極私的映画案内

新作、旧作含め極私的オススメ映画をご案内します。時々はおすすめ本も。

ショート・ターム


癒すひともまた傷ついている


問題を抱えたティーンエイジャーが暮らすグループ・ホーム〈SHORT TERM 21〉
大学を休学中の新人スタッフ、ネイトに先輩メイソンが新人時代に門番を担当した時のエピソードを話している。
門番とは、施設から脱走する収容者を見張る役目のことだ。
メイソンが、上司のグレイスに命令され、
門番をやっていると、メイソンより30センチも身長の高い収容者の少年が出て行こうとしていた。
スタッフは、基本的に敷地外に出た収容者の身体に触れることは出来ないので、メイソンは彼の後からついて行くことにした、
しかし、メイソンはその日食べたタコスが当たったのか、腹具合が悪かった。
少年を追ってバスに乗ったはいいが、腹具合は風雲急を告げ、今すぐトイレに駆け込みたいレベルに悪化していた。
少年がバスを降りたので、仕方なくメイソンも降りたが、その瞬間、肛門決壊!
お気に入りのナイキのスニーカーが台無しになってしまった。
少年はメイソンの失敗を皆に広めるべく、その日は施設に戻ったが、後日再び脱走し、その2日後に死んだ。
笑い話のはずが、とんだオチがついてしまい、
笑っていたネイトも真顔に戻る。

すると、突然奇声を発しながら下着姿のサミーが建物を飛び出してくる。
グレイスに言われ、慌ててサミーを追いかけるネイト。
三人がかりで、どうにか敷地内でサミーを取り押さると、グレイスは優しく声をかけて落ち着かせる。

周囲からの信頼も厚い若きケア・マネージャーのグレイス。
朝のミーティングで、18歳の誕生日を迎え施設を出るマーカスの送別会について話題にする。
その場で、新人ネイトも挨拶するが、彼の
「恵まれない子どもたち」という不用意な発言でマーカスが激昂してしまう。
退所することは、本来ならば喜ばしいことのはずだが、
マーカスはピリピリしていて、不安そうだ。

所長のフランクに呼ばれたグレイスは、
新しい入所者ジェイデンが来ることを知らされる。
ジェイデンは母親を亡くした後に荒れ、
施設を出たり入ったりを繰り返しているという。
友人がジェイデンの父親の知り合いだという所長が直々に頼まれたのだ。
週末は自宅に戻るというジェイデンは他の皆と親しくしようとしない。
いつも独りで、絵を描いている。
自身も絵を描くことが好きなグレイスは、
ジェイデンの中にかつての自分の姿を見る。

今ではケア・マネージャーとして子どもたちの頼れる親代わり、姉代わりのグレイスだが、
彼女自身も問題を抱えた子どもだった。
ジェイデンの入所が、グレイスの記憶をよみがえらせる。
そして、グレイスは今、もう一つ、問題を抱えていた。
同僚でもあり恋人でもあるメイソンの子どもを妊娠していたのだ。
グレイスはメイソンに妊娠を告げずに中絶手術の予約を入れる。

最近様子のおかしいグレイスには、メイソンも気づいており、何かあるなら話すよう彼女に迫る。
しかし、グレイスは頑なに話そうとしない。

〈SHORT TERM 21〉の名の通り、
入所した子どもたちは、基本的に1年未満で施設を出て行く。
短い時間でスタッフに出来ることは少ない。
一口に問題を抱えていると言っても、
妹を亡くし心の安定を失ったサミーや母親から虐待を受けていたマーカスなど、子どもたちの数だけ問題はあり、千差万別なのだ。
所長の言う通り、すべての子どもを救うことは出来ない、悲しいかなそれは事実だろう。
しかし、素晴らしい里親に恵まれ愛情を注がれて育ったメイソンのように、一人でも多くの子どもたちが未来をつかめるようにサポートする、それは国が違っても同じ仕事に携わるすべての人の思いだろう。
耳をふさぎたくなるようなニュースが少なくない中で、色々な状況下で苦しい立場に追い込まれている子どもたちが存在することをいつも心の何処かにとめておきたい、あらためてそんなことを思った。

