極私的映画案内

新作、旧作含め極私的オススメ映画をご案内します。時々はおすすめ本も。

バトル・オブ・ザ・セクシーズ


彼女は何と闘ったのか?


1972年、全米選手権、決勝。
ロージー・カザルスを6-4、7-6で勝ち、全米チャンピオンとなったビリー・ジーン・キングは、
女子選手で初めて獲得賞金10万ドルを突破した。
しかし、ビリー・ジーンの闘いはまだ終わっていなかった。
ビリー・ジーンら女子選手と元選手グラディス・ヘルドマンは女子選手全員の報酬アップを要求していた。
ところが、発表された次の大会の賞金は
男子12,000ドルに対し、
女子は1,500ドル

と約8倍もの格差があったのだ。
ビリー・ジーンとグラディスは全米テニス協会のドン、ジャック・クレーマーに直談判する。

決勝のチケット販売数は男女共同じ。
賞金も男女同額にすべき。
なのに、何故?
しかし、この要求は拒絶される。

  • 男には養うべき家族がある
  • 男の試合は見ていて面白い
  • スピードがあり、力強い
  • 男女には生物学的な差がある
  • 競争も激しい

これに対し、ビリー・ジーンはボイコットを宣言する。
ビリー・ジーンはじめ選手たちは独自にトーナメントを立ち上げ、女子テニス協会(WTA)を設立、
たった1ドルで契約書にサインした。
この結果、選手たちは全米テニス協会から追放されたが、選手自らコートに人工芝を敷き、チケットを売り、宣伝し、合間に練習した。
大きな目的のために、選手たちは団結したのだ。

※この時、スポンサーになったのが、フィリップモリス社。選手が全米でフィリップモリス社のタバコを吸うことが条件だったというから時代を感じる。

そして、ビリー・ジーンには新たな出会いが訪れていた。
美容師のマリリン・バーネット。
ビリー・ジーンには、彼女の活動を献身的に支える夫ラリーがいたが、女性であるマリリンに惹かれる気持ちは偽ることができなかった。

一方、元テニス選手で全米王者でもあるボビー・リッグスは不満を募らせていた。
プリシラの父親の会社に籍を置いていたものの仕事などないに等しいお飾り的存在。
ギャンブル好きのボビーは金持ちの友人をカモに賭けテニスで憂さを晴らしていた。
そんなある日、賭けで勝ちとったロールスロイスが自宅に届き、やめると約束していたギャンブルを続けていたことがプリシラにバレてしまう。
ボビーはギャンブルをやめられなかった。
依存症の会に出席した彼はメンバーの前でこう言い放つ。

「賭け事は悪くない。賭けがヘタだから問題なんだ
大好きなことをやめるべきか?
やめなくていい。賭けに強くなれ!」

家を追い出されたボビーは一計を案じる。
それは、女子テニスのトップ、ビリー・ジーンとのエキシビションマッチだった。
しかし、彼女は見世物になるのを嫌い、
これを拒否する。
そこでボビーが話を持ちかけたのはビリー・ジーンのライバルで幼い息子を帯同しツアーに参戦していたマーガレット・コートだった。
折しも、マリリンとの新たな関係に戸惑うビリー・ジーンは調子を落としており、トーナメント決勝でマーガレットに負けてしまう。
マーガレットはボビーの挑戦を受けるが、
試合は2-6、1-6でボビーが圧勝してしまう。

「くだらない、ただの試合よ」

マーガレットはこう言ったが、これはただの試合ではなかった。

「女性はテニスができても重圧に耐えられない
これで、男性と同額の賞金を求める動きもやむでしょう
ご覧の通り、男女のレベルは違う
ビジネスでも政治でもスポーツだろうと頂点は男性です」

これで、ビリー・ジーンはボビーとの対戦を避ける訳にはいかなくなった。
かくして、ABC放送でプライムタイムの生放送、
賞金10万ドルをかけた世紀の対戦が決まった。

この対戦は本当に、
男性至上主義のブタVS.モジャ脚のフェミニストだったのだろうか?
ボビー・リッグスは本当に男性至上主義者だったのか?
ビリー・ジーンは何と闘ったのか?

