に入ってくる。
カウンターに陣取った二人はマティーニを注文。
演奏が終わったタイミングでマティーニが運ばれてくる。

「では、君と私に乾杯だ」
「ビリーに乾杯」

再び、舞台にMCが登場。

「それでは、ここで踊っていただきましょう!
オードリーのダンスです!」

ダンスフロアにいた人々が場所を開け、
突然のことに戸惑うオードリーに舞台を整える。
音楽が始まり、ゆっくりとフロアの中央に出ていったオードリーが踊り始める。
二十五年前に踊ったように。


「モニーク!モニーク!
俺の女房に何しやがんだよ!
ふざけやがって!」

突然、男が出て来て、怒鳴りながら他の男にビンを投げつける。
殴り合いが始まり、騒然とする店内。

チャーリーの元へ駆け戻るオードリー。

「チャーリー、ここから連れ出して!」

そう言った瞬間、オードリーはロードハウスから別の場所へ移動している。
鏡の中の自分の姿を見ているオードリー。

「何?何なの?何?何?」

※おい!おい!おい!
オードリーも化身なのか?
そう言えば、オードリーは《第13話》で
自分じゃないってことだけは、はっきりわかるって言ってなかったか?
(詳しくはこちら
👉ツイン・ピークス The Return Episode 13 《第13話》 - 極私的映画案内

二十五年前と同じようにオードリーが踊る。
アンジェロ・バダラメンディ『Audrey's Dance 』はこちら
👉Angelo Badalamenti - Audrey's Dance (Twin Peaks OST) - YouTube

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
なるほど、ダイアンは化身だった。
しかし、オードリーも?
残りあと二話。
此の期に及んで、もう何がなんだか…。
しかし、クーパーはツイン・ピークスへ向かった。
ゴードン・コールへのクーパーの伝言もブッシュネル社長に託された。
いよいよ、役者がツイン・ピークスに集結する。

=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=
⚫︎ツイン・ピークス The Return (全18回)
TWIN PEAKS THE RETURN
監督:デヴィッド・リンチ
脚本:デヴィッド・リンチ,マーク・フロスト
音楽:アンジェロ・バダラメンディ

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ツイン・ピークス シークレット・ヒストリー

ツイン・ピークス シークレット・ヒストリー

👇前シリーズの謎を解く鍵だった『 ツイン・ピークス ローラの日記』も再販。
旧バージョン持ってたけど、ブックオフに売ってしまった。。。

ツイン・ピークス The Return Episode 15《第15話》

EPISODE 15

ツイン・ピークス:ビッグ・エドのガソリンスタンド

ネイディーン・ハーリーがDr.アンプ(Dr.ジャコビー)の金色のシャベルを担いで歩いて来る。
彼女が向かっているのは、“ビッグ”エド・ハーリーのガソリンスタンド。

エド!」
「ネイディーン」
エド、あなたに話がある」
「なあ、車は?どうやって来た?」
「歩いて」
「歩いた?で、そのシャベルは?」
「これが話したいことなのよ」
「それが?」
「そうよ、あなたにこう言いたかったの
私は変わった」
「変わった?」
「ええ、エド、あなたを心から愛してる」
「わかってるよ、ネイディーン」
「でも、あたし、最低だった!
ずっと、自分勝手ばかりやってきて
なのに、あなたは優しかった」
「どうした?」
「聞いて、エド、あたし知ってたの
あなたとノーマがずっと両想いだったって
なのに、嫉妬して、愛し合う二人を引き裂いてた
あなたの優しさにつけ込んでね」
「いいや、そんなことはない」
「私はあなたに罪悪感を背負わせ、縛り付けたのよ
誠実なあなたは私といるために自分の愛をあきらめた
エド、あなたをもう自由にしてあげたい
あたしなら大丈夫!
このシャベルが何か聞いたわね?
これでクソを掘って、外へ出るの」
「ジャコビーの番組を観たのかな?」
「ええ、観てるわよ」
「ネイディーン」
「私の心配はいい、ノーマのとこへ行って
残りの人生を愛する人と楽しんで
私も幸せよ、すっごく!
二人が幸せなんだって思うだけでうれしいの
エド、愛してる、これからもずっと
でも、真の愛とは、人の幸せを願い、
身を引けることなのよ
まったく、不器用な人ね!
素敵なハッピーエンドじゃない!」
「ネイディーン、よく考えたほうがいい
君は自分が何を言ってるのかわかってないんだ
明日になったら、今言ったことをきっと後悔するぞ」
エド、言ったでしょ!
ここまで歩いてきたんだって
考える時間はたっぷりあった
それでも、ここへ来たの
これで間違いないって、確信してる証拠よ
Dr.アンプに感謝してね
つまり、ジャコビー先生によ
ずばり、核心をついてくれるのは先生だけだわ
じゃ、まとめると、エド、あなたは自由よ
さあ、幸せになって!」

