今月の読書、2019年6月分をまとめました。
今月はあまり読めなかったのですが、
なんといっても、
ジョナサン・フランゼン『ピュリティ』。
800ページ超のボリュームですが、
一気に読ませる圧倒的な筆力に脱帽です。
■ロイスと歌うパン種/ロビン・スローン
島村浩子訳
東京創元社
SOURDOUGH/Robin Sloan/2017
テック企業に高年収で転職したロイス。
ところが、多忙とストレスで心身共にボロボロ。
食事はもっぱら栄養補給ゼリーのお世話になる始末。
そんな悲惨な彼女の食生活を救ったのは、
謎めいた兄弟がデリバリーする
スパイシー・スープとサワードゥ!
アメリカを離れることになった兄弟はサワードゥのスターターを彼女に託して帰国する。
数多くの微生物が同居するクレメント・ストリート・スターターが素晴らしいサワードゥを作るように、
歌う天然酵母とロボットアーム、真逆に思えるもの否定せずに共存させているのがいい。
どちらも大事にしてこそ未来が拓けるのだ。
ファーマーズ・マーケットの出店システムとか、
ロイス・クラブとかビールの醸造所とかアグリッパのチーズとか〈カフェ・カンディード〉、サンフランシスコ、素敵な街だなあ。
〈カフェ・カンディード〉のオーナー、
シャーロット・クリングストンのモデルってオーガニック料理の母」と言われてるアリス・ウォータースさんかな?
- 作者: ロビン・スローン,島村浩子
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2019/04/11
- メディア: 単行本
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■ダ・フォース/ドン・ウィンズロウ
田口俊樹訳
ハーパーコリンズ・ジャパン(ハーパーBOOKS )
THE FORCE/DON WINSLOW/2017
NY市警特捜部、麻薬取引捜査を担当する“ダ・フォース”でチームを率いるデニス・マローン。
脅し、賄賂、暴力、何でもあり。
売人、ギャング相手に綺麗事を言ってたら命がいくらあっても足りない。
「マンハッタン・ノースの王」。
そう自負するマローンだったが、
その驕りが彼を窮地に陥れる。
街中では縄張りを争う売人同士が互いの脳みそをふっ飛ばし合い、まだほんの子供が腕に注射針を突き立てたまま死ぬ。
仕事が終われば、隣人とお喋りをし、良き父親として子供たちの相手をする。
その落差にマローンは耐えられない。
彼は刑事というより、過酷な戦場で戦う兵士なのだ。
デニー・マローンは、何故ディエゴ・ペーナを殺したのか?
この本当の理由が明かされなかった前半はマローンや仲間たちに感情移入するのは難しい。
金、血、そして白い粉にまみれ、ドツボにハマったマローンは自業自得に思える。
ところが、ペーナ殺害の理由が明らかになると、根本のところでマローンを突き動かしていたものは、悪に対する義憤だと分かる。
希望と誇りと信念に満ち、
人生最良の日だった警察学校卒業の日。
その日からマローンはどこで間違え、道を踏み外していったのか?
これは間違いなくマローン個人だけの問題ではなく、社会全体の問題だ。
前半は言い訳がましい感じで今ひとつ乗れなかったが、後半は少し格好つけ過ぎじゃないかと思うくらいすごくエモーショナルな展開だった。
現在、監督ジェームズ・マンゴールドで映画化構想中とのこと。
『カルテル』はリドリー・スコットで撮影中らしいが、
20世紀フォックスがディズニー傘下に入ってどういう内容になるのかちょっと心配です。
- 作者: ドンウィンズロウ,田口俊樹
- 出版社/メーカー: ハーパーコリンズ・ ジャパン
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■予告殺人/アガサ・クリスティー
田村隆一訳
早川書房(クリスティー文庫)
A MURDER IS ANNOUNCED/Agatha Christie/1950
地元紙に掲載された殺人予告、突然の暗転、怒号、銃声、巨額の遺産相続人、行方不明の双子。
まさにアガサ・クリスティーといったお膳立てが揃った王道ミステリー。
ミス・マープルにせよポアロにせよ金田一耕助にせよ、
探偵が最後に関係者を集めて謎解きをしてくれるミステリーが私は好きなのかもしれない。
これもドラマ版を観ていたはずだったのだが、やっぱり真相はうっすらとしか覚えていなかった。
まあ、忘れるからこそ何度でも楽しめるということで、我が記憶力の劣化を慰めることにしよう。
- 作者: アガサ・クリスティー,田村隆一
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2003/11/11
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■ピュリティ/ジョナサン・フランゼン
岩瀬徳子訳
早川書房
PURITY/Jonathan Franzen/2015
これまで現代アメリカを生きるありふれた人々の姿を圧倒的な筆力で描いてきたフランゼンだが、
新作は、代替エネルギー会社で働き奨学金返済を抱える23歳のピップの経済的苦境から物語が始まる。
父親の名前を決して明かそうとしないピップの情緒不安定な母親をはじめ登場人物も大分エキセントリックだ。
しかし、つまるところ、親子、夫婦、その間で起きるあれやこれやである。
