極私的映画案内

新作、旧作含め極私的オススメ映画をご案内します。時々はおすすめ本も。

ジョン・ウィック


亡き妻の贈り物

凄腕の殺し屋だったジョン・ウィック
彼は運命の女性ヘレンと出会ったことで、
裏社会から足を洗う決意をする。
しかし、穏やかな日々は長くは続かなかった。
病を得たヘレンはジョンを残して旅立ってしまったのだ。
葬儀の日の夜、
絶望したジョンの元に亡き妻からの贈り物が届く。
贈り物は、ビーグル犬のデイジー。

「あなたには愛する人が必要よ」

ヘレンからジョンに届けられのは、
デイジーという名の希望だったのだ。


翌朝、愛車69年式フォードマスタングに乗り込み買い物に出たジョンとデイジーは、
ガソリンスタンドでロシア語を話す柄の悪い若い男に、
マスタングに値をつけろ、いくらで売る?と絡まれる。
「売るつもりはない」とジョンは答えてその場は収まったように見えた。
しかし、その夜例のガソリンスタンドの男と仲間に自宅に押し入られデイジーを殺されマスタングも奪われてしまう。

復讐を決意するジョン。
彼らはジョンからデイジーとの新しい生活を奪っただけでなく、妻の優しい心まで踏みにじったのだ。

ガソリンスタンドの男は、ロシアン・マフィアのボス、ヴィゴ・タラソフの息子ヨセフだった。
ヨセフは奪った車を父親の息のかかった修理工場へ乗り付け、新しいナンバーと登録証を要求する。
すぐに車がジョンのものだと気付いたオーナーのオーレリオはヨセフを非難し殴りつける。
ヴィゴから連絡を受けたオーレリオはヨセフがジョンの車を奪い、飼い犬を殺したことを告げる。

ヴィゴ・タラソフはかつてのジョンのボス。
ある日「辞めたい」と言い出したジョンにヴィゴは実行不可能だとされていた仕事をやり遂げることを引き換えに引退を許した。
ヴィゴはジョンの最後の仕事によって現在の地位を揺るぎないものにしたのだった。
ジョンに和解を持ちかけるヴィゴ。
しかし、ジョンは無言で電話を切る。

たかが車、たかが飼い犬。
他人からはそう見えたとしても、
その人にとっては大きな意味を持つ。
どれほど大切なものかは他人には計り知れない。
ヨセフは彼に残された希望を奪い、
苦労して抜け出した世界に再び彼を引きづりこんだのだ。

過去は消せないのか?
これは宿命なのか?
闇の世界はジョンを何処までも追いかけてくるのか?


本作は、『マトリックス』シリーズ等でスタント・コーディネーターを務めたチャド・スタエルスキの監督デビュー作。
大切なものを奪われた人間が大きな敵に復讐するというプロットは、アクション映画の鉄板。
監督は専門家なので、アクション・シーンが素晴らしいのは当然として、これ皆プロフェッショナルという脇のキャラクター造形が素晴らしく、謂わば使い古されたプロットを新鮮なストーリーにすることに成功している。


本作の成功により、続編製作決定!
ジョン・ウィック チャプター・ツー』は
現在ポスト・プロダクション中。
2017年2月9日全米公開予定とのこと。
なかなかいい面構えの新たな相棒も引き続き登場するようです。

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⚫︎ジョン・ウィック/John Wick
(2014 アメリカ)
監督:チャド・スタエルスキ
脚本:デレク・コルスタッド
出演:キアヌ・リーヴスミカエル・ニクヴィストアルフィー・アレンウィレム・デフォー,ディーン・ウィンタース,エイドリアン・パリッキ,オメル・バルネア,トビー・レナード・ムーア,ダニエル・バーンハード,ブリジット・モイナハンジョン・レグイザモイアン・マクシェーン,ブリジット・リーガン,ランス・レディック,ランダル・ダグ・キム,デヴィッド・パトリック・ケリー,クラーク・ピータース,ケヴィン・ナッシュ


ジョン・ウィックというキャラクターは
キアヌ・リーヴス久々の当たり役といってもいいが、
何よりも
キャスティングのセンスが抜群!!



復讐譚は悪役に迫力がないと面白くならないが、
本作はこの人『M:I ゴースト・プロトコル』の悪役も記憶に新しいミカエル・ニクヴィストがロシアン・マフィアのボス、ヴィゴ・タラソフ。



ジョンの怒りに触れ結果的に彼を裏社会に引きづり戻したヴィゴの息子ヨセフを演じたアルフィー・アレン
トラブルを引き起こす二代目のバカ息子というキャラクターもまた鉄板。
いつもなら父親に認めてもらえない息子に対しては多少なりとも同情してしまうのだが、コイツは自業自得。




殺し屋御用達のホテル・コンチネンタルのオーナーウィンストンのイアン・マクシェーンと支配人シャロンのランス・レディック。
特にイアン・マクシェーンの登場のタイミングがカッコよすぎ!
続編にも登場してくれるでしょう。



ヴィゴの傘下で盗難車を商うオーレリオの
ジョン・レグイザモ
登場シーンはわずかなのに
彼を使うとは何とも贅沢。



ジョンの良き理解者マーカス。
続編にウィレム・デフォーが登場出来ないのは残念無念。


組織の“掃除屋”チャーリーを演じるのは、
デヴィッド・パトリック・ケリー。
最近『ツイン・ピークス』を観直したばかりなので、
あまりにおじいさんになっていたので最初は気付かず。
あれから25年。当然といえば当然か。
続編ではチャーリーの出番もありそうです。



ジョンに差し向けられた殺し屋ミス・パーキンズを演じるのは、エイドリアン・パリッキ。
ドラマ『エージェント・オブ・シールド』でも見事なアクションを披露しています。


公式サイトはこちら👉映画『ジョン・ウィック』オフィシャルサイト
※公式サイトでは、予告編のいろいろなヴァージョンを見ることが出来ます。

予告編はこちら👉キアヌ・リーヴス復活!『ジョン・ウィック』本予告編 - YouTube

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オン・ザ・ハイウェイ その夜 、86分


人生を変える運命の86分

基礎工事が行われている高層ビルの建築現場。
コンクリートの流し込み作業を明日に控えている。
現場監督のアイヴァンは、留守番電話の伝言を聞いて車に乗り込み高速でロンドンに向かう。