晴れやかな表情でエドを抱きしめるネイディーン。
エドは感無量といった表情で、去っていくネイディーンを見つめる。

※ネイディーンにとって掘って出るべき“クソ”は、
自らの嫉妬心だったということか。
Dr.アンプ(ジャコビー先生)のインチキ商売かと思ったら、金色のシャベルにこんな効用があったとは!


ツイン・ピークス:RRダイナー

自由を得たエドはノーマの元へ駆けつける。

「ノーマ、すべてが変わった
さっきネイディーンと話したんだが
俺を自由にしてくれるそうだ」
エド、ごめんなさい、ウォルターが来たから」

エドの報告に一瞬嬉しそうな表情を浮かべたノーマだったが、ちょうど共同経営者のウォルターが訪ねて来る。

出鼻をくじかれたエドはカウンターに座る。
シェリーが注文を聞きにくる。

「何にする?エド
「じゃ、コーヒーを」
「すぐ用意する」
「それと、青酸カリだ…」

ノーマにウォルターの訪問を優先されて傷付くエド
奥のボックス席に座るノーマとウォルター。

「今日来てもらったのは、
伝えたいことがあったからなの」
「名前をノーマのRRに変える
決心するって思ってた」
「いいえ、そうじゃないのよ
売買選択権を行使しようって、思ってるの」
「ええっ?冗談だろ?」
「いいえ、聞こえた通りよ」
「だが、何故?」
「家族の事情」
「君に家族はいなかったはずだが」
「いいえ、素晴らしい家族がいるわ
彼らのことを大切にしたいの
店舗を増やして気を揉むのは、私には無理だったのよ
家での時間を大事にしたい」

エドの元にコーヒーが運ばれて来る。
まるで審判を待つようにじっと目を閉じるエド

「僕には理解出来ないが、君の決断は尊重するよ
君と一緒に成功したいと思っていたから
実に残念だが」
「あなたはきっと成功するだろうし、
そうなることを願ってるわ
でも、規約通り、私はこの一軒を守るから
あなたは私から他の店舗の株を買えばいいわ」
「もうすぐ七軒だ
七つの店が幸せな客であふれていたはずなのに」
「私はここだけで幸せなの」
「念のため、ひと言言っておくが、
君は大きなミスを犯した
きっと後悔することになる」

ウォルターが店を出ていく。
じっと目を閉じたままのエドの肩にノーマの手が置かれる。
この瞬間を待ち続けていたエドはノーマに向き直り、
二人は笑顔で見つめ合う。

「結婚しよう」

とうとうその言葉を口に出来たエド
キスで応えるノーマ。

「もちろんよ、エド

二人を祝福するシェリー。

※文字通り、二十五年という時間の重みを感じるシーン。
お互いに(観ている視聴者も)年をとったエドとノーマがようやく結ばれたこのシーンには感無量。
このシーンで使われているのは、タイトルからしてぴったりのこの曲。
Otis Redding『I've Been Loving You Too Long 』はこちら
👉Otis Redding - I've Been Loving You Too Long - YouTube


