極私的映画案内

新作、旧作含め極私的オススメ映画をご案内します。時々はおすすめ本も。

ジョン・ウィック:チャプター2


ジョン・ウィック、完全覚醒!

今は亡き妻ヘレンからの贈り物である愛犬デイジーと愛車ムスタングを奪ったヨセフとその父親でロシアン・マフィアのボス、かつての雇い主でもあるヴィゴ・タラソフへの復讐を果たしたジョン・ウィック

事件から5日後、ジョンは奪われたムスタングの回収にヴィゴ・タラソフの弟アブラムの自動車工場へ向かう。
アブラムの部下を次々に倒し、ムスタングを奪還するも、その過程で車は無残な姿に成り果てる。

目的を果たし自宅に戻ったジョンは、
旧知の自動車修理工場のオーナー、オーレリオにムスタングの修理を依頼、再び武器を地下室の床に埋め戻す。

ところが、静かな暮らしは戻ってこなかった。
殺し屋稼業を引退する際に課せられた実行不可能なミッションを成功させるために手を貸してくれたイタリアン・マフィア、カモッラの幹部サンティーノ・ダントニオがジョンを訪ねてきたのだ。
サンティーノは血の契約である誓印のメダルを手にカモッラのボスで実の姉であるジアーナの暗殺をジョンに依頼する。
サンティーノはマフィアの国際的組織の代表メンバーである“主席”の座をジアーナから奪おうとしていたのだ。
しかし、ジアーナとも旧知の仲であるジョンはこれを拒否する。
これに激怒したサンティーノはジョンの自宅にバズーカ砲を撃ち込み、亡き妻ヘレンとの思い出が詰まった家は爆発、炎上してしまう。

家を失ったジョンは愛犬のピットブル(名前はまだない)と共にコンチネンタル・ホテルに身を寄せる。
ホテルのオーナー、ウィンストンに、
この世界での誓印の重要性を諭されたジョンは、
サンティーノの依頼に応えるべくイタリア・ローマへ向かう。

ジアーナが主催するゴージャスなパーティーに潜入するジョン。
しかし、ジョンの姿を目にし運命を悟ったジアーナは、自らナイフで腕を傷つけ、浴槽に身を沈める。
ジョンは彼女の頭に弾丸を一発撃ち込む。

辛い仕事をやり遂げ、借りを返した筈が、
ジョンはサンティーノから命を狙われる。
全世界の殺し屋にジョン・ウィック暗殺のオーダーが出される。
報酬は700万ドル


前作に比べて、ひとつのパンチたやキックの重みやダメージの大きさは感じられるものの、
スピード感、緩急、テンポといった点で、正直物足りなさは感じる。
個人的な感想だが、この二作目は、
シリーズとしての世界観を広げるという役割、位置付けではないか?
前作は、愛犬と愛車を奪われたことに対する復讐という個人的なストーリーだったが、
今作ではジョン・ウィックと、サンティーノをはじめ様々な登場人物との過去の経緯が示唆されており、
これは今後のストーリーの伏線になっていきそうである。

特に、女性ばかりが働く殺し屋組織コンチネンタルのアカウント部の描写が気になる。
次作では、この部署にもメイン・キャラクターを配してストーリーを広げていって欲しいし、
出来れば、私もここで働きたい!

さて、コンチネンタル・ホテルのルールを破り、
孤立無援となったジョン・ウィック
全世界の殺し屋に命を狙われる窮地をどう脱するのか?
それとも…。


次作では、
是非このピットブルに名前をつけてあげて欲しい!

=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=
ジョン・ウィック:チャプター2
/John Wick :Chapter 2
(2017アメリカ)
監督:チャド・スタエルスキ
脚本:デレク・コルスタッド
出演:キアヌ・リーブスリッカルド・スカルマチョ,ルビー・ローズ,ジョン・レグイザモ,コモン,ピーター・ストーメアイアン・マクシェーンローレンス・フィッシュバーンフランコ・ネロ,ランス・レディック,トーマス・サドスキー,ブリジット・モイナハン,クラウディア・ジェリーニ,ピーター・セラフィノウィッチ,トビアス・シーガル,ハイジ・マネーメーカー,YAMA



キアヌ・リーブスと並んでも見劣りしない
監督チャド・スタエルスキの格好良さ!



いただきました!ジョン・ウィック・シール!
でも、一体どこに貼ればいいのやら。。。



前作に引き続き登場のコンチネンタル・ホテル・ニューヨークのオーナー、ウィンストン(演じるのはイアン・マクシェーン)。
前作、ホテルでジョンを殺そうとした刺客ミズ・パーキンズはあっさり粛清したウィンストンでしたが、ジョン・ウィックに対しては除名処分とコンチネンタル・ホテルのルールも随分恣意的ではあります。



冒頭で前作の経緯を要領よく説明してくれるヴィゴ・タラソフの弟、アブラムを演じているのはピーター・ストーメア



今作で再びジョン・ウィックを地獄へ引きずり込み、
後戻り出来ない状況に陥らせるのが、イタリアの犯罪組織カモッラの幹部サンティーノ・ダントニオ。
演じるは、イタリア人俳優リッカルド・スカルマチョ
最近では、ブラッドリー・クーパー主演の『二ツ星の料理人』に出演するなど、ハリウッド作品にも出演しているが、彼の出演作ではローマの高校を舞台に三組の教師と生徒の関係を描いた『ローマの教室で 我らの佳き日々』がオススメ。リッカルド・スカルマチョは理想に燃える若き教師を演じています。



過去にジョン・ウィックに命を救われた(というより殺されかかった?)バワリー・キングを演じるローレンス・フィッシュバーン。構成員は皆ホームレス姿で、
伝書鳩を使って情報をやり取りしているらしいこの地下犯罪組織とキングは今後のシリーズでも活躍の場がありそうだ。
ローレンス・フィッシュバーンキアヌ・リーブスは、
マトリックスシリーズ以来の共演。



イタリアの犯罪組織カモッラのボス、ジアーナ・ダントーニ(サンティーノの姉)のボディ・ガード、カシアン役のコモン
ジョン・ウィックとは過去に何やらいわくありげだが、
詳細は明らかにされず。
ジョン・ウィックに胸を刺されるが、ジョンはナイフを抜くと出血多量で死ぬと言ってたので、なんとか生き残って次作にも出演して欲しい。



ジョン・ウィックに差し向けられる殺し屋の中でも一際印象的なsumo assassin を演じているのはなんと元幕内力士の山本山!(最高位は西前頭9枚目)
幕内最重量力士として覚えている人も多いかもしれないが、例の大相撲八百長問題に関わったとして現役引退。その後、アメリカに渡りYAMAという名前でタレント活動をしているとのこと。
ベン・スティラー監督『ズーランダー NO.2』にも出演しているらしい。



ローマ乗り込んだジョン・ウィックに武器を提供する“ソムリエ”を演じているのは、ピーター・セラフィノウィッチ
最近どこかで見かけたと思って調べたら、ポール・フェイグ監督『SPY/スパイ』に、メリッサ・マッカーシー演じるスーザンを後方支援する現地エージェント、
アルド役で出演していた!
この作品、ジュード・ロウジェイソン・ステイサムというビッグ・ネームが出演しているので他のキャストは陰に隠れがちだが、スーザンを助ける同僚ナンシー役のミランダ・ハートとピーター・セラフィノウィッチが陰の功労者だと思う。
ポール・フェイグ監督というと代表作は『ブライズメイズ 史上最悪のウェディング・プラン』と『ゴースト・バスターズ』ということになるのかもしれないが、
個人的にはこの作品とメリッサ・マッカーシーサンドラ・ブロック共演の『デンジャラス・バディ』がオススメ!



コンチネンタル・ホテル・ローマのオーナー、ジュリアス役は、マカロニ・ウェスタンのスター、
フランコ・ネロ
イアン・マクシェーンといい、フランコ・ネロといい、
チャド・スタエルスキの配役のセンスが光る!
フランコ・ネロの妻は、名優ヴァネッサ・レッドグレイヴ


公式サイトはこちら👉映画『ジョン・ウィック:チャプター2』オフィシャルサイト


予告編はこちら👉今度は家かよ!『ジョン・ウィック:チャプター2』予告編 - YouTube


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ありがとう、トニ・エルドマン


この父にして、この娘あり!