伝言は、去年出張先のロンドンで一度だけ一夜を共にしてしまった女性ベッサンからのものだった。
アイヴァンの子供を妊娠したベッサンはその夜予定日から2ヶ月も早く産気づき病院に向かっていたのだ。
一夜の過ちは、子供の誕生という結果となりアイヴァンに責任をとることを迫っていた。
車に乗り込みベッサンの無事を電話で確認するアイヴァン。アイヴァンのほかに頼る人もいないベッサンはとても不安そうだ。
その日息子たちと一緒にサッカーの試合を観ることを約束していたアイヴァンは家にも電話を入れるが、楽しみにしていた息子エディは明らかに落胆している。
子供はいつ産まれるか分からない。
家には帰れない。
翌朝のコンクリートの流し込み作業には立ち会えない。
アイヴァンは作業の監督を任せようと部下のドナルに連絡するが、ヨーロッパで最大規模という大きな工事なだけにドナルは及び腰だ。
そして、今夜帰宅出来ない理由を妻カトリーナには何と告げよう?

とりあえず今夜だけは妻に嘘をつくことも出来ただろう。
しかし、アイヴァンがそれをしないのには亡くなった父親の存在がある。
家族をかえりみなかった父親を反面教師にしてきたアイヴァンはあくまでも“正しいこと”をしようとする。
仕事を放り出し、妻に真実を告げ、
生まれてくる子供に対する責任をとろうとする。


86分のワンシチュエーション・ドラマは空間的にも高速を飛ばす自動車(因みに車種はBMV)の車内に限定され、画面に登場するのはアイヴァン独り。
ストーリーは電話での会話のみで展開する。
わずか8日間で撮影されたというが、
運転中の車内という限られた空間、
電話だけで会話の相手が目の前にいないという手枷足枷のある中で、
犯した過ちに対する責任をとろうとするどこにでもいるような普通の男の運命の86分を体現したトム・ハーディが素晴らしい。
そしてまた声だけでしか登場しないアイヴァン以外の登場人物を演じる俳優陣が、皆巧い。
アイヴァンの一夜の過ちの相手となるベッサンのオリヴィア・コールマンはアイヴァン以外頼る人もいない女の孤独を、アイヴァンの妻カトリーナのルース・ウィルソンは夫の浮気など思ってもみなかった妻の困惑と夫の告白の衝撃を、アイヴァンの息子エディのトム・ホランド父親の不在と母親の涙で予感した家族の崩壊への不安と怯えを、それぞれ感じさせ見事だった。

最後に電話から聞こえてくるのは、
赤ん坊の元気な泣き声。
アイヴァンは仕事や家族を取り戻すことが出来るのだろうか?
“正しいこと”をしたアイヴァンの選択がもたらすのはどんな運命なのか
それは、まだ分からない。

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⚫︎オン・ザ・ハイウェイ その夜86分
/Locke
(2013 イギリス/アメリカ)
監督・脚本:スティーヴン・ナイト
出演:トム・ハーディ,オリヴィア・コールマン,ルース・ウィルソン,アンドリュー・スコット,ベン・ダニエルズ,トム・ホランド,ビル・ミルナー


ジェイソン・ステイサム主演の『ハミングバード』で監督デビューしたスティーヴン・ナイト
デヴィッド・クローネンバーグイースタン・プロミス』、最近ではブラッドリー・クーパー主演の『二つ星の料理人』の脚本家として有名。
ワンシチュエーションというリスクの高い作品に挑戦するのは、いかにも脚本家でもある監督らしい。



トム・ハーディの出演作はかなり観ているのだが、
正直今まであまり“演技派”のイメージがなかった。
でも、今回その認識を新たにさせられました。
極端な役柄を演じることも多いトム・ハーディだが、
最後は本当に優秀な現場監督で二人の息子を持つ父親に見えた。


現場にいられないアイヴァンの代わりにコンクリートの流し込み作業の監督を任されたドナルを演じるのは、
アンドリュー・スコット
日本では、『SHERLOCK』のジム・モリアーティ役で知名度を上げたが、実は舞台での実績が凄い人で、
ローレンス・オリヴィエ賞も受賞している。
ラジオドラマやオーディオブックなど声の仕事も多く、この作品での好演も納得。


予告編はこちら👉車中の男と電話の会話のみで物語が展開!映画『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』予告編 - YouTube

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マン・アップ!60億分の1のサイテーな恋のはじまり


つながる易しさと出会う難しさ

34歳の独身女性ナンシーは、
友人カップルの婚約パーティーに出席するためにホテルに滞在中である。
彼らに
「紹介したい人がいる」
と言われていた彼女は少しナーバスで、
鏡の前で初対面の予行演習中。
もちろん期待がないといえば嘘になるが、
34歳ともなれば、それなりに失望の経験も積み重ね、臆病にもなるというもの。
やっぱり、やめた!
ルームサービスを頼んで、セリフもソラで言えるほどのお気に入り映画『羊たちの沈黙』をひとり鑑賞。
そこに、妹の恋愛ライフを心配する姉エレインから電話がかかってくる。
「私、もういい年なんだよ」
とパーティーを渋るナンシーに
「まだ34歳でしょ」
と叱咤するエレインはナンシーにノートに記した抱負を読み上げさせる。

