極私的映画案内

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今月の読書 〜2019年6月〜

今月の読書2019年6月分をまとめました。
今月はあまり読めなかったのですが、
なんといっても、
ジョナサン・フランゼン『ピュリティ』
800ページ超のボリュームですが、
一気に読ませる圧倒的な筆力に脱帽です。


■ロイスと歌うパン種/ロビン・スローン
島村浩子訳
東京創元社
SOURDOUGH/Robin Sloan/2017

テック企業に高年収で転職したロイス。
ところが、多忙とストレスで心身共にボロボロ。
食事はもっぱら栄養補給ゼリーのお世話になる始末。
そんな悲惨な彼女の食生活を救ったのは、
謎めいた兄弟がデリバリーする
スパイシー・スープとサワードゥ!
アメリカを離れることになった兄弟はサワードゥのスターターを彼女に託して帰国する。
数多くの微生物が同居するクレメント・ストリート・スターターが素晴らしいサワードゥを作るように、
歌う天然酵母とロボットアーム、真逆に思えるもの否定せずに共存させているのがいい。
どちらも大事にしてこそ未来が拓けるのだ。
ファーマーズ・マーケットの出店システムとか、
ロイス・クラブとかビールの醸造所とかアグリッパのチーズとか〈カフェ・カンディード〉、サンフランシスコ、素敵な街だなあ。
〈カフェ・カンディード〉のオーナー、
シャーロット・クリングストンのモデルってオーガニック料理の母」と言われてるアリス・ウォータースさんかな?

ロイスと歌うパン種

ロイスと歌うパン種


■ダ・フォース/ドン・ウィンズロウ
田口俊樹訳
ハーパーコリンズ・ジャパン(ハーパーBOOKS )
THE FORCE/DON WINSLOW/2017

NY市警特捜部、麻薬取引捜査を担当する“ダ・フォース”でチームを率いるデニス・マローン。
脅し、賄賂、暴力、何でもあり。
売人、ギャング相手に綺麗事を言ってたら命がいくらあっても足りない。
「マンハッタン・ノースの王」
そう自負するマローンだったが、
その驕りが彼を窮地に陥れる。
街中では縄張りを争う売人同士が互いの脳みそをふっ飛ばし合い、まだほんの子供が腕に注射針を突き立てたまま死ぬ。
仕事が終われば、隣人とお喋りをし、良き父親として子供たちの相手をする。
その落差にマローンは耐えられない。
彼は刑事というより、過酷な戦場で戦う兵士なのだ。
デニー・マローンは、何故ディエゴ・ペーナを殺したのか?
この本当の理由が明かされなかった前半はマローンや仲間たちに感情移入するのは難しい。
金、血、そして白い粉にまみれ、ドツボにハマったマローンは自業自得に思える。
ところが、ペーナ殺害の理由が明らかになると、根本のところでマローンを突き動かしていたものは、悪に対する義憤だと分かる。
希望と誇りと信念に満ち、
人生最良の日だった警察学校卒業の日。
その日からマローンはどこで間違え、道を踏み外していったのか?
これは間違いなくマローン個人だけの問題ではなく、社会全体の問題だ。
前半は言い訳がましい感じで今ひとつ乗れなかったが、後半は少し格好つけ過ぎじゃないかと思うくらいすごくエモーショナルな展開だった。
現在、監督ジェームズ・マンゴールドで映画化構想中とのこと。
カルテル』はリドリー・スコットで撮影中らしいが、
20世紀フォックスがディズニー傘下に入ってどういう内容になるのかちょっと心配です。

ダ・フォース 上 (ハーパーBOOKS)

ダ・フォース 上 (ハーパーBOOKS)

ダ・フォース 下 (ハーパーBOOKS)

ダ・フォース 下 (ハーパーBOOKS)


■予告殺人/アガサ・クリスティー
田村隆一
早川書房クリスティー文庫
A MURDER IS ANNOUNCED/Agatha Christie/1950

地元紙に掲載された殺人予告、突然の暗転、怒号、銃声、巨額の遺産相続人、行方不明の双子。
まさにアガサ・クリスティーといったお膳立てが揃った王道ミステリー。
ミス・マープルにせよポアロにせよ金田一耕助にせよ、
探偵が最後に関係者を集めて謎解きをしてくれるミステリーが私は好きなのかもしれない。
これもドラマ版を観ていたはずだったのだが、やっぱり真相はうっすらとしか覚えていなかった。
まあ、忘れるからこそ何度でも楽しめるということで、我が記憶力の劣化を慰めることにしよう。


■ピュリティ/ジョナサン・フランゼン
岩瀬徳子訳
早川書房
PURITY/Jonathan Franzen/2015

これまで現代アメリカを生きるありふれた人々の姿を圧倒的な筆力で描いてきたフランゼンだが、
新作は、代替エネルギー会社で働き奨学金返済を抱える23歳のピップの経済的苦境から物語が始まる。
父親の名前を決して明かそうとしないピップの情緒不安定な母親をはじめ登場人物も大分エキセントリックだ。
しかし、つまるところ、親子、夫婦、その間で起きるあれやこれやである。
タイトルは『ピュリティ』だが、人は誰もが純粋なままでは生きられない。
正しくあろうとしても、皆何らかの罪悪感を抱えて生きざるを得ないのだ。
ああ、これぞ、人生。
どんな人でも、その人生は時代に左右される。
インターネットと既存のジャーナリズム、
冷戦終結ベルリンの壁崩壊、フェミニズム、巨大複合産業。
ここ何十年かの世界の潮流も背景としてしっかり描かれていてお見事。
読んでいて一番しんどかったのは、トムとアナベルの関係だった。
こういう関係にハマったら地獄です。

ピュリティ

ピュリティ

ジョナサン・フランゼンの他の作品もオススメです。

コレクションズ

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コレクションズ (上) (ハヤカワepi文庫)

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コレクションズ (下) (ハヤカワepi文庫)

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フリーダム

フリーダム


■声の物語/クリスティーナ・ダルチャー
市田泉訳
早川書房(新★ハヤカワ・SF・シリーズ)
VOX/CHRISTINA DALCHER/2018

全ての女性から話すことも読むことも書くことも奪われたディストピア世界。
同性愛者は収容所送りで過酷な強制労働を課せられる。
大統領を操り、この政策を推し進めるのは、
キリスト教右派のテレビ伝道師コービン牧師。
現実にもアメリカ大統領の強力な支持基盤はキリスト教右派だし、ここまで極端でなくとも確実にこの世界を望んでいる一派は存在して、
そこにリアリティがある。
主人公の学生時代の友人が言う。

「自由でいるためには、
何をしなくちゃいけないか考えてみなよ」

これはこの世界に生きる全ての人に問いかけられている。
学校教育によって洗脳され母親すら見下すようになるスティーヴンが愚かしくも痛々しい。
これは、フィクションだとか他の国のことだからとか言っていられない、今そこにある危機。すごくムカつくし、心底恐ろしい。

声の物語 (新ハヤカワ・SF・シリーズ)

声の物語 (新ハヤカワ・SF・シリーズ)

こちらは男女逆転のディストピア世界を描いた
ナオミ・オルダーマンの『パワー』
読み比べてみるのも一興。

パワー

パワー


■路地裏の子供たち/スチュアート・ダイベック
柴田元幸
白水社
CHILDHOOD AND NEIGHBORHOODS/Stuart Dybek/1971,1973,1974,1975,1976,1978,1979,1980

ここに描かれているシカゴの下町は、ただ単純に懐かしいというよりも、多分そこに住んでいる時にはいつか出て行くと思い定めているような場所。
忘れたいのに忘れられない、
気づけば心が舞い戻ってしまう場所。
大人になった彼らが幾分苦さと共に思い出す場所。
ダイベック二十歳の頃の作品だという「長い思い」冒頭を飾る「パラツキーマン」(レイに何が起きたのか?)「慈善」「見習い」辺りがお気に入り。
ほとんどが1970年代に書かれたものだが、
映像的には、ドラマシリーズ『シェイムレス 俺たちに恥はない』で脳内補完。
舞台は同じシカゴ南部の荒れた地域。
現代ではスノッブな小金持ちに侵食されつつある。
まあ、『シェイムレス』に登場するギャラガー家の子どもたちは逞しく生きているけれど、そこに暮らす人の痛みは今も変わっていないような気がする。
ダイベックも『シェイムレス』観てるかな?
〈収録作品〉
⚫︎パラツキーマン The Palatski Man
⚫︎猫女 The Cat Woman
⚫︎血のスープ Blood Soup
⚫︎近所の酔っ払い Neighborhood Drunk
⚫︎バドハーディンの見たもの
Visions of Budhardin
⚫︎長い思い The Long Thoughts
⚫︎通夜 The Wake
⚫︎ザワークラウトスープ Sauerkraut Soup
⚫︎慈善 Charity
⚫︎ホラームービー Horror Movie
⚫︎見習い The Apprentice

こちらもシカゴを舞台にしたスチュアート・ダイベックの短編集

僕はマゼランと旅した

僕はマゼランと旅した

シカゴ育ち

シカゴ育ち

The Witch /魔女


彼女が覚醒する時

養護施設を思わせるような施設。
血塗れの幼い子どもが廊下に座り込んでいる。
奥の寝室の中央はシートに覆われ、
その周囲には鉄パイプを手にした男たち。
壁や床に飛び散ったおびただしい血痕。
シートの下には子どもたちが?
その時、シートの下で裸足の足がピクッと動く。

