極私的映画案内

新作、旧作含め極私的オススメ映画をご案内します。時々はおすすめ本も。

今月の読書 〜2019年2月、3月〜

今月の読書2月分3月分をお届けします。
特に2月はあまり読めませんでしたが、中身の充実した読書時間でした。
オススメは、ナオミ・オルダーマン『パワー』
エリザベス・ストラウト『何があってもおかしくない』ジョーダン・ハーパー『拳銃使いの娘』
リチャード・フラナガン『奥のほそ道』
そして、一冊づつ噛みしめながら読んだ
高田郁『みをつくし料理帖シリーズ、
とうとう読み終わってしまいました。


■パワー/ナオミ・オルダーマン
安原和見訳
河出書房新社
THE POWER/Naomi Alderman/2016

十代の少女が特殊能力を得たことにより男女の権力構造が逆転していくディストピア小説
行きつく先の世界は女にとっても決して居心地のいい世界だとは思わないけれど、逆転以前の世界はそのままリアルな現代社会。
昨今のこの国の様々な状況も鑑みるに、女にとって現代社会って軽く地獄。
この小説があぶりだしているのはそこだと思う。
まあ、地獄は言い過ぎだとしても、逆転後の世界が異様に映るならば、それ以前の世界も異様なはずだ。
どちらか一方が力を持つ社会は、本来誰にとっても居心地のいい世界ではないと思う。
「私は間違っていた」と最近しみじみ思うのは、電車や映画館や夜道で嫌な思いをした時に「自分に隙があったんだ」と落ち込んだこと。もちろん防犯意識は必要だけど、自分を責めるのは間違っていたと思う。

パワー

パワー

今作を読んでこの作品を思い出した人も多かったようです。
マーガレット・アトウッド侍女の物語』はこちら👇

侍女の物語 (ハヤカワepi文庫)

侍女の物語 (ハヤカワepi文庫)


ピアノ・レッスンアリス・マンロー
小竹由美子訳
新潮社(新潮クレスト・ブックス)
DANCE OF THE HAPPY SHADES/Alice Munro/1968

アリス・マンローの初期作品集。
初期の作品ということで、後年の作品に見られるような1年を描いて前後数十年を想像させるような奥行き、広がりといった点でいうと物足りなさはあるが、市井の人々の人生の一瞬を切り取る鋭さは最初から持っていたことが分かる。
多分彼女は幼い頃から周囲の大人たちを鋭く観察していた子供だったんだろう。
年齢を重ね、経験を積み、より豊かなストーリーを紡ぐことが出来るようになるという、作家としての成長を確認出来る作品集でもある。

〈収録作品〉
⚫︎ウォーカー・ブラザーズ・カウボーイ
Walker Brothers Cowboy
⚫︎輝く家々
The Shining Houses
⚫︎イメージ
Images
⚫︎乗せてくれてるありがとう
Thanks for the Ride
⚫︎仕事場
The Office
⚫︎一服の薬
An Ounce of Cure
⚫︎死んだとき
The Time of Death
⚫︎蝶の日
Day of the Butterfly
⚫︎男の子と女の子
Boys and Girls
⚫︎絵葉書
Postcard
⚫︎赤いワンピース 一九四六年
Red Dress-1946
⚫︎日曜の午後
Sunday Afternoon
⚫︎海岸への旅
A Trip to the Coast
⚫︎ユトレヒト講和条約
The Peace of Utrecht
⚫︎ピアノ・レッスン
Dance of the Happy Shades

ピアノ・レッスン (新潮クレスト・ブックス)

ピアノ・レッスン (新潮クレスト・ブックス)


■何があってもおかしくない/エリザベス・ストラウト
小川高義
早川書房
ANYTHING IS POSSIBLE/Elizabeth Strout/2017

作家ルーシー・バートンの故郷イリノイ州アムギッシュを舞台にした連作短編集。
前作でルーシーと母リディアの会話に登場したアムギッシュの住民たちの物語だ。
どれも良作揃いだが、ルーシーと疎遠だった兄姉との再会を描く『妹』が泣けた。
作家として成功したルーシー、
一方、田舎でくすぶる兄姉。
今では別世界の住民になってしまった兄妹。
でも、同じ家に生まれ、あの母親に育てられたのはこの世界にたった三人だけなのだ。
その事実は何があっても変わらない。
彼らはこの再会によって、それを再確認したはずだ。
誰にでも語るべき物語がある。
そう思わせる一冊だった。