■ハイウェイ

夜道をひた走るバッド・クーパーの車。
やがて見えてきたのは、
二十五年前、フィリップ・ジェフリーズが見つけたと言っていたコンビニエンス・ストア
店の前には案内するかのようにWoodsmanの姿が。
店に二階はないが、店の脇の階段を上っていくWoodsman の後を追うバッド・クーパー。
しかし、二人の姿は階段の途中で消える。

部屋の中に入ったバッド・クーパー。
部屋の片隅の椅子に座っているWoodsman 。

「フィリップ・ジェフリーズを探している」

バッド・クーパーがこう告げると、Woodsman は何かスイッチのようなものを操作する。
浮かび上がるJumping Man の姿。

もう一人のWoodsman に案内され、部屋の奥へと進むバッド・クーパー。
廊下の突き当たりの階段を上がった先のドアを開けると、そこは屋外だった。
雨上がりのように、所々に水たまりがある。
そして、その向こうにはモーテルのような建物。
ひとつのドア、8号室の外の明かりだけが点いている。
バッド・クーパーがドアノブを回そうとするが、
鍵がかかっている。
すると、寝間着姿の女が近づいてくる。

I'll unlock the door for you.
ドアの鍵を開けてあげる

女はそう言うと、8号室の鍵を開ける。
部屋の中には、大きなソケットのような物体。
湯沸かしのように煙を吐き出している。

「ああ、お前か」
「ジェフリーズ」
「なんてこった!」
「レイに俺の殺しを依頼したな」
「何?レイに電話はした」
「つまり、依頼したんだろう?
五日前、俺に電話したか?」
「お前の番号を知らない」
「じゃあ、あれは別の誰かか?」
「昔はよく話した」
「ああ、そうだった」

フィリップは声だけで、姿は見えない。

さてと、先に言っておくが、
俺はジュディのことは話さないし
ここで話題にするつもりもないから

「1989年だ、
お前はFBIフィラデルフィア支部に現れ
ジュディに会ったと言ったんだ」
「つまり、お前はクーパーか?」
「フィリップ、何故ジュディの話をしたがらなかった?
ジュディとは誰だ?
ジュディは俺に何か用があるのか?」
「直接、ジュディに聞いたらどうだ?
俺からお前に教えよう」

吐き出される白煙に浮かび上がる数字。
4、8、5、5、1、4…
メモを取り出すバッド・クーパー。

「ジュディとは誰だ?」
「お前はもうジュディに会ってる」
「もう会ってるとはどういう意味だ?」

その時、部屋の隅の昔ながらの黒電話が鳴り出す。

「ジュディとは誰だ?何者なんだ?」

バッド・クーパーが電話をとると、
その瞬間、彼の身体はコンビニエンス・ストアの外の公衆電話に移動している。
何も言わずに電話は切れる。

電話を切ったバッド・クーパーに銃を向け
待ち構えていたのは、リチャード・ホーンだった。

「農場で見て、すぐわかった、FBIだろ?」
「どうして、そう思う?」
「前に写真で見た、あんたはスーツでキメて
そばに来んなっ!」
「その写真はどこで見た?」
「母親が持ってた」
「お前の母親は?」
「オードリー・ホーン
で、あんたはクーパーだ」

それを聞いたバッド・クーパーは唾を吐いたかと思うと、一瞬でリチャードから銃を奪い殴り倒す。

「二度とふざけた真似するな
トラックに乗れ、おしゃべりしよう」

リチャードはおとなしく車に乗る。
バッド・クーパーは携帯でメッセージを送る。

Las Vegas ?
ラスベガスは?

リチャードを車に乗せたバッド・クーパーが去ると内部で発光したコンビニエンス・ストアは白煙と共に暗闇に消える。

エド・ハーリーのガソリンスタンドは元々《第8話》に出てきたガソリンスタンドじゃないかと思ってましたが、《第8話》のあれは、ガソリンスタンドというより、コンビニエンスストアでしたね。
ブラックロッジの面々が集うコンビニエンスストアの二階の部屋については、デヴィッド・ボウイ演じるフィリップ・ジェフリーズ捜査官が『ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の七日間』で見つけたと言ってましたね。
そこには、Jumping Manの姿も。

