少しだけ勇気を出して話をしよう
アメフトの元クオーターバックの父ジャック、
元卒業生代表の母エミリー、料理番組に感化されてすっかりシェフ志望の妹ノラ。
そんな家族に囲まれてジョージア州アトランタに暮らすサイモン・スピアーは高校卒業を控えた17歳。
幼稚園からの幼馴染、リアとニック、
半年前新しく加わったアビーがいつもの仲間。
ごく普通の高校生活を送るサイモンだが、
ひとつ大きな秘密を抱えていた。
それは、彼がゲイだということ。
このことは、家族にも親友たちにも話していない。
ある日、学校の掲示板に匿名でゲイであることを書き込んだ人物が生徒たちの間で大きな話題になる。
皆の興味は、Blueは誰なのか?
そんな騒ぎをよそに、自分と同じことで悩んでいる生徒がいたことにサイモンはいてもたまらずメールを送る。匿名Jacquesから。
こうして、メールのやり取りが始まり、
二人はあっという間に親しくなっていく。
ところが、ある日、図書室のパソコンでblueとメールのやりとりをしていたサイモンは、たまたま次にそのパソコンを使った演劇クラスで一緒のマーティンにメールの内容を読まれ、ゲイであることを知られてしまう。
同じく演劇クラスで一緒のアビーに想いを寄せているマーティンは秘密を黙っている代わりに、アビーと自分の仲を取り持つようサイモンを脅迫する。
学校内でもゲイをカミングアウトしている生徒はいた。イーサンだ。
イーサンは強気で言い返してはいたが、
一部の男子生徒のからかいの対象になっており、
サイモンは不安だった。
そんなある日、男に騙された叔母さんを慰めに母親が留守になるというブラムがハロウィン・パーティーを開くというので、サイモンは仕方なくマーティンも誘う。
サイモンとリアは、ジョンとヨーコ、
サッカー部のニックはクリスチャーノ・ロナウド、
アビーはワンダーウーマンの衣装でキメてパーティーに繰り出す。
パーティーのホスト、ブラムはハワイで休暇を楽しむオバマ元大統領になっていたが、
その言動から、彼こそがBlueだとサイモンは思い込む。
ところが、ブラムが女の子とイチャつているところを目撃してしまい、サイモンはすっかり落胆してしまう。
リアは泥酔したサイモンを連れ帰り、
そのままスピアー家に泊まる。
酔いも覚めて、素面に戻ったサイモンにリアがつぶやく。
「ひとりの人がずっと好きで辛くてたまらない」
進学や友人関係、そして恋愛。
十代なんて、誰だって何かに悩んでいる。
この映画はよくあるカミングアウトものではない。
ここで問題になっているのは、
自分の意志とは別に、第三者によって同性愛者だということを暴露されてしまうアウティングだ。
もちろん、サイモンだってカミングアウトしたかっただろう。
でも、いつ、どんな形で、誰にカミングアウトするかはサイモンが決めることであって、
誰かに無理に強いられたり、暴露されたりすることではない。
ただ、サイモンが親友たちに距離を置かれてしまったのは、彼がゲイだったことじゃなく、
アビーをデートに誘いたかったニックにアビーには年上の恋人がいると嘘をついたことや、
幼稚園からの仲のリアとニックよりも付き合いの浅いアビーに先にカミングアウトしたことや、
サイモンを思い続けていたリアの気持ちにまったく鈍感だったからだ。
アイデンティティを確立するためには、
自分が何者であるのかを知ることも重要だが、
ありのままの自分を受け入れてくれる誰かが存在することも同じくらい大事なことだ。
いつも一緒にいる家族や親友だからといって
思っていることをすべて話しているわけじゃない。
でも、少しだけ勇気を出して素直になって
話をしてみれば難しく考えていたことも思いの外簡単に解決するかもしれない。
そして、ストーリーを牽引する謎。
Blueとは一体誰なのか?
やっぱり、パーティーのホスト、ブラム?
