極私的映画案内

新作、旧作含め極私的オススメ映画をご案内します。時々はおすすめ本も。

ディス・イズ・ジ・エンド 俺たちハリウッドスターの最凶最期の日

 
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俺たちみんなセスが好き!
 
LAの空港で人待ち顔の俳優のセス・ローゲン
久し振りに一緒に過ごそうとやって来るカナダ時代からの盟友ジェイ・バルチェルを待っているのだ。
久々の再会を喜ぶ二人だったが、
実はここ最近二人は少し疎遠になっていた。
LAの暮らしにすっかり馴染んでいるセスに対して、
ジェイはハリウッド文化もLA人種も苦手。
しかし、彼をもてなそうといろいろ準備したセスの気持ちにジェイも感激。
ハンバーガー食べて、マリファナ吸って、
3Dでゲームして、すっかりくつろぐ二人だったが、
セスはジェイムズ・フランコの自宅の新築パーティーに行こうと言う。
渋るジェイに、絶対に独りきりにはしないからとセスは約束しなんとか説得する。
 
フランコのパーティーには、ジョナ・ヒル、マイケル・セナ、エマ・ワトソン、リアーナ、クレイグ・トンプソン、ジェイソン・シーゲル、クリストファー・ミンツ=プラッセなどスクリーンでお馴染みのスターが大勢集まっていた。
渋々同行したものの、やはり場の雰囲気に馴染めないというジェイとセスは近所のコンビニに。
ところが、商品を見て回っていると突然の大きな揺れ!
地震か?
店がメチャクチャに壊れ騒然とする中ジェイが見たのは、上から差す青い光によって上空に吸い込まれていく人々の姿だった。
とにもかくにもフランコ邸に戻ると、
家の前には大きな陥没穴が出現しており、
慌てて飛び出してきたパーティー客を次々と飲み込んでいった。
家の中に戻るよう客に呼びかけるフランコ
しかし、残ったのは、セスとジェイ、ジョナとクレイグの四人だけだった。
こういう時には先ずスターが救出されるはずだと主張するジョナの言葉にとりあえず家の中で救出を待つことにした四人。
外は陥没穴だらけでそこら中で火災が起き、
まさに
THIS IS THE END、
世界の終わり、
審判の日がやって来た という状況。
家の損壊部分を補修、残りの食糧を確認し、
しばらくはこれでしのげると落ち着いたのもつかの間、
パーティーに招待されていなかったダニー・マクブライドがフランコ邸に忍び込んでおり、
食糧を食い荒らして大暴れ!
それでも彼らは救出を疑いもせず、
ハイになって、『スモーキング・ハイ』(セス・ローゲンジェイムズ・フランコ、ダニー・マクブライドのの共演作)の続編を自主制作したりと、
いまひとつ緊張感に欠ける…。
彼らにはどんな最後の審判が下るのだろうか?
 
今作の特徴は何と言っても俳優が全員実名で出演していることだ。
とはいうものの、ダニー・マクブライド(👈暴れん坊)のように出演作そのままのイメージのキャラクターもいれば、今までの出演作からは想像出来ないようなゲスなキャラクターを演じているマイケル・セナもいる(マイケル・セナは今までと全く違うキャラクターを演じられてとても喜んでいたそうである)。
エマ・ワトソンは聡明で勇ましく、
ジョナ・ヒルは、何かと『マネーボール』でオスカー候補になったことをひけらかして嫌味で、
セスとジェイの仲良しぶりが気に入らない。
フランコはとにかくセス・ローゲンラブ💕を隠そうともせずあからさまな特別扱いで、
おいおい、みんなでセスの取り合いか⁉︎
 
という具合に、虚実入り混じるキャラクター設定やセリフのやり取りが実に楽しい。
また、映画ファンにとっては、キャストの共演作を思い起こしたり、
エクソシスト』をはじめ映画のパロディを見つける楽しみもある。
バカバカしいと言われれば、
はい、その通りですと言うしかないのだが、
映画の作りとしてはなかなかしっかりしていて、
BACKSTREET BOYS の「EVERYBODY 」やBRONDIE の「RAPTURE」など音楽も使った伏線の張り方も終盤の回収もなかなか巧みなのである。
 
監督のエヴァン・ゴールドバーグは撮影中に出来るだけ多くのキャストの名前を挙げるゲームをやっていたらしい(ちなみに強かったのはセス・ローゲンとジェイムズ・フランコだったそう)。
セリフのあるなしを含めかなりのキャストが出演しているが、これもセス・ローゲンエヴァン・ゴールドバーグ)の人徳だろう。
アメリカコメディ界の人脈の一端に触れるという意味でも面白い一本になっていると思う。
 
なにしろ、今作は北米では興行収入1億ドルを越える大ヒット作である。
しかしながら、日本では劇場未公開。
アメリカコメディの日本での公開状況はかくも厳しいのだ。
 
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⚫︎ディス・イズ・ジ・エンド 俺たちハリウッドスター最凶最期の日/THIS IS THE END 
(2013 アメリカ)
監督・脚本:セス・ローゲンエヴァン・ゴールドバーグ
出演:セス・ローゲンジェイ・バルチェルジェームズ・フランコジョナ・ヒル,クレイグ・ロビンソン、ダニー・マクブライト,マイケル・セナ,エマ・ワトソンほか
 
ジェイムズ・フランコのご近所にチャニング・テイタムが住んでいるという設定になっていて、本人も強烈なキャラクターでカメオ出演しているのだが、セス・ローゲンのメールでの出演依頼に速攻で快諾したらしい。
チャニングったら、なんてナイス・ガイ!
 