・冒険する
・勝負する
・脚を鍛える
・自由人になる
・フランス語を習う
・料理する
・中東問題を理解する
・もっと人生を楽しむ

エレインの激励を得てパーティー乗り込んだナンシーだったが、テンパった彼女は下ネタ連発。
相性ぴったりと紹介されたライアンはシスコンで
あえなく撃沈。
ナンシーはまたもや失望の経験も積み重ねてしまう。
すっかり意気消沈した彼女はロンドンに戻る列車で若い女ジェシカと相席になる。
ナンシーとエレインの電話の内容を聞いていた彼女は自分が読んでいた本
『60億人とあなた』
をナンシーに読むように勧める。
貸してあげたいが、デート相手との待ち合わせの目印に使うから貸してあげられないというジェシカ。
しかし、その手の自己啓発本に対し(多分)懐疑的なナンシーは、ジェシカの提案を一蹴する。
やがて、列車は終点に到着。
会話を一方的に終わらせ寝入ってしまったナンシーに
ジェシカは本を押し付けて先に降りてしまっていた。
本には栞代わりに紙ナプキンが挟んであり、
そのページには、
“マイナス思考で人生台なし”の文字。
カッとなってジェシカを追うナンシーだったが、
本を手に偶然待ち合わせ場所を通りかかった彼女はデート相手ジャックにジェシカだと勘違いされてしまう。
一方的に喋りまくるジャックに面喰らうナンシー。
しかし、彼が『羊たちの沈黙』のレクター博士のモノマネをしたことで、ビビッ!
I am waiting for you!
彼女はジェシカのフリをしてジャックとデートすることに。
今夜は両親の結婚四十周年のパーティーでスピーチすることになっているのに!


年齢を重ねるということは、
デート、恋愛、結婚、と人生経験も重ねること。
でも、それはもちろん成功体験だけではない。
ジャックの離婚やナンシーの失恋、散々なデート、
失敗の経験もそれだけ重ねることになるし、
失敗や失望の経験は人を臆病にする。
諦めるのはまだ早い!
試してみなけりゃ分からない!
分かってはいても、経験によって作り上げた理論が、
二の足を踏む言い訳を作ってしまうのだ。

ジャックもまた失敗の経験が心の傷になっている四十男。夫婦で行きつけだったバーにナンシーを連れて行くのもまだ離婚の傷が癒えていない証拠だし、24歳のジェシカとデートしようとしたのも浮気をした妻への当てつけだ。

年をとっても、何度初デートを経験しても、
デートの達人になんてなれない。
初デートは相手次第、相性次第なのだ。
いくらきっと合うはずと紹介されても、
合わないときは合わないし、
まったく共通点のない相手を好きになることもある。
人類はインターネットというツールを得て、
つながることは確かに簡単になった。
でも、本当に自分が自然でいられて楽しい時間を過ごせる相手に出会うことは相変わらず難しいのだ。


デート相手の強奪という一見サイテー出会いをしたナンシーとジャック。
しかし、蓋を開けてみれば、
お互いが、60億分の1の“あなた”
まさに、嘘から出たまこと。
人違い、ストーカーの脅迫と妨害、元妻の出現。
誤解やすれ違いを乗り越え結ばれるラブコメ定番の展開は、
大団円のパーティーへとなだれ込む。
まず、ナンシーとジャックのカップルがチャーミングだし、二人の仲を邪魔だてするストーカー、ショーンのキャラクターが最高!
ナンシーの抱負が、後々の伏線になっているのも楽しい!
ほぼ一晩に設定されテンポ良く展開するストーリーが心地よい良作です。

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●マン・アップ!60億分の1のサイテーな恋のはじまり/Man Up(88分)
(2015年 イギリス/フランス)
監督:ベン・パルマ
脚本:テス・モリス
出演:サイモン・ペッグ,レイク・ベル,ロリー・キニア,ケン・ストット,ハリエット・ウォルター,オリヴィア・ウィリアムズシャロン・ホーガン
※『マン・アップ!恋のロンドン狂騒曲』のタイトルでWOWOWにて放送


盟友ニック・フロストは『カムバック!』でラブコメ出演済みですが、サイモン・ペッグのラブコメは意外にもこれが初出演かも。
相変わらずキュートなサイモン・ペッグですが、
あくまでヒロイン、レイク・ベルを前面に出し、
少し控えめなのが好印象。
トイレでシクシク泣くペッグたん、可愛い❤️



『ミリオンダラー・アーム』でジョン・ハム演じる主人公のスポーツエージェントの借家人で(後の妻となる)ヒロイン役の彼女を見たときから、すごく感じのいい女優さんだなと思っていたレイク・ベル!
今作でも、等身大の30代女性を自然体で体現していてステキ!
よくよく見れば、170センチ超のスラリとした体型のナイスバディ。
映画の中では、サイモン・ペッグ演じるジャックが絵を描きたいと言っていましたが、
レイク・ベルの趣味は絵を描くことだそう。
女優業だけではなく脚本家、監督としても活躍中!



ナンシーの同級生でストーカーのショーン。
何処かで見たなーと思ったら、『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』で、アラン・チューリングの取り調べをする刑事役を演ってました、ロリー・キニア
慰めの報酬』以降の007シリーズにも出演してますね。
出演作を調べてたら、TVドラマ『ナイトメア〜血塗られた秘密〜』の人造人間役は彼だったのか!
今作では、二人の恋の行方の鍵を握る重要人物をコミカルに好演!
振り幅の大きい演技の出来るいい役者さんです。


公式サイトはこちら👉マン・アップ 60億分の1のサイテーな恋のはじまり

予告編はこちら👉「マン・アップ! 60億分の1のサイテーな恋のはじまり」 - YouTube


👇バーでナンシーとジャックがノリノリで踊るのは、
この曲、デュラン・デュランの「THE REFLEX」。
80年代を舞台にした『シング・ストリート』でも大々的にフューチャーされてましたが、もしや今年はデュラン・デュランに再びスポットライトが当たるのか?
24歳のジェシカはこの曲では踊れまい。
「THE REFLEX」はこのアルバムに収録されています。

Seven & The Ragged Tiger

Seven & The Ragged Tiger


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👇ナンシーとジャックがセリフを引用し、ジェシカが『ウルフ・オブ・ウォールストリート』と勘違いしていたマイケル・ダグラスチャーリー・シーン共演の『ウォール街』のBlu-rayはこちら


