コントロール・フリークになる前に
十代で華々しくデビューし、
天才作家ともてはやされたカルヴィン。
しかし、以後10年間極度のスランプに陥り新作が書けずにいた。
ある日、カルヴィンがセラピストに飼い犬のスコッティさえ憎い時もあると愚痴を言うと、
ヨダレまみれで人見知りのスコッティをそれでも大好きな人のことをレポートに書いてみることを勧められる。
そんなことでスランプ脱出が出来るのか
半信半疑のカルヴィンだったが、
ある晩夢の中にありのままスコッティが好きだという女の子ルビーが現れる。
啓示を受けたように夢中でタイプを打ち続けるカルヴィン。
彼はルビーに恋をする。
そして、ある朝目を覚ました彼の目の前に理想の恋人ルビーが現れる。
職場で学校で家庭で、
家族であれ友人同士であれ恋人同士であれ、
人間関係の中で感じるストレスの元凶は、
他人は自分の思い通りには動いてくれない、
これに尽きる。
ああして欲しい、
こんなことを言って欲しい、
と他人に期待して失望するなんて日常茶飯事だ。
人は他人にいい印象を持たれたい好かれたいと思う時、
相手の望む自分を演じようとする。
好意を持った者同士ならお互いの中に理想を見てしまう。
でも、演じ続けることは難しい。
人の心の中を覗くことは出来ないように、
他人が自分の思い通りに動いてくれなくてもそれは仕方のないこと。
当然なのだ。
でも、期待と失望の繰り返しに上手く対処出来ない時、
人は自分の中に小さなモンスターがいることに気付く。
理想の恋人として現れたはずのルビーがカルヴィンの願望とは外れる形で自分の意思を持って動き始めた時、彼は彼女をコントロールしようとする。
カルヴィンにはそれが出来た。
ルビーは自分がタイプした通りに動いてくれるのだから。
コントロールされる相手の立場になればどんなに馬鹿げていて無意味なことか分かるはずなのに、相手に対する執着は冷静な判断力を奪ってしまう。
本当は一緒にいたいだけなのに。
誰もが心の中に小さなモンスターを飼うコントロール・フリーク予備軍。
自分を見失う前に、
コントロール・フリークになる前に、
本当に大事なものは何なのか、
もう一度自分の心に聞いてみないとね。
そして、もう一度、最初から。
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(2012 アメリカ)
監督:ジョナサン・デイトン,ヴァレリー・ファレス
脚本:ゾーイ・カザン
出演:ポール・ダノ,ゾーイ・カザン,アントニオ・バンデラス,アネット・ベ
ニング,スティーブ・クーガン,エリオット・グールド,クリス・メッシーナ,アリア・ショウカット,アーシフ・マンドビ,トニ・トラックス,デボラ・アン・ウォール
パソコンのワープロソフトでは奇跡は起きそうもないけど、タイプライターは、もしかすると?
と思わせる道具ではある。
実生活でもパートナーであるポール・ダノとゾーイ・カザンのカップルは持っている雰囲気がぴったりで微笑ましい可愛いカップル。
ポール・ダノが前のめりの姿勢で車を運転してるのも、
いかにもカルヴィンらしい。
ハリウッド・スターにカップル結婚しようが別れようが知ったこっちゃないというのが普段のスタンスですが、このカップルは長続きしてほしい。
脚本は映画監督エリア・カザンの孫であるゾーイが書いているが、女性の彼女が男性を主人公にしているのが興味深い。
彼女の赤毛にカラフルな衣装が映える。