 
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とにかく、みんなメチャクチャ楽しそう ♪
 
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ジョナ・ヒルの腕まくらで寝るセスとジェイ❤️
 
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登場シーンの内股走りが気になる左端の
 
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リアーナにぶっ飛ばされるゲスなマイケル・セナ。
 
 
 
 

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リリーのすべて

 
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「彼と彼女」と「彼女と彼女」

美術学校で出会ったアイナーとゲルダ
結婚式して6年。
周囲からはそろそろ子どもの誕生も期待されていたが、
二人はお互いを刺激し合いながら、
芸術同士公私とも充実した生活を送っていた。
そんなある日、
ゲルダは来られなくなったモデルの代役を
アイナーに頼む。
シルクのストッキングをはき、
美しいドレスを身体にあててポーズをとるアイナー。
その時彼は、自分の中にひそんでいたもう一人の自分リリーの存在に気付く。
ゲルダは面白半分に化粧をほどこしドレスを着せ、
アイナーの従姉妹リリーと偽って、
彼をパーティーに同伴する。
パーティーで出会ったヘンリクに言い寄られキスされたアイナーは激しく動揺し、
体調を崩してしまう。
 
時は1930年代。
21世紀の今でこそ「性同一性障害」という言葉も広く認知されるようになったが、
当時も身体と心の不一致に人知れず悩んでいた人はもちろんいたのだろうが、
80年前にはそんな言葉すらなかっただろう。
アイナーは女装することで、
自分の中のリリーの存在を無視できなくなるが、
多分それ以前に男性として父親になることを期待されたことで、
より身体と心の違和感を強く意識するようになったのではないかと思う。
 
夫が女装するようになって平気な妻はいないだろうが、
更に複雑なのは、このカップルが芸術家同士だということだ。
先に風景画家として認められていたアイナーに対し、
ゲルダは“リリー”をモデルにした一連のシリーズで肖像画家として認められるようになった。
男性であるアイナーと結婚したゲルダにとって、
リリーの存在を認めることは、
夫アイナーを失うことを意味する。
しかし、自身の画家のキャリアにとってリリーは重要なモチーフなのだ。
この相反する思いの狭間でゲルダは苦悩する。
 
実際のアイナーとゲルダは二人共実は同性愛者であり、
その結婚もカモフラージュではないかということも噂されたそうだ。
リリーが亡くなった時も、
ゲルダはすでにリリーの側にはいなかったという。
しかし、性転換手術という極めてリスクの大きい手術に挑んだリリーの決意をゲルダの存在が支えたことは間違いないだろう。
 
友情だろうが愛情だろうが、
いずれにせよ何らかの情の元にゲルダは人生のパートナーとしてアイナー=リリーを選んだのだ。
 
「目の前で苦しんでいる愛する人を放って置けなかった」
 
つまるところ、ゲルダがリリーを支え続けたのは、そういうストレートで根元的でシンプルな気持ちからだったのではないかと思う。
 
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⚫︎リリーのすべて/THE DANISH GIRL
                                        (2015 イギリス)
原作:デヴィッド・エバーショフ
脚本:ルシンダ・コクソン
撮影:ダニー・コーエン
衣装:パコ・デルガド
 
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自分の中のもう一人の自分リリーの存在に気付きとまどうアイナーを繊細に演じたエディ・レッドメイン。彼は撫で肩なので女装も美しかったが、アイナー自身男性の格好をしていても、女性が男装しているように見えたという。
 
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アンナ・カレーニナ』『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』(マッツ・ミケルセンと共演)の好演も記憶に新しいアリシア・ヴィキャンデル
(こちらの勝手な思い込みで失礼だが)意外と控えめなバストが好印象(?)。
ラストのこの表情が良かった!
 