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スポットライト 世紀のスクープ


ニュースは選べない

2001年夏、
ボストンの地元紙ボストン・グローブ紙は、
マイアミから新しい編集局長、
ユダヤ人のマーティ・バロンを迎える。
他所からやって来た新しい上司に対し、
戦々恐々、疑心暗鬼、
様々な思惑が入り乱れる初めてのミーティングで、
バロンはコラム欄で取り上げられたカトリック教会の神父による児童に対する性的虐待疑惑について更に調査、深く掘り下げるよう命じる。
この任を受けたのは、ウォルター“ロビン”・ロビンソン率いる少数精鋭、極秘調査を基づく特集記事欄を手がける《スポットライト》チームだった。

ボストンという街においてカトリック教会が
人々にとってどういう存在なのか?
地域にどんな影響力を持っているのか?
それを想像することは難しい。
何故なら、カトリック教会に変わるような存在がこの国にはないからだ。
カトリック教会はボストンの経済界、警察、
あらゆるところで大きな力を持っていた。
チームにはあらゆる方面から圧力がかかる。
性的虐待という事件の性質上、
被害者の口も重い。
そんな中、四人の記者は粘り強く調査を続け、
徐々に事実が明らかになっていく。
それは、大勢の神父が同じ罪を犯し、
それを教会が組織ぐるみで隠蔽していたおぞましいものだった。
そして9月。
同時多発テロが発生、記者は総動員され、
チームの調査は一時中断を余儀なくされる。

購読者の半数以上がカトリック信者というグローブ紙。
記事が出た時にどんな影響があるかは計り知れないものがあったはずだ。
それは相当なリスクだったに違いない。
しかし、様々な圧力、同時多発テロ発生にも挫けずに、メンバーは地道な調査を続けようやく記事の掲載にこぎ着ける。


街中で、国内で、世界中で、
毎日様々な事件が起き、新聞社、テレビ局といった報道機関には膨大なニュースが届くはずだ。
しかし、そのニュースがすべて記事になり、
放送されるわけではない。
何を報道するのか?
ニュースは報道機関によって取捨選択されている。
わたしたちはニュースを選べないのだ。


「君の探している文書は、かなり機密性が高いね。
これを記事にした場合、責任は誰がとる?」

判事にこう問われたレゼンデス記者はこう切り返す。

「では、記事にしない場合の責任は?」


記事にしなければ被害者の悲痛な声は届かず、
神父たちの犯罪はカトリック教会による隠蔽工作によって表に出ることなく、闇に葬られただろう。

報道機関にはわたしたちが知るべきニュースを伝える社会的責任がある。
犯罪の隠蔽といった社会の不正や、
投票という義務を果たすために判断材料となるような事実を伝える社会的責任が。


映画を観るという行為には、
様々な側面がある。
アクション映画を観てスカッとストレスを解消したい時もある。
ロマンティックなラブストーリーにウットリしたい時もある。
コメディ映画を観て思いきり笑いたい時もある。
そういうエンターテイメントとしての側面がまず一つ。
そしてもう一つは、
“知らなかった事実を知る”という側面だ。
実際にあったことを知るには、本を読んだり、ニュースを見たり(!)、ドキュメンタリーを見たりという方法もある。
しかし、エンターテイメントの側面も備えた映画という媒体は何よりも分かりやすい。

映画の中で編集部の紅一点ファイファーが、
男性メンバーのひとりと恋愛関係になる構想があった。
しかし、実際のファイファーさんはきっぱり断ったそうだ。
記者たちが地道に真実に迫っていく姿を淡々と追うこの映画は、少し地味に映るかもしれない。
しかし、この映画は“知らなかった事実を知る”ための映画であって、過度にドラマティックな脚色や演出は必要ないのだ。


今、わたしたちは知るべき事実を、
ニュースを本当に知ることが出来ているだろうか?
わたしたちの《スポットライト》チームはあるのだろうか?
わたしたちはニュースを選べない。
出来るのは、それぞれが何を知るべきなのかを考え、
どの報道機関がきちんと仕事をしているのかを
冷静に判断し、
もしもわたしたちの《スポットライト》チームがあるならば、彼らの仕事を評価し、支えることなのではないかと私は思う。


ボストン・グローブ紙記者、マイケル・レゼンデスさんとサーシャ・ファイファーさんのインタビュー記事はこちら👇
(フロントランナー)米紙ボストン・グローブ記者 マイケル・レゼンデスさん、サーシャ・ファイファーさん 調査報道にスポットライトを:朝日新聞デジタル


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⚫︎スポットライト 世紀のスクープ
/Spotlight (2015 アメリカ)
監督:トム・マッカーシー
脚本:ジョシュ・シンガー,トム・マッカーシー
出演:マーク・ラファロマイケル・キートンレイチェル・マクアダムスリーヴ・シュライバージョン・スラッテリー,ブライアン・ダーシー・ジェームズ,スタンリー・トゥッチビリー・クラダップ,ジェイミー・シェリダン,リチャード・ジェンキンズ(声のみの出演)



マイケル・キートンは前年の『バードマン 無知がもたらす予期せぬ奇跡』に続き、出演作がオスカー獲得し、完全復活。
ちなみに、この作品に出演したマーク・ラファロ(『アベンジャーズ』、リーヴ・シュライバー(『X-MEN』)といった俳優陣もマイケル・キートン同様、ヒーロー映画に出演している。


公式サイトはこちら👉映画『スポットライト 世紀のスクープ』公式サイト


予告編はこちら👉映画『スポットライト 世紀のスクープ』予告編 - YouTube


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スポットライト 世紀のスクープ[Blu-ray]

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👇ボストングローブ紙〈スポットライト〉チームによるノンフィクションはこちら