「頭をぶち抜きなさい」

男たちの上司らしき女が命令する。

しかし、一人だけ施設から逃げ出した少女がいた。
必死に走った彼女がたどり着いたのは、
ある牧場の敷地のはずれだった。
少女は、牧場の主であるク夫妻に保護され、
彼らの元で暮らすようになる。

それから10年。
ジャヨンと名付けられた少女は、牧場や家事を手伝うかたわら、学業成績も優秀な高校生に成長していた。
しかし、牛の取引価格の暴落で畜産農家は大打撃を受け、ク夫妻の牧場も経営危機に陥り、
牛の飼料代にも困っていた。
しかも、養父は病み上がり、
養母は認知症を発症していた。

そんなある日、ジャヨンは親友のミョンヒからスター発掘番組「スター誕生」について聞かされる。
賞金総額は5億ウォン
ミョンヒは、これで牛の飼料代も養母の治療費も払えるとジャヨンに出場を勧める。
学業だけでなく、歌も絵も得意なジャヨンは地区予選を見事突破する。
喜ぶジャヨンとミョンヒをよそに、養母はジャヨンが予選で特技を披露したのを見て心配する。

「世間は自分たちと違う人を放っておかない」

テレビに映っているのは、マイクを宙に浮かせてみせるジャヨン。
ミョンヒは手品だと信じていたが、
ジャヨンは特殊能力の持ち主だったのだ。
そして、彼女は度重なる頭痛に苦しめられていた。

ソウルで行われる本選へ向かうジャヨンとミョンヒが列車に乗り込むと、前に座った若い男が英語まじりで話しかけてくる。
ジャヨンを知っているらしい男は彼女の名前も知っていた。

「番号で呼ばれるよりははるかにマシだよな」

ジャヨンは、人違いだと目に涙を浮かべる。
薄笑いを浮かべ、席を立った男は連結部分でぶつかってきた男の手首を一瞬で砕き、首を折り、片手で死体をぶら下げると列車の外に放り出した。

ソウルの本選で無事ベスト16に進出したジャヨンだったが、直後に再び頭痛に襲われ鼻血を出してしまう。
養父母には内緒だったが、実はジャヨンは医師に余命2、3ヶ月を宣告され、本当の両親を探し、骨髄移植の手術を受けるようすすめられていたのだった。

ジャヨンとミョンヒがテレビ局の外に出ると、二人の前に黒塗りのセダンとワンボックスカーが止まる
車を降りた男は芸能プロダクションの人間だと名乗り、話がしたいから車に乗るように迫る。
二人は男たちに囲まれてしまうが、とっさにミョンヒがタクシーを止め、事なきを得る。
どう見ても、男たちは芸能プロダクションの人間ではない。

地元駅に到着し、バスを待っているジャヨンの前に一台の車が止まる。
乗っていたのは列車の中で会った男。

「お前の親は年だからすぐ死んでも不審に思われない
急いで帰れ これは忠告だ 幸運を祈る」

しかし、二人が牧場に戻ってみると、養父と警官であるミョンヒの父親が和やかに将棋を指していた。
帰り際、ミョンヒの父親はジャヨンに牧場の前に不審な車が止まっており、乗っていた人間はアメリカ出身らしいが、知り合いかと尋ねる。
気がかりだというミョンヒの父親に
ジャヨンはきっと人違いだと答える。

しかし、ある夜、事態は一転する。
夜中、再び頭痛に襲われたジャヨンの耳に
階下から物音が聞こえる。
慌てて部屋の外に出たジャヨンのこめかみに銃が突きつけられる。
泊まっていたミョンヒの首にはナイフが突きつけられていた。
彼らは、テレビ局の前で二人を取り囲んだ男たちだった。
列車の男同様、彼らもジャヨンを知っているらしい。
知らない、人違いだと言うジャヨンに、
彼女に重傷を負わされたと言うリーダー格の男が人違いだと証明してみろと迫る。
ミョンヒの首筋がナイフで傷つけられた次の瞬間、
ジャヨンは突きつけられていた銃を奪うとあっという間に5人の男の頭を正確に撃ち抜き、
リーダー格の男を壁に追い詰め、顔面を素手で殴りつける

「なぜ私に構うの?
違うと言ったでしょ
何度言えば分かるの?」

「バカなことを抜かすな
だったら今のお前の姿は何だ
この怪物め
あの時息の根を止めるべきだった」

ジャヨンは表情を一切変えずに男の頭を撃ってトドメをさす。


恐ろしく不穏な冒頭が「起」
ごく普通の女子高生ジャユンの生活描写、
養父母のため賞金目当てでスター発掘番組に出演、
ここまでが「承」
襲撃を契機に彼女が覚醒する「転」
この展開が伏線の張りようも含めて素晴らしい。
何気ないシーンが「転」に至って、
パズルのピースが次々とはまるように
俄然違う「絵」を見せる。

そうだったのか!

ドクター・ペクが属し、ジャユンを作り上げた組織、
会社とは、本社とはどんな組織なのか?
何が目的で組織されたのか?
ミスター・チェが会っていた男は誰なのか?
そして、ジャユンの本当の両親は何処に?
様々な謎が明かされていないが、
この「結」の部分は続編に持ち越された。

しかし、最後のあの女、誰よ!?

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●The Witch 魔女/The Witch:Part 1-The Subversion
(2018 韓国)
監督・脚本:パク・フンジョン
撮影:キム・ヨンホ
音楽:モグ
出演:キム・ダミ,チョ・ミンス,チェ・ウシク,パク・ヒスン,コ・ミンシ,ダウン,チェ・ジョンウ,キム・ビョンオク,オ・ミヒ,クォン・テウォン

『TheWitch 魔女』予告編はこちら👉『The Witch/魔女』予告編 - YouTube


監督は潜入捜査官ものの傑作『新しき世界』で男だらけの暑苦しい(←褒めてる)世界を描いたパク・フンジョン
(詳しくはこちら👉新しき世界 - 極私的映画案内
感心したのは、アクションシーンの見せ方が上手くてすごく見やすいこと。
特に、最終版は特殊能力者同士の現実離れしたバトル次から次へと繰り出されるのだが、
テンポよくスタイリッシュなアクションシーンは何度でも繰り返して見たいくらいだ。


「起」「承」「転」のギア・チェンジを担っているのはジャユン役の新星キム・ダミの演技だ。
キム・ダミはク・ジャヨンという女子高生を演じていながら、そのジャヨンは記憶喪失の優等生を演じているのだ。二役演じているのと同じではないか?
それを考えるとこれは相当の難役だ。
観客に馴染みのない新人俳優だからこそ、
何の先入観もなくジャヨンというキャラクターを受け入れられたということもあるかもしれないが、いきなりこういう新人が出てくるとは、韓国映画界恐るべし。
アクションについては相当トレーニングを積んだらしいが、その成果か、終盤のアクションシーンのキレは素晴らしい。
続編では、どんな演技、アクションを見せてくれるのか、今から楽しみである。

現在、24歳のキム・ダミ。美しい!✨


ジャヨンと同じ施設で育ち、ドクター・ペクの指揮下で動いている男クィ・ゴンジャを演じたのは、チェ・ウシク
ジャヨンが施設から逃げ出した時には、彼女の後を追うも捕まってしまった。
彼だって施設から逃げ出したかったのだ。
「俺たちの人生、クソだな」
というセリフにそんな彼の思いが詰まっていた。
大ヒット作『新感染 ファイナル・エクスプレス』では、恋人を守って勇敢にゾンビと闘う野球少年を演じていた。


ジャヨンやゴンジャの生みの親、ドクター・ペクを演じているのは、チョ・ミンス
キム・キドク監督の『嘆きのピエタ』では壮絶な復讐を決行する母親を演じていた。


失敗作だとドクター・ペクから蔑まれる特殊能力者の第1世代ミスター・チェ役はパク・ヒスン
『サスペクト 哀しき容疑者』では、脱北した元特殊部隊員のコン・ユを追いかける軍人役でした。


ジャヨンの親友ミョンヒを演じたコン・ミンシ
ヘビーなストーリーの中で、彼女の明るさは、まさに一服の清涼剤。
歩くところでもスキップしてしまうような等身大の女子高生を体現していた。

ジャヨンの育ての親で元建築家ク先生役のチェ・ジョンウやミョンヒの父親で警察官役のキム・ビョンオク韓国映画やドラマを観ているとよく見かけるお顔。
特に、キム・ビョンオクは怪演が多いので、
この映画でも思わず身構えてしまったが、
普通にいいお父さんでいい警察官でした。
パク・チャヌク監督の『オールド・ボーイ』『親切なクムジャさん』にも出演している。

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『新しき世界』も三部作の一作目として製作されており、このシリーズも一体どうなっているのか気になるところ
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Love、サイモン 17歳の告白


少しだけ勇気を出して話をしよう


アメフトの元クオーターバックの父ジャック、
元卒業生代表の母エミリー、料理番組に感化されてすっかりシェフ志望の妹ノラ。
そんな家族に囲まれてジョージア州アトランタに暮らすサイモン・スピアーは高校卒業を控えた17歳。
幼稚園からの幼馴染、リアとニック、
半年前新しく加わったアビーがいつもの仲間。
ごく普通の高校生活を送るサイモンだが、
ひとつ大きな秘密を抱えていた。
それは、彼がゲイだということ。
このことは、家族にも親友たちにも話していない。

