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極私的映画案内

新作、旧作含め極私的オススメ映画をご案内します。時々はおすすめ本も。

瞳の奥の秘密

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苦い記憶と空虚感、そして新たな選択


ベンハミン・エスポジト。
彼は今、裁判所の書記官の職を退き、

小説を書こうとしている。
彼の人生を大きく変えることになったある事件をモチーフとして。
事件から20数年が経ち、彼は大きな空虚感を抱えていた。
小説を書くという作業は彼にとってその”空虚感”の正体を探る作業でもあった。
そしてその作業は同時に事件をもう一度辿り直す作業にもなっていく。

ベンハミンは書きかけの原稿を持って元の職場を訪ねる。
かつての上司に小説を書くことについて意見を聞くために。
彼女イレーネは今では検事であり、妻であり母親だ。

20数年前、彼はそこでイレーネと出会った。
判事補(検事補?)と書記官、上司と部下として。

彼等は惹かれ合うが、片やアメリカのアイビーリーグを卒業した才媛、片や一介の書記官、
もちろん育った環境も違う。
ふたりはお互いの気持ちに気付いてはいるものの、なかなか一歩が踏み出せない。
そして、彼女にはエンジニアの恋人がいた。

そこへ”あの事件”が起きる。
美しい若妻が無惨にも暴行され殺害された。
新婚間もない銀行員の夫はショックのあまり呆然自失。
間もなく出稼ぎ労働者が容疑者として逮捕され自白するが、それは行き過ぎた取り調べによって強要されたものだった。
捜査は振り出しにもどるが、
ベンハミンが被害者リリアナのアルバムから手がかりを得る。
子ども時代から大学時代まで、
写真の中で彼女を見つめ続けるある男の視線に気付いたのだ。
男はリリアナの幼なじみイシドロ・ゴメス。
彼は彼女を追うようにブエノスアイレスに引っ越していた。
ベンハミンはゴメスが犯人だと確信する。
しかし、証拠がない。
現在の住所を訪ねると、彼は捜査の手を察したかのように姿を消していた。
ベンハミンと同僚のパブロは、強引な手法でイシドロが母親に送った手紙を手に入れるが、
彼の行方については何の手がかりも得られない。
ベンハミン等の行き過ぎた行為は糾弾され捜査は幕引き、事件は迷宮入りかと思われていた。

しかし、事件から一年後のある日、
ベンハミンは駅で被害者の夫リカルド・モラレスを見掛ける。
ここで何をしているのかと問うと、
容疑者が姿を現すのではないかと、毎日駅で見張りを続けていると言う。
事件は過去のものになりつつある中、
リカルドの時間は止まったまま。
彼の妻に対する深い愛情にうたれたベンハミンは捜査の再開を決意するが…。

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冒頭のシーンはクラシカルな駅での美しい別れのシーン。
男の方が若き日のベンハミンだと気付けば、
彼がこの別れをずっと後悔し続けてきたことは容易にわかる。
これは20数年前に起きた殺人事件にまつわるサスペンスであると同時に、
ベンハミンの苦い別れのストーリーであり、
この作品の大きなふたつの要素である。
サスペンスの中にラブスートーリーだったり家族の物語だったり他の要素が含まれることは珍しくもないし、むしろ様々な要素が含まれることで作品は豊かになる。
しかし、このふたつの物語はベンハミン、リカルドそれぞれの選択によって、全く別の結末を迎える。
違う色の二本の糸が縒り合わされ一本となり、やがて再びニ本の糸に戻るように。

二時間超のどちらかと言えば長尺。
しかし、登場人物がとても限られていて、
どのキャラクターも大事にされている。
だからこそ、この作品はベンハミンとイレーネの物語というだけでなく、リカルドとリリアナ、
そして彼女を歪んだかたちではあるが思い続けたゴメス、そして、ベンハミンの愛すべき酔っ払いの同僚パブロの物語になっている。
 
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もしも、興味を持ってこの作品を観たいと思っていただけたなら、
作品中に登場するありとあらゆる”写真”を見逃さないでほしい。
これは事件の手掛かりになっているだけではない。
セリフはもちろん後の伏線として重要だが、
”写真”は見逃したらこの作品の良さが全くわからなくなると言っても過言ではないくらいに重要な”小道具”なので。
 
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もうひとつ見逃さないでほしいポイント。
作品中一番緊迫感高まるシーンがサッカースタジアムの三分程の長回しのシーン。
この程度の長回しのシーンは珍しくもないかもしれないが、よーくよーく観てカメラの移動距離と移動した場所を考えると、とんでもないシーン。
つないであるとしても素人目にはまったくわからない。
この作品は、キャラクターの感情を大事にしたとてもエモーショナルな作品ではあるが、テクニカルな部分にも見どころのある作品。

もしも本人が変えたいと思ったとしても、
人間の本質は簡単に変えられるものではない。
でも人間は
新たな選択をすることは出来るのだ。

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瞳の奥の秘密/El secreto de sus ojos
(2009年 アルゼンチン/スペイン)
監督:ファン・ホセ・カンパネラ
出演:リカルド・ダリン、ソレダ・ビジャミル、パブロ・ラゴ、ハビエル・ゴディーノ、カルラ・ゲベド、ギレルモ・フランセーヤ

アカデミー賞外国語映画賞受賞作品。
南米の映画が日本で公開されることも少ないし、これまでに観た本数もごく限られたものですが、同じ南米の映画でもこのアルゼンチンの作品はメキシコやブラジルの映画と違ってどこかヨーロッパの香りがします。
 
 
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