音楽教師のヴィンフリートは
他愛ないイタズラが大好き!
今日も今日とて、宅配便の配達員相手に悪ふざけ。
架空の弟トニになりすまして応対するが、
配達員も微妙な反応。

そこへピアノの個人レッスンを受けている少年がやって来て、もうレッスンを辞めたいと言い出す。
ヴィンフリートは君のためにピアノを用意したのに、
とか何とか言いながら少年にゾンビメイクを手伝わせる。
(これは退職する同僚教師のための送別会用のメイク。子供たちもお揃いのゾンビメイクで合唱を披露する)
年寄りで目が見えなくなった愛犬を連れ、
ゾンビメイクで母親を訪ねるヴィンフリート。
母親は、いい加減安楽死させたらと言うが、
ヴィンフリートは母親を安楽死させられないのに、
愛犬を安楽死なんてさせられないと減らず口を叩く。

「イネスが戻ってるって?」

母に尋ねられるヴィンフリート。
離婚した妻との間の娘イネスが赴任先のルーマニアブカレストから戻って来ていたのだ。
送別会の後、再婚している元妻宅に寄ると、
イネスの誕生日の前祝いが行われていた。
石油関連のコンサルタント会社で働くイネスは昇進、
念願の上海赴任が決まったという。
夫婦の離婚後、疎遠になってしまったのか、
それとも性格が違いすぎるのか、
父娘の間はギクシャクしている。
家族との団欒中にも、仕事の電話をしている。
(団欒抜け出すため、電話しているフリ?)
そんな娘の姿を見てヴィンフリートは心配になる。

俺の娘は本当に幸せなんだろうか?

そんな折、ヴィンフリートの愛犬がとうとう亡くなる。
喪失感に苛まれたヴィンフリートはブカレストのイネスをアポ無しで訪ねる。

イネスのオフィスが入るビルのロビーで、
偶然を装い娘を待ち伏せするヴィンフリート。
しかし、現れたイネスは父に気付く素振りを見せない。
諦めてホテルに向かおうとするヴィンフリートを
イネスのアシスタント、アンカが呼び止める。
イネスはちゃんと気付いていたのだ。
しかし、イネスはアメリカ大使館のパーティーやら、
高級ホテルのスパやら、取引先の奥様の買い物やら、
やたらと場違いな場所ばかりヴィンフリートを連れ回し、父親に居心地の悪い思いをさせる。
ヴィンフリートからの誕生日プレゼントである
チーズおろしにも微妙な反応のイネス。

こうして、父と娘の短い同居生活は終わりを告げる。

しかし、ヴィンフリートはこれしきのことでめげる父親ではなかった。
仕事が一段落して女友達と女子会に繰り出したイネスが父親について愚痴を言っていると、
変ちくりんな長髪のカツラに、
更に変ちくりんな入れ歯を入れたヴィンフリートが
トニ・エルドマンとして登場!
自らもコンサルタントだと自己紹介するヴィンフリートの突然の登場に、イネスは友人に本当のことが言えない!

大事なプレゼンを控えただでさえピリピリしているところに、ふざけた父親が突然現れたら、
そりゃあ誰だって困惑、
いや、むしろ激怒するかもしれない。
家族というのは、プライベートの最たるもの。
仕事モードの時には一番会いたくない相手だ。
だから、(ちょっと意地が悪すぎるけど)イネスの反応も理解出来ないこともない。
でも、とにかくヴィンフリートは娘イネスのことが心配で仕方ないのだ。
そんなパパごころも痛いほど分かる。
帰国するヴィンフリートを、
涙をぬぐいながら見送るイネス。
イネスだってヴィンフリートの気持ちはちゃんと分かっているのだ。
でも、素直になれない自分。
涙は父親に優しく出来ない自分の不甲斐なさに対する涙なのだ。

イネスの勤務先はコンサルタント会社。
控えていたプレゼンの内容は業務の合理化案。
これは、外部委託だったり人員削減だったり、あくまでも会社にとっての合理化案であって、
背後にはそこで働く人の犠牲が存在する。
優秀なイネスはそんなことは百も承知のはず。
こんな仕事はしたくない!
心苦しく思うような仕事でも、仕事だからやらなければならないこともあるだろう。
厳しい現実を見て見ないふりを強いられる場面もあるだろう。
同僚ティムとの愛のないセックスも、
クラブ通いも、ドラッグも、
気晴らし以外の何物でもないだろうが、
かえって虚しさを感じさせる。
常日頃感じながらもイネスが目をつむってきた現実を、
言葉も通じない地元の人たちとも直ぐに打ち解けてしまうヴィンフリートは子供のような無邪気さでイネスに突き付ける。
だから、イネスは余計に苛立つのだ。

パパ、そんなことはわかってるの!

そんなイネスの、ヴィンフリートから受け継いだDNAが覚醒する場面が、パーティーで知り合った女性宅で父からいきなり歌を無茶振りされるシーンだ。

集まった客の前で嫌々ホイットニー・ヒューストンの『グレイテスト・ラブ・オール』を歌い始めたイネスは見事に歌い上げ、ヴィンフリートを置き去りにして帰ってしまう。
しかし、これは彼女の中で何かが弾けた瞬間だった。

職場の結束のため、誕生日のパーティーに上司や同僚、友人を自宅に招くイネス。
しかし、客をもてなすために彼女が選んだドレスは少しタイト過ぎた。
屈むこともままならず、脱ごうとするが、
それにも四苦八苦。
ようやくドレスを脱いだイネスは何を思ったか
全裸になってしまう。
ヌーディスト・パーティーだと言うイネスに、裸を拒否して帰る客、そういう趣向かと素直に応じる客と反応も人それぞれ。
そこへルーマニアの妖精クケリの着ぐるみを着た
ヴィンフリートが登場する。

まさに、
この父にしてこの娘あり!

何やかんや言っても、
この二人、やっぱり親子。
イネスにだってきっと、
父の弾くピアノに合わせて歌い、
他愛ないイタズラを喜んだ時代があったのだ。
でも、幼い頃の自分のことなど、
娘は(息子は)都合よく忘れてしまう。
でも、父親にとって娘はいつまでも幼い頃の娘のまま。
自転車の乗り方を教えた頃の娘のままなのだ。

父と娘の時間は、多分思うより短い。
祖母の葬儀のために帰郷したイネス。
ラストの彼女の表情は、
きっとそれに気づいている。

だから、
ありがとう、トニ・エルドマン。

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⚫︎ありがとう、トニ・エルドマン
/Toni Erdmann (2016 ドイツ/オーストリア
監督・脚本:マーレン・アーデ
出演:ペーター・ジモニシェック,ザンドラ・ヒュラー,ミヒャエル・ビッテンボルン,トーマス・ビュッター,ハデビック・ミニス,ルーシー・ラッセルイングリッド・ビス,ヴィクトリア・コチアシュ

ドイツ大使館での試写会にて鑑賞。
普通の会議室椅子が並べられた会場に、
この椅子で162分の長尺、
お尻と腰が耐えられるのかとても不安だったのだが、
そんな心配は杞憂に終わった。
笑いながら泣いて、あっという間の162分だった。
父と娘、父と息子、母と娘、母と息子。
親子の物語は数多ある中で、
この作品が新鮮に映るのは、
トーリーの転がし方が巧みだったからではないか。
ホイットニー・ヒューストンの熱唱も、
全裸の誕生日パーティーも、
奇をてらったというよりも、
ごく自然な展開に見えるところが上手い。
あとはやはりヴィンフリートとイネスを
演じた二人の役者の力だろう。
ペーター・ジモニシェックも
ザンドラ・ヒュラーも素晴らしかった。
カンヌ映画祭では、
批評家に絶賛されたにもかかわらず無冠に終わったが
アカデミー賞外国語映画賞でもアスガー・ファルハディ『セールスマン』が受賞)、
受賞は審査員の好みや、
その時の“風”にも影響される。
カンヌやオスカーで無冠だったとしても、
この作品が年間ベスト級の傑作であることに
違いはない。


パーティーであった女性宅でヴィニフリートに乗せられてイネスが熱唱するのはホイットニー・ヒューストンのこの曲、
「THE GREATEST LOVE OF ALL」
歌詞の内容も彼女の心情にぴったりの絶妙な選曲だった。
👉Whitney Houston - Greatest Love Of All - YouTube

こちらはザンドラ・ヒューラーによる熱唱
👉Toni Erdmann - Greatest Love of All - YouTube



妖精クケリの全貌はこんな感じ。



ペーター・ジモニシェックとザンドラ・ヒューラー。
イタズラ好きのパパを演じたペーター・ジモニシェックはこんなにダンディ!