ある日、学校の掲示板に匿名でゲイであることを書き込んだ人物が生徒たちの間で大きな話題になる。
皆の興味は、Blueは誰なのか?
そんな騒ぎをよそに、自分と同じことで悩んでいる生徒がいたことにサイモンはいてもたまらずメールを送る。匿名Jacquesから。
こうして、メールのやり取りが始まり、
二人はあっという間に親しくなっていく。

ところが、ある日、図書室のパソコンでblueとメールのやりとりをしていたサイモンは、たまたま次にそのパソコンを使った演劇クラスで一緒のマーティンにメールの内容を読まれ、ゲイであることを知られてしまう。

同じく演劇クラスで一緒のアビーに想いを寄せているマーティンは秘密を黙っている代わりに、アビーと自分の仲を取り持つようサイモンを脅迫する。
学校内でもゲイをカミングアウトしている生徒はいた。イーサンだ。
イーサンは強気で言い返してはいたが、
一部の男子生徒のからかいの対象になっており、
サイモンは不安だった。

そんなある日、男に騙された叔母さんを慰めに母親が留守になるというブラムがハロウィン・パーティーを開くというので、サイモンは仕方なくマーティンも誘う。
サイモンとリアは、ジョンとヨーコ、
サッカー部のニックはクリスチャーノ・ロナウド
アビーはワンダーウーマンの衣装でキメてパーティーに繰り出す。

パーティーのホスト、ブラムはハワイで休暇を楽しむオバマ元大統領になっていたが、
その言動から、彼こそがBlueだとサイモンは思い込む。
ところが、ブラムが女の子とイチャつているところを目撃してしまい、サイモンはすっかり落胆してしまう。
リアは泥酔したサイモンを連れ帰り、
そのままスピアー家に泊まる。

酔いも覚めて、素面に戻ったサイモンにリアがつぶやく。

「ひとりの人がずっと好きで辛くてたまらない」

進学や友人関係、そして恋愛。
十代なんて、誰だって何かに悩んでいる。


この映画はよくあるカミングアウトものではない。
ここで問題になっているのは、
自分の意志とは別に、第三者によって同性愛者だということを暴露されてしまうアウティングだ。
もちろん、サイモンだってカミングアウトしたかっただろう。
でも、いつ、どんな形で、誰にカミングアウトするかはサイモンが決めることであって、
誰かに無理に強いられたり、暴露されたりすることではない。

ただ、サイモンが親友たちに距離を置かれてしまったのは、彼がゲイだったことじゃなく、
アビーをデートに誘いたかったニックにアビーには年上の恋人がいると嘘をついたことや、
幼稚園からの仲のリアとニックよりも付き合いの浅いアビーに先にカミングアウトしたことや、
サイモンを思い続けていたリアの気持ちにまったく鈍感だったからだ。

アイデンティティを確立するためには、
自分が何者であるのかを知ることも重要だが、
ありのままの自分を受け入れてくれる誰かが存在することも同じくらい大事なことだ。
いつも一緒にいる家族や親友だからといって
思っていることをすべて話しているわけじゃない。
でも、少しだけ勇気を出して素直になって
話をしてみれば難しく考えていたことも思いの外簡単に解決するかもしれない。


そして、ストーリーを牽引する謎。
Blueとは一体誰なのか?
やっぱり、パーティーのホスト、ブラム?
それとも演劇クラスのカル?
ワッフルハウスでバイトをしているライルなのか?


サイモンの両親役はジョシュ・デュアメル、ジェニファー・ガーナーとネームバリューのある俳優が演じているが、あくまでも脇役に徹しているところに好感が持てる。
それでいて、サイモンの心が揺らいだ時には両親がしっかり支える。
頼りない副校長でさえもこの映画では大人たちがさすがの対応を見せる。
中でも、サイモンやイーサンを嘲笑する生徒に演劇クラスの先生が見せた姿勢には喝采を送りたい。
そう、これは親や先生世代の大人にとっても、お手本になる作品なのだ。

思い起こせば、十代の頃に見えている世界には大人はほとんど存在感しなかった。
彼らの世界を占めている、そのほとんどは友人関係だろう。
その世界の居心地が悪ければ、ほとんど地獄。
そんな感覚を思い出した。

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●Love、サイモン 17歳の告白/Love,Simon
(2018 アメリカ)
監督:グレッグ・バーランティ
脚本:アイザック・アプテイカ
原作:ベッキーアルバータリ『サイモンvs人類平等化計画』(STAMP BOOKS)
撮影:ジョン・ガレセリアン
音楽:ロブ・シモンセン
出演:ニック・ロビンソン,キャサリン・ラングフォード,アレクサンドラ・シップ,ジョージ・レンデボー,キーナン・ロンズデール,ローガン・ミラー、クラーク・ムーア,ジョーイ・ボラーイ,マイルズ・ハイザー,タリタ・ベイトマン,ナターシャ・ロスウェル,トニー・ヘイル,ジョシュ・デュアメル,ジェニファー・ガーナー

アメリカでは、評価も興収も良かったのに
なんと日本では劇場未公開作品
今作を多くの人に鑑賞してもらいたいと、
サイモンの母親役ジェニファー・ガーナーほか、ニール・パトリック・ハリスマット・ボマーらが自費で映画館を貸し切り、無料上映会を開催したそうだ。
日本では漫画の実写化作品が多く製作されているが、
主なターゲットになっているだろう年代の人たちにはこういう作品も観て欲しいし、
身近な問題として考えて欲しいなあと思う。


予告編はこちら👉Love, Simon | Official Trailer 2 [HD] | 20th Century FOX - YouTube



サイモンを演じるのは、ニック・ロビンソン
ごく普通の高校生活を送りながら、大きな秘密を胸に秘めるサイモンを繊細に演じている。
ジュラシック・ワールド』で、パークを恐竜から逃げ回る兄弟のお兄ちゃんと言えば、思い出す人も多いかもしれない。



サイモンの幼なじみリアを演じたのは、
キャサリン・ラングフォード
今後の出演作として期待が高まるのは、
スターウォーズ/最後のジェダイ』のライアン・ジョンソン監督の『Knives Out 』。
(全米公開2019年11月27日)
ダニエル・クレイグクリス・エヴァンスマイケル・シャノン、アナ・デ・アルマス、トニ・コレットジェイミー・リー・カーティスという強力な出演陣。
現代を舞台にしたアガサ・クリスティー風ミステリーとのことだが、どんな作品になっているのか?

詳しくはこちら👉ダニエル・クレイグ主演、ライアン・ジョンソン監督作をライオンズゲートが配給 : 映画ニュース - 映画.com



サイモンの親友の一人で男子にモテモテなアビーを演じたのは、アレクサンドラ・シップ
彼女の代表作といえば、『X-MEN 』シリーズのストーム役。
現在、『X-MEN:ダーク・フェニックス』が公開中。


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Love、サイモン 17歳の告白はこちら👇

原作本サイモンvs人類平等化計画はこちら👇

サイモンvs人類平等化計画 (STAMP BOOKS)

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ジュラシック・ワールドはこちら👇

X-MEN:アポカリプスはこちら👉



ジェニファー・ガーナーの代表作として推したいのは、『ダラス・バイヤーズクラブ』。
この作品は、男優陣(マシュー・マコノヒージャレッド・レト)の演技が高く評価されたが、彼女の存在感も抜群だった。

詳しくはこちら👉ダラス・バイヤーズクラブ - 極私的映画案内

ダラス・バイヤーズクラブはこちら👇

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ダラス・バイヤーズクラブ [DVD]

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ショート・ターム


癒すひともまた傷ついている


問題を抱えたティーンエイジャーが暮らすグループ・ホーム〈SHORT TERM 21〉
大学を休学中の新人スタッフ、ネイトに先輩メイソンが新人時代に門番を担当した時のエピソードを話している。
門番とは、施設から脱走する収容者を見張る役目のことだ。
メイソンが、上司のグレイスに命令され、
門番をやっていると、メイソンより30センチも身長の高い収容者の少年が出て行こうとしていた。
スタッフは、基本的に敷地外に出た収容者の身体に触れることは出来ないので、メイソンは彼の後からついて行くことにした、
しかし、メイソンはその日食べたタコスが当たったのか、腹具合が悪かった。
少年を追ってバスに乗ったはいいが、腹具合は風雲急を告げ、今すぐトイレに駆け込みたいレベルに悪化していた。
少年がバスを降りたので、仕方なくメイソンも降りたが、その瞬間、肛門決壊!
お気に入りのナイキのスニーカーが台無しになってしまった。
少年はメイソンの失敗を皆に広めるべく、その日は施設に戻ったが、後日再び脱走し、その2日後に死んだ。
笑い話のはずが、とんだオチがついてしまい、
笑っていたネイトも真顔に戻る。

すると、突然奇声を発しながら下着姿のサミーが建物を飛び出してくる。
グレイスに言われ、慌ててサミーを追いかけるネイト。
三人がかりで、どうにか敷地内でサミーを取り押さると、グレイスは優しく声をかけて落ち着かせる。

周囲からの信頼も厚い若きケア・マネージャーのグレイス。
朝のミーティングで、18歳の誕生日を迎え施設を出るマーカスの送別会について話題にする。
その場で、新人ネイトも挨拶するが、彼の
「恵まれない子どもたち」という不用意な発言でマーカスが激昂してしまう。
退所することは、本来ならば喜ばしいことのはずだが、
マーカスはピリピリしていて、不安そうだ。

