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極私的映画案内

新作、旧作含め極私的オススメ映画をご案内します。時々はおすすめ本も。

マップ・トゥ・ザ・スターズ

これもひとつの
いわゆるハリウッド残酷物語


映画の都ハリウッドに到着したバスから降りてきた少女といってもいいような若い女。
予約した車の運転手ジェロームに彼女はある住所へ向かうように言う。
廃墟となったその住所はかつて映画『いけない子守』の子役スター、ベンジー・ワイスが住んでいた場所。
彼女はそのベンジーの“子守”だったと話す。
しかし、それは事実ではなかった。
彼女はベンジーの姉アガサ。
七年前、ベンジーに薬を飲ませた上で家に放火、
弟を殺しかけ、自らも大やけどを負った。
腕のやけどの痕を彼女は黒い手袋で隠している。

一方、13歳なったベンジーはかつてのヒット作の続編『いけない子守2』でドラッグ中毒からの再起を図ろうとしていた。
ベンジーは病気で入院中のファン、キャミーを見舞う。
「君の人生を映画にしてあげるよ」
その場かぎりの励ましの言葉を本気にするマネージャーを罵倒するベンジー

そして、
もうひとりキャリアの危機に直面している女優がいた。
彼女の名はハバナ・セグラン。
ゴールデングローブ賞も受賞している有名女優だが年齢を重ね最近はキャリアが低迷している。
同じく女優で若くして亡くなった母クラリスが主演したアートフィルム『盗まれた水』のリメイク版に出演することを熱望しているが、
監督のダミアンとは連絡が取れずイライラを募らせている。
精神的に不安定なハバナは心理学者スタッフォード(アガサとベンジー父親)のセラピーに頼るが、
若く美しいままのクラリスの亡霊が彼女を苦しめる。
結局リメイク版『盗まれた水』にはハバナよりも若い女優アジタがキャスティングされる。

Twitterを通じて女優キャリー・フィッシャーと知り合いになっていたアガサはキャリーのコネでハバナに紹介され個人秘書として雇われる。
アジタと偶然会ったハバナは表面的には役を勝ちとった彼女を祝福する。
しかし、そんな矢先、アジタの息子マイカがプールで溺れて亡くなり、アジタは映画を降板。
ハバナが代役に抜擢される。

リハビリや定期的な検査を条件にスタートした『いけない子守2』の撮影だったが、場面をさらう子役ロイの存在が気にくわないベンジー
結局亡くなってしまったキャミーの亡霊にも悩まされており不機嫌だった。
そんな彼のトレーラーに突然アガサが現れる。
ここへ来たことを両親には黙っていてくれるように頼むアガサを受け入れるベンジー
しかし、スタッフォードはハバナとの会話から彼女が雇った個人秘書がアガサだと気付いてしまう。
激怒したスタッフォードはアガサに金を与え、
姿を消し家族に近づかないように強く迫る。


幼い時からスターとして巨額のギャラを稼いでいたベンジーが両親の愛情を独り占めしていたことは想像に難くない。
しかし、心理学者として成功した父親にとってお金は問題ではなかったはずだ。
ベンジーの成功が両親にとっては自分たちは間違ったことはしていないという証でもあったのだろう。
しかし、両親の秘密を知ったアガサは事件を起こし、ベンジーはドラッグに溺れてしまった。
だから、ベンジーの再起は両親にとっても大きな問題だったのだ。

ハリウッドに戻ってきたアガサは
一体何がしたかったのだろう?
家族に謝罪し、やり直したかったのか?
両親の秘密を弟と共有したかったのか?
それともベンジーとの儀式を最後までやり終えたかったのか?
しかし、父親に拒絶され、ジェロームの裏切りを目撃し、ハバナに罵倒されたアガサが戻る場所はひとつしか残されていなかった。
それは再び問題を起こしてしまったベンジーもまた同じだった。

「13回夏を過ごした。文句ないさ」

こう言うベンジーはどこかホッとしているように見える。
これでようやく解放された、とでもいうような。


子役スターの転落の物語は珍しくない。
10歳にもならないうちから週に何十万ドルも稼げるような世界は異常でしかない。
その異常さから彼らを守るのは周りの大人の仕事で責任だが、その大人自身がハリウッドの罠に絡め取られてしまう。
若く美しいまま亡くなった母親の亡霊から逃れられなかったハバナもまたそんなハリウッドの残酷な物語の犠牲者だったのかもしれない。


〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜
劇中アガサが儀式で唱えるのはフランスの詩人
ポール・エリュアールの詩『自由』。
参考までに英語訳と日本語訳を紹介。


Liberté Paul Eluard

On my school notebooks
On my desk and on the trees
On the sands of snow
I write your name

On the pages I have read
On all the white pages
Stone, blood, paper or ash
I write your name

On the images of gold
On the weapons of the warriors
On the crown of the king
I write your name

On the jungle and the desert
On the nest and on the brier
On the echo of my childhood
I write your name

On all my scarves of blue
On the moist sunlit swamps
On the living lake of moonlight
I write your name

On the fields, on the horizon
On the birds’ wings
And on the mill of shadows
I write your name

On each whiff of daybreak
On the sea, on the boats
On the demented mountaintop
I write your name

On the froth of the cloud
On the sweat of the storm
On the dense rain and the flat
I write your name

On the flickering figures
On the bells of colors
On the natural truth
I write your name

On the high paths
On the deployed routes
On the crowd-thronged square
I write your name

On the lamp which is lit
On the lamp which isn’t
On my reunited thoughts
I write your name

On a fruit cut in two
Of my mirror and my chamber
On my bed, an empty shell
I write your name

On my dog, greathearted and greedy
On his pricked-up ears
On his blundering paws
I write your name

On the latch of my door
On those familiar objects
On the torrents of a good fire
I write your name

On the harmony of the flesh
On the faces of my friends
On each outstretched hand
I write your name

On the window of surprises
On a pair of expectant lips
In a state far deeper than silence
I write your name

On my crumbled hiding-places
On my sunken lighthouses
On my walls and my ennui
I write your name

On abstraction without desire
On naked solitude
On the marches of death
I write your name

And for the want of a word
I renew my life
For I was born to know you
To name you

Liberty.