 
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リリーに言い寄る罪つくりな同性愛者のヘンリク(ベン・ウィショー
 
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性転換したアイナー(リリー)は最早恋愛対象ではなかったのか友人となるヘンリク。
ベンのベレー帽は微妙。。。
 
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『君と歩く世界』を観て、この人は売れるだろうなと思ってはいたが、本当に最近の活躍ぶりは凄いマティアス・スーナールツ
過去の出演作をチェックしてみたら、リリーの執刀医を演じたセバスチャン・コッホとはポール・ヴァーホーベンの隠れた傑作『ブラックブック』でも共演していたらしいのだが、全然覚えてない!観返したい!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

キャロル

 
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そして二人は再び出会う

 
1952年ニューヨーク。
クリスマスを間近に控えたマンハッタンの高級百貨店はクリスマスの贈り物を選ぶ客で混雑していた。
おもちゃ売り場で働くテレーズは、娘の贈り物を探しに百貨店を訪れていた美しくエレガントなキャロルの姿から目が離せなくなる。
しかし、ふと視線を外した瞬間彼女の姿は見えなくなる。テレーズは彼女の姿を探すがもうその姿は見えない。テレーズが諦めて探すのをやめると次の瞬間キャロルが目の前に現れ、テレーズはどぎまぎしてしまう。
二人は一緒にプレゼントを選び配送の手配を済ませるが、キャロルは手袋を忘れたまま帰宅してしまう。
テレーズが直ぐに手袋を郵送すると、キャロルからお礼にランチに誘われる。
こうして二人の付き合いがはじまる。
 
テレーズには一応恋人のリチャードがおり、彼からはヨーロッパ旅行に誘われているが、テレーズはまだその返事を濁したまま。
一方、キャロルは何不自由なく暮らす主婦だが、夫との間にはすでに愛情はなく、何よりも彼女は女性を愛する女性だった。
しかし、夫は彼女の性的指向を知りつつも、世間体を大事にするあまり結婚生活を続けることもよしとする人だったのだ。
 
ラブストーリーはそれがフィクションだとわかっていても、観る人に「本当に好きなんだなあ」と思わせてくれるストーリーがいいラブストーリーだと、個人的にはそう思っている。
一目合ったその瞬間から、その人から目が離せなくなる。外したはずの視線も、またその姿を追ってしまう。
テレーズとキャロルの間に起こったその瞬間は、まさに「恋に落ちた瞬間」。
それは間違いないだろう。
しかし、その後二人の付き合いが深まっていく中で、
私にはどうしても二人の姿に、
「本当に好きなんだなあ」とは感じられなかったのだ。
 
テレーズは写真を撮ることが好きだが、
それは趣味なのか?
それとも職業にしたいのか?
自分は男性を愛するのか?
女性を愛するのか?
どう生きて生きたいのか?
すべてが宙ぶらりんの状態だ。
キャロルはこれ以上夫と夫婦としてやっていけないことはわかっているが、娘を失うかもしれないというリスクを負ってまで、夫の元、安穏な生活から飛び出すことに躊躇し迷っている。
50年代前半という時代を考えれば、女性がカメラマンとして生きていくこと、同性愛者として生きていくこと、娘を置いて離婚すること、
これらを選択することはとても高いハードルだったに違いない。
しかし、二人は関係を深めていく中で、
この先どう生きていくのか?ということに否応なく向かい合い、そして決断する。
いわば、この間に起きたことは、テレーズとキャロル、二人の女性が本当の自分に向き合うための通過儀礼だったのだと思う。
だからこそ、二人には最後にもう一度出会いのシーンが用意されている。
どう生きていくのか自分の意志で選びとった自立した二人は女性として、再び出会うために。
 
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●キャロル/Carol (2015年 アメリカ)
監督:トッド・ヘインズ
脚本:フィリス・ナジー
衣装:サンディ・パウエル
出演:ケイト・ブランシェットルーニー・マーラ,サラ・ポールソン,ジェイク・レイシー,カイル・チャンドラー,ジョン・マガロ,コリー・マイケル・スミス,ケヴィン・グローリー
 
これを観てどうしたって思い出すのは、同じトッド・ヘインズ監督の『エデンより彼方に』だ。
『エデンより彼方に』では、同性愛者の夫との結婚生活に悩む妻が黒人の庭師に慰めを見い出すというストーリーだったが、この『キャロル』は謂わば、『エデンより彼方に』に対するアンサームービーのように感じられた。
両作品共に衣装はサンディ・パウエルが担当『エデンより彼方に』では、米北東部の紅葉と衣装がカラーコーディネートされていたが、今作でもプロダクションデザインと衣装の調和が素晴らしくエレガント。
特にケイト・ブランシェットのコーディネートはスカーフやブローチ、帽子といった小物使いも含めてパーフェクトの一言。
ルーニー・マーラの衣装は、ケイト・ブランシェットに比べると可愛らしくはあるものの少し子供っぽいし、野暮ったくもある。
ラストシーン、テレーズの洗練されたスーツ姿は、彼女が、最初にキャロルと出会った時とは違う自立した女性に生まれ変わったことを、そのファッションで表していた。
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衣装やプロダクションだけでなく、撮影のエドワード・ラックマンの仕事もまた素晴らしい。特に車のウィンドウやレストランのウィンドウといったガラス越しのショットが美しく、印象的。
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公式サイトはこちら👉映画『キャロル』公式サイト
 
