極私的映画案内

新作、旧作含め極私的オススメ映画をご案内します。時々はおすすめ本も。

今月の読書 〜2018年12月〜

今月の読書12月分をお届けします。
オススメは、ジョゼ・ルイス・ペイショット
ポール・オースター『インヴィジブル』
コニー・ウィリス『ブラックアウト』『オール・クリア』チョン・ミョングァン『鯨』
年末に年間ベスト級続々の豊作の12月。


■このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる/ハプワース16、1924年/J・D・サリンジャー
金原瑞人
新潮社
THE SANDWICH HAS NO MAYONNAISE/HAPWORTH16,1924/J.D.Salinger

初めて『ライ麦〜』を読んだ時にはホールデンよりも少し年上だったので正直あまりピンとこなかった(グラース家サーガの方が好きだった)けれど、親世代になった今の方がホールデンの堂々巡りの行き場のなさに寄り添えそうな気がする不思議。
ライ麦畑で崖から落ちそうになった子供達をキャッチする人になりたかったホールデンは戦場で同じことをしたかったのだろうか?
シーモア7歳にしてこの天才性!30歳になったらもうすっかり空っぽになってしまっても無理もない。
天才の孤独と空虚をひしひしと感じる『ハプワース16、1924年』。

〈収録作品〉
⚫︎マディソン・アベニューのはずれでのささいな抵抗
Slight Rebellion off Madison/1946
⚫︎最後の休暇の最後の日
Last Day of the Furlough/1944
⚫︎フランスにて
A Boy in France/1945
⚫︎このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる
This Sandwich Has No Mayonnaise/1945
⚫︎他人
The Stranger/1945
⚫︎若者たち
The Young Folks/1940
⚫︎ロイス・タゲットのロングデビュー
The Long Debut of Lois Taggett/1942
⚫︎ハプワース16、1924年
Hapworth16,1924/1965


■ガルヴェイアスの犬/ジョゼ・ルイス・ペイショット
木下眞穂訳
新潮社(新潮クレスト・ブックス)
GALVEIAS/José Luis Peixoto/2014

ポルトガルの小さな村ガルヴェイアスにある晩、
大きな衝撃を伴い何かが落下する。
村は騒然となるが、続く豪雨がおさまると村人は皆何事もなかったかのように日常に戻る。
村には硫黄の匂いが立ち込め、
パンは酸っぱくなっているのに。
少しづつ人と人との繋がりが明らかになっていく展開にこちらも「落下した何か」の存在を忘れてしまうという罠。
「落下した何か」は、押し寄せる難民かもしれないし、とんでもない悪法かもしれない。
そこにあるのに、それが何かを良く知ろうともせずに日常に逃げ込んでしまう人間の狡さ、愚かさ。

ガルヴェイアスの犬 (新潮クレスト・ブックス)

ガルヴェイアスの犬 (新潮クレスト・ブックス)


■インヴィジブル/ポール・オースター
柴田元幸
新潮社
INVISIBLE/Paul Auster/2009

入れ子構造」はポール・オースターお馴染みの手法だが、これはどんどん横にずらされていく感じ(自分でも何言ってるのかよくわからない)。
コロンビア大で文学を学ぶアダム・ウォーカーが全体の語り手かと思いきや、これは後年死を前にした彼が書いた自伝的作品『1967年』であり、地の語り手(?)は原稿を託された友人ジム 。
最後は、パリに留学したアダムに恋したセシルの日記で締めくくる構成の妙。アダムと姉グウィンの間に何があったのか?ボルンとは何者だったのか?セシルの父の事故の真相は?全ては“インヴィジブル”。

インヴィジブル

インヴィジブル


みをつくし料理帖 小夜しぐれ/高田郁
角川春樹事務所(ハルキ文庫)

「つる家」の名前の由縁、
種市の亡き娘おつるの死の真相。
もう、このシリーズ、
若い娘に対する試練が酷すぎやしませんかっ!
将軍のご落胤だかなんだか失礼な客に家康の歌で切り返すあさひ太夫のカッコよさにシビれたのもつかの間、
源斎先生の想いを知り番頭爽助との縁談を受け入れた美緒の切ない決断に涙が止まリません。
御膳奉行小野寺数馬(小松原の真の姿)のスピンオフが一服の清涼剤。
数馬の妹、料理下手の早帆さん、いいキャラだなあ。