所長のフランクに呼ばれたグレイスは、
新しい入所者ジェイデンが来ることを知らされる。
ジェイデンは母親を亡くした後に荒れ、
施設を出たり入ったりを繰り返しているという。
友人がジェイデンの父親の知り合いだという所長が直々に頼まれたのだ。
週末は自宅に戻るというジェイデンは他の皆と親しくしようとしない。
いつも独りで、絵を描いている。
自身も絵を描くことが好きなグレイスは、
ジェイデンの中にかつての自分の姿を見る。

今ではケア・マネージャーとして子どもたちの頼れる親代わり、姉代わりのグレイスだが、
彼女自身も問題を抱えた子どもだった。
ジェイデンの入所が、グレイスの記憶をよみがえらせる。
そして、グレイスは今、もう一つ、問題を抱えていた。
同僚でもあり恋人でもあるメイソンの子どもを妊娠していたのだ。
グレイスはメイソンに妊娠を告げずに中絶手術の予約を入れる。

最近様子のおかしいグレイスには、メイソンも気づいており、何かあるなら話すよう彼女に迫る。
しかし、グレイスは頑なに話そうとしない。

〈SHORT TERM 21〉の名の通り、
入所した子どもたちは、基本的に1年未満で施設を出て行く。
短い時間でスタッフに出来ることは少ない。
一口に問題を抱えていると言っても、
妹を亡くし心の安定を失ったサミーや母親から虐待を受けていたマーカスなど、子どもたちの数だけ問題はあり、千差万別なのだ。
所長の言う通り、すべての子どもを救うことは出来ない、悲しいかなそれは事実だろう。
しかし、素晴らしい里親に恵まれ愛情を注がれて育ったメイソンのように、一人でも多くの子どもたちが未来をつかめるようにサポートする、それは国が違っても同じ仕事に携わるすべての人の思いだろう。
耳をふさぎたくなるようなニュースが少なくない中で、色々な状況下で苦しい立場に追い込まれている子どもたちが存在することをいつも心の何処かにとめておきたい、あらためてそんなことを思った。

グレイスが最終的にどんな選択をし、
どうやってジェイデンやマーカスを支えるのかは本編を観てもらいたいが、
ラスト、冒頭とまったく同じシチュエーションでメイソンが語るエピソードは私たちに希望をもたらすとともに、映画の構造的にも見事な円環を成している。


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●ショート・ターム/SHORT TERM 21
(2013 アメリカ)
監督・脚本:デスティン・ダニエル・クレットン
撮影:ブレット・ポーラック
編集:ナット・サンダース
音楽:ジョエル・P・ウエス
美術:レイチェル・マイヤーズ
出演:ブリー・ラーソン,ジョン・ギャラガー・Jr,ラミ・マレック,ケイトリン・ディーヴァー,キース・スタンフィールド,ケヴィン・エルナンデス,ステファニー・ベアトリス,リディア・デュ・ヴォー,アレックス・キャロウェイ,フランツ・ターナー,ダイアナ・マリア・リーヴァ,メローラ・ウォルターズ

『ショート・ターム』は、サウス・バイ・サウスウエスト映画祭で審査員賞、観客賞を受賞した他、各映画祭で高く評価された。

公式HPはこちら👉映画『ショート・ターム』オフィシャルサイト 11.15公開

予告編はこちら👉11.15公開『ショート・ターム』予告編 - YouTube



グレイスを演じたブリー・ラーソンは今作の演技が評価され、『ルーム』に出演。
見事オスカー俳優の仲間入りを果たし、
その後の『キャプテン・マーベル』ではマーベル・ヒーローとなり、監督業にも進出してしている。
今年公開されたデスティン・ダニエル・クレットン監督の『ガラスの城の約束』にも出演しているが、監督の次回作『Just Mercy 』(2020年公開予定)にも出演。
マイケル・B・ジョーダン、ジェイミー・フォックス、オシェア・ジャクソン・Jr(父はアイス・キューブ!)共演ということで、こちらも楽しみ!

👇『ルーム』(監督:レニー・エイブラハムソン)はこちら

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👇『ルーム』の原作『部屋』(エマ・ドナヒュー)はこちら

部屋

部屋

部屋 上・インサイド (講談社文庫)

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部屋 下・アウトサイド (講談社文庫)

部屋 下・アウトサイド (講談社文庫)

👇『キャプテン・マーベル』はこちら



新人スタッフ、ネイトを演じたのはラミ・マレック
ご存知大ヒット映画『ボヘミアン・ラプソディ』でフレディ・マーキュリーを演じ、こちらも見事オスカー俳優となった。

👇『ボヘミアン・ラプソディ』はこちら



グレイスの同僚で、恋人でもあるメイソン役は
ジョン・ギャラガー・Jr
ブロードウェイ・ミュージカル『春のめざめ』でトニー賞(ミュージカル助演男優賞)も受賞している実力派だが、個人的に印象が強いのは、ニュース番組の若手ディレクターを演じたドラマシリーズ『ニュース・ルーム』(クリエイター:アーロン・ソーキン、主演:ジェフ・ダニエルズ)。
ニュース番組が萎縮している今の日本でこそ見てほしいドラマでもある。

👇『ニュース・ルーム』はこちら



ブリー・ラーソンラミ・マレックといったスターを輩出した今作だが、もう一人忘れてはならないのが、母親に虐待されたマーカスを演じたキース・スタンフィールドだ。
マーカスが自らを虐待した母親への愛憎をラップのリリック(※)で表現するシーンとグレイスに頭を剃ってもらって母親の暴力による傷痕がないかどうか確かめるシーンは今作の白眉だと思う。
今作は元々監督であるデスティン・ダニエル・クレットンの大学の卒業制作である短編フィルムが元になっているが、彼はその短編にも出演している。
キースはこの短編出演後、俳優としての活動はしていなかったそうで、まさに今作への道出演で大きく運命が変わったと言ってもいいだろう。
今作に出演後、『グローリー/明日への行進』『ストレイト・アウタ・コンプトン』(スヌープ・ドック役!)、『ゲット・アウト』等、話題作への出演が続き、着実にキャリアを積み重ねている。
※ この曲「So You Know What It's Like」は監督とキースの共作。エンドロールで流れる「AFTER PARTY 」も彼によるもので、こちらはハッピーな曲になっている。

👇『グローリー/明日への行進』(監督:エイヴァ・デュヴァーネイ)はこちら

グローリー/明日への行進 [DVD]

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👇『ストレイト・アウタ・コンプトン』(監督:F・ゲイリー・グレイ)はこちら

👇『ゲット・アウト』(監督:ジョーダン・ピール)はこちら

キリング・イヴ/KILLING EVE SEASON 1

キターッ!!!
エピソード1を観ながら、
久しぶりに心の中で叫んだ私的大ヒットドラマ!
キリング・イヴ/KILLING EVE

世界各国で暗躍する凄腕の美しき暗殺者ヴィラネル
一連の犯行が女の犯行だと見抜き、MI6の極秘捜査班に抜擢される元MI5職員イヴ・ポラストリ
追う者と追われる者の攻防を描くノンストップサスペンスだ。
サイコパス(殺人鬼あるいは暗殺者)と刑事(あるいはFBI捜査官など)の攻防を描く、小説、映画、ドラマは珍しくないが、この後シリーズの一番の特徴は追う側も追われる側も女性だという点だろう。
相対する関係でありながら強く惹かれ合う二人
表面上は敵対する関係だが、
人間的には並々ならぬ興味を持っている。
ヴィラネルはイヴにかつての恋人の面影を重ね、
イヴはヴィラネルが暗殺者に仕立て上げられたのではないかとどこかで同情している。
お互いに、追う者追われる者を越えた複雑な感情を抱いているからこそ、
二人の関係は予測不能なのだ。


それでは、登場人物を紹介しよう。

イヴ・ポラストリ
(サンドラ・オー/沢海陽子
MI5職員。
子供はいないが、教師の夫ニコとは夫婦円満
退屈なデスクワークに飽き足らず、
自主的に世界各国で暗躍する女暗殺者の調査をしている。
ある任務の失敗によりMI5をクビになるも、
一連の犯行を女暗殺者の犯行だと見抜き、
MI6の伝説的存在キャロリン・マーテンスに極秘捜査班を仕切るよう抜擢される。
ヴィラネルに対し、憎むべき犯罪者というよりも、
何故暗殺者となったのかも含め、
人間的に興味を持っている。

イヴ・ポラストリを演じるサンドラ・オーは、
まさにはまり役で、ゴールデングローブ賞ドラマシリーズ部門主演女優賞を受賞。
映画は字幕、ドラマは吹替派だが、サンドラ・オーの吹替キャストの沢海陽子さんが素晴らしい仕事ぶり!
サンドラ・オーの声や喋り方と比べても、まったく違和感がない。


ヴィラネル
(ジョディ・カマー/逢田梨香子
ある組織の命令により、世界各国で犯行を繰り返している、冷酷で凄腕の女暗殺者。
一切痕跡を残さない完璧な仕事ぶりだったが、
キャロリン曰く「最近、自己顕示欲が出てきた」。
ヴィラネルは不幸な家庭環境で育ち、ある事件を起こして逮捕され、服役中に暗殺者として適性を見出され、訓練を受ける。
人を殺すことに一切躊躇はなく、人の命が消えてゆく瞬間にエクスタシーを感じる完全なサイコパス
多言語を操り、母国語であるロシア語は話したがらない。一番好きなのはフランス語、パリ在住。
おしゃれが大好き。
レズビアン寄りのバイセクシャル
イヴに、かつて愛した(執着した)相手の面影を重ねている。
イヴの追跡から逃げるのではなく、
自ら近づいていく。


冷酷な凄腕暗殺者としての顔と、傷ついた少女の顔を持つヴィラネル
これだけ表情が豊かで、クルクル変わるサイコパスも珍しいし、ジョディ・カマーの作り上げた暗殺者像は新機軸じゃないだろうか?


