極私的映画案内

新作、旧作含め極私的オススメ映画をご案内します。時々はおすすめ本も。

今月の読書〜2019年10月〜

10月は、『IQ』や『横道世之介』の続編などもあったのだが、一冊選ぶとすれば、チョン・セラン『フィフティ・ピープル』
昨今充実の韓国文学の中でも評価の高かった今作。
高い評価も納得の面白さでした。


▪️IQ/ジョー・イデ
熊谷千寿訳
早川書房(ハヤカワ・ミステリ文庫)
IQ/Joe Ide/2016
※再読

『IQ2』のための再読。
確かに問題解決の方法が極端に単純だったり享楽的だったりで、ドットソンが非難されるべき場面が少なくないのは認める。
でも、兄マーカス亡き後、心を閉じてほとんど人を信じないアイゼイアにとって彼は友人と言わないまでも、
得難い「相棒」じゃないか?
二人を繋ぐのが過去に犯した罪であったとしても。
ともかく、ドットソンが作るガンボやBLTサンドが恐ろしく美味しそうなので、彼には飲食業界へ進んで欲しい。まずはフードトラックからでも。
しっかし、
地道で着実なのが苦手なのがドットソンなんだよなあ。

IQ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

IQ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

IQ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

IQ (ハヤカワ・ミステリ文庫)


▪️続横道世之介吉田修一
中央公論新社

うっかり留年してしまった横道世之介はバブルの波に乗り遅れあえなく就職浪人。
半ばパチプロのように暮らしている。
側から見れば、人生どん底
ところが、大して悲壮感もないところが流石世之介。
自分は人生の踊り場状態なのに、無事就職したコモロン、寿司職人を目指す浜ちゃん、シングルマザーの桜子さんと息子の亮太君、桜子さんのお兄さん隼人さん、
それぞれの人生の転機に図らずも居合わせ、
そっと寄り添う。
ただ一緒にいてくれるだけでいい、
そんな時そこに居てくれる、
それが世之介という人なのだ。
そして、彼はもういない。

続 横道世之介

続 横道世之介

続 横道世之介

続 横道世之介


▪️ニックス/ネイサン・ヒル
佐々田雅子訳
早川書房
THE NIX/Nathan Hill/2016

幼い頃、父と自分を捨てた母との再会の機会は皮肉な形でやって来た。
何十年も音信不通だった母は、大統領候補である元州知事に砂利を投げつけ逮捕されたのだ。
書けない作家サミュエルは母の半生を書こうと母の元へと向かう。
サミュエルの心の中には家族を捨てた母への恨みもあったが、彼が見つけたのは母の意外な過去だった。
ノルウェーから新天地を目指した祖父、
理想を打ち砕かれた母、ベトナム戦争、9.11、イラク戦争、ファミリーストーリーであると同時にアメリカ近代史。初長編で見事な構成力。
J・アーヴィング絶賛も納得。

ニックス

ニックス

ニックス

ニックス


▪️フィフティ・ピープル/チョン・セラン
斎藤真理子訳
亜紀書房

病院は連続ドラマの舞台の定番だが、
それは、患者達、医師、看護師、それぞれの暮らし、人生がそこに凝縮されるからだろう。
ソウル郊外の病院を舞台に、周辺に生きる人々の群像劇を小説でやってのけたのが、この『フィフティ・ピープル』だ。
一篇が短編として成立しているが、彼のストーリーに彼女が、彼女のストーリーに彼が、という具合に、時には主人公、時には脇役として登場するので、次は誰がどんな形で登場するのか楽しみながら読める。
ラストの収束のさせ方はさながら映画の群像劇のようだった。
各話の主人公の顔のイラストがつくアイディアもナイス!

フィフティ・ピープル (となりの国のものがたり1)

フィフティ・ピープル (となりの国のものがたり1)

フィフティ・ピープル となりの国のものがたり

フィフティ・ピープル となりの国のものがたり


▪️モンスーン/ピョン・ヘヨン
姜信子訳
白水社

最近、お隣の国の小説が沢山読めるようになって嬉しい限りだが、考えれば当たり前なんだかバラエティ豊かな作品が揃っている。
ウサギ好きの人には申し訳ないけど、
個人的にはウサギを見るとちょっとギョッとしてしまう私にとって「ウサギの墓」は薄気味悪かった。
日常的な風景に潜む“魔”みたいなものを書くのが、この人は抜群に上手い。
ハンを押したように変わらない日々の中で少しずつ失われていくもの、ジリジリヒリヒリする思い、うっかり紙で指先を切ってしまった時のような嫌な痛みを感じる。
(収録作品)
⚫︎モンスーン
⚫︎観光バスに乗られますか?
⚫︎ウサギの墓
⚫︎散策
⚫︎同一の昼食
⚫︎クリーム色のソファの部屋
⚫︎カンヅメ工場
⚫︎夜の求愛
⚫︎少年易老

モンスーン (エクス・リブリス)

モンスーン (エクス・リブリス)


▪️レス/アンドリュー・ショーン・グリア
上岡伸雄訳
早川書房
LESS/Andrew Sean Greer/2017

50歳の誕生日を控えた売れない作家でゲイのアーサー。
彼の元に届いたのは15歳年下の元恋人フレディからの結婚式の招待状。
未だ心の傷癒えぬアーサーは式に出席せずに済むようありとあらゆる依頼を受け、海外逃亡を図る。
かつて年上の詩人と長年同棲していた彼なら、フレディが彼に言って欲しかったことが分かってもよさそうなもんだが、アーサーはそこに気付かない。
語り手は誰なのか察しがついたところで、結末は分かってしまうのだが、この先どう年をとっていけばいいのかを考え始める世代にとってアーサーのジタバタは他人事ではない。

レス

レス


▪️IQ2/ジョー・イデ
熊谷千寿訳
早川書房(ハヤカワ・ミステリ文庫)
RIGHTEOUS/Joe Ide/2017

ドッドソンは先ずはフードトラックからでも飲食業に進出すべし!
と前作を再読した際に感想に書いたら、
本当にフードトラックで商売始めてたよ!
著者も考えることは一緒だったようだが、
やっぱり地道な商売には飽き足らないようで、
アイゼイアからの誘いに乗って探偵業に逆戻り。
ドッドソンはどうしてもアイゼイアに自分を認めさせたいのだ。
ところが、今作のアイゼイアは依頼人が兄の恋人で密かに想いを寄せていたサリダだからなのか、
明晰な筈の推理のキレもない。
それにしても、アイゼイア以上に兄の轢逃げ事件の真相に私が納得いかないわ!

IQ2 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

IQ2 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

IQ2 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

IQ2 (ハヤカワ・ミステリ文庫)