〈収録作品〉
⚫︎標識
⚫︎風車
⚫︎ひび割れ
⚫︎親指の衝撃論
⚫︎ミシシッピ・メアリ
⚫︎妹
⚫︎ドティーの宿屋
⚫︎雪で見えない
⚫︎贈りもの

何があってもおかしくない

何があってもおかしくない

ルーシー・バートンと母リディアが語らう前作『私の名前はルーシー・バートン』はこちら👇

私の名前はルーシー・バートン

私の名前はルーシー・バートン



■ベルリンは晴れているか/深緑野分
筑摩書房

1945年7月英仏米露の四カ国の統治下にあるベルリンで起きた毒殺事件を巡るミステリー。
ユダヤ人視点で語られることの多いこの時代の物語の中で、共産主義者の娘アウグステ、ユダヤ人のような外見の元役者の泥棒カフカ、家族に見捨てられた同性愛者の青年ハンスといった登場人物のキャラクター設定が巧みだ。
戦中の彼らの苦難と現在進行形の事件の顛末を同時に語る構成も、前作と比べ格段に巧くなっている。
ただ、『奥のほそ道』のような作品を読んだ後だと、
なぜ、日本の戦争を書かないのだろう?と思ってしまうのも事実。

ベルリンは晴れているか (単行本)

ベルリンは晴れているか (単行本)


ミッテランの帽子/アントワーヌ・ローラン
吉田洋之訳
新潮社(新潮クレスト・ブックス)
LE CHAPEAU DE MITTERRAND/Antoine LAURAIN/2012

キャリア停滞中の会計士ダニエルは妻子の留守中独りで行ったブラッスリーで偶然ミッテラン大統領と隣席になる。
忘れられた大統領の帽子が、ダニエル、
不倫を断ち切れない作家志望のファニー、
スランプの天才調香師ピエール、退屈したブルジョア男ベルナールの手に次々と渡り、
彼らの人生に変化をもたらす。
とはいうものの、帽子に魔力がある訳でもなく(ダニエル以外はミッテランの帽子だと知らずに手にした)、
帽子が彼らに与えたのはちょっとした自信、
自己肯定感だ。
それぞれの人生を変えたのは彼ら自身である。
映像の世界出身の著者らしく、作品はいかにも映像向きな大人のおとぎ話だ。

ミッテランの帽子 (新潮クレスト・ブックス)

ミッテランの帽子 (新潮クレスト・ブックス)


■美雪晴れ みをつくし料理帖/高田郁
角川春樹事務所(ハルキ文庫)

芳は「一柳」の女将となってつる家を去り、世間知らずのお嬢さんだった美緒は母となって逞しくなり、
つる家には“臼”というキャラの濃い新メンバーが加わる。
このお臼さんが、小野寺と澪の縁談が持ち上がった時の後任候補の料理人政吉の妻だったとは!
又次に命を救われた摂津屋さんも今後大きな役割がありそうだし、物語が終わりに向かって大きく動き出した感あり。
何気にりうさんの入れ歯の衝撃!

〈収録作品〉
⚫︎神帰月(かみかえりづき)/味わい焼蒲鉾
⚫︎美雪晴れ/立春大吉もち
⚫︎華燭/宝尽くし
⚫︎ひと筋の道/昔ながら

美雪晴れ―みをつくし料理帖 (時代小説文庫)

美雪晴れ―みをつくし料理帖 (時代小説文庫)


■天の梯(そらのかけはし)みをつくし料理帖/高田郁
角川春樹事務所(ハルキ文庫)

佐平衛と登龍楼の因縁は一般には製造を禁止されていた「酪」にあり。
「天満一兆庵」江戸店の元料理人富三の今際の際の告白によって登龍楼は取り潰しとなり健坊はつる家に引き取られ姉弟は共に暮らすことが出来るようになる。
小野田のとりなしで釈放された佐兵衛は料理の道に戻り、澪は鼈甲珠の製造法と販売の権利を売るウルトラCであさひ太夫を身請け、現斉先生と気持ちを確かめ合い、共に大坂へ。
最終巻で見事な大団円を迎えたこのシリーズ。。
ラストは最初から決めていたそうだが、このラストに向けて緻密に構成されたシリーズだったなあとあらためて感心。
堪能しました。

〈収録作品〉
⚫︎結び草/葛尽くし
⚫︎張出大関/親父泣かせ
⚫︎明日香風/心許し(こころばかり)
⚫︎天の梯/恋し栗おこし

天の梯 みをつくし料理帖 (ハルキ文庫)

天の梯 みをつくし料理帖 (ハルキ文庫)


■クロストークコニー・ウィリス
大森望
早川書房(新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
CROSSTALK/CONNIE WILLS/2016

テレパシー能力なんてなくても、「ここにいる人全員が今何か考えてる」と想像しただけで圧倒されて電車を降りてしまった経験がある身としては、カップルが愛情だけを確認しあえるEED手術なんて、そんなイイトコ取り出来るわけない!と拒否反応。
それでもさすがはコニー・ウィリス
最後はブリディとC.B.がくっつくって最初っから分かっていても(C.B.を信じず、胡散臭いトレントの正体を見破れないブリディに若干苛々するものの)読ませる力はジェーン・オースティン並み、と言ったら褒め過ぎですか?