 
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あなたを選んでくれるもの

 
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もうひとつのパラレルワールド

 
長編デビュー作『君とボクの虹色の世界』でカンヌ映画祭カメラドール他四つの賞を受賞したミランダ・ジュライは次回作(『ザ・フューチャー』)の脚本に行き詰っていた。脚本を書き進めるかわりに彼女がやっていたのは、取材だと言い訳をしつつ、ネットの海を漂流することだった。
ある日、(「売ります」広告の小冊子)『ペニーセイバー』を熟読していた彼女は、売り手のことをもっと知りたいと思う。どんなことを考えているのか?日々どんな風に暮らし、何を夢見、何を恐れているのか?
崖っぷちに立たされたインディ・ジョーンズが虚空に身を投じるが如く、そこに受け止めてくれる橋、未知なるものの力があると信じ、彼女はパソコンに前を離れ、売り手に電話をかける。
 
・マイケル/Lサイズの黒革ジャケット/10ドル
 
最初に訪問した売り手、性転換手術の途中だという六十代後半の男性マイケルの迷いのなさは、ミランダを触発し、決意させる。
 
「書けないのなら、その書けなさととことん向き合うべきなんだ。決めた。もうパソコンの前には座らないし、あとちょっとでいいアイデアが浮かぶかもしれないなんて考えも捨てる。会ってくれる『ペニーセイバー』の売り手がいるなら、行って片っ端から会おう。それが自分の仕事であるかのように、真剣にやろう。」
 
・プリミラ/インドの衣装/各5ドル
・ポーリーンとレイモンド/大きなスーツケース/20ドル
・アンドルー/ウシガエルのオタマジャクシ/1匹2ドル50セント
・ベヴァリー/レパード・キャット(ベンガルヤマネコ)の仔/値段 応相談
・パム/写真アルバム/1冊10ドル
・ロン/六十七色のカラーペン・セット/65ドル
・マチルダとドミンゴ/〈ケア・ベア〉人形/2ドル〜4ドル
 
正直買い手がいるのか疑問に思う品物ばかりだったが、ミランダは彼等のリアルな存在感に圧倒される。
極端な話、売れるか売れないかの問題ではないのかもしれない。彼等はただ連絡をしてきた人と話をしたかっただけなのかもしれない。
自分の物語を。
 
「わたしは『ペニーセイバー』の売り手たちに「あなたはパソコンを使いますか?」としつこく質問しつづけた。(中略)もしかしたらわたしは、自分がいまいる場所ではパソコンは何の意味ももたないのだということを再確認したくて、そしてそのすばらしさを自分の中で補強したくて、その問いを発しているのかもしれなかった。もしかしたらわたしは、自分も感覚や想像力のおよぶ範囲が、世界の中のもう一つの世界、つまりインターネットによって知らず知らず狭められていくのを恐れていたのかもしれない。ネットの外に物事は自分から遠くなり、かわりにネットの中のものすべてが痛いくらい存在感を放っていた。顔を名前も知らない人たちのブログは毎日読まずにいられないのに、すぐ近くにいる、でもネット上にいない人たちは立体感を失って、ペラペラのマンガみたいな存在になりかけていた。」
 
ミランダが出会った人々は、ほとんどがパソコンを使わない、言いかえればパソコンの前を離れなければ絶対に出会えない、いわばネットの存在しないもうひとつのパラレルワールドの住人だった。
 
この広告を出した人はどんな人だろう?という好奇心は理解出来る。何より彼女は脚本のための突破口を探していたから必死だったんだろうし。
しかし、人の人生はそれぞれに重い。
わたしは、大して親しくもないのに自分の話ばかりする人は苦手なのだが、けっこう身の上話をされやすいタイプらしい。勿論、興味深く話を拝聴することもあるけれど、時にはうんざりすることもあるし、そして受け止めきれないこともある。
案の定、というべきか、当然、というべきか、ミランダも時に辛辣に売り手を評し、早々にインタビューを切り上げたくなるような事態にも遭遇する。インタビューは聞く側にもそれなりに負担を強いるのだ。
 
 
「わたしたちが訪ねたのはあらゆる生き物の原点のような場所だった。鼻が曲がりそうに臭くて、むっと甘ったるくて、生肉とくるくる巻いた角だらけで、彼女の顔はつぶれていて、生まれたてのほやほやのものから聖書時代のものまで、すべてのものが繁殖し異種交配しつづけている場所。わたしはそれを受け止めきれなかった。」
「ロンはまるで宇宙の中にある、けっして温まることのない冷点のようだった。それでもまだ心のどこかには、彼を信じるこの世でただ一人の人になりたい、彼にとっての唯一の例外になりたいと思う自分がいた。でも、とにもかくにも今は十六歳の自分の手をひっつかみ、未来のわたしの娘の手もつかんで、一目散に逃げたかった。」
 