ボビーは試合前、妻プリシラに言う。

「私は相当恐ろしい道を進んでいる」

この発言からは、彼は世間に男性至上主義者であるとみなされることをリスクと考えていたことが分かる。
ボビーの過激な言動は、多少なりとも世間の注目を集めるためのポーズだったんじゃないかと私は思う。
彼がこの対戦に取り戻したかったのは、
家族、そして痺れるような勝負の世界への復帰だ。

ビリー・ジーンは、解説者としての招聘されたジャック・クレーマーの出演を拒否する。

「ボビー?彼はただの道化よ
パフォーマンスでやってるだけ
でもね、あなたは違う、本物よ
女を敬えない、台所と寝室にいる女は好き
紳士なのは認める
だけど女が権利を主張すると
わずかな権利でもあなたは許せない」

「女が上だと言ってない
敬意を払ってほしいだけ」

試合は、ショーではなく、真剣勝負として素晴らしい対戦となる。
勝負に徹し、全力でプレーするボビーの姿を見て、
プリシラは夫の元へと戻る。
ストレートで試合に勝ったビリー・ジーンと女子選手たちは男子選手と同額の賞金を勝ち取った。

試合後、トーナメント専属デザイナーのテッド・ティンリングはビリー・ジーンに語りかける。

「時代は変わる、今、君が変えたように
いつか僕らはありのままでいられる
自由に人を愛せる
だけど、今は皆と勝利を祝おう」

その後、ビリー・ジーンは長年彼女を支えてきた夫ラリーと離婚。イラナ・クロスという新たなパートナーを得る。
二人はラリーが再婚して得た子供たちのGod Parents になっている。
時代は確実に変化している。

ビリー・ジーン・キングや選手たちの尽力によって、
現在のテニス界では、トーナメントの賞金は男女同額だ。
しかし、同じスポーツ界でもまだまだ男女格差が存在する。
今年FIFA女子ワールドカップで2大会連続4回目の優勝を果たした女子アメリカチームのキャプテンであり、大会得点王&MVPのミーガン・ラピーノー選手らはイコールペイを訴えている。
女子サッカーアメリカでは人気スポーツ。
アメリカ映画やドラマでは、女の子がプレイするスポーツと言えばサッカーだ。
女子代表選手は男子代表選手よりも多く勝ち、多額の収益を生み出しているのに、十分な賃金を得られていないのが現状だ。
彼女たちの闘いは今もまだ続いているのだ。

ミーガン・ラピーノー選手の優勝パレードでのスピーチについて詳しくはこちら👉
ミーガン・ラピノー「私たちのチームにはいろんな人間がいる」 W杯優勝パレードで披露した女子サッカーキャプテンのスピーチが超アツい | ハフポスト


ボビー・リッグスのスポンサーだった(2万ドル💰)シュガーダディーについて詳しくはこちら👉町山智浩 映画『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』を語る

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バトル・オブ・ザ・セクシーズ/Battle of the Sexes (2017 アメリカ/イギリス)
監督ジョナサン・デイトンヴァレリー・ファリス
脚本:サイモン・ボーファイ
撮影リヌス・サンドグレン
音楽:ニコラス・ブリテル
編集:パメラ・マーティン
出演エマ・ストーン,スティーブ・カレル,アンドレア・ライズブローサラ・シルヴァーマンビル・プルマンアラン・カミングエリザベス・シュー,オースティン・ストウェル,ナタリー・モラレス,ジェシカ・マクナミー,エリック・クリスチャン・オルセン,ルイス・プルマン,マーサ・マックアイザック・ウォレス・ランガム,フレッド・アーミセン


