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極私的映画案内

新作、旧作含め極私的オススメ映画をご案内します。時々はおすすめ本も。

ムーンライト

月の光に少年は青く輝く


1. Little リトル

みんなからはリトルと呼ばれているシャロンは(時間的に不規則そうな勤務状況とユニフォームから察すると)看護師(あるいは看護助手)の母ポーラと二人暮らし。
ポーラは厳しい生活の中で余裕がないせいなのか、
それともドラッグの影響なのか、
シャロンに対して辛く当たることが多い。
蒸発したのか、服役中か、それとも死んだのかは不明だが、父親は不在。
おそらく、シャロン父親の顔さえ知らないのだろう。部屋に写真もない。

いじめられっ子のシャロンは今日も追いかけられて治安の悪い地域の廃屋に逃げ込む。
そんなシャロンに手を差し伸べたのはドラッグディーラーのフアンだった。
シャロンの姿に自らの幼い頃を重ねたフアンは彼を自宅に連れ帰り食事をさせる。
ようやく名前は口にしたものの、どこに住んでいるのかなかなか言おうとしないシャロン
フアンとパートナーのテレサは無理に聞き出そうとはせずにその日はシャロンを家に泊める。
翌朝フアンはシャロンを送っていくが、
居合わせたポーラはシャロンを叱るだけ。
余計なことはするなとフアンに礼を言うことすらしない。
独りでいることが多いシャロンだが唯一の例外はケヴィンだ。
いじめられっ子の彼を気遣ってくれるケヴィンと一緒にいる時だけは子供らしい笑顔を見せるシャロン

ある日フアンが帰宅するとそこにはシャロンの姿があった。
フアンはシャロンに泳ぎを教える。

「じぶんの道は自分で決めろよ。
周りに決めさせるな」

月の光の下で黒人の少年の肌はブルーに輝いて見える。
かつてブルーと呼ばれたフアンは、シャロンにそう告げる。
キューバ系の生い立ち、厳しい家庭環境の中でドラッグディーラーという生き方を選ばざるを得なかったフアンはシャロンには自分と同じような生き方をさせたくはなかったのだ。

しかし、現実にはフアンはシャロンの母ポーラにドラッグを売っている。
「母親だろ?」とポーラを責めるフアン。

「ママに薬を売ってるの?」

シャロンにこう問われたフアンは否定することが出来ない。うなだれるフアンの手をそっと握るテレサ
そっとその場を立ち去るシャロン



2. Sharon シャロン

高校生になったシャロン
相変わらずイジメは続いている。
中でもドレッドヘアのテレムはシャロンの服装や歩き方までやり玉にあげて攻撃する。
鬱々とした学校生活の中で変わらずシャロンに接してくれるのは幼なじみのケヴィンだ。
ガールフレンドとのセックスの話をシャロンに振ってくるが、密かにケヴィンに恋するシャロンは複雑な心境だ。

家に帰っても更に状況は悪化している。
母ポーラはドラッグに溺れ、最早まともに仕事もしていないのか、住んでいる家もワンランク(いやツーランク?)下げ、室内も荒れた様子。
ドラッグが切れイラつくポーラは客が来るから家にいるなとシャロンを追い出す。
そんなシャロンの避難場所は相変わらずフアンの家だった。
テレサは変わらずシャロンを温かく迎える。
しかし、フアンはもうこの世にはいない。
職業柄おそらく殺されたのだろう。

家に帰りたくないくてビーチで独り海を眺めていたシャロンにケヴィンが声をかける。
マリファナを吸った二人はキスを交わす。
ケヴィンの手によってシャロンは射精に導かれる。
ケヴィンに受け容れられたと感じ満たされるシャロン

しかし、思わぬ事件が起きる。
テレムに要求されたケヴィンは断ることが出来ずにシャロンを殴ってしまう。

「倒れたままでいろ!」

祈るようなケヴィンの言葉にも耳を貸さず挑発するように何度殴られてもシャロンは立ち上がる。
立ち上がれなくなったシャロンをテレムと仲間が蹴りつける。
学校のセキュリティが駆けつけテレム達は逃げるが、校長に誰にやられたのか問われてもシャロンは頑としてくちを割らない。
翌日、意を決したような様子のシャロンは教室に入るなり、椅子でテレムを殴る。