〈収録作品〉
⚫︎迷い蟹/浅蜊の御神酒蒸し
⚫︎夢宵桜/菜の花尽くし
⚫︎小夜しぐれ/寿ぎ膳
⚫︎嘉祥/ひとくち宝珠

小夜しぐれ (みをつくし料理帖)

小夜しぐれ (みをつくし料理帖)


みをつくし料理帖 心星ひとつ/高田郁
角川春樹事務所(ハルキ文庫)

坂村堂さんのご実家が料理番付の行司役、日本橋の名店『一柳』の御子息だったとは!
どうりで舌が肥えてるはずだ。
翁屋、登龍楼、双方からの魅力的な出店の誘いに澪だけでなくつる家の面々の心も揺れる。
自分の料理を食べて喜んでくれる客の顔が見えるつる家でやっていくと決めた澪。
そして、小松原(小野寺)の妹早帆の再登場。
全巻のスピンオフはこのための伏線だったのか!
料理人としての人生か、惚れた男に寄り添い生きる人生か、どっちか選べなんて残酷過ぎます。

〈収録作品〉
⚫︎青葉闇/しくじり生麩
⚫︎天つ瑞風/賄い三方よし
⚫︎時ならぬ花/お手軽割籠
⚫︎心星ひとつ/あたり苧環

心星ひとつ みをつくし料理帖 (角川春樹事務所 時代小説文庫)

心星ひとつ みをつくし料理帖 (角川春樹事務所 時代小説文庫)


■ブラックアウト(新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)/コニー・ウィリス
大森望
早川書房(A HAYAKAWA SCIENCE FICTION SERIES )
BLACKOUT/CONNIE WILLIS/2010

オックスフォード大学史学部タイムトラベルシリーズの第三弾。
ドゥームズデイ・ブック』から時は流れて12歳だったコリンは17歳のイートン校生になり史学部学生のポリーに恋をしている。
今回は、第二次大戦下のイギリスに旅立ったポリー、
メロピー、マイクルの三人が1940年で囚われの身となってしまう。
二段組768ページ!
まあ、話が進まないが、これだけ細かい描写のおかげで読んでいる方もこの時代にどっぷりタイムトリップしている感覚に浸れる。
最後に1940年に降下したのはコリン?
それともダンワージー先生?

ブラックアウト

ブラックアウト


■オール・クリア1/オール・クリア2(新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)/コニー・ウィリス
大森望
早川書房(A HAYAKAWA SCIENCE FICTION SERIES )
ALL CREAR/CONNIE WILLS/2010

第二次大戦下のイギリスに降下し、それぞれ降下点が使えなくなったポリー、メロピー(アイリーン)、
マイクル(マイク)の三人がロンドンに結集。
降下中の他の史学部生に接触して2060年に戻ろうとするが、それぞれに自分たちの存在が歴史を変えてしまったのではないかと不安を抱えている。
『ブラックアウト』に続き、1944年のアーネスト、
メアリの動きが重要な伏線であることは間違いないが、とにかく焦れったい!
クリスティの小説のごとく、状況を逆から見れば、歴史を変えたのではなく、歴史をあるべき姿にするための降下点の消失。
史学部生三人にも、ボドビン姉弟はじめ時代人にも歴史に対する重要な役割があった訳だが、時代人のそれは結果的にその役割を果たしたのに対し、三人は結果を知った上で大きな犠牲を払い役割を受け入れた。
この小説世界においては、時間は一方方向の線ではなく、円環だったのだ。
それにしても、章の配置といい、構成が絶妙、堪能しました。当初もっと長かったらしいが、コリンが三人に辿り着く辺りは大分削られたんじゃないかな?
ダンケルク』『イミテーション・ゲーム』『刑事フォイル』等の映画やドラマシリーズが作品世界の理解に役立ちます。