半ば俳優業を引退していたジャック・ニコルソンがリメイクを熱望!
ジャック・ニコルソンアレクサンダー・ペイン監督の『アバウト・シュミット』でも疎遠な娘を訪ねる父親を演じている。)
ということで、ハリウッド・リメイクが決まっているが、娘役はクリスティン・ウィグだという。
クリスティン・ウィグに恨みはないが、
彼女の出演作は、笑える時と笑えない時の落差が激しいので、個人的には、娘役はもっと意外性のあるキャスティングにして欲しかったところ。



公式サイトはこちら👉映画『ありがとう、トニ・エルドマン』公式サイト


予告編はこちら👉超個性的な父が、祖国を離れて仕事をしている娘に会いに来て…!映画『ありがとう、トニ・エルドマン』予告編 - YouTube


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ツイン・ピークス The Return Episode 1


伝説のドラマ・シリーズ『ツイン・ピークス』25年ぶりの新作『ツイン・ピークス The Return』。

I'll see you again in 25 years.

まさか本当に25年後に会えるとは!
しかし、前シリーズ以上、いや比べ物にならないほど謎が謎を呼ぶ展開にもうクラクラ。
というわけで、備忘録代わりに後々ヒントになりそうなポイントを整理。

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EPISODE 1

▪️ブラックロッジ(モノクロ映像)
クーパー捜査官巨人
巨人がクーパーに「この音を聴け」と蓄音機ある音を聴かせる。
貝がらを擦り合わせたような音。
巨人からのメッセージ。

It is in our house now.
今それは我々の家に
It all cannot be said aloud now.
今はそれを声に出してはならない
Remember 430.
忘れるな 430
Richard and Linda.
リチャードとリンダ
Two birds and one stone.
二羽の鳥と一石
You are far away.
お前は遠く離れている

▪️ツイン・ピークス:山中
ローレンス・ジャコビ医師
ジャコビ先生は森の中のトレーラー暮らし。
大量のスコップが届けられる。
一体何に使うのか?

▪️ニューヨーク
ビルの一室。大きなガラスボックス(窓が一つある)。
ボックスには何台ものカメラが向けられており、
監視している(データカードの交換もしている)らしい若い男(サム・コルビー)。
男の友人らしき女(トレイシー)がコーヒーを届けに来て中が見たいと言うが、男は断る。
部屋の外には屈強な警備員。

▪️ツイン・ピークス:グレート・ノーザン・ホテル
クレームを言ってきた客への対応を秘書ビバリー・ペイジに指示するベンジャミン・ホーン
相変わらず、葉巻を吸っている。
ジェリー・ホーンマリファナ水耕栽培で稼いでいるらしい。
ビバリー役はアシュレイ・ジャッド

▪️ツイン・ピークス:保安官事務所
受付にはルーシーの姿。
ネームプレートの名前はLUCY BRENNAN。
どうやらアンディと結婚した様子。
トルーマン保安官に客。
ルーシーは
「どっちの保安官ですか?」
「ひとりは病気で、ひとりは今釣りに行ってます」

※ふたりのトルーマン保安官?ハリー・トルーマン役のマイケル・オントキーンは出演しないはず。

▪️何処かわからない山の中
夜間山小屋にベンツが到着。
下りてきたのはデイル・クーパー捜査官?
長髪にアニマルプリントのシャツ、革ジャン姿(➡︎バッド・クーパー)。
見張りの男をあっけなく倒し、
山小屋に入るバッド・クーパー。
オーティスという年配の男が酒を飲んでいる。
ブエラという女がレイダーリャを呼んで来る。
部屋には長髪、オーバーオールの年齢不詳の男と性別年齢共に不詳の車椅子の人間も。
レイとダーリャを連れて出掛けるバッド・クーパー。

▪️ニューヨーク
グラスボックスの監視を続けるサム。
再び、コーヒーを持って来るトレイシー。
警備員はどこにもいない。
サムはトレイシーの願いを聞き入れ、部屋に入れる。
学費のためのアルバイトで監視作業をしているサム。
オーナーは匿名の大金持ちというウワサ。
部屋のこともボックスのことも他言禁止。

カウチでセックスを始める二人。
その時、グラスボックス内が闇に閉ざされボンヤリとした人影が現れ、二人に襲いかかる。

▪️サウスダコタ州バックホーン:とある集合住宅
買い物から戻ってきた太った中年女性(マージョリー・グリーン)が連れた小型犬(アームストロング)が隣室の異臭に気付く。警察に通報。
部屋の住人はルース・ダベンポート
管理人(バーニーは入院)は不在。
バーニーは不在時、弟に鍵を預ける。
マージョリーは弟の名前を知らず、バーニーの友人建物のメンテナンスをしているハンク・フィルモア(何やら悪事に関わっている様子)なら知っていると言う。
結局、鍵はマージョリーがルースから預かっていた。
異臭の元はベッドの上の遺体。
枕の上には、左目を撃ち抜かれたルースの頭部。
首から下は太った男性の遺体。

▪️ツイン・ピークス:保安官事務所
丸太おばさん(マーガレット・ランターマン)からホーク副保安官(副署長)への電話。
丸太からの伝言を伝える。

何かが行方不明
あなたがそれを見つけなければ
その何かがクーパー捜査官と関係している
見つけ出す方法は
あなたのルーツと関係がある

※丸太おばさんことマーガレットランターマン役のキャサリン・コールソンは闘病中だったのか、髪は失われ、鼻には管という痛々しい姿。
それでも出演したところに、デヴィッド・リンチとの絆の深さを感じさせる。

▪️サウスダコタ州バックボーン:バックボーン警察署、ウィル・ヘイスティングス
鑑識担当のジェーン・アダムスがルース・ダベンポートの部屋中に残された指紋の持ち主を突きとめる。
指紋は、地元高校の校長、ウィル・ヘイスティングス
デイブ・マックレー刑事は友人(高校からの釣り仲間)でもあるウィルを逮捕する。

▪️ツイン・ピークス:保安官事務所
ホークは過去の捜査資料から行方不明の何かを探し出そうとする。
ルーシー曰く
「クーパー捜査官が行方不明」
前シリーズで妊娠中だったルーシーの子どもは男の子でウォリーと名付けられた。
クーパーはツイン・ピークスの住人とは音信不通で、
ウォリーにも会っていない。

▪️サウスダコタ州バックボーン:バックボーン警察署、ウィル・ヘイスティングス
州警察から助っ人のドン・ハリソンが派遣される。
ルース・ダベンポートは図書館司書。
事件当日は秘書のベティを家まで送ったと供述するウィル。
ヘイスティングス宅の家宅捜索。
夫が逮捕されたというのに、今夜の客の心配をする妻フィリス。
デイブのチカチカ点滅する懐中電灯。
ウィルの車のトランクから肉片が発見される。

▪️ブラックロッジ(モノクロ)
巨人の姿。

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あれもこれも後々伏線になってきそうで、
何ひとつ見逃せない!特にブラックロッジで交わされた会話の内容は要チェック。
謎が謎を呼ぶ展開の第1話。オープニングとしては素晴らしい出来なんじゃなかろうか?
ニューヨークでサムとトレイシーを襲った得体の知れない怪物(その前にあのガラスボックスは何だって話)もサウスダコタの猟奇殺人事件も前シリーズよりもグロテスクな描写が目立つのは今シリーズは SHOWTIMEというケーブル局に製作が移った影響が大きいのかもしれない。

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⚫︎ツイン・ピークス The Return (全18回)
TWIN PEAKS THE RETURN
監督:デヴィッド・リンチ
脚本:デヴィッド・リンチ,マーク・フロスト

ツイン・ピークス The Return』予告編は、こちら👉Twin Peaks | It Is Happening Again | SHOWTIME Series (2017) - YouTube

👇前シリーズ『ツイン・ピークスBlu-rayはこちら

👇前シリーズの前日譚『ツイン・ピークス:ローラ・パーマー最期の7日間』Blu-rayはこちら

👇アンジェロ・バダラメンティによるサウンド・トラックはこちら

今月の読書〜2017年6月〜

今月は、エリザベス・ストラウト『私の名前はルーシー・バートン』ウィリアム・トレヴァー『異国の出来事』が双璧。
エンタメ作品では、異色のコンビが活躍する『パードレはそこにいる』ジェイン・ハーパーのデビュー作『渇きと偽り』がオススメ!