コンビニエンスストアの二階の部屋は、『ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の七日間』の中でローラがトレモンド夫人から受け取った絵に描かれていた部屋。

バッド・クーパーがWoodsman に案内されて上る階段は、バックボーンでゴードン・コールが渦の中に見た階段だった。

「もうジュディには会っている」というジェフリーズ。
ジュディとは誰なのか?
そして、再び謎の数字。

バッド・クーパーが携帯から送ったメッセージはダイアンに宛てたもの。
詳しくはこちら👉ツイン・ピークス The Return Episode 12 《第12話》 - 極私的映画案内
それに対するダイアンの答えは、
THEY HAVE'NT ASKED YET.
“Las Vegas?”とは、ダンカン・トッドのことか?
それともダギーのことなのか?
ダギーのことだとすれば、ブリッグス少佐の胃から発見された結婚指輪の件で初めてダギーについて知ったかのように振舞っていたダイアンは、すでに知っていたことになる。


ツイン・ピークス

森の中を犬を散歩させている男Cyril Pons

大きな木の根元で身を寄せ合っているのは、
シェリーの娘ベッキーの夫スティーヴン・バーネットとヘイワード家の三番目の娘ガースティンだ。
ティーヴンは興奮状態で、手に銃を持っている。

「なんで?」
「理由なんかねえ、俺がやった」
「違う、そうじゃない、彼女よ、彼女がやったの」
「俺だよ、そう、俺がやった」
「違う、ダメよ、スティーヴン
ティーヴン、やめて、あなたは何もしてない
あなたはハイになってたのよ
彼女に何をされたの?銃を私に渡して」
「お前も俺と来るか?」
「いいえ、あなたは行かないのよ」
「俺を見ろ、俺は高卒なんだ、高卒なんだよ」
「そんな…」
「わかるな?」
「ダメ、ダメよ、スティーヴン、お願い、やめて」
「こいつをここに入れる」

そう言うと、スティーヴンはカートリッジに弾をこめる。

「ええっ?ねえ、やめて」
「それから、そいつをここで、ここにぶち込む」
「ダメよ、スティーヴン」
「それで終わりに出来る
お前が来るのが見えたら、
もし、もしも、見えたらの話だけど、
だって、俺もう、死んでっから…
どこに行くのかな?サイがいる場所とか?
奇跡が起きるとか?そう願う…」
「いいから、もういいから、大丈夫」
「そのものになれるとか?
つまり、つまり、ほらトルコ石に…
なんか感じる…クソーっ!
終わりだ、カタをつける
お前は好きにしろ、お前が好きだった
言ったか?大好きだった
ケンカしてから、ヤルのが、好きだった
わかってるよな?
なんで泣く?なあ、泣くなって、やめろ、
俺まで泣ける、泣くな、なあ」

そこへ犬を連れたCyril Pons が通りかかる。
Cyril に見られた二人。
ティーヴンは慌てて銃を隠し、
ガースティンは別の木の根元に走って行く。
Cyrilも慌てて立ち去る。
そして、一発の銃声が響く。
取り乱し、放心して空を見上げるガースティン。

※スティーヴンは一体何をやったというのか?
ガースティンのアパートのドアを銃で撃ったのはベッキー
あの時、隠れていたスティーヴンとガースティンはその足で森の中に逃げてきたのか?
詳しくはこちら👉ツイン・ピークス The Return Episode 11 〈第11話〉 - 極私的映画案内
それとも、スティーヴンはベッキーに何かしたのか?
いずれにせよ、スティーヴンは死を考えるほどに相当追い詰められている。
ティーヴンの言っていることは支離滅裂だが、
トルコ石とは、あの指輪のことかもしれない。
ティーヴンは指輪をどこで見たのか?
そして、スティーヴンは自らのこめかみを撃ち抜いてしまったのか?