公式HPはこちら👉映画『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』オフィシャルサイト| 20世紀フォックス ホーム エンターテイメント

予告編はこちら👉『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』予告編 (2018年) - YouTube



監督はジョナサン・デイトンヴァレリー・ファリスの夫婦コンビ。
このコンビの代表作といえば、リトル・ミス・サンシャイン(スティーブ・カレル、ウォレス・ランガム出演)。
ルビー・スパークスに出演したポール・ダノ(『リトル・ミス・サンシャイン』にも出演)、ゾーイ・カザンも実生活でもパートナーで、ポール・ダノの監督デビュー作では、ゾーイ・カザンが脚本を書いている(『ルビー・スパークス』の脚本も担当)。
因みに、ゾーイ・カザンの祖父は映画監督のエリア・カザン(『エデンの東』)です。

ルビー・スパークスについて詳しくはこちら👉ルビー・スパークス - 極私的映画案内

脚本のサイモン・ボーファイ出世作は、さびれた鉄鋼街でストリップショーでひと旗あげようと奮闘する男たちを描いたフルモンティ
そして、ダニー・ボイル監督スラムドッグ・ミリオネアではアカデミー賞脚色賞を受賞した。
ダニー・ボイルは当初今作も監督する予定だったが、結局プロデューサーとして参加している。


ボビー・リッグスにそっくりのスティーヴ・カレル
『40歳の童貞男』などコメディ俳優としての活躍が目立つが、最近ではフォックスキャッチャーのシリアスな演技が高く評価されている。
コメディ俳優は、ほぼもれなくシリアスな演技も上手いが、彼の出演作で個人的にオススメしたいのはラブ・アゲイン
こちらでは、エマ・ストーンが娘役を演じている。


ラ・ラ・ランドでオスカー女優の仲間入りを果たしたエマ・ストーン
キラキラ✨した前作とうってかわって、つぎの作品に選んだのが今作。
オスカーを獲るとその後のキャリアが低迷、あるいは迷走する俳優も少なくないが、我らがエマ・ストーンは守りに入ることなく積極果敢に
新たな領域に踏み込んでいる。
キング夫人とは似ていないが、見ているうちに似ているように見えてくるから不思議。
次の作品女王陛下のお気に入り(ヨルゴン・ランティモス監督)も賞レースを賑わせた作品で、オリヴィア・コールマンレイチェル・ワイズとの演技合戦の見応えは素晴らしかった。


ビリー・ジーンが心惹かれる美容師のマリリンを演じたのはアンドレア・ライズブロー
この人は、まさにカメレオン俳優。
出演作ごとにまったくイメージが違うので、
彼女の出演作品をたくさん観ていても、気付かないんじゃないかと思う。
この後、マリリンとビリー・ジーンは破局
裁判沙汰に発展し、裁判に敗れたマリリンは自殺を図り、半身不随となってしまう。
この事実を踏まえて本編を観ると、アンドレア・ライズブローがマリリンの病的な部分(なんか、ヤバそうな感じ)も表現しているように思う。

ボビーの挑戦を支える息子ラリーを演じているのは、ジャック・クレイマー役ビル・プルマンの息子ルイス・プルマン

実話ベースでテニス界を描いた作品として思い出すのは、ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男
1980年ウィンブルドン、5連覇のかかるボルグと初優勝を狙うマッケンローの伝説の一戦を描いた作品。
北欧三国スウェーデンデンマークフィンランド)出資の作品なので、ストーリーの比重はボルグに偏るが、破天荒な振る舞いの陰で有名弁護士である父親に認められたいと闘いに挑むマッケンローを演じたシャイア・ラブーフが印象に残る。
シャイア・ラブーフ、賞レースに絡むような作品に恵まれて欲しい!

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ラ・ラ・ランドはこちら👇

ラ・ラ・ランド (オリジナル・サウンドトラック)

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