極私的映画案内

新作、旧作含め極私的オススメ映画をご案内します。時々はおすすめ本も。

今月の読書 〜2019年1月〜

今月の読書2019年1月分をお届けします。
1月のオススメは、アッティカ・ロック『ブルーバード、ブルーバード』ミランダ・ジュライ『最初の悪い男』


■ブラック・スクリーム/ジェフリー・デーヴァー
池田真紀子訳
文藝春秋
THE BURIAL HOUR/JEFFERY DEAVER/2017

稀代のページターナー、のはずだったのだが、対「私」という意味ではこの新作、その威力も少々弱まったか。
これまでならあっという間読み終わってしまうのだが、今回は思いのほか時間がかかってしまった。
ディーヴァーはいつもタイムリーな社会問題を盛り込むが、今作ではヨーロッパの難民問題を取り上げている。
ということで舞台はイタリア。
執筆がもう少し後なら“キャラバン”が盛り込まれたのかもしれないが、舞台がニューヨークを離れたことも乗り切れなかった理由かも。
森林警備隊エルコレのキャラクターは好きでした。

ブラック・スクリーム

ブラック・スクリーム


みをつくし料理帖 夏天の虹/高田郁
角川春樹事務所(ハルキ文庫)

「料理の道を行く」という自ら下した決断の当然の帰結とはいえ、小野寺との縁談が破談となったことの代償は大きかった。
澪の体調不良、料理番付の降格、小野寺の結婚。
仕方のないこととはいえ、想うひとが別のひとと夫婦となる。これは胸が痛い。
更に、料理人にとっては致命的になりかねない嗅覚の喪失。
シリーズ開始以来、こんなに次々と試練が澪を襲う巻もなかった。
そして、更に大きな喪失。
しかし、この出来事をきっかけに澪の嗅覚が戻るという何という皮肉。辛い。

〈収録作品〉
⚫︎冬の雲雀/滋味重湯
⚫︎忘れ貝/牡蠣の宝船
⚫︎一陽来復/鯛の福探し
⚫︎夏天の虹/哀し柚べし

夏天の虹―みをつくし料理帖 (角川春樹事務所 (時代小説文庫))

夏天の虹―みをつくし料理帖 (角川春樹事務所 (時代小説文庫))


みをつくし料理帖 残月/高田郁
角川春樹事務所(ハルキ文庫)

前巻は喪失に次ぐ喪失の巻だったが、今巻は小野寺の母里津の死や伊佐三おりょう夫婦の引越しなど別れもあれば、澪がふきちゃんに料理を教え始めたり、佐兵衛(捨吉)との再会、柳吾、坂村堂親子の和解、芳が柳吾の後添えに望まれたりと前向きな展開も。
でも、登龍楼の引き抜き話には絶対裏があるはず!

〈収録作品〉
⚫︎残月/かのひとの面影膳
⚫︎彼岸まで/慰め海苔巻
⚫︎みくじは吉/麗し鼈甲珠
⚫︎寒中の麦/心ゆるす葛湯
⚫︎秋麗の客

残月 みをつくし料理帖 (ハルキ文庫)

残月 みをつくし料理帖 (ハルキ文庫)


■トム・ハザードの止まらない時間/マット・ヘイグ
大谷真弓訳
早川書房(新☆ハヤカワ・SFシリーズ)
HOW TO STOP TIME/MATT HAIG/2017

1581年生まれ437歳。
しかし、見た目は40代の壮年男性。
現在ロンドンで歴史教師として暮らしているトム・ハザードは著しくゆっくりと年をとるというアナジェリア(遅老症)を患っている(そもそもこれは病気なのか、それとも特殊能力なのか)。
遅老症であることは隠しているので、普通のスピードで年をとる人たちと人間関係を築くことは難しい。
この設定なら様々な時代を描く事が出来るので、
そこはなかなか面白いが、「今を精一杯生きる」ってそれに気付くのに400年もかかったんかい⁈って突っ込んでいいですか?

トム・ハザードの止まらない時間 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

トム・ハザードの止まらない時間 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)


大統領の陰謀[新版]/ボブ・ウッドワード、カール・バーンスタイン
常盤新平
早川書房(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
ALL THE PRESIDENT'S MEN/Carl Bernstein and Bob Woodward/1974

ロバート・レッドフォードダスティン・ホフマンが二人の記者を演じた映画はだいぶ前に観ていたけれど、『ペンタゴン・ペーパーズ最高機密文書』のラストがウォーターゲート事件だったので、映画を再見したついでに原作となったノンフィクションを手に取る。
原作を読んであらためて感じるのは、元CIA局員達の仕事の杜撰さもさることながら、外交も内政(経済)も好調だったニクソンが再選のために何故こんな汚い手を使ったのかということ。
一度、権力を手にすると、どんなことをしても手放すまいとする人間の愚かさ、権力が人を狂わせる恐ろしさをまざまざと感じさせる。

大統領の陰謀〔新版〕 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

大統領の陰謀〔新版〕 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

アラン・J・パクラ監督による1974年の映画版はこちら👇

大統領の陰謀 [Blu-ray]