ツイン・ピークス:ニュー・ファット・トラウト・トレーラーパーク

Cyril が森の中で目撃したことをトレーラーパークの管理人カール・ロッドに話している。

「あそこに住んでるヤツだ」

Cyril が指さしたのは、スティーヴンとベッキーが住んでいるトレーラーハウス。

※Cyril はスティーヴンと面識があった模様。
少なくとも、スティーヴンがトレーラーパークの住人だということは知っていたらしい。
Cyril Ponsを演じているのは、共同制作者、共同脚本家であるマーク・フロスト。


ツイン・ピークス:ロードハウス

ジェームズ・ハーリーとフレディ・サイクスの二人がビール片手に店の奥へと入ってくる。
奥のボックス席には、レネーと女友達とそれぞれのパートナーの姿がある。

ジェームズがレネーに声をかけると、
レネーの夫チャックが激怒、ジェームズを殴り倒す。
チャックの友人スキッパーも加勢し、倒れたジェームズを蹴りつける。
しかし、緑色の手袋をしたフレディの軽い一発でスキッパーもチャックも失神してしまう。

「ジミー、大丈夫?」
「ああ、なあ、誰か!二人はかなり重傷だ!
すぐに救急車を呼んでくれ!」
「あんまり力は入れてないんだけど、ごめん」
「いいんだ、助かった」

「ホントにすまない、レネー
こんなことになるとは思わなくて
悪気はなかったんだ
まずいな、目が完全にイッてる」

※フレディの緑色の手袋の威力は想像以上!
このシーンで使われているZZ Top の
Sharp Dressed Man 』はこちら👉ZZ Top - Sharp Dressed Man (Official Music Video) - YouTube


■ラスベガス:FBIラスベガス支部

デスクにはランドール・ヘッドリー特別捜査官の姿がある。
そこへウィルソン捜査官が報告にやって来る。

「到着しました
ダグラス・ジョーンズとその妻です
すぐ、尋問できます」

部屋を出る両捜査官。

「抵抗したか?」
「いや、まったく
子供たちには手こずりましたが」
「子供たち?複数形か?子供たち?!」

自分の失敗に気づき、逃げるウィルソン捜査官。
尋問室には寝間着姿のダグラス・ジョーンズの一家。
明らかに、“ダグラス・ジョーンズ”ではない。

「ウィルソン!!」


■ラスベガス:ダンカン・トッドのオフィス

内線でロジャーをオフィスに呼びだすダンカン・トッド。

「なんでしょう?」
「アンソニーから連絡は?」
「ありません」
「ヤツを探してくれ!すぐに!」

その時、ロジャーの背後に忍び寄る影。
その人物は、一発でダンカン・トッドを仕留め
続いてロジャーも撃つ。
素早くその場を立ち去る、スーツ姿のシャンタル・ハッチェンス。

「もしもし?ちょっと待って…」

シャンタルの背後から聞こえるロジャーのうめき声。
戻ってきたシャンタルのとどめの一発
ロジャーのうめき声は聞こえなくなる。

「そう、あと一人殺るだけ
フライドポテトがいい、ケチャップたっぷりで」

※ダグラス・ジョーンズ殺害司令に関わる死者は、
これで6名にのぼる。
シャンタルが言うあと一人とは、
ダグラス・ジョーンズのことか?