■拳銃使いの娘/ジョーダン・ハーパー
鈴木恵訳
早川書房(HAYAKAWA POCKET MYSTERY BOOK)
SHE RIDES SHOTGUN/JORDAN HARPER/2017

刑務所内で〈アーリアン・スティール〉総長の弟を刺殺し殺害指令が下されてしまった元武装強盗ネイト・マクラスキーと娘ポリーの逃亡劇。
TVドラマシリーズの脚本を手がけていたというジョーダン・ハーパー。
すでに映像化が念頭にあるかのようなスピード感溢れるストーリー展開と場面転換である。
読みどころは、父親ネイトとの再会後、ごく普通の小学生だったポリーがいかに覚醒していくかというところだが、彼女の覚醒ぶりは痛快であると同時に、痛々しい。
こんな子どもが命がけで闘わなくてはならないこの“すばらしきクソ世界”よ!
解説では影響を与えた作品として「子連れ狼」「レオン」「ペーパー・ムーン」といった作品が言及されているが、私が思い出したのはX-MENシリーズスピンオフの「ローガン」。
ポリーはダフネ・キーンちゃんで脳内変換。
ジョーダン・ハーパー自身の脚本で映像化されるそうだが、監督、キャストはどうなるのか楽しみ。

拳銃使いの娘 (ハヤカワ・ミステリ1939)

拳銃使いの娘 (ハヤカワ・ミステリ1939)

若山富三郎による『子連れ狼』はこちら👇

リュック・ベッソン監督、ジャン・レノナタリー・ポートマン共演の『レオン』はこちら👇

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レオン 完全版 [DVD]

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ライアン・オニールテイタム・オニール親子共演の『ペーパームーン』はこちら👇

ペーパー・ムーン スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]

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X-MENシリーズ、ウルヴァリンを主人公にしたスピンオフシリーズの最終作『LOGAN ローガン』はこちら👇


■奥のほそ道/リチャード・フラナガン
渡辺佐智江
白水社
THE. NARROW ROAD TO THE DEEP NORTH/Richard Flanagan/2013

例えばこの本が読書会のテーマだったとしたら、
私は何が言えるだろう?
勿論、いろいろ思うことはあるけれど、
簡単に言葉にできない。
どの時代にも戦争があって、多くの人が死に、傷つき、
大きくその運命を変えられてきたわけだけれど、
人が生まれてきて死ぬって、一体どういうことなんでしょうね?
戦争には否応なくその時代を生きるすべての人が巻き込まれるけれど、問われるのは、戦後、それをどう総括し共有していくかってこと。
ここに描かれた日本兵の、戦中よりも戦後の姿に、
今に続くこの国のあり方が問われているんだと思う。


■穴あきエフの初恋祭り/多和田葉子
文藝春秋

いつもの言葉遊びは控えめながら、どれも一筋縄ではいかない短編集。
スリードにまんまと引っかかったり、はぐらかされたり…。
「胡蝶、カリフォルニアに舞う」「文通」
物理的な距離は近くても、まったくかみ合わない人間関係の不穏さ。
「てんてんはんそく」
これって携帯電話の機種変更の話だと思うんだけど、こういうことをこういうストーリーに仕立てるって、作家って凄い。

〈収録作品〉
⚫︎胡蝶、カリフォルニアに舞う
⚫︎文通
⚫︎鼻の虫
⚫︎ミス転換の不思議な赤
⚫︎穴あきエフの初恋祭り
⚫︎てんてんはんそく
⚫︎おと・どけ・もの

穴あきエフの初恋祭り

穴あきエフの初恋祭り


■IQ/ジョー・イデ
熊谷千寿訳
早川書房(ハヤカワ・ミステリ文庫)
IQ/Joe IDE/2016

犯罪が多発する貧困地域から抜け出すには、
カルのように才能があってチャンスに恵まれれば音楽業界を目指すか、あるいは学業成績が良ければ、奨学金をもらって大学に進学するか。そうでなければギャングの下っ端からその道でのし上がっていくか?
奨学金を得られる“IQ”の持ち主でありながら街に留まり探偵業を営んでいるのが今作の主人公アイゼイア。
とある事情から金が必要になった彼が頼ったのは腐れ縁の元ギャング、ドッドソン。
ドッドソンに紹介された依頼人はスランプに陥っている人気ラッパー、カル。
IQとドッドソンの因縁が明かされる過去パートと脅迫事件の現在パートが交互に語られる構成。
ミステリーとしての面白みより、アフリカ系コミュニティという舞台設定が新鮮。
独特のノリについていけなかったという意見も見かけるけれど、『ストレイト・アウタ・コンプトン』『DOPE/ドープ!!』あたりの映画を観ておくとこの物語世界の理解に役立つかも。

IQ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

IQ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

伝説のヒップホップグループN.W.Aの栄枯盛衰を描いた作品『ストレイト・アウタ・コンプトン』はこちら👇

IQを思わせるヒップホップオタクの少年と仲間たちがヤバい取引に巻き込まれる『DOPE ドープ!!』はこちら👇

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