スポットライト 世紀のスクープ カトリック教会の大罪

スポットライト 世紀のスクープ カトリック教会の大罪

ブルックリン

ふたつの故郷

1850年代初頭、
エイリシュ(※1)アイルランドの街エニスコーシー(※2)で母親メアリーと姉ローズと暮らしていた。
一家の大黒柱は、
エイリシュとは少し歳の離れた姉ローズだ。
エイリシュは偏見だらけで意地の悪いミス・ケリーの食料品店で週末だけ働いてはいるが、
この街では他にいい仕事がないのが現実。
エイリシュの将来を考えたローズは、
寂しさをこらえ、彼女を新天地アメリカへ送り出すことにする。

荒れた大西洋の航海を経て、エイリシュの新たな住処となったのはアイルランドからの移民が多く暮らすニューヨーク、ブルックリン。
同郷の女性ばかり暮らす寮の管理人はミセス・キーオ。
勤め先はブルックリンの高級デパートだ。
新たな土地、新しい人々。
新たな環境になかなか馴染めないエイリシュはホームシックにかかり、母親や姉ローズからの手紙を繰り返し読んでは涙にくれていた。
そんなある日、彼女は職場でも突然泣き出してしまう。
心配した上司ミス・フォルティーニは彼女に休憩をとるように言い、身元引受人フラッド神父が呼ばれる。
エイリシュの元を訪れた神父は、
彼女にある提案をする。
夜間の大学で簿記を勉強しないか、と。
試験に合格するという目標が出来た彼女は少しずつブルックリンでの暮らしを楽しむことが出来るようになる。

そんなエイリシュに訪れたのは、
イタリア系の青年トニーとの出会いだった。

(※1原作では、確か“アイリーシュ”と訳されていたのだが、発音を聞くと“エイリシュ”の方が正しいかもしれない。)
(※2アイルランドのエニスコーシーは、原作者コルム・トビーンの出身地)


同じ移民でもアイルランド人は既にコミュニティがしっかりあったということもあるし、
フラッド神父という身元引受人もいたし、
勤め先も確保されていたし、
同郷の女性たちが暮らす寮もあったエイリシュの境遇はとても恵まれたものだった。
飛行機での移動が当たり前で、
電話もメールもスカイプも通信手段もひとつではない現代と比べると、当時のアイルランドとアメリカの距離感はまったく違うものだろう。
しかし、生まれ育った故郷や家族から遠く離れた土地でたったひとりで新たな人生を築こうとする人の心細さや不安な気持ちは、時代は変わっても変わらないもの。
だからこそ、私たちはエイリシュの期待や不安、戸惑いに共感出来る。

トニーとの出会いを経て、ブルックリンという土地に確かに根付きつつあったエイリシュの人生。
しかし、心の支えだった姉ローズの死によって、
彼女の人生にもうひとつの選択肢が現れる。
故郷アイルランド
そして、地元の資産家の息子ジムだ。

アメリカを離れる前に、
エイリシュの選択は既になされた筈だった。
しかし、その時にはまだジムは選択肢ではなかった。
思い込みから敬遠していたジムは実は素晴らしい青年で、地元で職も得られそう。
しかも、母親も暗に彼との結婚を望んでいるとあっては、「この状況がアメリカに行く前だったら」と
エイリシュが悩んだとしても、それは無理もない。
ジムを選べば、母親をひとり残してアメリカに帰らなくてもすむのだ。

一見、エイリシュがトニーの元に戻ることを選ぶのは、ミス・ケリーの意地悪な忠告がきっかけになったように見えるが、彼女は親友ナンシーの結婚式で自分はトニーと結婚したんだということをしっかり思い出したはずだ。
エイリシュの人生は新天地アメリカ、
トニーと共にあることを。
そう、既に選択はなされたのだ。
アメリカに戻る船上で初めてアメリカに渡る少女に見せる彼女の姿は大人の女性のそれだ。
エイリシュはアメリカで
少女から大人の女性へと成長したのだ。

エイリシュはまだ若い。
トニーとの人生の中で時折もうひとつの選択、
故郷アイルランド、そしてビルの面影が胸をよぎることもあるかもしれない。
しかし、どちらを選んだとしても、
彼女はもうひとつの選択を胸に生きていくのだと思う。

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●ブルックリン/Brooklyn
(2015 アイルランド/イギリス/カナダ)
監督:ジョン・クローリー
原作:コルム・トビーン
脚本:ニック・ホーンビィ
撮影:イヴ・べランジェ
衣装:オディール・ディックス=ミロー
出演:シアーシャ・ローナンエモリー・コーエン,ドーナル・グリーソン,ジム・ブロードベンド,ジュリー・ウォルターズ,フィオナ・グラスコット,ジェーン・ブレナン,アイリーン・オイヒギンス,ブリッド・ブレナン,エミリー・ベット・リッカーズ,イヴ・マックリン,ノラ=ジェーン・ヌーン,ジェシカ・パレ

原作を先に読んでから映画を観るとどうしても物足りなさを感じてしまうことが多い。
今作でも脚本のニック・ホーンビィはもちろん原作を端折ってはいるが、それがとても的確だったとみえ、
まったく気にならなかった。
多くの賞に絡む高評価も当然のいい仕事ぶりだ。
ちなみに、最後のシーンは原作にはない。
原作の『ブルックリン』は2009年、
コルム・トビーン54歳の時の作品。
中高年のおじさん作家が若い女の子の心情をこんなに細やかに書けるなんて凄いなと思ったのだが、
コルム・トビーンはゲイをカミングアウトしていて、
その辺りはストレートのおじさん作家とは違うのかもしれない。



原作を読んでいる時からエイリシュにはシアーシャ・ローナンがぴったりだと思ってはいたが、
やっぱり彼女にぴったりだった!
当初エイリシュ役には『キャロル』で同じくデパート・ガールを演じていたルーニー・マーラが考えられていたらしいが、シアーシャで正解。
残念ながら、オスカーはブリー・ラーソンにさらわれたが、彼女が獲ってもおかしくなかった。
少女から大人の女性へ、今の彼女でなければ演じられなかった役だし、これは間違いなく彼女の代表作の一本になるはずだ。