キャロリン・マーテンス
(フィオナ・ショウ/高島雅羅
MI6ロシア担当のベテラン職員。
過去にプルトニウム拡散を防ぐなど伝説的な存在。
イヴと同様、一連の犯行を女暗殺者のものと考え、
極秘捜査班を立ち上げる。
仕事と家庭は両立できないと考える離婚経験者。
情報を得るためなら、色仕掛けも辞さず。

コミックリリーフとまでは言えないものの、
このシリーズのオフビート感、乾いたユーモアの多くを担っているのが実はキャロリンというキャラクター。


ビル・パークレーブ
(デヴィッド・ヘイグ/内田直哉
MI5、イヴの直属の上司であり、親しい友人。
暴言を吐き、イヴと同時に解雇されるが、
イヴの要請で極秘捜査班のメンバーに。
MI5在籍時とは上下関係が逆転する。
過去に8年間のベルリン勤務経験あり。
ドイツ語に堪能。
(当時は、MI6所属?)
妻は日本人のケイコ(海苔巻きといなり寿司のお弁当を持参している)。
ケイコとの間にまだ乳児の息子がいる。
実はバイセクシャル


ニコ・ポラストリ
オーウェンマクドネル・ダグラス新納慎也
イヴの夫で、教師。ブリッジ教室の講師。
ポーランド人。
温和な性格で、料理上手。口髭がチャームポイント。
妻の新しい仕事の危険性を心配している。


ケニー
(ショーン・ディレイニー梶裕貴
ヴィラネル追跡の極秘捜査班のメンバーでネットの住人。
ネット上のあらゆる情報を入手するハッカー
エレナに気がある。


エレナ・フェルトン
(カービー・ハウエル=バプティスト田村聖子
MI5職員。イヴの後輩。
MI6のキャロリン・マーテンスを崇拝している。
イヴに極秘捜査班に誘われ、MI5には辞表を叩きつけ、辞職。
危険な現場には及び腰で後方支援に徹する。


フランク・ヘイルトン
(ダーレン・ボイド/根本泰彦)
MI5職員。ビルとイヴの上司。
任務に失敗したイヴと共に、暴言を吐いたビルもクビにする。
日頃から部下に好かれていない。
ガンで闘病中だった妻を亡くしたばかりで、
二人の子供は有名私立学校に通っている。


コンスタンティン
(キム・ボドゥニア/大塚芳忠
謎の組織とヴィラネルの連絡係。
ヴィラネルとは長い付き合いで、彼女に厳しく接しながらも、命令通りに動かない彼女の逸脱を心配している。
ロシア人らしい。


因みに、イヴやビルやエレナが所属するMI5とキャロリンが所属するMI6について整理しておく。

MI5
Military Intelligence Section 5(軍情報部第5課)
イギリスの国内治安維持に責任を有する情報機関

MI6
Secret Intelligence Service(秘密情報部)
任務は、国外の政治、経済及びその他秘密情報の収集、情報工作

完全にイコールではないだろうが、
アメリカにあてはめれば、MI5はFBI
MI6はCIAということになるだろうか。

アメリカではシーズン2がファイナルを迎え、
シーズン3への更新もすでに決定している。
製作総指揮を務め、脚本も手がけているフィービー・ウォーラー=ブリッジは女優としても活動しているが、最近007シリーズの新作で主演ダニエル・クレイグ直々の指名で脚本のリライトを依頼された今、注目の人物。
彼女の独特なユーモアの感覚、テンポはこのシリーズの特徴にもなっている。
キャリー・ジョージ・フクナガが監督を務める007シリーズの新作も楽しみだが、まずはこの『キリング・イヴ/KILLING EVE 』で彼女の作品世界に触れてほしい。

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●キリング・イヴ/KILLING EVE
SEASON 1 (全8話)
製作:BBCアメリ
製作総指揮:サリー・ウッドワード・ジェントル,リー・モリス,フィービー・ウォーラー=ブリッジ
製作:コリン・ラッテン
撮影:ジュリアン・コート
美術クリスティアン・ミルステット
衣装:フィービー・ドゥ・ゲイ
出演:サンドラ・オー,ジョディ・カマー,フィオナ・ショウ,キム・ボドゥニア,カービー・ハウエル=バプティスト,ショーン・ディレイニーオーウェンマクドネル,ダーレン・ボイド,デヴィッド・ヘイグ

『キリング・イヴ/KILLING EVE 』
予告編はこちら👉KILLING EVE Official Trailer (HD) Sandra Oh, Jodie Comer Thriller BBC Series - YouTube


脚本、演技はもちろん素晴らしいが、
特筆したいのは既成曲の選曲センスと、
どこで音楽を使うのかというタイミング
これが絶妙でスタイリッシュ
この音楽がテンポのいい編集と相まってヘヴィになりがちなストーリーに独特な軽さを生み出している。

サンドラ・オーの代表作といえば、
『グレイズアナトミー』なんだろうが、私はこのシリーズを観ていないので、サンドラ・オーといえば、彼女の元夫アレクサンダー・ペイン監督のサイドウェイ

サイドウェイは原作の方が好き。

サイドウェイズ (ヴィレッジブックス)

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  • 作者: レックス・ピケット,雨海弘美
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暗殺者ヴィラネルを好演しているジョディ・カマーの最新作は現在撮影中。
ショーン・レヴィ監督のSFコメディ『Free Guy 』で、ライアン・レイノルズチャニング・テイタムタイカ・ワイティティと共演している。

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《SEASON 1 :EPISODE TITLE 》

#1 その顔、すてき Nice Face
脚本:フィービー・ウォーラー=ブリッジ
監督:ハリー・ブラッドビア

#2 あとで行く I 'll Deal with Him Later
脚本:フィービー・ウォーラー=ブリッジ
監督:ハリー・ブラッドビア

#3 また会えた Don't I Know You
脚本:ヴィッキー・ジョーンズ
監督:ジョン・イース

#4 ごめんね Sorry Baby
脚本:ジョージ・ケイ
監督:ジョン・イース

#5 バスルームじゃなきゃいや
I Have a Thing About Bathrooms

脚本:フィービー・ウォーラー=ブリッジ
監督:ジョン・イース

#6 連れてって! Take Me to the Hotel
脚本:ジョージ・ケイ
監督:デーモン・トーマス

#7 自由なんていや I Don't Want to Be Free
脚本:ロブ・ウィリアムス
監督:デーモン・トーマス

#8 疲れちゃった God, I'm Tired
脚本:フィービー・ウォーラー=ブリッジ
監督:デーモン・トーマス

エピソードタイトルの翻訳センスもナイス!

今月の読書 〜2019年5月〜

今月の読書2019年5月分をお届けします。
オススメは、フォークナー『響きと怒り
真藤順丈『宝島』木下古栗『人間界の諸相』
ジェームズ・ボールドウィン『ビール・ストリートの恋人たち』皆川博子『夜のリフレーン』


響きと怒りウィリアム・フォークナー
平石貴樹、新納卓也訳
岩波書店岩波文庫
THE SOUND AND THE FURY/William Faulkner/1929

一時は隆盛を極めたコンプソン家の滅びの物語。
上巻では、障害を持つ一家の末子ベンジー実妹キャディへの許されない愛に苦悩する長男クエンティンの思考を辿るスタイルをとっているため、激しく時制が入れ替わる。
親切にも時制変化の一覧が巻末についているのだが、
これと脚注を逐一参照しながら読んだので、
読み進めるのに、まあ、時間がかかること!
これから読んでみたいと思っている方には、
最初は参照せずに一気に読むことをおすすめします。
読み終わってみると前半の混沌は、滅びていくコンプソン家を象徴するものだったと気付く。
上巻の語り手クエンティンとベンジーが愛していたのは妹そして姉のキャディ。
彼女が家を出た(結婚)ことが二人にとって死刑宣告にも等しいものだったし、キャディの娘クエンティンの遁走がコンプソン家崩壊の決定打となる。
一家の中で唯一、昔とは違うんだという現実を生きていたジェイソンがそれなりに平穏な人生を手に入れたことも腑に落ちた。
読後もコンプソン家の人々が頭の中に住みついてしまった。まごうことなき名作です。

響きと怒り (上) (岩波文庫)

響きと怒り (上) (岩波文庫)

響きと怒り (下) (岩波文庫)

響きと怒り (下) (岩波文庫)