それとも演劇クラスのカル?
ワッフルハウスでバイトをしているライルなのか?
サイモンの両親役はジョシュ・デュアメル、ジェニファー・ガーナーとネームバリューのある俳優が演じているが、あくまでも脇役に徹しているところに好感が持てる。
それでいて、サイモンの心が揺らいだ時には両親がしっかり支える。
頼りない副校長でさえもこの映画では大人たちがさすがの対応を見せる。
中でも、サイモンやイーサンを嘲笑する生徒に演劇クラスの先生が見せた姿勢には喝采を送りたい。
そう、これは親や先生世代の大人にとっても、お手本になる作品なのだ。
思い起こせば、十代の頃に見えている世界には大人はほとんど存在感しなかった。
彼らの世界を占めている、そのほとんどは友人関係だろう。
その世界の居心地が悪ければ、ほとんど地獄。
そんな感覚を思い出した。
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●Love、サイモン 17歳の告白/Love,Simon
(2018 アメリカ)
監督:グレッグ・バーランティ
脚本:アイザック・アプテイカー
原作:ベッキー・アルバータリ『サイモンvs人類平等化計画』(STAMP BOOKS)
撮影:ジョン・ガレセリアン
音楽:ロブ・シモンセン
出演:ニック・ロビンソン,キャサリン・ラングフォード,アレクサンドラ・シップ,ジョージ・レンデボー,キーナン・ロンズデール,ローガン・ミラー、クラーク・ムーア,ジョーイ・ボラーイ,マイルズ・ハイザー,タリタ・ベイトマン,ナターシャ・ロスウェル,トニー・ヘイル,ジョシュ・デュアメル,ジェニファー・ガーナー
アメリカでは、評価も興収も良かったのに
なんと日本では劇場未公開作品。
今作を多くの人に鑑賞してもらいたいと、
サイモンの母親役ジェニファー・ガーナーほか、ニール・パトリック・ハリス、マット・ボマーらが自費で映画館を貸し切り、無料上映会を開催したそうだ。
日本では漫画の実写化作品が多く製作されているが、
主なターゲットになっているだろう年代の人たちにはこういう作品も観て欲しいし、
身近な問題として考えて欲しいなあと思う。
予告編はこちら👉Love, Simon | Official Trailer 2 [HD] | 20th Century FOX - YouTube
サイモンを演じるのは、ニック・ロビンソン。
ごく普通の高校生活を送りながら、大きな秘密を胸に秘めるサイモンを繊細に演じている。
『ジュラシック・ワールド』で、パークを恐竜から逃げ回る兄弟のお兄ちゃんと言えば、思い出す人も多いかもしれない。
サイモンの幼なじみリアを演じたのは、
キャサリン・ラングフォード。
今後の出演作として期待が高まるのは、
『スターウォーズ/最後のジェダイ』のライアン・ジョンソン監督の『Knives Out 』。
(全米公開2019年11月27日)
ダニエル・クレイグ、クリス・エヴァンス、マイケル・シャノン、アナ・デ・アルマス、トニ・コレット、ジェイミー・リー・カーティスという強力な出演陣。
現代を舞台にしたアガサ・クリスティー風ミステリーとのことだが、どんな作品になっているのか?
詳しくはこちら👉ダニエル・クレイグ主演、ライアン・ジョンソン監督作をライオンズゲートが配給 : 映画ニュース - 映画.com
サイモンの親友の一人で男子にモテモテなアビーを演じたのは、アレクサンドラ・シップ。
彼女の代表作といえば、『X-MEN 』シリーズのストーム役。
現在、『X-MEN:ダーク・フェニックス』が公開中。
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ジェニファー・ガーナーの代表作として推したいのは、『ダラス・バイヤーズクラブ』。
この作品は、男優陣(マシュー・マコノヒー、ジャレッド・レト)の演技が高く評価されたが、彼女の存在感も抜群だった。
詳しくはこちら👉ダラス・バイヤーズクラブ - 極私的映画案内
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