エイリシュを悩ますふたりの男。
トニーを演じるのは、エモリー・コーエン
原作の小柄というトニーの特徴も活かしてくれて嬉しい。

そして、もうひとりジム役は、売れっ子!
ドーナル・グリーソン(父ブレンダン・グリーソンにはあんまり似ていない)。
アンナ・カレーニナ』で観た時から気にはなっていたけど、こんなに売れっ子になるとは!
イケメン過ぎないのが、どんな役でも演じられる理由だと思う。


この時すでにローズは自分の病気を知っていたのかもと思うと切ない。


ミセス・キーオと同居人の面々。
意地悪なようでいて、間違いなくエイリシュの異国での慣れない暮らしの支えになったのが彼女たち。
パスタの食べ方もレッスンしてくれた。


そして、もうひとり忘れられないナイス・キャラがトニーの生意気な弟、フランキー。
こういうあまり出番の多くないキャラクターもみんな魅力的だった。


シアーシャが纏う50年代ファッションも見どころのひとつ。
衣装は、オディール・ディックス=ミロー。
エイリシュがキチンと同じ服を着回しているところがポイント高し。

このビュジュー付きのニットは今着てもお洒落だし、
ギンガムチェックのスカートと合わせているのもキュート!


上はブルックリン、下はアイルランドでの着こなし。
キレイなレモンイエローのワンピース。


このブルーのワンピースも素敵。
白のバッグはレモンイエローのワンピースの時にも持ってます。



上はトニーとコニーアイランドに出掛けた時で、下は地元のビーチにジムやナンシーと出掛けた時。
なぬっ、同じコーデ?と思いきや、地元ではインナーは衿つきのブラウスにかえてましたね。


公式サイトはこちら👉映画『ブルックリン』オフィシャルサイト| 20世紀フォックス ホーム エンターテイメント


予告編はこちら👉シアーシャ・ローナン主演/映画『ブルックリン』予告編 - YouTube


コルム・トビーンの原作『ブルックリン』はこちら👇

ブルックリン (エクス・リブリス)

ブルックリン (エクス・リブリス)


👇『ブルックリン』のBlu-rayはこちら

シング・ストリート 未来へのうた


いつもそばに音楽があった

1985年アイルランド、ダブリン。
両親のロバートとペニー、兄ブレンダン、姉アンと暮らすコナーは14歳。
コナーの部屋には今日も怒鳴りあう声が聞こえてくる。
最近両親はケンカが絶えないのだ。
そんな現実を忘れさせてくれるのは、音楽。
兄ブレンダンと一緒にお気に入りのバンドのミュージック・ビデオを流す番組「トップ・ハンドレッド」を楽しみにしている。
そんなある日、失業した父ロバートは家族を招集、
家計の緊縮を宣言し、
コナーは荒れた公立校へと転校することになってしまう。

転校初日は散々。
早々にガラの悪そうな生徒バリーに因縁をつけられ、
校長には校則で指定されている黒い靴ではなく茶色の靴を履いていたことで一日中靴を脱いで過ごすことを命じられる。
しかし、
そんな暗黒のスクールライフにひと筋の光が射す。
学校の向かいで人待ち顔の少女ラフィーナに一目惚れしたのだ。
聞けば、ラフィーナはコナーよりも一つ年上で学校には行っていないという。
彼女がモデルを目指していると聞いたコナーはまだ組んでもいないバンドのミュージック・ビデオの出演を依頼してしまう!
「彼女にはタチの悪いボーイフレンドがいるらしいよ」
コナーは学校で最初に声をかけてくれたダレンの忠告にも耳をかさず、ダレンをマネージャーに任命、
早速バンドのメンバー集めを始める。

最初に声をかけたのは、
父親がミュージシャンで、
ひと通りの楽器をこなすエイモン。
ダレンとエイモンの人脈でメンバーは無事集まり、
まずはデュラン・デュランのコピーから練習開始!
バンド名は、SYNGE STREET校にちなんで、
SING STREET!
「カバーなんてダサい」と音楽のメンターである兄ブレンダンにいわれたコナーはエイモンと一緒にオリジナル曲を書き始めるのだが。。。



今ではyoutubeで何時でも何処でもお気に入りのバンドのPVを観ることができるが、
80年代はまさにMTV全盛の時代。
コナーとブレンダンが「トップ・ハンドレッド」を楽しみにしていたように、この国でも「ベストヒットUSA」(司会:小林克也)や「ザ・ポッパーズMTV」(司会:ピーター・バラカン)といったMVを流すテレビ番組が数少ない情報源だった。
デペッシュ・モードデュラン・デュランザ・キュアー、a-ha、スパンダー・バレエホール&オーツジョー・ジャクソン
登場するバンドをリアルタイムで聴いている世代は、
曲が流れてくるだけでもう鼻の奥がツンとして涙腺が怪しくなってくる。
記憶は音楽と強く結びついていて、
その頃の曲を聴くだけで、
誰が側にいたのか、どんな場所で聴いたのか
記憶がよみがえってくる。
嬉しい時、楽しい時、落ち込んでる時、憂鬱な時、
いつでも側に音楽があった。
シング・ストリートの面々のように、
好きなバンドのファッションにだってすぐに感化されてしまう誰にでもあった時代。
大人になって初めて分かるけれど、
そういう時代の記憶が自分を作り、
その記憶が自分を支えてくれる。
そんな時は誰にでも必ずやって来る。
監督ジョン・カーニーもきっとそうに違いない。



監督ジョン・カーニーの半自伝的作品ということだが、
彼は「ただ音楽だけの物語にはしたくなかった」という。
その思いが、コナーの初恋の物語にややウェイトが置かれている(と感じる)ことに繋がっているのだろう。
80年代のアイルランド
父親ロバートが失業しコナーが公立校への転校を強いられたように失業率は20%を越え、
不況のドン底だった。
エイモンの父親はリハビリ施設に入所し不在、
本当はいい子のバリーの両親はともに酒浸りで家庭崩壊寸前。
彼等それぞれのドラマを描くことで
「ただ音楽の物語」にはならなかったはずだ。
バンドが形になっていく過程の軽快なテンポや
バンドの面々のキャラクターが
とても魅力的でチャーミングなだけに
彼等のドラマ、「友情の物語」をもっと観たかった、
というのが少しだけ残念なところ。