■終わりなき夜に生まれつく/アガサ・クリスティー
矢沢聖子訳
早川書房クリスティー文庫
ENDLESS NIGHT/Agatha Christie/1967

夜ごと朝ごと
みじめに生まれつく人もいれば
朝ごと夜ごと
甘やかな喜びに生まれつく人もいる
甘やかな喜びに生まれつく人もいれば終わりなき夜に生まれつく人もいる

ウィリアム・ブレイク『無垢の予兆』

石油王だった祖父の唯一の相続人であり、
いわば“甘やかな喜びに生まれつく人”エリー。
素晴らしい家を手に入れ、愛する人と暮らすという夢を胸に職を転々とする青年マイケル。
この二人の出会いからして何か作為的なものを感じる。
クリスティーには『アクロイド殺し』(信頼出来ない語り手)の例もある。
案の定、マイケルにはエリーの財産を奪うという計画があった訳だが、果たして彼は「終わりなき夜に生まれつく人」だったのか?
死にゆくルドルフが言ったようにマイケルにも別の道を選ぶチャンスがあったように見える。
しかし、その時には、
共犯者クローディアの存在が邪魔になる。
結局、マイケルの選択は既に成されていたのだ。

終りなき夜に生れつく(クリスティー文庫)

終りなき夜に生れつく(クリスティー文庫)


■宝島/真藤順丈
講談社

1952年アメリカ占領下の沖縄。
嘉手納基地襲撃の失敗後、行方不明になった戦果アギヤーの英雄オンちゃん。
オンちゃんの行方、そして手に入れたらしい「予定にない戦果」とは何か?
その後の戦果アギヤー達の人生が縦糸だとしたら、
度重なる米兵による事件、コザ暴動など史実を横糸としたエネルギー溢れるエンタメ作品。
何よりもショックだったのは、戦後の沖縄について自分がいかに無知だったのかということ。
なんくるないさ〜」は南国に暮らす人々の楽天的気質からの言葉だと思っていたが、
怒り、哀しみを乗り越える強さを表す言葉だったのだ。
本土復帰は沖縄の人々を幸せにしたのだろうか?
住宅地の上を飛ぶ軍用機墜落の危険性、騒音、米兵による事件、事故。
本土復帰から50年近く経っても何も変わっていない。
「これ以上、基地はいらない!」
沖縄の意思表明を現政権は無視し続けている。

第160回直木賞受賞 宝島

第160回直木賞受賞 宝島


■ゼロ時間へ/アガサ・クリスティー
三川基好訳
早川書房クリスティー文庫
TOWARD ZERO

アガサ・クリスティーの作品をはじめ多くのミステリーでは、まず事件〈ゼロ時間〉が起き、
それから謎解きが始まるが、この作品は、事件が起きるまで〈ゼロ時間〉に向かってストーリーが進行する。
それぞれの思いを抱えて海辺の屋敷に集う人々。
そして、身体の不自由な屋敷の主レディ・トレシリアンが殺される。
〈ゼロ時間〉が指すのは老婦人の死かと思いきや、実は…。
真相が明かされる時、〈ゼロ時間〉がいつを指すのかがようやく分かる。
自殺未遂の若者、バトル警視の娘のトラブル、伏線の張り方もお見事。
ノンシリーズの犯人、サイコパス率高いです。

ゼロ時間へ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

ゼロ時間へ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)


■人間界の諸相/木下古栗
集英社
VARIOUS ASPECTS OF HUMAN WORLD

初めての木下古栗。
くだらん!と怒り出すお方もいるやもしれんが、
私的には、大出版社である集英社さんからこういう本が出版されるってまだまだ捨てたもんじゃないなぁとしみじみ嬉しい気持ちになった。
お気に入りは「鳥貴族」「お茶会」「活字市場」辺り。
何かと全裸になる男性陣が束になっても菱野時江の破天荒さにはかなうまい。
「DREAM ON」のカリスマ全裸わいせつナンパ師早乙女アキラの元ネタはポール・トーマス・アンダーソンマグノリア』でカリスマナンパ師を演った トム・クルーズかしら?
トムは白ブリーフはいてたけど。
時江の勤務先の精神科病院の経営者が城之内健作(「位置情報」)で同僚が山森正太郎(「或るリスクテイカーの死」)かな?
連作としての構成の妙あり。

〈収録作品〉
⚫︎淑女の嗜み
⚫︎想像的破壊
⚫︎鳥貴族
⚫︎DREAM ON
⚫︎遠隔操作
⚫︎位置情報
⚫︎お茶会
⚫︎visionary
⚫︎活字市場
⚫︎或るリスクテイカーの死
⚫︎市場原理
⚫︎minēsis
⚫︎毛のない猿の蛮行
⚫︎幻の淑女

人間界の諸相

人間界の諸相


■ニック・メイソンの脱出への道/スティーヴ・ハミルトン
越前敏弥訳
角川書店(角川文庫)
EXIST STRATEGY/2017

前作のストーリーなどさっぱり忘れている私のような者にもさり気なくこれまでの内容に触れて記憶を喚起してくれる親切設計。
今作のニック・メイソンはトム・クルーズか?っていうくらいに不死身。
しかし、負傷して恋人ローレン宅に逃げ込む迂闊。
メインキャラを景気良くあの世へ送り、舞台はジャカルタへ。
ダライアス・コールもまた何者かの支配を受ける下っ端に過ぎないっていうのは、ちょっと風呂敷広げすぎな気もするが、これもシリーズ継続のための方便か?
個人的には、シカゴという街もこのシリーズには欠かせない要素だと思う。

ニック・メイソンの脱出への道 (角川文庫)

ニック・メイソンの脱出への道 (角川文庫)


■ビール・ストリートの恋人たち/ジェームズ・ボールドウィン
川副智子訳
早川書房
IF BEALE STREET COULD TALK/James Baldwin/1974

幼馴染だったティッシュとファニー。
二人はある時点で恋に落ち、共に人生を歩むことを決意する。
しかし、ファニーは無実の罪に問われ逮捕され、二人はガラスの壁にあちらとこちらに隔てられてしまう。
ファニーが陥った苦境は偏見や社会に巣食う差別故のものだが、
ティッシュの一人称で語られるからなのか、
それを殊更訴えるような重さは感じられない。

「あたしたちは黙々と歩いた。
全方位から音楽が鳴り響いているような沈黙。
たぶんあたしは、生まれてはじめて幸せに酔い、
幸せであることを自覚していたんだろう。」

若い二人が共に歩くこと、笑いあうこと、
このことの圧倒的な正義。
ラストの曖昧さは、
この二人の未来は、
物語を読んだ人が何をどう感じ、考え、
行動するかに託されている、というメッセージじゃないだろうか?

ビール・ストリートの恋人たち

ビール・ストリートの恋人たち


■動く指/アガサ・クリスティー
高橋豊訳
早川書房クリスティー文庫
THE MOVING FINGER/Agatha Christie/1943

確かドラマ版を観ていたので、ストーリーはうっすら記憶には残っているものの、
やはり真相はすっかり忘却の彼方であった。
一応、ミス・マープルものだが、後半になってようやく真打ち登場。
なんだかとってつけたような登場のさせ方で、
マープルものである必要があるのかどうか、ちょっと疑問を感じてしまう。
クリスティーの自選ベストのなかの一冊だが、
どうも私はミステリーにロマンス要素が加わると若干冷めてしまうようです。
ちなみに、ドラマ版で語り手のジェリー・バートン役を演じていたのは、ジェームズ・ダーシー(『ダンケルク』)。

動く指 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

動く指 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)


■三つ編み/レティシア・コロンバニ
齋藤可津子訳
早川書房
LA TRESSE/Laetitia Colombani/2019

ランフレッディ家の家業が毛髪加工で、サラの乳がんが発覚した時点で三つのストーリーがどう繋がっていくのかは大体想像出来たが、それにしても“髪”で三人の女性を繋ぐ構成が巧み(プロローグとエピローグの語り手はウィッグの編み手だ)。
不可触民スミダの境遇の厳しさが際立つが、
エリート弁護士サラは病気でキャリアは風前の灯、
家業を継いだジュリアも時代の変化についていけなければ作業場どころか住むところさえ失いかねない。
殊更フェミニズム小説の括りで語られる小説でもないと思うが、三人それぞれの背中を押すことになるのが、“ウィッグ”であるのは女性ならではだと思う。

三つ編み

三つ編み


■密告者/ファン・ガブリエル・バスケス
服部綾乃、石川隆介訳
作品社
LOS INFORMANTES/Juan Gabriel Vázquez/2004

疎遠だった父親から心臓手術を受けることになったとジャーナリストの息子に突然電話がかかってくる。
これをきっかけに息子は父親の隠された過去と対峙することになる。
と、こういうプロットだけならありがちだが、
ここにコロンビアという国の時代背景が絡むと一気に混沌としてくる。
戦中戦後のコロンビアでは、枢軸国出身者としてブラックリストに載せられ人生を狂わされた移民の人々が数多く存在した。
何故彼が密告者となったか?
それよりも、父親の過去を遺産として受け継ごうとする息子の姿勢や、彼の謝罪を拒否した被害者が、
彼の死によって再び過去から逃れられなくなる皮肉な展開が印象に残った。

密告者

密告者


■トリック/エマヌエル・ベルクマン
浅井晶子訳
新潮社(新潮クレスト・ブックス)
DER TRICK/Emanuel Bergman/2016

激動の時代、ラビの息子として生まれながらユダヤ人であることを捨て、奇術師“大ザバティーニ”として生きたモシュ。
現代のLAで両親の離婚話に胸を痛める10歳のマックス。
この二人の物語がどう繋がっていくかには、
正直あまり驚きはなかったものの、そこにあの“トリック”を使ったのは巧い。
同胞の苦難を横目にユダヤ人であることを隠し続けたモシュの贖いともいうべきあの“トリック”が、人生の最期に彼の心に平安をもたらす。魔法を信じられるギリギリ、マックスの10歳という年齢設定も絶妙でした。