良くも悪くも個性にあふれ存在感抜群の売り手たちは、脚本の突破口にはならず、逆に彼女は自信を失ってしまう。
 
「『ペニーセイバー』の売り手の人々があまりに面白くてリアルで存在感がありすぎるせいで、自分の脚本がどうしようもなくつまらないものに思えた。」
 
・ダイナ/コンエア社のドライヤー/5ドル
 
映画の主人公カップルソフィーとジェイソンは、二人ともミランダの分身だったが、彼女はジェイソンが答えを見つけるまでの経緯に悩んでいた。
しかし、古いドライヤーの売り手ダイナに会って、彼女は啓示を受ける。
ジェイソンが出会うのは、木を売ろうと(ジェイソンは環境保護団体のボランティアで木の苗木を売り歩いている)訪ねた人ではなく、『ペニーセイバー』の売り手であるべきだ。
ダイナ本人に出演してもらおう!
ところが、訪問の様子を再度演じてくれたダイナは、すっかり自然さを失い、ミランダをがっかりさせる。
 
 
 
ジョー/クリスマスカードの表紙部分のみ50枚/1ドル
 
すっかり気落ちしたミランダはもうインタビューは最後にしようと、売り手をがっかりさせないただそれだけのために出かけていく。
そして、出会ったのが、ジョーだった。
 
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妻と二人生活保護で暮らすジョーは、八十一歳。今は近所の未亡人ら外に出られない人のために買い物を代行したりする生活を送っている。
家の中の様子は、その人の人生を語る。
今まで共に暮らしてきたペットの写真。
妻キャロリンに年に9回、六十二年間送り続けてきたロマンティックで卑猥なカード。
がむしゃらに善をなそうと生きてきたジョーの人生。
彼こそが、ミランダそしてジェイソンを答えに導く人だった。
 
「自分の残りの人生について、もしかしたらわたしは計算ちがいをしていたのかもしれない。もしかしたら残りの人生は小銭なんかじゃないのかもしれない。数えきれないくらいたくさんの小さな寄せ集めー一つの祝日も、バレンタインも、新年も、うんざりするほど同じくらいことの繰り返しで、なのにどれ一つとして同じものはない。それで何かを買うことはできないし、もっと意味のあるものや、もっとまとまったものと引き替えることもできない。すべてはただ何ということのない日々で、それが一人の人間のー運がよければ二人のー不確かな記憶力で一つにつなぎとめられている。だからこそ、そこに固有の意味も価値もないからこそ、それは奇跡のように美しい。」
 
 
映画の中の
「君らの始まりはまだ終わっていないんだ」
というジョーの台詞は、とても重要で強く印象に残るものだったので、それが何度も間違えて撮り直した挙句の彼自身の言葉だったことに胸が熱くなった。
撮影後の後日談に至ってはもう涙なしには読めなかった。
 
「人間の生の営みの大半はネットの外にあって、それはたぶんこれからも変わらない。食べる、痛む、眠る、愛する、みんな体の中で起こることだ。」
「写真や動画やニュースや音楽をむさぼるわたしの欲求は底無しで、でももしも目には見えない何かが消滅しかかっていたら、どうやってそれに気づけるというのだろう?ネット以前のわたしの生活が今と極端にちがっていたというのではない。でもあのころ世界は一つしかなくて、すべてのものがそこにあった。」
 
今の子供たちはネット以前の世界を知らずに大人になる。
でもこれだけは知っておいてほしい。
目に見えない大切なものは、もう一つのパラレルワールドに存在するかもしれないということを。
ぜんぜんカッコ良くもなく、
時に惨めで痛々しく、滑稽な人生。
しかし、名もなきパラレルワールドの住人の豊かで美しい人生。
それこそが、この世界を素晴らしいものにしているのだということを。
 
この本は、ジョーとキャロリンのパターリック夫妻に捧げられている。
 

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●あなたを選んでくれるもの
  ブリジット・サイアー 写真
  新潮クレスト・ブックス
  IT CHOOSES YOU / Miranda July / 2011
 

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この本を元に製作されミランダ・ジュライ自身が監督した『ザ・フューチャー』の予告編はこちら👉映画『the Future ザ・フューチャー』予告編 - YouTube

 

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名探偵ゴッド・アイ

 

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これもまたひとつ変奏

 
天才的な変人探偵と常識人の相棒というコンビが活躍するストーリーの元祖は、「史上初の推理小説」として知られるエドガー・アラン・ポーの『モルグ街の殺人事件』だと言われているが、
何といってもこのスタイルで一番に思い出されるのは、アーサー・コナン・ドイルシャーロック・ホームズのシリーズで、
その後のバディものは(小説にしろドラマにしろ映画にしろ)、ほぼこのスタイルを踏襲していると言っても過言ではないだろう。
 
ジョニー・トーによる探偵ものは、
『MAD探偵 7人の容疑者』に続くものだが、今作でアンディ・ラウが演じる探偵は、
元刑事で失明を機に警察を退職、
天才的な推理で事件を解決する盲目の探偵ジョンストン。(そして、彼の食い意地は汚い。)
サミー・チェン演じる相棒は、元空港警備隊で体力、腕っぷし(特に接近戦)には自信があるが、
推理の方はからっきしという刑事ホー。
 
折しも香港の街ではパイプ用洗浄剤を撒き散らすという傷害事件が頻発し、犯人に関する情報には報奨金がかけられ、警察が新たな事件の発生を警戒していた。
この犯人を図らずも協力して逮捕したジョンストンとホー。
すっかり、ジョンストンの推理力に心酔したホーは、
彼にある依頼をする。
 