バンドのメンバーはみんなかわいくて、
ひとりひとりの髪をくしゃくしゃにしてハグしたいくらいだが、
中でもお気に入りは、ウサギを愛する少年エイモン。
演じているMark McKennaの父親はエイモンの父親と同様ミュージシャンで名前はなんと“エイモン”。
この映画は、ジョン・カーニーの物語であるとともに“エイモン”の物語であるのかもしれない。


最後に、最近読んだ『ハーレムの闘う本屋』(ヴォーンダ・ルイス・ミショー著。今年の高校生向けの課題図書になっている)という本の中に登場するラングドン・ヒューズの詩がこの映画にぴったりなので、紹介したい。


夢の番人/ラングドン・ヒューズ

夢見る者たちよ、
きみらの夢を残らずここへ持ってこい
きみらの心の旋律を残らずここへ持ってこい
そしたら、
それを青い雲の薄衣で包んであげよう
世間のあまりにがさついた指からわたしが守ってあげよう


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⚫︎シング・ストリート 未来へのうた
/Sing Street
(2015 アイルランド/イギリス/アメリカ)
監督・原案・脚本:ジョン・カーニー
原案:サイモン・カーモディ
歌曲:ゲイリー・クラーク,ジョン・カーニー
音楽監修:ベッキーベンサム
主題歌:アダム・レヴィーン『GO NOW』
出演:フェルディア・ウォルシュ=ピーロ,ルーシー・ボーイトン,マリア・ドイル・ケネディエイダン・ギレン,ジャック・レイナー,ケリー・ソーントン,
Ben Carolan,Mark McKenna,Percy Chamburuka,Conor Hamilton,Karl Rice,Ian Kenny,Don Wycherley,Lydia McGuinness


ルーシー・ボーイトン演じるラフィーナのファッションは明らかに80年代の“マドンナ”。



コナーのお母さんペニー役のマリア・ドイル・ケネディは“バンドやろうぜ!”ムービー、マイ・オールタイム・ベストの『ザ・コミットメンツ』(1991年)でバンドのコーラス、ナタリーを演じてました。
時の流れを感じます。。。


公式サイトはこちら👉映画『シング・ストリート 未来へのうた』公式サイト

予告編はこちら👉『シング・ストリート 未来へのうた』予告編 - YouTube


👇『シング・ストリート 未来へのうた』Blu-rayはこちら


👇80年代ヒットチューンの他、
80年代テイストも絶妙なシング・ストリートのオリジナル曲もゴキゲンなサウンドトラックはこちら

シング・ストリート 未来へのうた

シング・ストリート 未来へのうた


👇ジョン・カーニー長編デビュー作『ONCE ダブリンの街角で』はこちら
公開当時、来日した主演の二人、グレン・ハンサードとマルケタ・イルグロバが「筑紫哲也のニュース23」で披露したパフォーマンスは今でも覚えてます。

👇“バンドやろうぜ!”ムービー、オールタイム・ベストマリア・ドイル・ケネディも出演している『ザ・コミットメンツ』のDVDはこちら

ザ・コミットメンツ [DVD]

ザ・コミットメンツ [DVD]

👇1939年、黒人が書いた、黒人に関する、黒人にとって意義ある本を扱う本屋「ナショナル・メモリアル・アフリカン・ブックストア」をたった5冊の本と100ドルの資金で開店。こつこつと扱う本を増やし、人々を啓蒙し、40年近くに渡り黒人社会に貢献し続けたルイス・ミショーの生涯を辿る『ハーレムの闘う本屋』はこちら

ハーレムの闘う本屋

ハーレムの闘う本屋

ホドロフスキーのDUNE


幻のSF大作の遺産

What is to give light must endure burning.
世界を照らす者は、己の身を焼かねばならない。
ーヴィクトール・E・フランクル

人生の目的(ゴール)とは何なのか?
自分を魂として昇華させること。
私にとって映画は芸術だ。
ビジネスである前にね。
絵画や小説や詩と同じように
人間の魂を深く探究する。
それが映画だ。
私が作りたかった映画。
それはあの頃LSDをやっていた人々が
ドラッグと同じ感覚をトリップせずに見られる。
人々はLSDをやらなくてもあの高揚感を味わえる。
人間の心の在り方を変える映画だ。
デューン」に対する私の情熱は果てしなく
預言書を作ろうと考えた。
私は預言書を作って
世界中の人々の意識を根本から変えたい。
私にとって「デューン」とは神の降臨だ。
芸術と映画の神の降臨だ。
ただ映画を作るだけでなく
はるかに深遠なものだ。
私が作りたかったのはとても神聖で自由で
新しい視点から精神を解放させるものだ。
自分は閉じ込められている。
そう感じていたからだ。
自我と知性を解き放ちたかった。
デューン」を作る闘いが始まった。


『エル・トポ』(1970)、『ホーリー・マウンテン』(1973)が世界中でカルト的人気を集めたアレハンドロ・ホドロフスキーは、1974年、プロデューサーのミシェル・セドゥーと共にフランク・ハーバートのSF小説『デューン 砂の惑星』の製作に取り掛かった。
脚本を完成させたホドロフスキーは、映画に携わるチームのメンバー「戦士」探しを開始した。
才能を集める天才ホドロフスキーが最初に白羽の矢を立てたのは、バンド・デシネ作家のジャン・ジローメビウスだった。
ホドロフスキーは彼を“私のカメラ”と呼び、
絵コンテが任せられた。

この「戦士」集めの過程では、
不思議な力が働いていた。
メビウスを探していると
偶然エージェントのオフィスに本人がいたり、
当時ハリウッドで特殊効果の第一人者ダグラス・トランブル(※1)に「君とは仕事できない!」と啖呵をきった後で偶然入った小さな映画館(※2)でダン・オバノンを見出したり、
招待されたパーティーで役をオファーしたいと考えていたミック・ジャガーが向こうから歩いてきたり、
まるで『七人の侍』か『ロード・オブ・ザ・リング』みたいでワクワクしてくる。
(※1『2001年宇宙の旅』の特殊効果で有名。ホドロフスキーとの面会中に40回も電話を受けた!)
(※2上映していたのは監督ジョン・カーペンターダーク・スター』1974年)