オール・クリア1

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オール・クリア2

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同時代を描いた映像作品として参照したいのはこちら👇

刑事フォイル DVD BOX1

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■任務の終わり/スティーヴン・キング
白石朗
文藝春秋
END OF WATCH/STEPHEN KING/2016

前作『ファインダーズ・キーパーズ』で不気味な復活を遂げた“メルセデス・キラー”ことブレイディ・ハーツフィールドは時代遅れのゲーム機“ザビット”を介して他人を操れるようになる。
一作目『ミスター・メルセデス』から退職刑事ホッジズの健康不安(←心臓)は、暗い影を落としていたけれども、まさかシリーズ最終作でこんな病を得るとは!
ホッジズを襲った病がタチの悪いガンだったとは言え、まさか“END OF WATCH”が墓碑銘だったとは。
他人を操るだけでなく、他人の身体まで乗っ取るメルセデス・キラーが得た超能力も、スティーヴン・キングということを考えれば、あり得ない展開ではないのかもしれないが、個人的にはこのシリーズはミステリーだという認識で読んできたので、(身体を乗っ取る云々は)ちょっと禁じ手に感じてしまった。
ホッジズ、ホリー、ジェロームのトリオが魅力的だったので、これで終わってしまうのは残念。

シリーズ一作目『ミスターメルセデス』はこちら👇

シリーズ二作目『ファインダーズ・キーパーズ』はこちら👇


■鯨(韓国文学のオクリモノ)/チョン・ミョングァン
斎藤真理子訳
晶文社
THE WHALE/Cheon Myeong-Kwan/2004

生まれて、死ぬ。このまぎれもない真実の間に起きることが「物語」だとしたら、この世界は「物語」に満ちていることになるが、ここで語られる女たち(と彼女たちを巡る男たち)の「物語」のなんと濃密なこと!
あらゆる欲望、愛と憎しみ、憐れみと慈しみ、僥倖と非情な運命に翻弄されつつ、頁をめくる手を止められなかった。
クムボクを圧倒した鯨、市場を練り歩く象のジャンボ、積み上げられた赤煉瓦、群れ飛ぶ蜜蜂、鯨劇場、そして一面に咲き乱れるヒメジョオン
映画業界出身の著者らしい視覚イメージを刺激してくれる描写も強い印象を残す傑作!
「私が書いた小説はすべて、自分が映画にしたかった物語なのです」
というだけあって、『ガープの世界』『東京流れ者』『嫌われ松子の一生』『イングロリアス・バスターズ』等々、様々な映画が頭をよぎった。『赤朽葉家の伝説』(これ映画にすればいいのに!)『百年の孤独』等、小説も想起。

鯨 (韓国文学のオクリモノ)

鯨 (韓国文学のオクリモノ)


〈私的オススメ関連作品〉

ジョン・アーヴィングガープの世界

ガープの世界〈上〉 (新潮文庫)

ガープの世界〈上〉 (新潮文庫)

ガープの世界〈下〉 (新潮文庫)

ガープの世界〈下〉 (新潮文庫)

ジョージ・ロイ・ヒル監督(ロビン・ウィリアムス主演)の映画化作品はこちら👇
ガープの世界 [DVD]

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鈴木清順監督(渡哲也主演)『東京流れ者』はこちら👇

桜庭一樹赤朽葉家の伝説』はこちら👇

赤朽葉家の伝説 (創元推理文庫)

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赤朽葉家の伝説

赤朽葉家の伝説

山田宗樹嫌われ松子の一生』はこちら👇

嫌われ松子の一生 (上) (幻冬舎文庫)

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嫌われ松子の一生 (下) (幻冬舎文庫)

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中島哲也監督(中谷美紀主演)による映画化作品はこちら👇
嫌われ松子の一生 通常版 [DVD]

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クエンティン・タランティーノによる第二次世界大戦歴史改変映画『イングロリアス・バスターズ』はこちら👇

イングロリアス・バスターズ [DVD]

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ガブリエル・ガルシア=マルケスの不朽の名作
百年の孤独』はこちら👇

百年の孤独 (Obra de Garc´ia M´arquez)

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