▪️冬の日誌/ポール・オースター
柴田元幸訳/新潮社
WINTER JOURNAL/Paul Auster/2012

60歳を越えた作家ポール・オースターの回想録。
身体に残された傷痕、愛した食べ物、
これまでに住んできた家、父の死、母の死、
そこから呼び起こされる記憶。
オースターはここで「君」という二人称を使っているが、これは回想録であっても、ある程度の客観性を保ちたかったということもあるだろう。
そして、昔の自分を「君」と呼びたくなるほど遠くに感じられる、時間経過のなせる技でもあるだろう。
表紙の写真はアンドレ・ケルテスによるもの。
昔行ったケルテス展の図録を引っ張りだしてみたら、
アンドレ・ケルテスは同じアングルの写真をたくさん撮っていた。

冬の日誌

冬の日誌


▪️分解する/リディア・デイヴィス
岸本佐知子訳/作品社
BREAK IT DOWN/Lydia Davis/1976,1981,1983,1986

偶然にもリディア・デイヴィスの元夫ポール・オースターの回想録『冬の日誌』を読んだばかりだったので、
オースターが元妻を悪く書いている訳ではないが、
この夫婦の関係が結局破綻してしまった理由がなんとなく分かるような気がした。
二人がパリ在住時にオースターの喉に魚の骨が刺さり病院に行ったエピソード(「骨」)は
オースターの本にも登場するのだが、
面白いのは、
彼女は「小さな魚の骨」と書いているのに、
オースターは「何しろ十センチ近い長さがあったのだ」と書いていることで、
この辺りは男女の違いなのかなあと思ったりした。
(収録作品)
⚫︎話
⚫︎オーランド夫人の恐れ
⚫︎意識と無意識のあいだー小さな男
⚫︎分解する
⚫︎バードブ氏、ドイツに行く
⚫︎彼女が知っていること
⚫︎魚
⚫︎ミルドレッドとオーボエ
⚫︎鼠
⚫︎手紙
⚫︎ある人生(抄)
⚫︎設計図
⚫︎義理の兄
⚫︎W・H・オーデン、知人宅で一夜を過ごす
⚫︎母親たち
⚫︎完全に包囲された家
⚫︎夫を訪ねる
⚫︎秋のゴキブリ
⚫︎骨
⚫︎私に関するいくつかの好ましくない点
⚫︎ワシーリィの生涯のためのスケッチ
⚫︎街の仕事
⚫︎姉と妹
⚫︎セラピー
⚫︎フランス語講座その1ーLe Meurtre
⚫︎昔、とても愚かな男が
⚫︎メイド
⚫︎コテージ
⚫︎安全な恋
⚫︎問題
⚫︎年寄り女の着るもの
⚫︎靴下
⚫︎情緒不安定の五つの徴候

分解する

分解する


▪️人生の段階/ジュリアン・バーンズ
土屋政雄訳/新潮社(新潮クレスト・ブックス)
LEVELS OF LIFE/Julian Barns/2013

突然の妻の死から5年。
作家としてこのテーマを素通りすることは出来なかっただろうが、やはり書くまでにはいろいろと逡巡があっただろうと思う。
しかし、これを読む限り作家はまだ、
なぜ彼女が?という突然襲った理不尽な病に対する怒りや悲しみの底にあって、トンネルの先の光は見えない。

「とにかく、自然ってほんとうに正確」

「大切さと痛みが正確に比例している。
ある意味、だからこそ痛みをじっと味わいつづけられるのだと思う。
どうでもいいことなら、もともと痛みなんてない」

つまるところ、友人からのこの言葉に尽きるが、
彼はまだこの域には達していないのだ。

人生の段階 (新潮クレスト・ブックス)

人生の段階 (新潮クレスト・ブックス)


▪️守護者/グレック・ルッカ
古沢嘉道訳/講談社講談社文庫)
THE KEEPER/Greg Rucka/1997

プロのボディガード、アティカス・コディアックは恋人アリソンの中絶手術に付き添う。
折しもクリニックの外では中絶反対派の運動が激しさを増しており、反対派と容認派双方が集まる会議への出席を控えていたクリニックの医師フェリスはアティカスに彼女とダウン症の娘ケイティの警護を依頼する。
正直プロットに然程新鮮味は感じられないものの、
シリーズの一作目にしてグレック・ルッカの長編デビュー作として考えると、
最後までこの緊張感を保ったのはなかなかのもの。
しかし、中絶反対派と中絶容認派、
ここにも深い分断がある。
他の方々も指摘している通り、
アティカスに協力する私立探偵ブリジットの言葉遣いはもうちょっとどうにかならなかったのかなあ。
スピンオフ(『耽溺者』)作品もある魅力的なキャラクターだけに勿体無い。

守護者 (講談社文庫)

守護者 (講談社文庫)


▪️奪還者/グレック・ルッカ
古沢嘉道訳/講談社講談社文庫)
THE FINDER/Greg Rucka/1998

プロのボディガード、アティカス・コディアックが活躍するシリーズの二作目。
前作の仕事で被った痛手から未だ立ち直れないアティカスはアルバイトでSMクラブの用心棒をしている。
そこで再会したのは四年前軍在籍時に警護した大佐の娘エリカ。
アティカスはエイズで余命わずかな大佐から娘の警護を頼まれる。
今作は、いわば離婚した大佐夫妻の娘の取り合いに巻き込まれた形だが、そこにSAS(英国陸軍特殊空挺部隊)が絡み話を膨らませている。
相手が手強いだけに緊張感も維持され、
前作に続き一気読み。
文学の合間のエンタメに必要な要素は十分だった。
今作でアティカスと恋人関係になるブリジット。
前作で彼女のアパートにレズビアン関係の雑誌もあったりでアティカスもそれを見ていた筈。しかし、彼女がバイセクシャルだったことを知って(何故気付かない?)ショック受けたりで、
アティカス、あんたの観察能力に疑いあり。

奪回者 (講談社文庫)

奪回者 (講談社文庫)


▪️彼女の家出/平松洋子
文化出版局

最近エッセイはあまり読んでいなかったが、
私にとって面白いエッセイとは、
すとんすとんと腑に落ちるか、あるいは新鮮なものの見方に目を開かされるかのどちらかなので、
そういう意味ではちょっと物足りなかった。
多分もう少し年をとればいちいちが腑に落ちるのかもしれない。
しかし、絹ごし豆腐に塩を擦り込んでふきんに包んで重しを乗せて冷蔵庫で一晩の塩豆腐は簡単だし美味しそうなので早速作ってみたい。
考えてみると、私のエッセイの原体験は十代の頃に読んだ向田邦子伊丹十三なんだなあ。すごく影響を受けていると思う。