ツイン・ピークス:保安官事務所

ロードハウスで騒ぎを起こしたジェームズとフレディがホークとボビーに留置場に連行されて来る。

「その手袋野郎、今度は何した?」
「黙れチャド!」
「なんで警官が檻に?」
「ヤツに構うな!」
「ホーク、二人の容態は?」
「共にICU行きだ」

ジェームズとフレディを檻に入れ、
立ち去るホークとボビー。

「あれ、なんだ?」

ジェームズが向かいの檻で保護されているnaidoの存在に気付く。
言葉にならない声を発するnaido。
その真似をする酔っ払い。

※ジェームズとフレディがロードハウスで騒ぎを起こし、留置場に入れられたのは、おそらく、必然。


■ラスベガス:とある裏通り

ひと仕事終えたシャンタルとハッチが車の中でハンバーガーを食べている。

「政府はしょっちゅうやってるのに
なんで殺し屋だけが罪になんだよ?」
「ホントだよ、国は偽善者」
「なにが、キリスト教国だよ
いっそこう言えばいい、汝殺しまくれ!
慈悲をかけるな、誰も許すな
気取りやがって!所詮人殺し国家だ
先住民をほぼ全滅させたんだよな」
「そう、でも殺したら、あたしの楽しみは終わり
死体じゃ、いたぶりがいがない
もう、ずっと誰にも訪問できてないんだよ、ハッチ」
「だよな、最近はちっともチャンスがねえ」
「最悪…
知ってるよね?私が小袋のケチャップ嫌いなの」
「店にそれしかなかったんだ」
「デザートはあるの?」
「当たり前だろ」
「愛してる、ハッチ」
「俺もだ、シャンタル」

デザートを見て、満足気なシャンタル。

「いい夜だな」
「火星だ」

ジェニファー・ジェイソン・リーティム・ロス
この二人が演じる殺し屋夫婦、最高です。


■ラスベガス:ダグラス・ジョーンズの自宅


テーブルについているクーパー(ダギー)にチョコレートケーキを運んでくるジェイニー・E。

「どうぞ、ダギー」

ケーキを口に運ぶクーパー。

「どう?美味しい?」
「美味しい…」
「ああ、ダギー、夢がどんどん叶ってく、ホントに」
「ホント…」

テーブルの上のソルト&ペッパーやリモコンに気を取られながらもケーキを食べ続けるクーパー。
リモコンでテレビの電源を入れると、
画面に映し出されたのは、映画『サンセット大通り』の一場面。
クーパーはセリフの中に登場するゴードン・コールに強い反応を示す。
クーパーの視線は、壁のコンセント口に吸い寄せられる。

クーパーは手に持っていたフォークをコンセント口に差し込もうとするが入らない。
すると、今度はフォークの柄の方をコンセント口に差し込む。
感電したクーパーは倒れ、停電する。
家中にジェイニー・Eの悲鳴が響く。

「ママ!どうしたの!」

デヴィッド・リンチ演じるゴードン・コールの役名は『サンセット大通り』の中で、
グロリア・スワンソン演じる女優ノーマ・デズモンドが所有する車を貸してくれないかと言ってくる男ゴードン・コールから取られている。
ちなみに、映画の中で使われているノーマが住む屋敷は、レッドを演じているバルサザール・ゲティの曾祖父ジャン・ゲティの前妻が所有していた屋敷とのこと。


ツイン・ピークス:保安官事務所

オフィスのホークに丸太おばさん(マーガレット・ランターマン)から電話がかかってくる。

「マーガレット、どうかしたかい?」
「ホーク、あたし、死ぬの」
「残念だ、マーガレット」
「あなたは死を知っている
ただ、変化があるだけよ、終わりじゃない
ホーク、時間なの、少し怖さもある
手放すことが怖いのよ
あたしが言ったこと忘れないで
これ以上は電話では話せない
でも、あなたならわかるでしょ?
あたしたちがまだ、直接会って話せていた時の会話
あれに気をつけて、私があなたに言ったあれ
ブルーパイン・マウンテンに出てる月の下のあれ
ホーク、丸太が金色に変わってる
風がうめいてるの
あたし、死ぬわ、おやすみ、ホーク」
「おやすみ、マーガレット」

電話が切れる。

「さよなら、マーガレット」

そっと、つぶやくホーク。
月が雲に隠れる。

会議室では、トルーマン保安官がパソコンの画面を見ている。
ボビー、ルーシー、アンディが会議室に入ってくる。

「何事だ?」
「ホークに呼ばれたんです、ここに集まれって」

遅れて会議室に入ってきたホーク。

「マーガレット・ランターマンが今夜亡くなった」
「丸太おばさんが死んだ?」

静かに帽子をとるトルーマン保安官。
悲しみに沈む会議室。

マーガレットの家の灯りが静かに消える。

※現実に死を目の前にしているキャサリン・コールソンにこういう台詞を言わせるのは、少し残酷に感じる。
でも、番組の中で仲間たちと視聴者に別れを告げるこのようなシーンを用意する。
それも、彼女に対するデヴィッド・リンチの友情の示し方だったのかもしれない。