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大統領の陰謀』の前日譚ともいえるスティーブン・スピルバーグの『ペンタゴン・ペーパーズ最高機密文書』はこちら👇

ウォーターゲート事件の情報提供者“ディープスロート”ことマーク・フェルト(事件当時FBI副長官)を描いた映画『ザ・シークレット・マン』はこちら👇

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■私はあなたの瞳の林檎/舞城王太郎
講談社

「なんだかあの子が気になって仕方ないけど、この気持ちはなんだろう?」とか「何かを成し遂げたい!何者かになりたい!」とか「生きることに意味はあるのか?」とか、誰でも青春時代の何処かでぶつかった難問。
この難題を乗り越えるキックスターターとは、
すなわち恋。
誰かを好きになったら、グズグズウジウジ考えてたことなんてあっという間に何処かに吹き飛んでしまう、それが恋。
でも、恋が愛に変わるかどうかは、また別の話。

「好きだ好きだ言ってるだけでじゃあどうしたいのかがないなんておかしいよ。付き合いたいがない好きなんて偽物じゃん!」
『私はあなたの瞳の林檎』

「私はこの諦感の中で私の内心の『でも何かを成し遂げたい。何者かになりたいんだー!』っていうのをどうしたらいいんだろう?」
『ほにゃららサラダ』

「生きることも死ぬことも、何もかも、意味をつけてるのは自分よ。もともと全部、意味なんてないんや。」
『僕が乗るべき遠くの列車』

〈収録作品〉
⚫︎私はあなたの瞳の林檎
⚫︎ほにゃららサラダ
⚫︎僕が乗るべき遠くの列車

私はあなたの瞳の林檎

私はあなたの瞳の林檎


■ブルーバード、ブルーバード/アッティカ・ロック
高山真由美訳
早川書房(ハヤカワポケットミステリ)
BLUEBIRD BLUEBIRD/ATTICA ROCKE/2017

テキサス・レンジャーとは、テキサス州公安局に属するアメリカ最古の州法執行機関。
元々は先住民族の襲撃に対抗するするための自警団だったそうだから、この後組織自体がこの地の特殊性だと言える。
主人公は伯父の跡を継ぎテキサス・レンジャーとなったダレン・マシューズ。第1の被害者となったのは、都会から生まれ故郷に戻ってきた男。事件の鍵を握るのは、地元でカフェを営むジェニーヴァ。
町を出て行った者と留まった者。両者の間で事件が起き、この対比がストーリーに奥行きを与えている。

著者のアッティカ・ロックは、ドラマシリーズ『Empire/エンパイア 成功の代償』のプロデューサーとしても名を連ねていた人。
あちらは、ストリートから成り上がって音楽業界のトップに登りつめるライオン家の話だから、この小説の世界とは真逆の世界といってもいいが、どちらも現代を生きるアフリカ系アメリカ人の姿を描くというところでは共通している。

ブルーバード、ブルーバード (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

ブルーバード、ブルーバード (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

テレンス・ハワード、タラジ・P・ヘンソン出演のドラマシリーズ『Empire /エンパイア 成功の代償』はこちら


■最初の悪い男/ミランダ・ジュライ
岸本佐和子役
新潮社(新潮クレスト・ブックス)
THE FIRST BAD MAN/Miranda July/2015

NPO法人〈オープン・パーム〉のベテラン職員43歳独身シェリル・グリックマン。
耳の形が自慢で理事のフィリップにあらぬ妄想を抱き長年“ヒステリー球”に苦しんではいるが、
独自のルールで表面上は平和に暮らす彼女の生活が、
NPO創設者夫婦のひとり娘、足の臭い巨乳女クリーの乱入で風雲急を告げる。
積極的に友だちになりたいかといえば、否だけど、
世界のどこかでシェリルのような人が暴走し躓いて転んで傷だらけになりながら、
それでも立ち上がって生きている。
それを想像すると何だかすごく元気が出ませんか?

「“乳”“貯蔵脂肪”“肉”といった言葉が、たちまち窓を蒸気で曇らせた。脂身の少ない言葉ではこうはいかない。二人でクリーミーな雲に包まれているようだった。」

岸本佐和子さんの訳、最高です。

昔、ものが飲み込みにくくなって、胃薬常用も一向によくならない時期があったけど、あれはきっと“ヒステリー球”だったんだと思う。私の場合、何故良くなったかというと、ハワイ。あちらの空港に降り立った瞬間から(飛行機の中でも胃薬飲んでたのに)スーッと喉元から胃にかけてスッキリ楽になりました。

最初の悪い男 (新潮クレスト・ブックス)

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ミランダ・ジュライの過去作はこちら👇
『あなたを選んでくれるもの』は映画『フューチャー』(ミランダ・ジュライ自身が監督)の原作になっている。
ちなみに、ミランダ・ジュライの夫は映画監督マイク・ミルズ

いちばんここに似合う人 (新潮クレスト・ブックス)

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ミランダ・ジュライの監督作品はこちら👇

君とボクの虹色の世界 [DVD]

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ザ・フューチャー [DVD]

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