グレイスが最終的にどんな選択をし、
どうやってジェイデンやマーカスを支えるのかは本編を観てもらいたいが、
ラスト、冒頭とまったく同じシチュエーションでメイソンが語るエピソードは私たちに希望をもたらすとともに、映画の構造的にも見事な円環を成している。


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●ショート・ターム/SHORT TERM 21
(2013 アメリカ)
監督・脚本:デスティン・ダニエル・クレットン
撮影:ブレット・ポーラック
編集:ナット・サンダース
音楽:ジョエル・P・ウエス
美術:レイチェル・マイヤーズ
出演:ブリー・ラーソン,ジョン・ギャラガー・Jr,ラミ・マレック,ケイトリン・ディーヴァー,キース・スタンフィールド,ケヴィン・エルナンデス,ステファニー・ベアトリス,リディア・デュ・ヴォー,アレックス・キャロウェイ,フランツ・ターナー,ダイアナ・マリア・リーヴァ,メローラ・ウォルターズ

『ショート・ターム』は、サウス・バイ・サウスウエスト映画祭で審査員賞、観客賞を受賞した他、各映画祭で高く評価された。

公式HPはこちら👉映画『ショート・ターム』オフィシャルサイト 11.15公開

予告編はこちら👉11.15公開『ショート・ターム』予告編 - YouTube



グレイスを演じたブリー・ラーソンは今作の演技が評価され、『ルーム』に出演。
見事オスカー俳優の仲間入りを果たし、
その後の『キャプテン・マーベル』ではマーベル・ヒーローとなり、監督業にも進出してしている。
今年公開されたデスティン・ダニエル・クレットン監督の『ガラスの城の約束』にも出演しているが、監督の次回作『Just Mercy 』(2020年公開予定)にも出演。
マイケル・B・ジョーダン、ジェイミー・フォックス、オシェア・ジャクソン・Jr(父はアイス・キューブ!)共演ということで、こちらも楽しみ!

👇『ルーム』(監督:レニー・エイブラハムソン)はこちら

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👇『ルーム』の原作『部屋』(エマ・ドナヒュー)はこちら

部屋

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部屋 上・インサイド (講談社文庫)

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部屋 下・アウトサイド (講談社文庫)

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👇『キャプテン・マーベル』はこちら



新人スタッフ、ネイトを演じたのはラミ・マレック
ご存知大ヒット映画『ボヘミアン・ラプソディ』でフレディ・マーキュリーを演じ、こちらも見事オスカー俳優となった。

👇『ボヘミアン・ラプソディ』はこちら



グレイスの同僚で、恋人でもあるメイソン役は
ジョン・ギャラガー・Jr
ブロードウェイ・ミュージカル『春のめざめ』でトニー賞(ミュージカル助演男優賞)も受賞している実力派だが、個人的に印象が強いのは、ニュース番組の若手ディレクターを演じたドラマシリーズ『ニュース・ルーム』(クリエイター:アーロン・ソーキン、主演:ジェフ・ダニエルズ)。
ニュース番組が萎縮している今の日本でこそ見てほしいドラマでもある。

👇『ニュース・ルーム』はこちら



ブリー・ラーソンラミ・マレックといったスターを輩出した今作だが、もう一人忘れてはならないのが、母親に虐待されたマーカスを演じたキース・スタンフィールドだ。
マーカスが自らを虐待した母親への愛憎をラップのリリック(※)で表現するシーンとグレイスに頭を剃ってもらって母親の暴力による傷痕がないかどうか確かめるシーンは今作の白眉だと思う。
今作は元々監督であるデスティン・ダニエル・クレットンの大学の卒業制作である短編フィルムが元になっているが、彼はその短編にも出演している。
キースはこの短編出演後、俳優としての活動はしていなかったそうで、まさに今作への道出演で大きく運命が変わったと言ってもいいだろう。
今作に出演後、『グローリー/明日への行進』『ストレイト・アウタ・コンプトン』(スヌープ・ドック役!)、『ゲット・アウト』等、話題作への出演が続き、着実にキャリアを積み重ねている。
※ この曲「So You Know What It's Like」は監督とキースの共作。エンドロールで流れる「AFTER PARTY 」も彼によるもので、こちらはハッピーな曲になっている。

👇『グローリー/明日への行進』(監督:エイヴァ・デュヴァーネイ)はこちら

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