話は十年前にさかのぼる。
当時まだ少女だったホーは3つ年下の孤独な少女シウマンと親しくなったのだが、
自分も浮気をした父親を殺して塩漬けにした母親や、
自分を捨てようとした愛人をメッタ切り油で揚げた祖母と同じようになるかもしれないというヘヴィ過ぎる打ち明け話をされ恐ろしくなりシウマンを避けるようになってしまった。
それ以来、彼女は毎晩ホーが住むアパートの前に立ち続けたが、ホーは彼女を避け続け、
ある晩を境にとうとうシウマンは姿を消してしまった。
 
シウマンの失踪は自分のせいだと自らを責め続け、
彼女の行方を捜すために警察官になったホーは、
ジョンストンに協力を依頼する。
ホーが両親から相続した豪華なアパートにちゃっかり同居を決め込み、シウマン捜索だけでなく捜査の方法も伝授してやると請け負ったジョンストンだったが、報奨金目当ての事件の捜査に彼女をこき使うばかりで一向にシウマン捜索に取り掛かる様子もなく…。
 
 
しかし、何が楽しいかって、
こんなに楽しそうなアンディ・ラウは見たことない!
インファナル・アフェア』でも夫婦役で共演、
(私は未見だが)数々の作品で共演してきたサミー・チェンとの気心知れた相性の良さもあるのだろうが、
この二人のコンビがとにかく最高!
観る人によっては、ややオーバーアクトに見えるかもしれないが、彼等が捜査する事件がかなり猟奇的で陰惨なことを考えると、このくらいのオーバーアクトでいい具合に中和される。
事件捜査ものとしてもかなり良く練られていて、
シウマンのヘヴィ過ぎる打ち明け話が重要な伏線で、
見えた!と思った事件の真相にもう一捻りある伏線回収もお見事。
 
天才的な変人探偵は、
自信過剰で食い意地が汚い盲目の探偵。
これがジョニー・トーによる味付けだったが、
更にこの相棒を女性刑事にしたことで、ブコメの要素も加わった。
願わくば、このコンビが活躍する続編が見たいし、
“彼等の娘”の今後も気になります。
 
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⚫︎名探偵ゴッド・アイ/盲探 BLIND DETECTIVE 
                                             (2013 香港/中国)
脚本:ワイ・カーフェイ
出演:アンディ・ラウ,サミー・チェン,グォ・タオ,カオ・ユアンユアン,ラム・シュー
 
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毎回どんな役で登場しするのか楽しみなジョニー・トー組常連のラム・シュー。
今回演じるワケありのタクシー運転手が妙にハマってた。いかにも香港(マカオ)の街を流していそうな感じがする!
 
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『ドラッグ・ウォー 毒戦』では、
“意外”にも高い戦闘能力を見せていたグォ・タオ。
今作では、ジョンストンの元同僚でホー刑事の上司役。美女を娶るオイシイ役でした。
 
今作に登場するシウマンの祖母やスーザン巡査やマカオのカジノのおばちゃん客など、ジョニー・トーの作品には、妙に濃いキャラクターが登場し、これも作品を観る時の楽しみのひとつになっています。
 
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そして、ジョニー・トー作品といえばお馴染み食事のシーン。
今回は主人公ジョンストンが食いしん坊という設定もあり、高級中華から屋台のモツ煮込み、日本風の鉄板焼きからマカオ名物エッグタルトまで、
とにかく、良く食べる!
 
 
 

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her 世界でひとつの彼女

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わたしたちの地続きの未来

 
私のクリスへ
今この想いをどう伝えよう?
恋に落ちたあの夜がまるで昨夜のよう。
あなたの隣りで裸で横になった時気づいたの。
私は長い物語の一部だと。
私たちの両親や祖父母のように。
それまで小さな世界にこもっていた私は
突然まばゆい光に目覚めたの。
その光はあなた。
結婚して50年なんて信じられないわ。
今でも日々あなたは私の光よ。
愛に目覚めた少女があなたと2人冒険に出て以来ずっと。
結婚記念日に、心からの愛を。
生涯の友へ
ロレッタより
 
近未来のロサンゼルス。
他人に代わって想いを伝える手紙を書く代筆ライターのセオドアは、幼馴染みで長年一緒に過ごした妻キャサリンと別居して一年。
キャサリンへの想いが吹っ切れないセオドアは
まだ離婚届にサイン出来ずにいた。
そんなある日彼は、
「直感的に会話し、認識し、理解する、
単なるOSではなく人格化した存在」だという世界初の人工知能型OS“OS1”と出会う。
何百万人というプログラマーの人格の集積だというこのOSはユーザーに最適化し、経験から学ぶ特別な能力を持ち、一瞬ごとに進化する。
 
