極私的映画案内

新作、旧作含め極私的オススメ映画をご案内します。時々はおすすめ本も。

リリーのすべて

 
f:id:arakazu0125:20160319112130j:image
 

「彼と彼女」と「彼女と彼女」

美術学校で出会ったアイナーとゲルダ
結婚式して6年。
周囲からはそろそろ子どもの誕生も期待されていたが、
二人はお互いを刺激し合いながら、
芸術同士公私とも充実した生活を送っていた。
そんなある日、
ゲルダは来られなくなったモデルの代役を
アイナーに頼む。
シルクのストッキングをはき、
美しいドレスを身体にあててポーズをとるアイナー。
その時彼は、自分の中にひそんでいたもう一人の自分リリーの存在に気付く。
ゲルダは面白半分に化粧をほどこしドレスを着せ、
アイナーの従姉妹リリーと偽って、
彼をパーティーに同伴する。
パーティーで出会ったヘンリクに言い寄られキスされたアイナーは激しく動揺し、
体調を崩してしまう。
 
時は1930年代。
21世紀の今でこそ「性同一性障害」という言葉も広く認知されるようになったが、
当時も身体と心の不一致に人知れず悩んでいた人はもちろんいたのだろうが、
80年前にはそんな言葉すらなかっただろう。
アイナーは女装することで、
自分の中のリリーの存在を無視できなくなるが、
多分それ以前に男性として父親になることを期待されたことで、
より身体と心の違和感を強く意識するようになったのではないかと思う。
 
夫が女装するようになって平気な妻はいないだろうが、
更に複雑なのは、このカップルが芸術家同士だということだ。
先に風景画家として認められていたアイナーに対し、
ゲルダは“リリー”をモデルにした一連のシリーズで肖像画家として認められるようになった。
男性であるアイナーと結婚したゲルダにとって、
リリーの存在を認めることは、
夫アイナーを失うことを意味する。
しかし、自身の画家のキャリアにとってリリーは重要なモチーフなのだ。
この相反する思いの狭間でゲルダは苦悩する。
 
実際のアイナーとゲルダは二人共実は同性愛者であり、
その結婚もカモフラージュではないかということも噂されたそうだ。
リリーが亡くなった時も、
ゲルダはすでにリリーの側にはいなかったという。
しかし、性転換手術という極めてリスクの大きい手術に挑んだリリーの決意をゲルダの存在が支えたことは間違いないだろう。
 
友情だろうが愛情だろうが、
いずれにせよ何らかの情の元にゲルダは人生のパートナーとしてアイナー=リリーを選んだのだ。
 
「目の前で苦しんでいる愛する人を放って置けなかった」
 
つまるところ、ゲルダがリリーを支え続けたのは、そういうストレートで根元的でシンプルな気持ちからだったのではないかと思う。
 
=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=
⚫︎リリーのすべて/THE DANISH GIRL
                                        (2015 イギリス)
原作:デヴィッド・エバーショフ
脚本:ルシンダ・コクソン
撮影:ダニー・コーエン
衣装:パコ・デルガド
 
f:id:arakazu0125:20160319150805j:image
自分の中のもう一人の自分リリーの存在に気付きとまどうアイナーを繊細に演じたエディ・レッドメイン。彼は撫で肩なので女装も美しかったが、アイナー自身男性の格好をしていても、女性が男装しているように見えたという。
 
f:id:arakazu0125:20160319115641j:image
アンナ・カレーニナ』『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』(マッツ・ミケルセンと共演)の好演も記憶に新しいアリシア・ヴィキャンデル
(こちらの勝手な思い込みで失礼だが)意外と控えめなバストが好印象(?)。
ラストのこの表情が良かった!
 
 
f:id:arakazu0125:20160319112255g:image
リリーに言い寄る罪つくりな同性愛者のヘンリク(ベン・ウィショー
 
f:id:arakazu0125:20160319114218j:image
性転換したアイナー(リリー)は最早恋愛対象ではなかったのか友人となるヘンリク。
ベンのベレー帽は微妙。。。
 
f:id:arakazu0125:20160319112322j:image
『君と歩く世界』を観て、この人は売れるだろうなと思ってはいたが、本当に最近の活躍ぶりは凄いマティアス・スーナールツ
過去の出演作をチェックしてみたら、リリーの執刀医を演じたセバスチャン・コッホとはポール・ヴァーホーベンの隠れた傑作『ブラックブック』でも共演していたらしいのだが、全然覚えてない!観返したい!