トリック (新潮クレスト・ブックス)

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  • 作者: エマヌエルベルクマン,Emanuel Bergmann,浅井晶子
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  • 発売日: 2019/03/29
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■夜のリフレーン/皆川博子
KADOKAWA

未刊行短編から編まれた〈幻想小説系〉の短編集。
これまで皆川作品は海外を舞台にした長編しか読んでいなかったので、短編は初めて。
ほぼ年代順に収録されているが、冒頭の表題作からもう怖いのなんの!
クオリティは最初から高いが、年代を追うごとにどんどん凄みを増していっている。
個人的に印象深かったのは、戦中戦後の小笠原諸島の記憶を描く「島」(恥ずかしながら全然知らなかった!)、上海租界を舞台にした「赤い鞋」(ラストのキレ味)、戦後の公営団地を舞台にした「青い扉」(川島雄三『しとやかな獣』を思い出す)辺り。

〈収録作品〉
⚫︎夜のリフレーン
⚫︎夜、とらわれて
⚫︎スペシャル・メニュー
⚫︎赤姫
⚫︎夜明け
⚫︎陽射し
⚫︎恋人形
⚫︎赤い砂漠
⚫︎紡ぎ唄
⚫︎踊り場
⚫︎笛塚
⚫︎虹
⚫︎妖瞳
⚫︎七谷屋形
⚫︎島
⚫︎赤い鞋
⚫︎青い扉
⚫︎新吉、おまえの
⚫︎桑の木の下で
⚫︎そ、そら、そらそら、兎のダンス
⚫︎水引草
⚫︎メタ・ドリーム
⚫︎蜘蛛が踊る
⚫︎そこは、わたしの人形の

夜のリフレーン

夜のリフレーン

戦後の公営団地を舞台にした『しとやかな獣』はこちら👇

しとやかな獣 [DVD]

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同じく主人公の両親が公営団地に暮らす市川崑『私は二歳』はこちら👇

私は二歳 [DVD]

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今月の読書 〜2019年4月〜

今月の読書4月分をお届けします。
オススメは、ケン・リュウ『生まれ変わり』エトガル・ケレット『クネレルのサマーキャンプ』トム・ハンクス『変わったタイプ』、短編集が三冊となりました。


■生まれ変わり/ケン・リュウ
古沢嘉通・他訳
早川書房(新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
THE REBORN AND OTHER STORIES/KEN LIU/2019

すべての小説は現実を反映しているものだが、このケン・リュウの新作はSF的設定はその「現実」をひときわ際立たせるものだということを痛感させる。
個人の記憶と民族や国の歴史認識、アジアの搾取工場、介護ロボット、不法移民の強制退去、不死、性被害、人種差別、世界の何処かで起きている悲劇に対してどうあるべきなのか?
SFとはいえ、考えさせられるしんどいテーマが多かった。
「七度の誕生日」はテッド・チャンの「わたしの人生の物語」の影響を受けているのだろうか?
お気に入りは「生まれ変わり」「訪問者」「ビザンチン・エンパシー」あたり。

〈収録作品〉
⚫︎生まれ変わり
The Reborn
⚫︎介護士
The Caretaker
⚫︎ランニング・シューズ
Running Shoes
⚫︎化学調味料ゴーレム
The MSG Golem
⚫︎ホモ・フローレシエンシス
Homo floresiensis
⚫︎訪問者
The Visit
⚫︎生きている本に関する、短くて不確かだが本当の話
A Briefand Inaccurate but True Account of Origin of Living Books
⚫︎ペレの住民
The People of Pele
⚫︎揺り籠からの特報:隠遁者ーマサチューセッツ海での四十八時間
Dispatches from the Cradle:the Hermit-Forty-Eight Hours in the Sea of Massachusetts
⚫︎七度の誕生日
Seven Birthdays
⚫︎数えられるもの
The Countable
⚫︎カルタゴの薔薇
Carthaginian Rose
⚫︎神々は鎖に繋がれてはいない
The God Will Not Be Chained
⚫︎神々は殺されはしない
The God Will Not Be Slain
⚫︎神々は犬死はしない
The God Will Have Not Died in Vain
⚫︎闇に響くこだま
Echoes in the Dark
⚫︎ゴースト・デイズ
Ghost Days
⚫︎隠娘
The Hidden Girl
⚫︎ビザンチン・エンパシー
Byzantine Empathy

生まれ変わり (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

生まれ変わり (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)


■クネレルのサマーキャンプ/エトガル・ケレット
母袋夏生訳
河出書房新社
KNELLER'S HAPPY CAMPERS AND OTHER STORIES/Etgar Keret

日常から半歩ずれた世界、とでも言ったらいいのか、どの話も発想が面白いバラエティーに富んだ短編集。
短編というより中編といったほうがいいような表題作「クネレルのサマーキャンプ」は、この世とあの世の中間のような世界で自殺者達が生前と同じように暮らしているお話。
語り口は軽いが、登場人物は全員自ら命を絶つ理由のあった人たちだ。全編に漂う死の気配と乾いたユーモアの絶妙なバランス。
登場人物に自殺者が目立つが、エトガル・ケレットが小説を書き始めたきっかけは、親友オーウェンの兵役中の自殺だったそうだ。
その時の作品が最後に収録されている「パイプ」だ。
表題作の他、「君の男」「でぶっちょ」「びん」「善意の標的」辺りがお気に入り。
過去との折り合いのつけ方を考えさせる「靴」も好きでした。

〈収録作品〉
⚫︎クネレルのサマーキャンプ
Kneller's Happy Campers
⚫︎物語のかたちをした考え
A Thought in the Shape of Story
⚫︎ラビンが死んだ
Rabin's Dead
⚫︎君の男
Your Man
⚫︎アングル
Angle
⚫︎ジェットラグ
Jet lag
⚫︎最後の話、それでおしまい
One Last Story and That's It
⚫︎トビアを撃つ
Shooting Tuvia
⚫︎でぶっちょ
Fatso
⚫︎赤子
Baby
⚫︎びん
Bottle
⚫︎きらきらぴかぴかの目
Glittery Eyes
⚫︎シェリ
Shriki
⚫︎神になりたかったバスの運転手の話
The Story about a Bus Driver Who Wanted to Be God
⚫︎子宮
Uterus
⚫︎地獄の滴り
A Souvenir of Hell
⚫︎ぼくの親友
My Best Friend
⚫︎アブラム・カダブラム
Abram Cadabram
⚫︎死んじゃえばいい
Hope They Die
⚫︎善意の標的
Good Intentions
⚫︎壁をとおり抜けて
Through Walls
⚫︎靴
Shoes
⚫︎点滴薬
Drops
⚫︎ガザ・ブルース
Gaza Blues
⚫︎冷蔵庫の上の娘
The Girl on the Refrigerator
⚫︎外国語
Foreign Language
⚫︎キッシンジャーが恋しくて
Missing Kissinger
⚫︎壁の穴
Hole in the Wall
⚫︎絵
Painting
⚫︎長子の災い
Plague of the Firstborn
⚫︎パイプ
Pipes

クネレルのサマーキャンプ

クネレルのサマーキャンプ


■春にして君を離れ/アガサ・クリスティー
中村妙子訳
早川書房クリスティー文庫
ABSENT IN THE SPRING/Agatha Christie/1944

クリスティーの小説は山ほど殺人事件が起きてもさほど陰惨な感じがしないのが特徴だと思っていたが、これはほぼヒロイン(?)の独白で誰一人死なないのに、読後暗澹たる印象を残す。
こういうのを「イヤミス」っていうのかな。
「妻も妻なら、夫も夫」という意見ももっともだが、
「私は悪くない!」の一点張りで、反論とか他人の意見を一切受け入れない人に相対すると、無力感に襲われて諦めてしまうのも確かである。
結局、そういう人とは距離が出来てしまうけど、そんな人間関係は哀しい。

春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)


■1R1分34秒/町屋良平
新潮社

第160回芥川賞受賞作。
デビュー戦をKO勝ちで飾るもその後は二敗一分けと勝てないボクサーの敗戦から次戦までの逡巡。

「他人の生活なんてどうでもうい。
世界なんてどうでもいい。
カタストロフに丸ごと呑みこまれてしまいたい。」

「女の子はすごい。」

が正直に同居し、新たな出会いと信頼のシステムと唯一の友達の見せる芸術世界で

「人生。たのしいかも。」

の境地。頭でっかち過ぎない文体のオリジナリティーも心地良く、清々しい読後感。

「勝つよ。きっと勝つ。」

第160回芥川賞受賞 1R1分34秒

第160回芥川賞受賞 1R1分34秒


■心霊電流/スティーヴン・キング
峯村利哉訳
文藝春秋
REVIVAL/STEPHEN KING/2014

若く意欲あふれる新任の牧師チャールズ・ジェイコブスと、彼を受け入れ、家族ぐるみで付き合うようになるモートン一家。
牧師であると同時に科学(電気)に対する並々ならぬ関心を持つジェイコブスはモートン家の末っ子ジェイミーと特に親しくなる。
悲劇的な妻子の死、「惨憺たる説教」をきっかけにジェイコブスは解任される。
極端にふれ過ぎかもしれないが、ジェイコブスが信仰を失ったとしても、それはそれで致し方なしと感じてしまう私はやっぱり不信心者。
ジェイミー、ジェイミーの兄コンラッドに対するジェイコブスの「治療」がどんな結果をもたらすのだろうか?
献辞を捧げている作家の中で筆頭はメアリー・シェリー、そして稲妻。
という時点で、ジェイコブスの最終目的は死者を蘇らせることだと予想がついてしまったが、
妻子を蘇らせるのかと思いきや(流石に、骨になってしまった死体では無理か)、まさかあの世への扉を開けることだったとは!
でも、少しあの世のイメージが貧困というか、
具体的なビジュアルイメージは必要なかったんじゃないだろうから?
奇跡の治療がもたらす思わぬ後遺症、
これだけで十分不気味。
治療を受けて健康を取り戻すと同時に、時限爆弾を抱えることになるのだから。