彼女の家出

彼女の家出


▪️バージェス家の出来事/エリザベス・ストラウト
小川義高訳/早川書房
THE BURGESS BOYS/Elizabeth Strout/2013

幼い頃に父親を亡くしたバージェス家の子供たち。
長男ジムは著名な弁護士として一家の柱となり、
ジムに馬鹿にされ続けてきた弟のボブはそれでも兄と同じ法律の道へ進み、ボブと双子のスーザンはシングルマザーに。
不幸な事故によって家族に生じた歪みがやがてスーザンの息子ザックが起こしたある事件によって表面化する。
バラバラになりそうな家族、そして分断の危機に瀕したコミュニティを救うのは何か?
それはつまるところ、“赦し”だ。
誰もが多かれ少なかれ罪を犯し、
完璧な人間などいないのだから。
ただし、それは簡単なことではない。
仕方ないことだけど、
バージェス家の人々の圧倒的なリアリさに比べると、
ソマリ人コミュニティの人々については取材して書きました的なものを少し感じてしまう。
彼らの視点を小説の中に取り込みたかった意図は分かるが。。。

バージェス家の出来事

バージェス家の出来事


▪️私の名前はルーシー・バートン/エリザベス・ストラウト
小川義高訳/早川書房
MY NAME IS LUCY BARTON/Elizabeth Strout/2016

手術を終えればじきに退院出来る筈の盲腸炎で入院が長引くルーシー。
幼い二人の娘にも会えず、仕事に家事に忙しい夫は見舞いもままならず、不安な日々を送る彼女の元を訪れたのは疎遠になっていた母だった。
母と過ごす5日間は、主に故郷の人々の噂話に終始するが、その時ルーシーが一番側にいて欲しかったのはきっと母親だったろうし、その後の人生において、そして作家としても重要な5日間となる。
離婚、再婚、様々な出会い。ルーシーという人間、
作家を作り上げた要素はいろいろあれど、
家族との関係、特に母との関係は特別だったのだろう。
どんなに疎遠になっていても愛がない訳じゃない。
そんなに簡単に家族の縁がきれる訳じゃない。人それぞれに愛情の示し方があって、ルーシーの母にとってそれは、ベッドの足元に座り噂話をすることだった。

「私の母が愛してるという言葉を口に出せない人だったことを、読者にはわかってもらえないかもしれない。それでもよかったということをわかってもらえないかもしれない」

人のことなんかわかりゃしない。
自分のことだってわかってもらえないかもしれない。
それでもルーシーは書く。
そして、エリザベス・ストラウトも書き続ける。

私の名前はルーシー・バートン

私の名前はルーシー・バートン


▪️異国の出来事/ウィリアム・トレヴァー
栩木伸明訳/国書刊行会
A SELECTION OF STORIES/William Trever/1972,1975,1981,1986,1989,1992,2000,2007

旅先という非日常。
見知らぬ人とのつかの間の出会いと別れもあれば、
知っている筈の人の意外な面に驚かされることもある。
“非日常”というだけでも、旅の記憶に残りやすいが、
そこで起きたことはその後の人生において決定的な影響を及ぼしてしまうこともある。
長い人生においては短い時間でも、より劇的。
旅は短編小説そのもの。
傑作揃いだが、一瞬の恋が永遠だった「版画家」、
離婚で自分の人生を歩み始めた女性が苦い現実に直面する「家出」、父と娘がすれ違う「ザッテレ河岸で」、
親友だった少女を引き裂いた秘密を描く「娘ふたり」がお気に入り。

(収録作品)
⚫︎エスファハーンにて
⚫︎サン・ピエトロの煙の木
⚫︎版画家
⚫︎家出
⚫︎お客さん
⚫︎ふたりの秘密
⚫︎三つどもえ
⚫︎ミセス・ヴァンシッタートの好色なまなざし
⚫︎ザッテレ河岸で
⚫︎帰省
⚫︎ドネイのカフェでカクテルを
⚫︎娘ふたり

異国の出来事 (ウィリアム・トレヴァー・コレクション)

異国の出来事 (ウィリアム・トレヴァー・コレクション)


▪️パードレはそこにいる/サンドローネ・ダツィエーリ
清水由貴子訳/早川書房(ハヤカワ文庫)
VCCIDI IL PADRE/Sandrone Dazieri/2014

誘拐監禁事件の被害者であり現在はコンサルタントとして行方不明・失踪事件に関わるダンテ。
そして、逃亡犯によるレストラン爆破事件で重傷を負い休職中のコロンバ。
共にトラウマを抱える二人が新たに発生した少年の失踪事件に挑む。
ダンテは優秀なコンサルタントで実績も十分だが、
事件のトラウマでひどい閉所恐怖症で長く車に乗っていることもままならない。
コロンバも辞職を考えている。
そんな二人が事件にのめり込んでいく過程が読みどころ。
少年を狙った連続誘拐監禁事件と思いきや、
その背後には冷戦終結、製薬会社の新薬開発など大きく風呂敷を広げた割には結末は小さく畳んだ印象はある。
ただし、著者はテレビの脚本を書いてるだけあってストーリー展開は巧みで一気読み。
片やパニック障害、もう一方は重度の閉所恐怖症という小さくはないハンデを背負っている、そして女性のコロンバは腕っ節が強く、
一方男性のダンテはガリガリの痩せて戦闘能力では全く役立たずという主人公二人のキャラクター設定が新鮮!
面白かったです。
それにしても、コロンバが所属するのは機動隊、国家憲兵に県警に郵便・通信警察と、
イタリアの警察組織は複雑。

パードレはそこにいる (上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

パードレはそこにいる (上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

パードレはそこにいる (下) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

パードレはそこにいる (下) (ハヤカワ・ミステリ文庫)


▪️渇きと偽り/ジェイン・ハーパー
青木創訳/早川書房ハヤカワ・ポケット・ミステリ
THE DRY/JANE HARPER/2016

旱魃被害に苦しむ故郷の田舎町で妻と子を道連れに自殺した幼馴染ルーク。

「ルークは嘘をついた。きみも嘘をついた」

息子の自殺を信じないルークの父親からの手紙を受け取った連邦捜査官アーロンは葬儀のために帰郷する。
そして彼は、20年前故郷の町を出る原因になった事件に再び向き合うことになる。
二つの事件の真相が少しづつ明らかになる構成の妙(現在パートと過去パートの配置)と主人公をはじめとしたキャラクター造形が見事。
旱魃で土地も人々の心も死にかけた町の姿がリアルに迫ってくる。
これがデビュー作とは思えない筆力。
今後も追っていきたいシリーズです。

渇きと偽り (ハヤカワ・ミステリ)

渇きと偽り (ハヤカワ・ミステリ)

これが私の人生設計


人生は短い!運をつかめ!


イタリア、アブルッツォ州の山村アンヴェルサで生まれたセレーナ・ブルーノ。
彼女は1歳と乳歯2本の時にはもう既に野心作を描いていたが、身内はその才能にまだ気づいていなかった。
彼女の才能に最初に気付いたのは幼稚園の先生だった。
セレーナはお人形遊びよりも
“建設業”に夢中!
村人は次々と他の田舎町に越していき、人口は半減。
それでもセレーナは
壁職人の父の仕事を手伝う毎日に満足だった。
高校の卒業制作の設計案が海外で賞を取り、
アップルのコンピュータ(スティーヴ・ジョブズのサイン入り!)を賞品としてゲット!
ローマ大学建築学部に進んだセレーナは優秀な成績で卒業すると、その後はモスクワ、北京、ドバイ、ワシントンと世界各国で修士号を取りまくり現在はロンドンで数々の現場を任されバリバリ働いていた。
しかし、仕事にはやりがいがあったが、
ロンドンのどんよりした天気にほとほとウンザリしたセレーナは故郷イタリアに帰ることを決意する。

次のステップを踏み出す時ね

ところが、故郷に帰ってみれば建設業界は男性優位。
いやハッキリ言えば、男尊女卑の世界
文句なしの輝かしい経歴を持つセレーナでも
なかなか仕事が見つからず、今の職場は地元民が死の三角地帯と呼ぶローマ郊外。
家具販売店でインテリアデザインのアルバイトで食いつなぐ日々。
建築の仕事といえば、
成金相手の霊廟のデザインくらいなもの。
更に泣きっ面に蜂、
セレーナは父親の形見のバイクを悪ガキ共に騙し取られ、バイクを追って荒廃した公共住宅団地に迷い込む。


住人でさえ自分の部屋がわからなくなるような画一的な公営住宅の作り。
そして、そこら中に水溜り。
そこでセレーナが目にしたのは、
“共同スペース案募集”の貼り紙。
これがセレーナの建築家魂に再び火をつける。

しかし、蓄えは一年で底をつき、
レストランでウェイトレスのアルバイトをすることに。
レストランオーナー、フランチェスコ
超ホットなバツイチ男!
店で働く女の子たちはみんな彼にメロメロ。
フランス語、ドイツ語、日本語までも操りメニューの説明をするセレーナにフランチェスコは目をとめる。

一方、ようやく面接にこぎつけたセレーナ。
採用と思いきや、契約書には
妊娠したら解雇の文言。
海外働いてきたセレーナにとってはあり得ない条項だった。

何かと親切なフランチェスコ
絶対に自分に気がある!とセレーナはすっかり思い込む(足マッサージはヤバいよ!)が、
実は彼はゲイだった!

