極私的映画案内

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誘拐の掟


探偵にうってつけの名前

1991年、アル中の警官マッド・スカダーは、
警官はタダで飲めるバーで銃撃事件に遭遇し、
犯人二人を射殺し一人を負傷させた。
この事件を機にスカダーは酒を絶ち、警察も辞めた。

それから8年。
スカダーは無免許の私立探偵として生計を立てていた。
そんなある日、スカダーは断酒会で知り合った画家崩れのピーターに弟ケニーの話を聞いてやってほしいと頼まれる。
妻キャリーを誘拐され身代金40万ドルを支払ったものの殺されたケニーはスカダーは犯人を探してほしいと依頼するが、ケニーの財産が麻薬取引で成したもので、
彼は警察に頼れないのだと気付いたスカダーは、この依頼を断る。
しかし、アパートの前で待ちぶせをしていたケニーに詳しい事情を聞いたスカダーは事件の調査に乗り出すのだった。
過去の事件について調べていたスカダーは、時々図書館をねぐらにするストリートキッズTJと知り合う。
マイクロフィルムで新聞記事を探すIT音痴スカダーに対し、パソコンであっという間に類似事件の記事を探し出すTJ。
今後も警察に通報出来ない麻薬取引の関係者が狙われると考えたスカダーは、ケニーに友人知人に情報を流すように話す。

そして、事件は再び起きた。

舞台は1999年のニューヨーク。
新世紀の到来を目前にして、「2000年問題」(「Y2K問題」※2000年になるとコンピュータが誤作動する可能性があるとする問題)が世間を賑わせていた頃である。
今では、私立探偵もスマホとパソコンがなければ仕事にならないだろうが、1999年のスカダーは携帯電話も持たず、専ら公衆電話を使っているのをTJにからかわれている。
WTCもまだニューヨークの象徴として存在し、
まさに時代の節目といった時に舞台は設定されている。
原作はローレンス・ブロックの私立探偵マット・スカダーシリーズの『獣たちの墓』(1992)。
脚本も担当している監督スコット・フランクは映像化にあたり時代設定を若干変更しているが、これが奏功。
世紀末の不穏な街の空気とダークなストーリーがとてもよくマッチしている。
マット・スカダーを演じているのは、昨今すっかり“闘う父さん”として知られているリーアム・ニーソン
今作では派手なアクションこそないものの、元警官、元アル中の孤独な探偵を魅力的に演じている。

今作で特筆したいのは、
脇を固めるキャラクターと役者陣の充実ぶりである。
まずは、スカダーの“相棒”となるダンテ・カルペッパーことTJ。
とても賢いが生意気なTJだが、難病を抱え母親に捨てられたストリートキッズだ。
一見逞しく生きている彼も将来に対する不安に押しつぶされそうになることもあるだろう。
スカダーとTJ、孤独が彼ら二人を結びつけたとも言える。

そしてピーターとケニーの兄弟にもまたドラマがある。
湾岸戦争にも参加し、国の英雄だったはずの兄ピーターは帰国後学費のためにケニーとドラッグを売り始めたことからドラッグに溺れた。
一方、弟ケニーは商売もののドラッグには手を出さずビジネスを広げ財産を築いた。
そして実はピーターはケニーの美しい妻キャリーを密かに愛していた。
出来の悪い兄と出来のいい弟という図式は珍しくはないが、今作ではこれがサイドストーリーとして効いているし、悲劇の引き金にもなっている。
そして、重要なのは「悪役」である。
犯人を演じるデヴィッド・ハーバーとアダム・デヴィッド・トンプソンは猟奇的な犯罪を引き起こす犯人の狂気を十分に感じさせた。
モラルに反する趣味を持っていたがために犯人に利用される墓地の管理人ジョナス(オラフル・ダッリ・オラフソン)の弱さも哀しく忘れがたい。
その他、娘を誘拐されるドラッグディーラーユーリ(セバスチャン・ロッシェ)、登場シーンが印象的なその娘ルシア(ダニエル・ローズ・ラッセル)、被害者の婚約者ルーベン(マーク・コンスエロス)、スカダーのアパートの管理人ハウイー(エリック・ネルセン)など登場シーンは少ないものの印象的でしかも映画の世界観を壊さない存在感が絶妙。

原作との違いで言えば、原作ではシリーズを通じてのヒロインとスカダーのラブストーリーが大きな比重を占めているそうだが、映画ではばっさりカットされている。
映画でも当初女性キャラクターは存在しており(原作では男性キャラクター)撮影もされたそうだが、最終的にはすべてカットされたそうで、これは英断だったと思う。

近年アクションスターとして知名度を上げているリーアム・ニーソンだが(実際今作も彼の知名度で大分稼いだとのこと)、
元々は演技派として名を上げた人だし、
年齢も今年で64歳。
迷走しつつある某シリーズよりも、
こちらの続編を製作しシリーズ化してほしいもの。
幸いローレンス・ブロックも今作に対しては好意的で、
続編でもマット・スカダーはリーアム・ニーソンに演じてほしいと語っている。

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●誘拐の掟/A Walk Among the Tombstones
(2014 アメリカ)
監督・脚本:スコット・フランク
原作:ローレンス・ブロック『獣たちの墓』
出演:リーアム・ニーソンダン・スティーヴンス,デヴィッド・ハーバー,ボイド・ホルブルック,ブライアン・“アストロ”・ブラッドリー,ラウラ・ビルン,ダニエル・ローズ・ラッセル,アダム・デヴィッド・トンプソン,エリック・ネルセン,オラフル・ダッリ・オラフソン,マーク・コンスエロス,セバスチャン・ロッシェ,ホイットニー・エイブル,マリエレ・ヘラー

脚本も担当するスコット・フランクは今作が監督としては二作目。
これまでは主に脚本家としてのキャリアを築いてきた。
中には、『ウルヴァリン:SAMURAI』なんていう残念な仕事もあるが、エルモア・レナード作品を脚色した『ゲット・ショーティ』『アウト・オブ・サイト』は好きだった作品。
今後の監督作品も注目していきたい。

マット・スカダー(リーアム・ニーソン)の“相棒”TJを演じたのは、ブライアン・“アストロ”・ブラッドリー。
1996年生まれの今年20歳の彼は「The X Factor USA 」で注目されラッパーとしての顔も持っている。
続編が製作されるなら、彼にも是非とも続投してほしいが、撮影からは約三年。随分大人になってしまったに違いない。


ダウントン・アビー』のマシュー役で人気を得たダン・スティーヴンス。最近は活躍の場を映画にシフトしているようだが、今後も楽しみな英国人俳優の一人。


俳優にとってアル中やヤク中のキャラクターを演じることはチャンスだと思う。
ボイド・ホルブルック。
彼の名前も今作でしっかり覚えました。
ちなみに彼はエリザベス・オルセンの元婚約者。


公式サイトはこちら👉映画『誘拐の掟』オフィシャルサイト


予告編はこちら👉誘拐の掟 - 映画予告編 [ リーアム・ニーソンvs.殺人鬼 ] - YouTube

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