警察に連行されるシャロンを見つめるケヴィン。

(これはあくまでも個人的な見方だが、ドレッドヘアのテレムが執拗にシャロン性的志向をイジメの対象にするのは、彼自身の中にも同性愛的志向があったからではないかと思う。
同性愛者をイジメることで、自らはそうではないと強調したいという無意識の行動ではないのか?
どんな人種のあれ、カミングアウトには心理的に高いハードルが存在するが、アフリカ系男性の場合、その共同体の中ではよりマッチョな男性像を求められそのハードルもより高い。
ケヴィンがシャロンに惹かれながらも女の子と関係を持ち、それをひけらかすように喋るのも、
テレムの要求を突っぱねることが出来なかったのも、
その辺りに理由がある気がする。)


3. Black ブラック

大人になったシャロン
マイアミを離れ、アトランタで暮らしている。
今ではブラックと呼ばれる彼に少年時代の面影はない。
鍛え上げられたその身体はまるで筋肉の鎧。
かつてのフアンのように多くの配下を束ねるタフなドラッグディーラーだ。
車のフロントにはフアンと同じオブジェが飾られている。
母ポーラは今では施設に入所し立ち直ろうと努力していた。
そんなある日、あの日以来、会うことも連絡するこちもなかったケヴィンから電話がかかってくる。
番号はテレサから聞いたと言う。
料理人になったというケヴィンは故郷に戻ってきた時には店に寄ってくれ。俺の作った料理を食べさせると言う。
突然の連絡に動揺するシャロン

施設に会いに行ったシャロン
必要な時に十分に愛情を注ぐことが出来なかった母ポーラは告げる。

「お前を愛している」

シャロンはその足で故郷マイアミへ向かう。



実際の映像に色を足して加工したという美しい映像。
3つの章で構成された詩的なストーリーは、
連作の短編小説を思わせる。
それぞれの章の間には描かれない空白の時間がある。
フアンの死の真相、ポーラの転落。
少年院の生活がシャロンをどう変えたのか?
ポーラの施設入所のいきさつ、
ケヴィンの結婚、服役。

「ポーラが、それぞれの間にどんな経験をしたのかを考えなければならなかった。
映画には出てこない部分の彼女についてね。
それぞれの章、彼女はとても変わっているでしょう?
それがどうしてなのか、その間に何があったのかを、
私はわかっていなければいけなかったの。」

ポーラを演じたナオミ・ハリスはインタビューでこう語っているが、映画では描かれなかった空白の時間に何があったのかを想像することは観客にも求められている。
そして、それを想像することでこの物語をより深いものとして受けとめることが出来のだと思う。

マハーシャラ・アリが演じたフアンは最初のパートにしか登場せず、史上最も短い出演時間でオスカーを獲得したことで話題になった。
しかし、彼の“不在”がその後にストーリーにも存在している。
フアンが生きていれば、
シャロンは事件を起こさなかったかもしれないし、
ファンが生きていれば、
シャロンに自分と同じ道は歩ませなかっただろう。
かつてブルーと呼ばれたフアン。
そのブルーが全編の基調になっているように、
彼はこのストーリーにずっと存在している。

全編アフリカ系(あるいはキューバ系)のキャラクターしか登場しないし、主人公は性的マイノリティでもあるが、そういう側面だけでこの映画を観れば本質を見誤るだろうし、何より残念なことだと思う。
マイアミの貧困地域の暮らしや性的マイノリティの人々が自分の置かれた環境といかに違うとはいえ、人間はその距離を想像力で埋めることができるはずだ。
イジメはどんな社会にも存在するし、
自分の居場所が見つからなかったり、
自分の思いを素直に伝えられなかったり、
自分ではどうすることも出来ない力で選ぶ道を狭められてしまったりすることは、
どんな状況、環境に生きていても起きうること。
そして、これは何よりもラブストーリーなのだ。

アトランタからマイアミまで。
映像ではあっという間に到着したように見えたが、
アトランターマイアミ間はざっと980キロ
この距離をたった1本の電話で車を飛ばす!
これが恋でなくて、愛でなくて、何だろう?