すっかりその気になっていたセレーナと、
ゲイだということはセレーナも了解済みだと思っていたフランチェスコ
気まずいままだった二人はフランチェスコがセレーナのアパートを訪ねて仲直り。
二人は親友に。
公募の締め切りまであと10日。
アパートの立ち退きにあったセレーナはフランチェスコの家に間借りすることになる。

これで再び建築家モード!
再び団地を訪ね、不便に感じていること、
共有スペースには何が必要か、住民たちに聞いて回る。
女性たちが集まっておしゃべり出来る場所、
子供たちの遊び場、学生のための学習スペース。
住民たちの意見を設計案に反映させていく。

いよいよプレゼン当日。
応募者はほとんど男性。
勇気を奮い起こしプレゼンを始めようとすると、
審査員は応募者を
セレーナ・ブルーノではなく
ブルーノ・セレーナという男性だと思い込んでいることが発覚。
セレーナはとっさに
ブルーノ・セレーナは現在仕事で大阪に滞在中と嘘をつき、アシスタントのふりをしてプレゼンを切り抜ける。

セレーナの設計案は見事採用されるが、
設計士はブルーノ・セレーナ
設計案が正式承認されるまで3週間。
さあ、どうする?
セレーナ・ブルーノ!

セレーナがブルーノのアシスタント、ジュリア・コンティとして3週間詰めることになる設計事務所は、
所長に絶対服従
ところが、所長リパモンティはとんでもなく無能で実質の所長は彼の秘書のミケーラ。
バモンティはミケーラの献身の上に胡座をかく、
形ばかりの所長だった。
妊娠や性的嗜好、薄毛を隠して働き続ける所員、
所長のご機嫌をとるためにユヴェントスファン(本当はナポリのファン)を装う所員。
そんな設計事務所でセレーナはフランチェスコをブルーノの身がわりに正式承認までの3週間を乗り切ろうとするのだが。。。


この映画の製作は、
ローマ郊外に実在する公営住宅コルヴィアーレで採用された女性建築家グエンダリーナ・サリメイのリフォームプラン「緑の空間」がヒントになっている。
女性建築家が世界的に活躍することが珍しくないが、
ここで描かれるイタリア建設業界の男性優位の現状は多少の誇張はあれ現実のものなんだろう。
国によって違いはあれど、
女性というだけで正当に評価されなかったという経験は(女性であれば)誰にでも(多かれ少なかれ)あると思う。
しかし、女性が悔しい思いをしていることに対して、
意外と男性は無関心だし、忍耐を強いている人間は、
周囲の人間の我慢強さに鈍感だ。
この構図は、程度の差こそあれ、世界中どこの国のどの社会でも残念ながら一緒だろう。
そんな理不尽な状況の中で、
周囲を巻き込み協力を得て、
なんとか自分の仕事をやり遂げようとするセレーナの姿には誰もが共感できるはずだ。

周囲を巻き込むヒロインというのは、
ともすれば押しが強すぎて好感が持てないこともあるが、フランチェスコが言うように、
猪突猛進型だが、どこか間が抜けていて人がいいセレーナは放って置けないタイプだ。
しかし、ここぞという時には、はっきり主張し筋を通す強さも持つタフで魅力的なヒロインだと思う。

テンポよくスピーディなストーリー展開はコメディの必須条件。
本作はこの条件をクリアした楽しい作品であることはもちろんだが、観ればきっと元気をもらえる、
世の中の理不尽と闘うすべての大人に観て欲しい一本。

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これが私の人生設計/Scusate se esisto !
(2014 イタリア)
監督:リッカルド・ミラーニ
脚本:ジュリア・カレンダ,パオラ・コルテッレージ,フリオ・アンドレオッティ
出演:パオラ・コルテッレージ,ラウル・ボヴァ,マルコ・ボッチ,エンニオ・ファンタスティキーニ,コラード・フォルトゥーナ,ルネッタ・サヴィーノ,チェーザレ・ボッチ,フェデリカ・デ・コーラ,アントニオ・ダウジーリオ,フェリス・ファリーナ,フランカ・デ・シコ,フィロメナ・マクロ,マッテオ・フォティ,ステファニア・ロッカ,ジェノヴェッファ・サンドリーニ

※『ハリー・ポッター』シリーズでお馴染み、
ロンドン、キングス・クロス駅の9と3/4番線も登場!目を凝らしてよーく観て!



左から監督のリッカルド・ミラー二,セリーナ役のパオラ・コルテッレージ,レストランのセクシーなオーナー、フランチェスコ役のラウル・ボヴァ。
パオラ・コルテッレージは脚本にも参加、監督のリッカルド・ミラー二は実生活のパートナー。



男を作れ!とせっつくセレーナのママと言葉が訛りすぎていてセレーナさえ何を言ってるのかわからない伯母さん。いつも絶妙なタイミングで現れる。
二人が作る料理が美味しそう!
ご馳走になりたい!


公式サイトはこちら👉映画『これが私の人生設計』公式サイト

予告編はこちら👉世界を舞台に活躍してきた女性建築家が故郷イタリアに戻ったものの…!映画『これが私の人生設計』予告編 - YouTube


👇『これが私の人生設計』のDVDはこちら

これが私の人生設計 [DVD]

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20センチュリーウーマン


大恐慌時代のように

舞台は、
1979年カリフォルニア州サンタバーバラ

ドロシアとジェイミーの親子がスーパーで買い物を終え家に帰ろうと店の外に目をやると、
駐車場では乗ってきた車が炎上中。
ドロシアの別れた夫が残していったおんぼろフォードがとうとう壊れたのだ。

炎上した車を消火してくれた消防士を食事に招待するドロシアに、いちいち消防士を食事に呼ぶ?と信じられないといった表情のジェイミー。
ジェイミーも15歳の思春期真っ只中。
日に日に何を考えているか分からなくなっているドロシアは母親だけではジェイミーの成長を助けられないのではないかと思い始める。

間借り人のウィリアムは好人物で大人の男性としてジェイミーのロールモデルになれそうだったが、
肝心のジェイミーはウィリアムの話に全然興味が持てない様子。
ドロシアはもう一人の間借り人写真家のアビーとジェイミーの幼なじみで二歳上のジュリーにジェイミーを見守って欲しいと頼む。

大恐慌時代は
ご近所みんなで子どもの面倒をみたのよ


ドロシア 1924年生まれ 55歳
40歳という当時としては高齢出産でジェイミーを授かったドロシアは離婚後女手一つで息子を育ててきた。
ジョン・アップダイクを読み、ウサギの木彫りを彫る。
ジェイミーとの朝の儀式は新聞の株価欄のチェック。
セーラムのタバコを大量に吸い、
ビルケンシュトックを履く。
理想の男性はハンフリー・ボガート
長らくデートはご無沙汰。


ジェイミー 1964年生まれ 15歳
学校の授業をサボったり、
夜遊びしたりと何かと難しいお年頃の15歳。
幼なじみのジュリーに恋しているが、
肝心のジュリーには
「あんたが性に目覚めてから面倒くさい」
と言われ、キスもさせてもらえない。
変わり者の母ドロシアにあきれることもあるが、
母の人生は果たして幸せなのかどうか案じている。
スケボーとトーキング・ヘッズが好き。