タイトルは『ピュリティ』だが、人は誰もが純粋なままでは生きられない。
正しくあろうとしても、皆何らかの罪悪感を抱えて生きざるを得ないのだ。
ああ、これぞ、人生。
どんな人でも、その人生は時代に左右される。
インターネットと既存のジャーナリズム、
冷戦終結、ベルリンの壁崩壊、フェミニズム、巨大複合産業。
ここ何十年かの世界の潮流も背景としてしっかり描かれていてお見事。
読んでいて一番しんどかったのは、トムとアナベルの関係だった。
こういう関係にハマったら地獄です。
- 作者: ジョナサンフランゼン,岩瀬徳子
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ジョナサン・フランゼンの他の作品もオススメです。
- 作者: ジョナサンフランゼン,Jonathan Franzen,黒原敏行
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■声の物語/クリスティーナ・ダルチャー
市田泉訳
早川書房(新★ハヤカワ・SF・シリーズ)
VOX/CHRISTINA DALCHER/2018
全ての女性から話すことも読むことも書くことも奪われたディストピア世界。
同性愛者は収容所送りで過酷な強制労働を課せられる。
大統領を操り、この政策を推し進めるのは、
キリスト教右派のテレビ伝道師コービン牧師。
現実にもアメリカ大統領の強力な支持基盤はキリスト教右派だし、ここまで極端でなくとも確実にこの世界を望んでいる一派は存在して、
そこにリアリティがある。
主人公の学生時代の友人が言う。
「自由でいるためには、
何をしなくちゃいけないか考えてみなよ」
これはこの世界に生きる全ての人に問いかけられている。
学校教育によって洗脳され母親すら見下すようになるスティーヴンが愚かしくも痛々しい。
これは、フィクションだとか他の国のことだからとか言っていられない、今そこにある危機。すごくムカつくし、心底恐ろしい。
- 作者: クリスティーナダルチャー,オートモアイ,市田泉
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こちらは男女逆転のディストピア世界を描いた
ナオミ・オルダーマンの『パワー』。
読み比べてみるのも一興。
- 作者: ナオミ・オルダーマン,安原和見
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■路地裏の子供たち/スチュアート・ダイベック
柴田元幸訳
白水社
CHILDHOOD AND NEIGHBORHOODS/Stuart Dybek/1971,1973,1974,1975,1976,1978,1979,1980
ここに描かれているシカゴの下町は、ただ単純に懐かしいというよりも、多分そこに住んでいる時にはいつか出て行くと思い定めているような場所。
忘れたいのに忘れられない、
気づけば心が舞い戻ってしまう場所。
大人になった彼らが幾分苦さと共に思い出す場所。
ダイベック二十歳の頃の作品だという「長い思い」冒頭を飾る「パラツキーマン」(レイに何が起きたのか?)「慈善」「見習い」辺りがお気に入り。
ほとんどが1970年代に書かれたものだが、
映像的には、ドラマシリーズ『シェイムレス 俺たちに恥はない』で脳内補完。
舞台は同じシカゴ南部の荒れた地域。
現代ではスノッブな小金持ちに侵食されつつある。
まあ、『シェイムレス』に登場するギャラガー家の子どもたちは逞しく生きているけれど、そこに暮らす人の痛みは今も変わっていないような気がする。
ダイベックも『シェイムレス』観てるかな?
〈収録作品〉
⚫︎パラツキーマン The Palatski Man
⚫︎猫女 The Cat Woman
⚫︎血のスープ Blood Soup
⚫︎近所の酔っ払い Neighborhood Drunk
⚫︎バドハーディンの見たもの
Visions of Budhardin
⚫︎長い思い The Long Thoughts
⚫︎通夜 The Wake
⚫︎ザワークラウトスープ Sauerkraut Soup
⚫︎慈善 Charity
⚫︎ホラームービー Horror Movie
⚫︎見習い The Apprentice
- 作者: スチュアート・ダイベック,柴田元幸
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 2019/04/23
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こちらもシカゴを舞台にしたスチュアート・ダイベックの短編集
- 作者: スチュアート・ダイベック,柴田元幸
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 2006/02/28
- メディア: 単行本
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- 作者: スチュアートダイベック,Stuart Dybek,柴田元幸
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 1992/04
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