極私的映画案内

新作、旧作含め極私的オススメ映画をご案内します。時々はおすすめ本も。

The Witch /魔女


彼女が覚醒する時

養護施設を思わせるような施設。
血塗れの幼い子どもが廊下に座り込んでいる。
奥の寝室の中央はシートに覆われ、
その周囲には鉄パイプを手にした男たち。
壁や床に飛び散ったおびただしい血痕。
シートの下には子どもたちが?
その時、シートの下で裸足の足がピクッと動く。

「頭をぶち抜きなさい」

男たちの上司らしき女が命令する。

しかし、一人だけ施設から逃げ出した少女がいた。
必死に走った彼女がたどり着いたのは、
ある牧場の敷地のはずれだった。
少女は、牧場の主であるク夫妻に保護され、
彼らの元で暮らすようになる。

それから10年。
ジャヨンと名付けられた少女は、牧場や家事を手伝うかたわら、学業成績も優秀な高校生に成長していた。
しかし、牛の取引価格の暴落で畜産農家は大打撃を受け、ク夫妻の牧場も経営危機に陥り、
牛の飼料代にも困っていた。
しかも、養父は病み上がり、
養母は認知症を発症していた。

そんなある日、ジャヨンは親友のミョンヒからスター発掘番組「スター誕生」について聞かされる。
賞金総額は5億ウォン
ミョンヒは、これで牛の飼料代も養母の治療費も払えるとジャヨンに出場を勧める。
学業だけでなく、歌も絵も得意なジャヨンは地区予選を見事突破する。
喜ぶジャヨンとミョンヒをよそに、養母はジャヨンが予選で特技を披露したのを見て心配する。

「世間は自分たちと違う人を放っておかない」

テレビに映っているのは、マイクを宙に浮かせてみせるジャヨン。
ミョンヒは手品だと信じていたが、
ジャヨンは特殊能力の持ち主だったのだ。
そして、彼女は度重なる頭痛に苦しめられていた。

ソウルで行われる本選へ向かうジャヨンとミョンヒが列車に乗り込むと、前に座った若い男が英語まじりで話しかけてくる。
ジャヨンを知っているらしい男は彼女の名前も知っていた。

「番号で呼ばれるよりははるかにマシだよな」

ジャヨンは、人違いだと目に涙を浮かべる。
薄笑いを浮かべ、席を立った男は連結部分でぶつかってきた男の手首を一瞬で砕き、首を折り、片手で死体をぶら下げると列車の外に放り出した。

ソウルの本選で無事ベスト16に進出したジャヨンだったが、直後に再び頭痛に襲われ鼻血を出してしまう。
養父母には内緒だったが、実はジャヨンは医師に余命2、3ヶ月を宣告され、本当の両親を探し、骨髄移植の手術を受けるようすすめられていたのだった。

ジャヨンとミョンヒがテレビ局の外に出ると、二人の前に黒塗りのセダンとワンボックスカーが止まる
車を降りた男は芸能プロダクションの人間だと名乗り、話がしたいから車に乗るように迫る。
二人は男たちに囲まれてしまうが、とっさにミョンヒがタクシーを止め、事なきを得る。
どう見ても、男たちは芸能プロダクションの人間ではない。

地元駅に到着し、バスを待っているジャヨンの前に一台の車が止まる。
乗っていたのは列車の中で会った男。

「お前の親は年だからすぐ死んでも不審に思われない
急いで帰れ これは忠告だ 幸運を祈る」

しかし、二人が牧場に戻ってみると、養父と警官であるミョンヒの父親が和やかに将棋を指していた。
帰り際、ミョンヒの父親はジャヨンに牧場の前に不審な車が止まっており、乗っていた人間はアメリカ出身らしいが、知り合いかと尋ねる。
気がかりだというミョンヒの父親に
ジャヨンはきっと人違いだと答える。

しかし、ある夜、事態は一転する。
夜中、再び頭痛に襲われたジャヨンの耳に
階下から物音が聞こえる。
慌てて部屋の外に出たジャヨンのこめかみに銃が突きつけられる。
泊まっていたミョンヒの首にはナイフが突きつけられていた。
彼らは、テレビ局の前で二人を取り囲んだ男たちだった。
列車の男同様、彼らもジャヨンを知っているらしい。
知らない、人違いだと言うジャヨンに、
彼女に重傷を負わされたと言うリーダー格の男が人違いだと証明してみろと迫る。
ミョンヒの首筋がナイフで傷つけられた次の瞬間、
ジャヨンは突きつけられていた銃を奪うとあっという間に5人の男の頭を正確に撃ち抜き、
リーダー格の男を壁に追い詰め、顔面を素手で殴りつける

「なぜ私に構うの?
違うと言ったでしょ
何度言えば分かるの?」

「バカなことを抜かすな
だったら今のお前の姿は何だ
この怪物め
あの時息の根を止めるべきだった」

ジャヨンは表情を一切変えずに男の頭を撃ってトドメをさす。


恐ろしく不穏な冒頭が「起」
ごく普通の女子高生ジャユンの生活描写、
養父母のため賞金目当てでスター発掘番組に出演、
ここまでが「承」
襲撃を契機に彼女が覚醒する「転」
この展開が伏線の張りようも含めて素晴らしい。
何気ないシーンが「転」に至って、
パズルのピースが次々とはまるように
俄然違う「絵」を見せる。

そうだったのか!