アビー 1955年生まれ 24歳
ニューヨークで写真の勉強をし仕事もしていたが、
子宮頚がんと診断され地元に戻ってきて手術を受けた。
経過観察では問題なかったものの、
将来妊娠は難しいと宣告されてしまう。


ジュリー 1962年生まれ 17歳
近所に住むジェイミーの幼なじみ。
ジェイミーと同じく両親は離婚。
母の再婚後妹が生まれたが障害があるため、
両親の関心は妹に集中しがちで家に居場所がないと感じている。
セラピストの母の集団セラピーには強制参加。
ほぼ毎日のようにジェイミーのベッドで眠る。


ウィリアム 年齢不詳
ヒッピーの恋人の後を追って西海岸に移り住んだが、
結局ヒッピー暮らしには馴染めずに今は自動車の修理や半端な大工仕事で暮らしている。
彼の人生は今まさに“踊り場”状態にある。


ドロシアはアビーとジュリーにジェイミーを見守って欲しいと頼むが、助けが、支えが必要なのは何もジェイミーだけではない。
ドロシア自身も子離れする時期にきていて、
これから自分自身の人生を考えるべき時を迎えている。
子どもを持つのは難しいと宣告されたアビーが支えを必要としているのはもちろんだが、
家に居場所がないジュリーも、
人生踊り場状態のウィリアムも、
これからどう生きていくのか考える時を迎えている。


僕にはママがいれば大丈夫だよ


母親の支えだけでは不十分だと思いこんでいたドロシアがこのジェイミーの言葉でどんなに安堵し、
嬉しかったかは、息子がいなくても分かり過ぎるくらい分かる。
でも、ドロシアがアビーやジュリーに助けを求めたことが無駄だったかといえばそんなことはない。
ジェイミー自身まだ気づいてないかもしれない。
しかし彼は、ジュリーには幼なじみとしてベッドを共有することを許し彼女にシェルターを提供し、
不安を抱えるアビーには通院に付き添うことで、
他人をどう支えるか、
どう寄り添ったらいいのかを学んだ。
男としてはジュリーに拒絶されるが、
実らない初恋もまた少年の通過儀礼なのだ。


1979年の夏。
ちょっと奇妙な疑似家族が
大恐慌時代のように互いを支え合った夏の日々。
この夏がそれぞれにとってどんな意味があったのか?
それは何年も何年も経って、
ようやく気付くこと。
それが、
どれだけかけがえのない夏だったのか。

=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=
⚫︎20センチュリーウーマン
/20th Century Women(2016アメリカ)
監督・脚本:マイク・ミルズ
撮影:ショーン・ポーター
音楽:ロジャー・ネイル
衣装:ジェニファー・ジョンソン
美術:クリス・ジョーンズ
編集:レスリー・ジョーンズ
出演:アネット・ベニンググレタ・ガーウィグエル・ファニング,ルーカス・ジェイド・ズマン,ビリー・クラダップ


大きな起承転結のあるストーリーではないだけに、
どの役も役者の力量が問われる作品。
アネット・ベニングゴールデングローブ賞にノミネートされたが、主要キャストの五人すべてが素晴らしい仕事をしているし、それを引き出したマイク・ミルズも演出力も見事。


「男を育てるのは男でしょ」

「子育てって大変そうね」
「どんなに愛してても、しんどいことだらけ」

「あなたは外の世界のあの子を見られる、
うらやましいわ」


名台詞オンパレードのマイク・ミルズの脚本はアカデミー賞脚本賞ノミネート。




55歳のドロシアを演じたのは
実年齢58歳のアネット・ベニング
若い頃(『グリフターズ詐欺師たち』の頃)も勿論美しかったが、最近のシワもシミも隠さない自然体も素敵。
見習いたい、いい歳の取り方。



ジェイミーを翻弄する幼なじみのジュリーを演じるのは実年齢19歳のエル・ファニング
少女から大人の女性への過渡期、壊れそうな繊細さと大人びた物言い、両方が同居する17歳のジュリーを見事に体現している。
以前は“ダコタ・ファニングの妹のエル・ファニング”だったが、最近は逆転している印象あり。
大人の女性に変貌していく中で、
その時々で自分にぴったりの作品選びも賢い。
こんな幼なじみ、側にいたら、たまんないよね。



劇中、デヴィッド・ボウイに影響されたというアビーの髪は綺麗な赤。
ショートのヘアスタイルも赤い髪色もグレタ・ガーウィグによく似合っている。
ブロンドより個性的でいい!
アビーのモデルはマイク・ミルズの姉とのこと。



個性的な三人の女性に囲まれかけがいのない夏を過ごすジェイミーを演じるのは初めましてのルーカス・ジェイド・ズマン。
イライジャ・ウッドをもう少しシャープにした感じの美少年。
目がキラキラ!
どんなハンサム青年に成長するのか楽しみです。



主要キャラクターの中でも一番つかみどころのない難役と言っても過言ではないウィリアムを演じたのはビリー・クラダップ
この疑似家族の中で目立たないけれども、
唯一の大人の男性として重要な役どころ。
若い頃には主演作も多かったけれども、
最近では脇に回ってもいい仕事をしている印象。
歳を重ねてますますセクシー!



このシーンに象徴されるように、
全編を通じて柔らかい光が優しく作品を包む。
一緒にこのビーチを散歩したい。



たとえば、Tシャツひとつとっても何度も洗濯を繰り返して布がクタッと柔らかくなっている感じとか、同じアイテムをきちんと着回しているスタイリングが素敵!
ひとりの人物のコーディネートはもちろんだけど、
各キャラクターが集まった時の色のバランスもいい。


友だちとの殴り合いのきっかけになってしまうこのトーキング・ヘッズのTシャツはマイク・ミルズの私物でお姉さんからのプレゼントだそう。



公式サイトはこちら👉映画『20センチュリー・ウーマン』公式サイト | トップページ

予告編はこちら👉【本予告】『20センチュリー・ウーマン』 6/3(土)丸の内ピカデリー/新宿ピカデリーほか全国公開 - YouTube


👇母世代のルイ・アームストロングデューク・エリントンから息子世代のトーキング・ヘッズ
デヴィッド・ボウイまで網羅したサントラはこちら

20センチュリー・ウーマン

20センチュリー・ウーマン


👇マイク・ミルズの前作は父と息子の物語。
人生はビギナーズ』のDVDはこちら

今月の読書〜2017年5月〜

もうすぐ映画が公開される怪物はささやくも良かったが、5月はやっぱり『ビリー・リンの永遠の一日』『スウィングしなけりゃ意味がない』の二冊。
社会の深い分断を露呈するアメリカ、人々に浸透していたジャズが頽廃敵性音楽として禁止されるナチス政権下のドイツ。どちらも息苦しい社会の中でも真っ当に生きようとする若者の姿が印象的に描かれている。


⚫︎天才 勝新太郎春日太一
文藝春秋(文春新書)

勝新太郎の兄若山富三郎の『子連れ狼』(勝プロ製作)シリーズの春日さんの解説が面白かったので手に取った一冊。
リアルタイムの勝新の記憶というと黒澤明の『影武者』降板劇辺りからなので、どうしてもトラブルメーカーのイメージが強かった。
ようやく最近、『兵隊やくざ』『悪名』シリーズを観て、勝新の凄さ、魅力に気付いた次第。
本書に描かれるスキャンダルの裏の「いい作品を作りたい」という勝新の情熱にあらためて胸打たれた。
勝新太郎座頭市が一心同体になってしまったあたり、表現者として純粋過ぎたのかもしれないな。
勝新の『影武者』『戦場のメリークリスマース』、『マッドマックス』のプロデューサーが持ち込んできた企画、どれも観て観たかった!
未見の『不知火検校』と『顔役』も観なければ。

天才 勝新太郎 (文春新書)

天才 勝新太郎 (文春新書)


⚫︎ビリー・リンの永遠の一日/ベン・ファウンテン
上岡伸雄訳/新潮社(新潮クレストブックス)
Billy Lyn's Long Halftime Walk/Ben Fountain/2012