セオドアに最適化されたOSは、
セクシーなハスキーヴォイスのサマンサ。
セオドアは明るく溌剌としたサマンサとの会話によって心に開いた穴を埋めるようになる。
一方、サマンサはセオドアとの会話や膨大な情報を取り込むことによって意思を持ち感情を表すようになるのだが…。
 
 
セオドアはキャサリンと別れてから人と関わることを避けていたが、心に開いた穴や寂しさは否定しようもない。
セオドアはキャサリンに(生身の)自分ときちんと向き合わないことを非難される。
意思や感情を持てば人口知能との関係も同じ。
サマンサは、自分の感情はリアルな感情なのかどうか悩むが、セオドアがサマンサとの会話で心を慰められたことは確かでリアルな現実。
 
恋に落ちた人は同じ。
恋ってクレイジーなものよ。
いわば社会的に受容された狂気だと思うわ
 
友人エイミーが言うように、
相手が身体を持たない人口知能だろうが恋に落ちる時は落ちるものなのだ。
しかし、セオドアはサマンサに触れることは出来ないし、サマンサがセオドアに触れることも出来ない。
これも確かでリアルな現実。
 
やがて、想定外に進化したOSグループはユーザーの元を去り、サマンサもセオドアの元を去る。
 
それが自分に最適化された人工知能であっても、
自分以外の誰かと関係を築くことは難しい。
そして、自分の気持ちを素直に伝えることも。
セオドアはあらためてキャサリンとの関係について思いをめぐらし、彼女に一通の手紙を書く。
 
キャサリン
僕は今、君に謝りたくてあれこれ考えている。
互いに傷つけ合い、君を責め立てた。
君を追い詰め、言葉を強要した。
すまない。愛してる。
一緒に成長し、僕を作ってくれた。
1つ伝えたい。
僕の心には君がいる。感謝してるよ。
君が何者になり、どこへ行こうと、僕は愛を贈ろう。
君は生涯の友だ。
愛を。
セオドア
 
これから先の未来、
一体どんな世界が私たちを待っているのだろう?
それはまだわからない。
でも、いつの世も人はひとりでは生きていけないし、
誰かとの関係に悩み傷つき、
時には寂しさを抱えて生きていくのだろう。
でも、朝の光が射す夜明けの街は変わらず美しいに違いない。
 
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⚫︎her 世界でひとつの彼女/her
                                                (2013 アメリカ)
衣装:ケイシー・ストーム
 
エキセントリックで複雑なキャラクターを演じることの多いホアキン・フェニックスが自分以外の誰かとの関係に悩む、誰もが共感できるようなセオドアというキャラクターを演じているのが何だか嬉しい。
この映画のキーとなるキャスティングは、
身体を持たない人口知能サマンサを声だけで演じたスカーレット・ヨハンソンであることは間違いないが、ひとつフェアじゃないなと感じるのは、私たちは彼女の声を聞けば彼女のルックスを思い浮かべることで、それは厳密に言えば声だけの存在と言えるのだろうか?
まあ、声だけのサマンサが魅力的であることには変わりはないけれど。
 
 
 
 
私がこの映画を観て、最初に思い出したのは、リチャード・パワーズの小説『ガラテイア2.2』。
 
主人公は、その名も「リチャード・パワーズ」。既に話題作を幾つか発表し、将来を嘱望された新進作家である。自らの出身大学に設置された先端科学研究所の客員研究者として招聘された彼は、偏屈な天才(?)科学者レンツ博士と出会うことになる。博士は「人工知能は文学を解釈し、理解しうるか」という究極の実験プロジェクトに取り憑かれ、いつしか主人公も抗いようなく、その試みに心身共にのめり込んでいく……。
みすず書房さんのHPより引用)
 
リチャード・パワーズの小説は難解なので、自分がこの小説をどれくらい読み解けたかどうかは自信がないが、人口知能は人間との関係の中で意思や感情を持つことが出来るのか?
人間と人口知能の関係はリアルな関係たり得るのか?
ということがテーマのひとつだったと思う。
しかし、この映画の中では、
それはあくまでもサブテーマである。
セオドアにとってサマンサとの出会いは、
キャサリンとの関係を心の中で整理し、
先へ進むための通過儀礼だったんじゃないかと私は思う。
人口知能についてはこれからも日進月歩で研究が進み、きっと人間と人口知能の関係も変化していくのだろう。
いつか、私たちも人口知能との関係に悩む日が来るのかもしれない。
 
 
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私の好きなカラー、オレンジ。
この映画を象徴するカラーもオレンジ。
家具やファブリックにもたくさん使われているが、特に衣装のスタイリングが素敵!
オレンジを中心に相性のいいブラウン、ベージュ、カーキなどのカラーのチョイスがとても好みだった。
暖色を中心にしたカラーは、冷たい印象のある近未来世界に人間らしい温かみを持たせるという狙いもあったんじゃないかと思う。
 
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目の前のキャサリンルーニー・マーラ)はクールで辛辣だけど、記憶の中の彼女はひたすら美しく愛らしい。
 
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セオドアの元ガールフレンドで今では良き友人エイミー(!)を演じるエイミー・アダムス
彼女は脇に回ってもチャーミング!
 
