極私的映画案内

新作、旧作含め極私的オススメ映画をご案内します。時々はおすすめ本も。

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WELCOME TO THE WORLD!


悲しいことに誘拐監禁事件は世界中で起きている。
私たちが事件について知ることになるのは、
何らかの形で事件が明らかになった時だ。
無事発見という望ましい形で解決したとしても、
私たちが被害者の“その後”を知ることはほとんどない。
第三者にとっては犯人が逮捕されれば、
事件はそこで終わりである。
しかし、被害者やその家族や親しい人間にとっては、
むしろそこからが闘いである。
被害者はトラウマとの、家族や周囲は傷付いた被害者とどう接し、どう受け入れるかの闘い。
それは、監禁されていた時間、過去とどう向き合うかの闘いなのだ。
そこで、ひとりだけ違う闘いを強いられるのが、
監禁中に生まれた子どもである。
閉ざされた世界で育った子どもにとって“外の世界”は、空も雲も風も雨も、母親以外の人間、すべてのものがはじめて目にするものだ。
彼らが新たな世界にどう反応するのか?
社会に順応できるのか?
どんな戸惑いがあるのか?
それを想像することはとても難しい。

生まれた時から小さな“ルーム”でマー(ママ=ジョイ)と二人で暮らすジャック。
今日、ジャックは5歳になった。
誕生日のケーキを焼くマーとジャック。
でも、キャンドルはない。
夜中に“ルーム”にやって来るオールド・ニックは何でも差し入れてくれるわけではないのだ。
キャンドルがないケーキなんか誕生日じゃない!
とぐずるジャック。
ジャックはマーに、“ルーム”の中のものは“ホンモノ”、テレビの中のものは“ニセモノ“と教えられていた。
でも、ジャックももう5歳。
マーは、自分がジョイという名前であること、
七年前オールド・ニックに誘拐され“ルーム”に閉じ込められたこと、
“ルーム”の外には“本当の世界”があることを初めてジャック話して聞かせる。
そんなこと嘘だ!と混乱するジャックだったが、
マーはいつも読み聞かせていたモンテクリスト伯の脱出をヒントにしてジャックを“ルーム”から脱出させようと計画する…。

無事脱出に成功したジョイとジャックだったが、
ジョイは七年の間の変化に直面していた。
七年の間に両親は離婚。母親は再婚、父親は外国に引っ越していたのだ。
ジャックを守るという強い決意が、
“ルーム”の中でのジョイを支えだった。
しかし、生還してその緊張感は途切れてしまった。
ジャックの存在を受け入れることができず直視出来ない父親
“ルーム”以外の世界を知らずに育ったジャックは“ルーム”に戻りたいとジョイに訴える。
監禁され奪われた時間や戻ってきた世界の変化という現実にあらためて向き合うことになったジョイは次第に心の安定を失っていく。

楽園のはずだった外の世界で待ち受けていた厳しい現実。
しかし、ジャックにとってはすべてが“はじめまして”の世界。
お日様の光、髪をなびかせる風、ぽっかり雲が浮かんだ空、ヒンヤリとした空気、おばあちゃん、おじいちゃん、義理のおじいちゃん。
戸惑いながらも少しずつ外の世界に馴染んでいくジャックの姿が物語の救いであり、この新たな世界でもまた違った形でジャックがジョイを支えることになる。

ジョイにとっては忌まわしい記憶と切り離せない場所。
ジャックにとってはマーと二人で暮らした幸せな記憶の場所。
それが、“ルーム”。
再び訪れた“ルーム”にジャックがさよならを告げた時、二人にとってはじめて“ルーム”は過去のものになる。

ジョイのトラウマが完全に消えることはないかもしれない。
この先ジャックは自分がどのようにしてこの世に生を受けたのかという辛い現実にぶつかるだろう。
二人の闘いはまだ終わったわけではないのだ。
その闘いは孤独な闘いになるかもしれない。
でも、もしも私たちに出来ることがあるとすれば、
それはジョイが戻ってきた世界、ジャックがはじめて出会う世界が素晴らしいものであるように(あり続けるように)祈り、自分に出来ることをすることなのだ。

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⚫︎ルーム/Room(2015アイルランド/カナダ)
監督:レニー・アブラハムソン
原作・脚色:エマ・ドナヒュー
出演:ブリー・ラーソン,ジェイコブ・トレンブレイ,ジョアン・アレン,ウィリアム・H・メイシー,トム・マッカムス,ショーン・ブリジャース

特に前半アップのシーンが多いのは、ジャックの視点でストーリーを見せるためだろう。
原作は全編ジャックの一人称でストーリーが進む。
後半、ジャックの世界が少しずつ広がっていくに従って、アップのシーンは少なくなっていく。

ラストシーン。
当初、プロダクションデザイナーはこのシーンで雪(人工の雪)を降らせたかったらしいのだが、それは予算の関係で諦めざるを得なかった。
しかし、当日撮影を始めると、
ホンモノの雪が降りはじめた、とのこと。

「はじめまして、世界!」
この作品は、ジョイを演じたブリー・ラーソンにオスカーをはじめ数多くの賞をもたらしたが、やはりジャックを演じたジェイコブ・トレンブレイ君の演技抜きには成立しなかっただろう。
彼のこの演技を引き出したということだけでも、監督レニー・アブラハムソンは賞賛に値するのでは?


公式サイトはこちら?映画『ルーム ROOM』 公式サイト TOP

予告編はこちら?映画『ルーム』予告編 - YouTube


映画から観るか?原作から読むか?
これは常に悩ましい問題だが、今回は先に原作を読んでいて良かった。
“ルーム”の中の様子はイメージ通りだったし、映画では描かれなかった部分(事情)も知っていることで、まるで二人に近い人間になったように感じられた。


?エマ・ドナヒューの原作はこちら