「戦士になる準備をしろ」
と父に言われ、当時12歳のホドロフスキーの息子ブロンティスは、レト侯爵の息子ポールを演じるために2年間毎日6時間の訓練で、空手、日本の柔術、素手、ナイフ、剣、あらゆる戦い方を学んだ。
幼いブロンティスにとっては辛い訓練だっただろうが、世界を変えるような映画を作るためには、
自らの腕を切ることさえ厭わない、
そういう覚悟がホドロフスキーにはあったのだ。

ホテルのホドロフスキーを訪ねてきて、
部屋に置いてあったビタミンEをその場で全部飲んでしまったレト侯爵のデヴィッド・キャラダイン
タロット本の“吊られた男”のページに書かれた「一緒に映画を作りたい」の言葉で口説かれ、
ハリウッドで一番高いギャラを要求した銀河王国皇帝サルバドール・ダリ
お気に入りのレストランのシェフを雇うことを条件に映画に出ることを承諾したオーソン・ウェルズなど、
出来過ぎと思うようなエピソードが次々に明かされる。

そして、ダリから見せられたのが、
のちに『エイリアン』のデザイナーとしてその名を知られることになるH・R・ギーガーの作品集だった。

監督のホドロフスキーをはじめ、メビウス、クリス・フォス、ダン・オバノン、H・R・ギーガー、ピンク・フロイドデヴィッド・キャラダインサルバドール・ダリミック・ジャガーオーソン・ウェルズウド・キア、そして「戦士」となるべく2年間の訓練を積んだホドロフスキーの息子ブロンティス、錚々たるメンバーが集められ、後世に残る傑作が誕生するはずだった。
しかし、映画はワンカットも撮影されることなく製作中止となった。

このドキュメンタリーを観ていて驚くのは、
まったくネガティブな印象がないことだ。
デューン』について語るホドロフスキーは実に精力的だし楽しそうで、まるでこれから取り掛かる新作について語っているかのようだ。
彼は今もまだ『デューン』に対する情熱は失っていないのだ。
一度だけ彼の表情が曇るのは、
デューン』の実現を許さなかったハリウッド式の製作システムについて語った時だ。
彼が言うように、映画製作には
心、精神、無限の力、大きな志が必要だ。
しかし、一方で予算を回収できなければ、
映画会社は映画を作り続けることができない。
その間でどうバランスをとるのか?
今も昔もその狭間で映画製作者は苦闘しているのだろう。

その後、ダン・オバノンはH・R・ギーガーと共に『エイリアン』(原案・脚本ダン・オバノン)を作り、ホドロフスキーとそのチームが創造した世界観やヴィジュアルイメージは多くの作品(※3)に受け継がれた。
幻の大作『デューン』は、“遺産”という形で生かされたのだ。
(※3『スター・ウォーズ』『ターミネーター』『フラッシュ・ゴードン』『レイダース失われた聖櫃アーク』『マスターズ 超空の覇者』『コンタクト』『プロメテウス』など)

それでも、
やっぱり、
ホドロフスキーの『デューン』が観たかった!

多分、これがこのドキュメンタリーを観た人の共通した思いではないだろうか?

実のところ、私はこれまでに新作『リアリティのダンス』(※4)を観ただけで、(ホドロフスキーの名前や作品のタイトルは知ってはいたが)他のホドロフスキー作品は観たことがなかった。
フランク・ハーバートの原作も読んだことがない。
しかし、
メビウスの絵コンテやフォスやギーガーによるビジュアルイメージ、絵コンテを使ったアニメーション、
そして何よりホドロフスキーの情熱的な語りによって大いに想像力をかきたてられた。
(※4『デューン』が頓挫した後映画から離れていたホドロフスキーは、本作をきっかけにミシェル・セドゥーと再会。『リアリティのダンス』を製作した。ちなみにミシェル・セドゥーは女優レア・セドゥーの大叔父にあたる。)

実に皮肉な話ではあるが、
「幻の傑作」が「幻」になるまでの顛末、
これが滅法面白く、感動的なのだ。




ニコラス・ウィンディング・レフンホドロフスキーのパリの自宅で見せられた「デューン」の本。絵コンテやキャラクター、宇宙船、衣装のデザインなどが収められている。


クリス・フォスによる「海賊の宇宙船」
海の底で擬態する魚のイメージ。



H・R・ギーガーがデザインしたハルコンネン城


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⚫︎ホドロフスキーのDUNE
監督:フランク・パヴィッチ
出演:アレハンドロ・ホドロフスキー,ミシェル・セドゥー,H・R・ギーガー,クリス・フォス,ブロンティス・ホドロフスキー,リチャード・スタンリー,デヴァン・ファラシ,ドリュー・マクウィーニー,ゲイリー・カーツニコラス・ウィンディング・レフンダン・オバノン,クリスチャン・ヴァンデ,ジャン=ピエール・ヴィグナウ


ホドロフスキーと飼猫のフロール。
才能を集める天才ホドロフスキー
“ひとたらし”だと思う。

後にデヴィッド・リンチによって実現した『デューン砂の惑星』。
リンチの才能を信じていたホドロフスキーは観る気はなかったが、息子ブロンティスに「本物の戦士なら観に行くべきだ」諭され、いやいや観に行った。
その時のエピソードがとても正直で人間くさくチャーミングだった。



公式サイトはこちら👉映画『ホドロフスキーのDUNE』公式サイト


予告編はこちら👉映画『ホドロフスキーのDUNE』予告編 - YouTube


👇『ホドロフスキーのDUNE』Blu-rayはこちら

👇本編中、書斎の本棚に日本語版がチラッと映るアレハンドロ・ホドロフスキーの自伝『リアリティのダンス』はこちら