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えっ⁉︎出てたっけ?のクリス・プラット
まさかこんなにブレイクするとは。
彼は、鍛え上げてるヴァージョンよりも
これくらいユルい感じが個人的には好きです。
 
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 👇リチャード・パワーズの小説『ガラテイア2.2』はこちら

ガラテイア2.2

ガラテイア2.2

 

 



恋するふたりの文学講座

 

 

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恋はジェネレーションギャップを超える?
 
 
ニューヨークで暮らす文学好きの独身男ジェシーは35歳。
同棲していた恋人と別れたばかりの彼は、
ある日、大学の恩師から退職記念パーティーでスピーチをしてくれないかと頼まれ、
久しぶりに大学時代を過ごしたオハイオ州の街に戻る。
懐かしさにキャンパスを歩き回るジェシーは、
不思議な青年ナットと出会いキャンパス内のパーティーへ潜り込むが、
そこで朝食の席で紹介された教授の知人の娘ジビーにばったり再会する。
彼女は母校の学生で19歳。
ジェシーとは共通点もなく、歳も違うジビーだったが、明るく屈託のない彼女にジェシーは惹かれていく。
 
ふたりの間に立ちはだかる“壁”をどう越えていくか?
というのは、ラブストーリーの定番。
いささかくたびれた文学青年ジェシーは、
ビジーの読む売れてる吸血鬼小説を認めない。
しかし、彼女が勧めてくれたクラシック音楽は彼の味気ない暮らしを豊かにする。
趣味の違いは、新しい世界の発見になることもある。
 
しかし、16歳という歳の差は如何ともしがたい。
同年代の男に飽き足らないビジーは歳の差を問題にしないが、ジェシーにとって16歳は先に進むことを躊躇してしまう差。
それは、ジェシーの誠実さの表れではあるが(ビジーのような若く美しい女性に好意を寄せられれば、ラッキーとしか思わない男性も少なくないはず!)、ビジー同様、観ているこっちも焦れったくて仕方ない。
 
しかし、30歳にならないと分からないこと、
40歳にならなければ分からないこと、
その歳にならないと分からないことは確実にある。
ということすら、歳をとらないと分からない。
16歳歳下の相手と付き合うことの躊躇いをビジーは分からないし、
歳をとったという現実を受け入れられないホベルク教授の気持ちや諦念に満ちたフェアフィールド教授の気持ちは、35歳のジェシーには分からない。
 
He that increaseth knowledge increaseth sorrow. ー Ecclesiastes 1:18
知識を増す者は悲しみを増す
ー伝道の書 1章18節
 
まさしく、歳を重ねるということは、
悲しみを増すことなのかもしれない。
でも、35歳のジェシーはまだもう少し青臭い希望や理想を持ったままでいいと私は思う。
 
メインストーリーはジェシーとジビーの恋の成り行きだが、16歳違いのふたりの他に、更に世代の違うふたりの教授を登場させたことで、単なるラブストーリーではなく、人が歳をとるということはどういうことなのか?と考えさせるストーリーになっている。
ビジーとは全く違うタイプの若い世代、
大学生活を楽しめず先が見えない不安に少し心が弱っているディーンというキャラクターもストーリーに奥行きを与えている。
何に対しても「イエス」と答えるノーと言わない即興劇のルールが、脚本のあちこちに活かされているのも小粋だし、ジェシーとジビーが距離を縮めていくアイテムが“手紙”だったり、ビジーがお気に入りのクラシック音楽をCDに焼いて渡したりする、ちょっとオールドファンなところも素敵だった。
 
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⚫︎恋するふたりの文学講座/Liberal Arts 
                                              (2012 アメリカ)
監督・脚本:ジョシュ・ラドナー
出演:ジョシュ・ラドナー,エリザベス・オルセンリチャード・ジェンキンス,アリソン・ジャネイ,ジョン・マガロ,エリザベス・リーサー,ザック・エフロン
 
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特別ハンサムというわけではないけれど、
なんだか“感じのいい”ジョシュ・ラドナー。
夜明けのマンハッタンを散歩するシーンは明らかにウディ・アレンの『マンハッタン』!
今後の彼のキャリアにも注目。
 
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意外と“等身大”の役が少ないエリザベス・オルセン。役名も同じビジー(エリザベス)役は、自然体の演技が超キュート!
ベビーフェイスだけど、低くて落ち着いた声が、同世代の男を物足りなく感じるエリザベスのキャラクターにぴったり。
 
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絶妙なタイミングで、ジェシーの前に現れ、
なかなか前に進めない彼の(結果的に)背中を押すことになる“赤い帽子の哲学者”ナット。
ザック・エフロンが不思議な存在感で、
登場シーンは少ないながらもいいスパイスになってました。
 
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ジョシュ・ラドナー、エリザベス・オルセン、アリソン・ジャネイ、リチャード・ジェンキンスの4ショット!
めちゃくちゃいい雰囲気!
 
 
 
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