心霊電流 上

心霊電流 上

心霊電流 下

心霊電流 下


■されど私の可愛い檸檬舞城王太郎
講談社

『私はあなたの瞳の林檎』と対になる『されど私の可愛い檸檬』。
登場人物たちは『私はあなたの〜』より人生の階段を登り、既婚者となっている。
年をとったから、結婚したから、就職したから、人はかしこく要領よく幸せになれる訳でもなく、相変わらず、いや益々面倒くさい。
夫や妻、親、兄弟、友人、思っていても口に出さないことが増える。
でも、舞城が描く人たちは違う。
面と向かって口に出してはっきり思ってることを伝える。
ただ、真っ直ぐに。口に出してしまって気まずくなるとかどうとかそんなことは恐れないのだ。
でも、そんな度胸、私にはない。

されど私の可愛い檸檬

されど私の可愛い檸檬

姉妹編『私はあなたの瞳の林檎』はこちら👇

私はあなたの瞳の林檎

私はあなたの瞳の林檎


■ねじれた家/アガサ・クリスティー
田村隆一
早川書房クリスティー文庫
CROOKED HOUSE/Agatha Christie/1949

怨恨、金、愛。
人が罪を犯すまでには様々な動機、事情がある。
罪を犯したことを後悔する人もいれば、そうでない人もいるだろうが、一番手に負えないのは、ここに登場する犯人のようなタイプじゃないか?
この犯人は自分が悪いことをしたなんて思ってないし、罪悪感なんて感じないんだから。
クリスティ自身お気に入りの作品だそうだが、
うーん、意地が悪い。
現在、映画化作品が公開中。
よくあるキャスティングで犯人が想像できてしまうというネタバレにはなってません!


■すべての、白いものたちの/ハン・ガン
斎藤真理子訳
河出書房新社
THE WHITE BOOK/Han Kang/2016

世界はさまざまな色にあふれているが、やっぱり「白」という色が人に与えるインパクトは特別で、だから記憶に強く残るんだろう。
散文詩ともエッセイとも小説とも違う一種独特な世界。
最初から日本語で書かれたかのような斎藤真理子さんの訳も相変わらず素晴らしい。
「白」といっても、
砂糖の「白」と小麦粉の「白」は違う。
それは、微妙に違う「白い」ページが教えてくれる。

〈収録作品〉
1.私
ドア/おくるみ/産着/霧/白い街/闇の中で、あるものたちは/光ある方へ/乳/彼女/ろうそく
2.彼女
窓の霧/霜/翼/こぶし/雪/雪片たち/万年雪/波/みぞれ/白い犬/吹雪/灰/塩/つき/レースのカーテン/息/白い鳥たち/ハンカチ/天の川/白く笑う/白木蓮//糖衣錠/角砂糖/灯たち/幾千もの銀の点々が/輝き/白い石/白い骨/砂/白髪/雲/白熱灯/白夜/光の島/薄紙の白い裏側/舞い散る/静けさに/境界/白い蝶/魂/米と飯
3.すべての、白いものたちの
あなたの目/壽衣/お姉ちゃん/博士の上に書かれたいくつかの言葉のように。/白服/煙/沈黙/下っ歯/わかれ/すべての白いものたちの

すべての、白いものたちの

すべての、白いものたちの


■変わったタイプ/トム・ハンクス
小川高義
新潮社(新潮クレスト・ブックス)
UNCOMMON TYPE/Tom Hanks/2017

あの“トム・ハンクス”が小説を書いた!ということで、ネームバリューゆえの出版じゃないかと意地悪な見方をしていたけど、『ニューヨーカー』にも、クノッフ社にも、新潮クレスト・ブックスにも謝らなければならない。
超アクティブな彼女との疲労困憊の日々を描いた「へとへとの三週間」からグッと引きこまれた(「アラン・ビーン、ほか四名」「スティーヴ・ウォンは、パーフェクト」の二編も同じキャラが登場。)。
「光の街のジャンケット」「配役は誰だ」は
俳優としてのキャリアが垣間見える作品。
「クリスマスイヴ、一九五三年」「ようこそ、マーズへ」「コスタスに会え」辺りもお気に入り。
献辞の「ノーラがいたから」のノーラというのは、脚本家で映画監督でもあるノーラ・エフロンのことじゃないかしら。
俳優としての仕事も多忙でしょうが、トム・ハンクスには小説も書き続けて欲しいと思います。

〈収録作品〉
⚫︎へとへとの三週間
Three Exhausting Weeks
⚫︎クリスマス・イヴ、一九五三年
Christmas Eve 1953
⚫︎光の町のジャンケット
A Junket in the City of Light
⚫︎ハンク・フィセイの「わが町トゥデイ」
ー印刷室の言えない噂
Our Town Today with Hank Fiset
ーAn Elephant in the Pressroom
⚫︎ようこそ、マーズへ
Welcome to Mars
⚫︎グリーン通りの一週間
A Month on Green Street
⚫︎アラン・ビーン、ほか四名
Alan Bean Plus Four
⚫︎ハンク・フィセイの「わが町トゥデイ」
ビッグアップル放浪記
Our Town Today with Hank Fiset
ーAt Loose in the Big Apple
⚫︎配役は誰だ
Who's Who?
⚫︎特別な週末
A Special Weekend
⚫︎心の中で思うこと
These Are Meditations of My Heart
⚫︎ハンク・フィセイの「わが町トゥデイ」
ー過去に戻って、また戻る
Our Town Today with Hank Fiset
⚫︎過去は大事なもの
The Past Is Important to Us
⚫︎どうぞお泊まりを
Stay with Us
⚫︎コスタスに会え
Go See Costas
⚫︎ハンク・フィセイの「わが町トゥデイ」
エヴァンジェリスタエスペランサ
Our Town Today with Hank Fiset
ーYour Evangelista Esperanza
⚫︎スティーヴ・ウォンはパーフェクト
Steve Wong Is Perfect

変わったタイプ (新潮クレスト・ブックス)

変わったタイプ (新潮クレスト・ブックス)


■花だより みをつくし料理帖 特別巻/高田郁
角川春樹事務所(ハルキ文庫)

〈収録作品〉
⚫︎花だより/愛し浅蜊佃煮
⚫︎涼風あり/その名は岡太夫
⚫︎秋燕/明日の唐汁(からじる)
⚫︎月の船を漕ぐ/病知らず

偽の水原東西の出現で桜も今年限りと思い込んだ種市の大坂行きの顛末「花だより」、あさひ太夫と又次の出会いと野江が掴んだ新たな幸せを描く「秋燕」、澪と源斎夫婦の新たな苦難と再起を描く「月の船を漕ぐ」。そして小野寺家の様子が分かる「涼風あり」。
このシリーズはキャラの立った登場人物が多いが、小野寺家の嫁、乙緒さんもなかなかの強者。
小野寺夫妻が仮面夫婦じゃなくて救われる思いだし、
早帆さんの料理下手が相変わらずなのも楽しい。
澪が本当の意味で故郷に帰れたのも嬉しいけれど、
「お澪坊〜!」の種市には泣かされました。

花だより みをつくし料理帖 特別巻

花だより みをつくし料理帖 特別巻


ゲティ家の身代金/ジョン・ピアースン
鈴木美朋訳
ハーパー・コリンズ・ジャパン
ALL THE MONEY IN THE WORLD/JOHN PEARSON/1995/2017

ケヴィン・スペイシーの不祥事で公開まですったもんだあったR・スコット監督『ゲティ家の身代金』の原作本。
結局、石油王で稀代の吝嗇家ジャン・ポール・ゲティ役は代役のクリストファー・プラマーが素晴らしく適役だったけど、ゲティ家の物語の真の主役(プラマーは助演扱い)はジャン・ポール・ゲティだと益々強く思う。
誘拐という一家の危機にまともに向き合うこともできなかった祖父ジャン・ポールと父親Jr.。
母親ゲイルの孤軍奮闘ぶりは映画の通り。
事件後の一家の姿は、金は必ずしも人を幸せにしないという事実をあらためて突きつけている。
酒やドラッグに溺れていく一族の人間が多かった中で、
ゲティ一族にとって幸いだったのは、ジョン・ポール・ゲティJr.の弟ゴードン、誘拐されたジョン・ポール・ゲティ三世の弟マークなど各世代に莫大な財産に振り回されない堅実な人物がいたことだろう。
マーク・ゲティはゲッティ・イメージズの共同創始者
ジョン・ポール・ゲティ三世の息子は俳優のバルサザール・ゲティ(『ロスト・ハイウェイ』)である。

ゲティ家の身代金 (ハーパーBOOKS)

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すったもんだの末、再撮影、ギャラの格差問題を経て公開されたリドリー・スコットによる映画版はこちら👇

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