極私的映画案内

新作、旧作含め極私的オススメ映画をご案内します。時々はおすすめ本も。

ナイトクローラー


サイコパスにうってつけの職業


人通りのない夜のロサンゼルス。
線路脇でフェンスを盗もうとしている男
ルー(ルイス)・ブルーム。
しかし、すぐに警備員に見つかってしまう。
道に迷っただけだと言い訳をしながら警備員の腕時計に目をつけたルーは突然警備員を襲い、腕時計を奪う。

盗んだフェンス、銅線、マンホールのフタをスクラップ工場に持ち込むルー。
盗品だと足元を見られたルーは市価を下回る価格での取引を余儀なくされるが、今度は自分を売り込む。

「仕事を探している。
学べて成長できる仕事をね。
僕は勤勉で志は高く粘り強い。」

「コソ泥は雇わない」

社長の返事は素気無いものだった。

ところがその帰路、
ルーは天職との出会いを果たす。
交通事故の現場。
警察官が負傷者を救出している。
それを撮影しているのは事故や犯罪現場を専門にする
パパラッチだ。
次の現場へ急ぐカメラマンに声をかけたルー。

「稼げるのかな?」

バンの中の沢山のカメラや機材を目にするルー。
少なくともこの機材を買えるくらいには儲かるらしい。

これだ!

翌日、早速ルーは高級自転車を盗み、
カメラと警察無線の傍受機を手に入れる。
運良く最初のカージャックの現場を撮影したルーは
映像を地元のテレビ局に持ち込む。
映像は250ドルで売れた。
ルーは他のパパラッチよりもいい位置で撮影出来たのだ。

「見る目を持ってる 何か撮ったら一番に見せて」

ルーはディレクターのニーナに励まされる。
彼女の求めるシナリオは、郊外に忍び寄る都市犯罪。
被害者は裕福な白人で、犯人は貧困層か少数派が好ましい。
彼女の要求をしっかり理解するルー。
彼は勤勉で志は高く粘り強いのだ。

ルー犯人は仕事もなく家もなく金に困っていた男リックをアシスタントとして雇う。
そして、次々と特ダネをものにするルーはニーナの信頼を勝ちとっていく。


ニーナを食事に誘ったルーは他所の局に映像を持ち込むと彼女を脅し、関係を強要する。
視聴率の調査期間が近づく中、
ルーの映像が是が非でも必要だったニーナは
彼の要求を拒絶することは出来なかった。
その一方で、事故現場で遺体を動かしたことを手始めにルーは次々と一線を越えていく。


いわゆる人の不幸が飯のタネである仕事をする中で次第に壊れていく男が主人公かと思っていたがまったく違った。
最初にルーの盗みの現場を見せる脚本が実に巧みで、
彼には最初から超えてはならない一線など存在しない。
倫理観もない、罪の意識もない。
金のためはもちろんだが、
ルーはこの仕事を純粋に楽しんでいる。
これはサイコパスの男が天職に出会う話なのだ。
そう気付いてサイコパスの定義を調べてみたら
すべてがルーというキャラクターに当てはまる。

犯罪心理学者のロバート・D・ヘアはサイコパスを次のように定義している。

・良心が異常に欠如している
・他者に冷淡で共感しない
・慢性的に平然と嘘をつく
・行動に対する責任が全く取れない
・罪悪感が皆無
・自尊心が過大で自己中心的
・口が達者で表面は魅力的


監督のダン・ギルロイはテレビで流される映像を見て事故や犯罪現場のパパラッチという職業に興味を持ったそうだ。
これを仕事にしているのは、
一体どういう人間なのか?
パパラッチが皆ルーのような人間だとは思わないが、
金のために倫理観や良心を封印している、
そうしなければ出来ない仕事であることは間違いない。
ただし、
この手の映像が視聴率を稼ぐこともまた事実であり、
彼らの仕事はそれを見る視聴者がいて初めて成り立つ。
視聴者である私たちもまた
彼らの仕事に加担しているのだ。
倫理観、被害者感情への配慮、良心、
考えなければならないのは私たちなのである。

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ナイトクローラー/Nightcrawler
(2014 アメリカ)
監督・脚本:ダン・ギルロイ
出演:ジェイク・ギレンホールレネ・ルッソ,リズ・アーメッド,ビル・パクストン,アン・キューザック,ケヴィン・ラーム,キャスリン・ヨーク,エリック・ランジ,キック・ヴァンデンヒューヴェル,ジョニー・コイン,マイケル・ハイアット,マイケル・パパジョン

ボーン・レガシー』『リアル・スティール』で知られるダン・ギルロイの監督デビュー作。
兄は脚本家で監督のトニー・ギルロイ
撮影のロバート・エルスウィットは、
ポール・トーマス・アンダーソン作品でおなじみ。
夜のLAの景色が禍々しくも美しく切り取られている。




この役を演じるにあたって12キロの減量をして臨んだというジェイク・ギレンホール
同業者ジョー・ローダーを重傷に追い込み、
その酷く傷ついた姿を撮影している姿は『ノーカントリー』の殺し屋アントン・シガー(ハビエル・バルデム)を、ルーの早口は『ソーシャル・ネットワーク』のマーク・ザッカーバーグジェシー・アイゼンバーグ)を思い起こさせる。
前者は完全なサイコパス、後者は他人と人間関係を築くのが不得手。
悪役を演じる俳優を観るといつも感じるが、
ジェイク・ギレンホールもまた実に楽しそうにサイコパスを演じている。
今後もジェイクは、
ジャン・マルク・ヴァレ監督『Demolition』、
デヴィッド・ゴードン・グリーン監督『Stronger』、
ポン・ジュノ監督『Okja』と気鋭の監督作品への出演が続く。



ルーに酷い目に遭わされるアシスタントのリックを演じたリズ・アーメッド。
サイコパスのルーに対して、リックは常識を持ち合わせている人間として描かれる。
リックには超えられない一線があるのだ。
学歴もなければ仕事もなく家もないという社会の底辺で生きる青年役だったが、本人はオックスフォード大学卒業のインテリ。
今後の出演作は『ジェイソン・ボーン』『ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー』と大作への出演が続いている。



キャリアの危機に直面している崖っぷちのテレビディレクター、ニーナ。
視聴率のためなら(自分のキャリアのためなら)ルーの手法にも目をつぶり、道徳的、倫理的にも問題がある(被害者感情などどこ吹く風)映像も流すニーナもまたルーと同じ穴のムジナだ。
ニーナを演じるのは、監督ダン・ギルロイの奥様レネ・ルッソ
御歳62歳には見えない妖艶さだが、
この役は若い女優には演じられないだろう。
他にも、監督の兄トニーはプロデューサーとして名を連ね、双子の兄弟ジョンは編集を担当している。


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