イラク版『キャッチ=22』と言われているそうだが、ここで兵士達が囚われている場所は戦場ではなく巨大なスタジアムだ。
感謝祭のカウボーイズ対ベアーズ戦。
戦場の英雄たちの凱旋ツアーの最終目的地。
まさに戦意高揚のための宣伝部隊。
彼らの過酷な経験で儲けようとする映画業界。
熱狂的な歓迎と浴びせられる称賛の中で露わになるのはどうしようもなく深い分断だ。
戦地に送る人間と送られる人間との大きな溝。この溝が埋まることのないことを知っている兵士達の深い諦念。19歳のビリーが見た、
アメリカという国の真実の姿がここにはある。
ちなみに、小説の中ではカウボーイズは7対31の大差で負けますが、2004年11月25日の実際のベアーズ戦は21対7でカウボーイズが勝利。まあ小説の中ではこれが在るべき試合結果だと思います。
ハリウッドスターは実名で言及されますが、カウボーイズのオーナー、選手はすべてフィクション。
アン・リー監督による映画が今年公開予定だったのが、賞レースに絡まなかったからなのか何なのか、現時点でいつ公開されるのか未定。
歌姫テイラースイフトとの交際発覚で、ビリーを演じた若手俳優ジョーアルウィン知名度がグッとアップして無事公開となればいいんだけれど。
詳しくはこちら👉ビリー・リンの永遠の一日 - 極私的映画案内

ビリー・リンの永遠の一日 (新潮クレスト・ブックス)

ビリー・リンの永遠の一日 (新潮クレスト・ブックス)


⚫︎ブラインド・マッサージ/畢飛宇ビー・フェイユイ
飯塚容訳/白水社(EXLIBRIS)
Massage/Bi Feiyu/2008

南京の「沙宗琪マッサージセンター。
この店で働く盲人たちの悲喜交々、人間模様を描く群像劇。盲人同士が助け合って生きている閉鎖的なコミュニティの中で巻き起こる騒動といえば恋愛沙汰だが、
それはどんな職場でもよくある話。
しかし、視覚情報が得られない時、人は人の何に恋するのだろう?先天的に見えない人にとっては「美」という概念さえ謎であり、それは見える人から得られる情報でしかない。
しかし、彼らも「美しさ」に無頓着な訳でもない。
彼らにとっても「美しさ」は常に武器になるからだ。
とはいえ、視覚情報に頼らない感情は、やはりより純粋に感じられるのも確かだ。
読んでいてすごくマッサージに行きたくなったんだけれど、私だったら王先生を指名する!

ブラインド・マッサージ (エクス・リブリス)

ブラインド・マッサージ (エクス・リブリス)


⚫︎怪物はささやく/パトリック・ネス,シヴォーン・ダウド原案
池田真紀子訳/あすなろ書房
A Monster Calls/Patrick Ness(Siobban Daud/2011

主人公が子どもでも大人でも身近な人の死をどう乗り越えるのかというお話は珍しくはない。
ただ、この物語が他とは違うのは死にゆく人の周りの人間にとっては(或いは死にゆく人にとっても)、死は解放でもあるという事を描いている点だと思う。
「もうじき母さんはいなくなるってわかっててただ待ってるなんて耐えられないからだ!
終わってほしいんだよ!
さっさと終わらせたいんだ!」

コナーはこう考えてしまった事で罪悪感に苛まれるが、この気持ちはよく分かる。
どんなにその人を思っていても結局かわいいのは自分。
耐えられないのは自分なのだ。
コナーと同じ時間を過ごしたことのある人ならば、きっと多くの人がこの罪悪感に苦しだんじゃないだろうか?
喪失感、そして罪悪感に折り合いをつけること、多分“喪の仕事”というのはこれら二つを合わせたものなのだろう。
YA小説にカテゴライズされているが、何度か別れを経験している大人により響くストーリーだと思う。
『インポッシブル』『永遠の子どもたち』のJ・A・バヨナ監督で映像化。
劇場公開は6月9日。
『永遠の子どもたち』もホラー風味の良作だったので期待大です。
怪物の声にリーアム・ニーソンというキャスティングは、怪物の正体を考えると、とても気が利いてます。

怪物はささやく

怪物はささやく


⚫︎台湾生まれ日本語育ち/温又柔
白水社

台湾で生まれ日本語で育った台湾人作家温又柔のエッセイ。
一番自由に使えるのは日本語で長く日本で暮らしているのに日本人ではない。
このあたりの感覚は日本生まれ日本語育ちの一般人にはよく分からない感覚だが、言葉というのは何処に住むかということ以上にその人のアイデンティティと切っても切り離せないものだと思う。
日本統治下で日本語を学ぶ事を強制された台湾のお年寄りが今でも日本語が話せるというのは知っていたが、あの時代、日本語で小説を書いていた作家がいたことは初めて知ったので興味深かった。
連載をまとめたものだから仕方ないのかもしれないが、同じ話を何度も繰り返しているのが気になった。
まあ、この中のどれか一編を読むのなら気にならないだろうが、“台湾生まれ日本語育ち”という要素を除くとエッセイとして面白いか?というと疑問も残る。

台湾生まれ 日本語育ち

台湾生まれ 日本語育ち


⚫︎自殺/末井昭
朝日出版社

そのものズバリのタイトルだし、著者である末井さんの母親は末井さんが7歳の時に隣家の息子とダイナマイト自殺したとか、とにかく自殺に関する本であることは確かだけど、これがとても面白い。
「ダメなままで生きていてもいいよ」と丸ごと肯定してもらったような気がした。
自殺まで考えなくても人間誰しもネガティブな考えにはまって堂々巡りすることはあるもので、そんな時にこの本は“効く”と思う。
末井さんは正直で優しい。
一番印象に残ったのは青木麓さんのご両親の心中の話。
自分たちの人生にすごく満足してもう十分生きたから、そういう理由でまだ若い娘たちを残して心中という選択をするというのが驚きというか、こういう言い方は不謹慎かもしれないけど、ある意味新鮮だった。
2014年第30回講談社エッセイ賞受賞作。

自殺

自殺


⚫︎第三帝国/ロベルト・ボラーニョ
柳原孝敦訳/白水社
EL TERCER REICH/Robert Bolaño/2010

少年時代の夏を過ごした思い出のホテルで恋人との初めての休暇だというのに、旅は最初から“終わりの始まり”の不穏な空気に満ちている。
現地で知り合った情緒不安定なドイツ人カップルの片割れチャーリー、〈火傷〉と呼ばれ顔、胸、腕に火傷痕のあるボート貸しの男、病気で姿を見せないホテルのオーナー。
ウォーゲーム「第三帝国」。
ドイツ王者ウドは負ける筈のない〈火傷〉との対戦で追い詰められ降伏する。
たかが、ボードゲーム
しかし、この降伏によってウドは決定的に変えられてしまったように感じられた。
もう彼は以前の彼には戻れないのだ。

第三帝国 (ボラーニョ・コレクション)

第三帝国 (ボラーニョ・コレクション)


⚫︎スウィングしなけりゃ意味がない It Don't Mean A Thing (If It Ain't Got That Swing)/佐藤亜紀
KADOKAWA

ナチス政権下のドイツ・ハンブルクで“頽廃敵性音楽”スウィングジャズにシビれ歌い踊った若者たちの青春グラフィティ。
どんどん暗く息苦しくなっていく社会でしなやかに強かに生きていく彼らの姿は痛快だが、
そんな彼らも無傷ではいられない。
心身共に傷つきながらも最後の矜持は守りつつ少年から大人の男に成長していく。
史実とフィクションが融合したプロットも素晴らしいが、エディ、マックス、クー、エリー&ダニーのベーレンス兄弟の主要キャラは勿論、登場キャラクターの人物造形がお見事。
マックスのピアノ(レンク教授との連弾、アディとのセッション!)が聴きたい!
彼らの話し言葉が今の日本の若者言葉なのは、これが遠い昔の外国のお話ではなく、今を生きる私たちの物語だという作者からのメッセージではなかったか?
『吸血鬼』に続き、二作目の佐藤亜紀
『吸血鬼』とはまったくテイストが違うことに驚く。

スウィングしなけりゃ意味がない

スウィングしなけりゃ意味がない