ポール・エリュアール「自由」Liberte
(壺齋散人訳)

  学習ノートに
  机に 木々に
  砂に 雪に
  ぼくは書きつける

  読み終えたページに
  真っ白な紙に
  石 血 紙 又は灰に
  ぼくは書きつける

  黄金の像に
  兵士の武器に
  王冠に
  ぼくは書きつける

  ジャングルに 砂漠に
  巣に 藪に
  子供の頃のこだまに
  ぼくは書きつける

  すてきな夜に
  白いパンに
  婚約した季節に
  ぼくは書きつける

  青いぼろきれに
  沼に カビの生えた太陽に
  湖に 明るい月に
  ぼくは書きつける

  野原に 地平線に
  鳥の翼に
  風車の影に
  ぼくは書きつける

  オーロラのきらめきに
  海に 船に
  悠々たる山に
  ぼくは書きつける

  あわのような雲に
  嵐のような汗に
  霏霏たる雨に
  ぼくは書きつける

  きらめく形に
  色鮮やかな時計に
  物質の真実に
  ぼくは書きつける

  上り坂に
  広い道に
  はみ出た場所に
  ぼくは書きつける

  燃えるランプに
  消えたランプに
  建て直した家に
  ぼくは書きつける

  鏡の中の 部屋の中の
  おいしそうな果物に
  ベッドに 貝殻に
  ぼくは書きつける

  食いしん坊のかわいい犬に
  ピンとたった犬の耳に
  不器用そうな犬の足に
  ぼくは書きつける

  玄関のステップに
  見慣れたオブジェに
  聖火の列に
  ぼくは書きつける

  調和した肉体に
  友達の額に
  差し出された手に
  ぼくは書きつける

  驚きのガラスに
  きりりと黙って
  引き締まった唇に
  ぼくは書きつける

  廃墟の隠れ家に
  崩れた灯台
  倦怠の壁に
  ぼくは書きつける

  欲望の不在に
  裸の孤独に
  葬式の行進に
  ぼくは書きつける

  回復した健康に
  なくなった危険に
  過去のない希望に
  ぼくは書きつける

  言葉の力を借りて
  ぼくは人生をやり直す
  その言葉がぼくを勇気付ける
  それは自由という言葉だ

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●マップ・トゥ・ザスターズ
/MAPS TO THE STARS
(2014 カナダ/アメリカ/ドイツ/フランス)
監督:デヴィッド・クローネンバーグ
脚本:ブルース・ワグナー
出演:ジュリアン・ムーアミア・ワシコウスカジョン・キューザックロバート・パティンソン,オリヴィア・ウィリアムス、エヴァン・バード,サラ・ガトン,ニーアム・ウィルソン,ドーン・グリーンハルグ,キャリー・フィッシャー




本作の演技によって第67回カンヌ映画祭女優賞を受賞したジュリアン・ムーア
本作で一番露悪的であり、人によっては受け付けないハバナというキャラクターには彼女がいままでに見聞きした女優たちの要素が入っているそうだが、まさか放屁(音もホンモノ?)まで披露するとは!
本来赤い髪の彼女が金髪に染めているが、
この金髪がいかにも落ち目の女優らしさを表していた。
こういう役は、ジュリアン・ムーア自身は年を重ねて益々女優として輝かしいキャリアを築いているからこそ演じられるのだと思う。
現実にキャリアが低迷している女優が演ったら痛すぎる。




線が細くて精神的にも脆そうな役がはまるミア・ワシコウスカ
生理の出血でハバナの高級カウチを汚してしまい彼女になじられキレてしまうシーンは『キャリー』(ブライアン・デ・パルマ)にインスパイアされている、と見た。
そういえば、ジュリアン・ムーアはリメイク版の『キャリー』に母親役で出演している。



若くして美しいまま亡くなったハバナの母クラリス・タガートを演じるのはサラ・ガトン。
亡霊となってハバナの前に現れ彼女を苦しめる。



最近出演作を選んでないように見えるジョン・キューザック。目が怖い!
しかし、“自分史のツボ”なんてないだろ!



脚本家兼俳優の卵ジェロームを演じるのはデヴィッド・クローネンバーグ作品には『コズモポリス』に引き続き出演。
この役には実際リムジンドライバーだった脚本を書いたブルース・ワグナー自身が投影されているのだろう。
ハリウッド以外の世界を知らない他の登場人物に対し、ジェロームは唯一の部外者であり、
一般社会の常識を持った人物として描かれる。



どの登場人物も痛々しいが、
中でもこのベンジーが一番痛々しい。
大人みたいな口をきいて大人な格好をしていても
まだ13歳の子ども。
本来ならまだまだ無邪気な時代を
謳歌していていいはず。
演じるエヴァン・バードの華奢な肩が、
ベンジーの幼さを物語っている。



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