シャロンは男性だからケヴィンを愛したのではない。
ケヴィンだから愛したのだ。

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⚫︎ムーンライト/Mionlight
(2016 アメリカ)
監督・脚本:バリー・ジェンキンズ
原案:タレル・アルヴィン・マクレイニー
「In Moonlight Black Boy Look Blue」
撮影:ジェームズ・ラクストン
編集:ナット・サンダース,ジョイ・マクミリオン
美術:ハンナ・ビークラー
音楽:ニコラス・ブリテル
出演:トレヴァンテ・ローズ,アンドレ・ホーランド,アッシュトン・サンダース,ジャハール・ジェローム,アレックス・ヒバート,ジェイデン・ピナール,マハーシャラ・アリ,ジャネール・モネイ,ナオミ・ハリス

シャロンを演じた3人の俳優もケヴィンを演じた3人も正直全然似ていない。
「この子の成長した姿はこれです」という意味では全く説得力のないルックスだが、
見ているうちに3人ともシャロンで、
3人ともケヴィンに見えてくる。
撮影にあたって3人にはそれぞれ他の2人がどう演じたかは見せなかったそうだが、
全く違う外見なのに、
ちゃんとシャロンが、ケヴィンがそこにいた。
シャロンについては同じ目をした俳優をキャスティングしたそうだが、ここはやはりバリー・ジェンキンスの演出の力を褒めるべきだろう。


原作戯曲のタイトルは『In Moonlight Black Boy Look Blue』。
月明かりに黒人少年の肌は青く輝いて見える。
これは、とかく差別の対象となる肌の色は美しいものなんだというアフリカ系の誇りを示すもの。
映画全編を通じてこのブルーが基調色となっている。
衣装、ファンの乗る車、ソファ、シャワーカーテンに至るまで意識的に使われている。



自らの少年時代をシャロンに重ね、庇護者たろうとするドラッグディーラー、フアンを演じたのは、マハーシャラ・アリ
『4400未知からの生還者』では空軍パイロット、『ハウス・オブ・カード 野望の階段』ではエネルギー業界のロビイストと、どちらかと言えばインテリっぽい役柄の印象が強かったが、その歩き方、運転の仕方からドラッグディーラーになりきっていた。


フアンがシャロンに泳ぎを教えるこのシーン。
シャロン役のアレックス・ヒバートはそれまで泳ぎ方を教わったことがなかったそうで(地元マイアミっ子!)、この時が初泳ぎとなったそう。





ビザやスケジュールの問題でたった3日間しか撮影に参加できなかったナオミ・ハリス
その3日間で、異なる年代の母ポーラを演じた。



フアンの妻で彼亡き後もシャロンを温かく見守り続けるテレサを演じるジャネール・モネイはソウル、R&Bのシンガーソングライター。
今作と共にアカデミー賞作品賞にノミネートされた『Hidden Figures』(現時点で日本公開は未定。是非とも公開を!)にも出演している。
ちなみに彼女のヒット曲『Tightrope 』のPVはこちら👉Janelle Monáe - Tightrope [feat. Big Boi] (Video) - YouTube




シャロンを(というよりこの作品全体を)最後に優しく受けとめる大人になったケヴィンを演じたのはアンドレ・ホランド
第1章ではマハーシャラ・アリが、最後の章ではこの人が作品を引き締めていて、マハーシャラ・アリと共に今作の功労者と言えるのではないかと思う。
今作と同じPLAN B(ブラッド・ピット創立)製作の『グローリー/明日への行進』(『Selma』)にも重要な役どころで出演している。



シャロンを演じた3人。
とんだハプニングに見舞われたものの、アカデミー賞では、作品賞、脚色賞、助演男優賞の3部門で受賞。



幸運にもアカデミー賞授賞式前日に試写で鑑賞。
配給のファントム・フィルムさんからは
内容充実の素晴らしいパンフレットまで頂きましたよ♪
興行に協力すべく映画館で二度目の鑑賞。
最初から泣いてた。


公式サイトはこちら👉映画『ムーンライト』公式サイト

予告編はこちら👉アカデミー賞候補作!『ムーンライト』本国予告編 - YouTube


👇登場人物にそっと寄り添うようなオリジナル・スコアも素晴らしかったが、ケヴィンの告白となるBarbara Lewisの『Hello Starsnger』やシャロンがマイアミに戻るシーンで使われていたCaetano Velosoの『Cucurrucucú Paloma』など既成曲の選曲もナイス!
ちなみにCaetano Velosoのこの曲はペドロ・アルモドバルの『トーク・トゥ・ハー』でも使われていた。
ニコラス・ブリテルによるサウンドトラックはこちら

ムーンライト

ムーンライト

👇PLAN B製作でケヴィン役アンドレ・ホランドが出演している『グローリー/明日への行進』のDVDはこちら今作の監督のエヴァ・デュヴァネイは今年『13th』で長編ドキュメンタリー部門でアカデミー賞にノミネートされていた。

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