ドクター・ペクが属し、ジャユンを作り上げた組織、
会社とは、本社とはどんな組織なのか?
何が目的で組織されたのか?
ミスター・チェが会っていた男は誰なのか?
そして、ジャユンの本当の両親は何処に?
様々な謎が明かされていないが、
この「結」の部分は続編に持ち越された。

しかし、最後のあの女、誰よ!?

=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=
●The Witch 魔女/The Witch:Part 1-The Subversion
(2018 韓国)
監督・脚本:パク・フンジョン
撮影:キム・ヨンホ
音楽:モグ
出演:キム・ダミ,チョ・ミンス,チェ・ウシク,パク・ヒスン,コ・ミンシ,ダウン,チェ・ジョンウ,キム・ビョンオク,オ・ミヒ,クォン・テウォン

『TheWitch 魔女』予告編はこちら👉『The Witch/魔女』予告編 - YouTube


監督は潜入捜査官ものの傑作『新しき世界』で男だらけの暑苦しい(←褒めてる)世界を描いたパク・フンジョン
(詳しくはこちら👉新しき世界 - 極私的映画案内
感心したのは、アクションシーンの見せ方が上手くてすごく見やすいこと。
特に、最終版は特殊能力者同士の現実離れしたバトル次から次へと繰り出されるのだが、
テンポよくスタイリッシュなアクションシーンは何度でも繰り返して見たいくらいだ。


「起」「承」「転」のギア・チェンジを担っているのはジャユン役の新星キム・ダミの演技だ。
キム・ダミはク・ジャヨンという女子高生を演じていながら、そのジャヨンは記憶喪失の優等生を演じているのだ。二役演じているのと同じではないか?
それを考えるとこれは相当の難役だ。
観客に馴染みのない新人俳優だからこそ、
何の先入観もなくジャヨンというキャラクターを受け入れられたということもあるかもしれないが、いきなりこういう新人が出てくるとは、韓国映画界恐るべし。
アクションについては相当トレーニングを積んだらしいが、その成果か、終盤のアクションシーンのキレは素晴らしい。
続編では、どんな演技、アクションを見せてくれるのか、今から楽しみである。

現在、24歳のキム・ダミ。美しい!✨


ジャヨンと同じ施設で育ち、ドクター・ペクの指揮下で動いている男クィ・ゴンジャを演じたのは、チェ・ウシク
ジャヨンが施設から逃げ出した時には、彼女の後を追うも捕まってしまった。
彼だって施設から逃げ出したかったのだ。
「俺たちの人生、クソだな」
というセリフにそんな彼の思いが詰まっていた。
大ヒット作『新感染 ファイナル・エクスプレス』では、恋人を守って勇敢にゾンビと闘う野球少年を演じていた。


ジャヨンやゴンジャの生みの親、ドクター・ペクを演じているのは、チョ・ミンス
キム・キドク監督の『嘆きのピエタ』では壮絶な復讐を決行する母親を演じていた。


失敗作だとドクター・ペクから蔑まれる特殊能力者の第1世代ミスター・チェ役はパク・ヒスン
『サスペクト 哀しき容疑者』では、脱北した元特殊部隊員のコン・ユを追いかける軍人役でした。


ジャヨンの親友ミョンヒを演じたコン・ミンシ
ヘビーなストーリーの中で、彼女の明るさは、まさに一服の清涼剤。
歩くところでもスキップしてしまうような等身大の女子高生を体現していた。

ジャヨンの育ての親で元建築家ク先生役のチェ・ジョンウやミョンヒの父親で警察官役のキム・ビョンオク韓国映画やドラマを観ているとよく見かけるお顔。
特に、キム・ビョンオクは怪演が多いので、
この映画でも思わず身構えてしまったが、
普通にいいお父さんでいい警察官でした。
パク・チャヌク監督の『オールド・ボーイ』『親切なクムジャさん』にも出演している。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『The Witch 魔女』はこちら👇

The Witch/魔女 [Blu-ray]

The Witch/魔女 [Blu-ray]

The Witch/魔女 [DVD]

The Witch/魔女 [DVD]

『新しき世界』も三部作の一作目として製作されており、このシリーズも一体どうなっているのか気になるところ
『新しき世界』はこちら👇

新しき世界 [Blu-ray]

新しき世界 [Blu-ray]

新しき世界 [DVD]

新しき世界 [DVD]

新感染 ファイナル・エクスプレス監督ヨン・サンホ)はこちら👇

新感染 ファイナル・エクスプレス [DVD]

新感染 ファイナル・エクスプレス [DVD]

新感染 ファイナル・エクスプレス [Blu-ray]

新感染 ファイナル・エクスプレス [Blu-ray]

『嘆きのピエタ(監督キム・キドク)はこちら👇

嘆きのピエタ [DVD]

嘆きのピエタ [DVD]

『サスペクト 哀しき容疑者』(監督ウォン・シニョン)はこちら👇

オールド・ボーイ(監督パク・チャヌク)はこちら👇

オールド・ボーイ プレミアム・エディション [DVD]

オールド・ボーイ プレミアム・エディション [DVD]