ツイン・ピークス:オードリー・ホーンの自宅

いまだに自宅にいるオードリーとチャーリー。

「もう無理だわ、電話を待ってられない
ビリーはあそこが嫌いだけど…
あらっ、コート着てるのね」
「ああ着てるとも、出掛けるんだろ?
ロードハウスへ行くんだよな
だから、コートを着た」
「ええ、そうだけど…
あなたって大した人ねえ、最低、フンッ」
「コートを着るんだ、オードリー
もう遅いし、私はすごく眠い、さあ、行こう!」
「文句を言うの、やめてくれる?
あなたってホント、ムカつく!
いちいち愚痴らなきゃ、人のために何か出来ないの?
どうせやるなら、黙ってやりなさいよ!
ずっと泣きごと聞かされてるこっちが滅入るわ!」
「コートを着るのか?
それとも私にダラダラと長話を玄関で聞かせる気か?」
「ビリーはあたしと一緒に出掛けてもあなたみたいな言い方は絶対にしないわよ、チャーリー」
「そうとも、なぜなら、私はチャーリーで、
そして、彼は、ビリーだから」
「で、私はビリーの方が好きよ」
「衝撃的だ!それで、コートを着るのか?
それとも、一晩中ここで話すのか?」
「ほーら、またそれ!
言わずにはいられないの?
たった、一秒でも!」
「オードリー、真面目な話
一秒あれば、私はコートを脱ぎ、今夜はここで過ごす
ロードハウスに行きたがったのは君で、私じゃない」
「信じられない、今こうして目の前で見えていることが
過去にはまったく見えてなかった
こんなことって、絶対にあり得ない!」
「今度は何なんだよ?」
「あなたよ、チャーリー
だって、昔のあなたは今みたいには
全然見えなかったもの
まるで別人を見てるみたい
あなた、誰なの?」
「わかった、コートを脱ごう」

そう言うと、チャーリーはコートを脱ぎ、
リビングのソファに座ってしまう。
それを見たオードリーはチャーリーに駆け寄り
摑みかかる。

「なんでいつもそうなのよ?
心の底から嫌いだわ!!大キッらい!!
どれだけ憎んでるか、わかってるの!!!」

※今だに出掛けられないオードリーとチャーリーの夫婦。
この二人の状況は、かれこれ《第12話》から一向に進んでいない。


ツイン・ピークス:ロードハウス

ボックス席にひとりで座り
舞台を見つめる若い女ルビー

イカーらしき男が二人、彼女に近づいてくる。

「人を待ってるの」

二人に席を退かされたルビーは床に座り込む。
四つん這いのまま、少しづつ舞台に近づいていくルビーは何度も叫び声を上げる。
しかし、その声は音楽にかき消される。

今夜のバンドは、The Veils
演奏している曲『Axolotl』はこちら👉The Veils - "Axolotl" (ft. El-P) (Official Music Video) | Pitchfork - YouTube

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バッド・クーパーがフィリップ・ジェフリーズから電話を受けたのは五日前。
《第2話》でバッド・クーパーがダーリャを殺したモーテルでのこと。
ティーヴンとガースティンが森に逃げこんでくるまでの経緯は不明。
オードリーとチャーリーの状況は《第12話》から変化なし。
どうも、このシリーズは時間の進み方がそれぞれの場所で同じではない。
いずれ、それぞれの場所で起きた出来事について、
時系列で整理したいと思ってます。

今エピソードは、演じているキャサリン・コールソンではなく、丸太おばさんことマーガレット・ランターマンに捧げられている。

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⚫︎ツイン・ピークス The Return (全18回)
TWIN PEAKS THE RETURN
監督:デヴィッド・リンチ
脚本:デヴィッド・リンチ,マーク・フロスト
音楽:アンジェロ・バダラメンディ


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ツイン・ピークス シークレット・ヒストリー

ツイン・ピークス シークレット・ヒストリー

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旧バージョン持ってたけど、ブックオフに売ってしまった。。。

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