極私的映画案内

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今月の読書 〜2018年9月〜

今月の読書9月分をお届けします。
オススメは、ドン・ウィンズロウ『ザ・カルテル山尾悠子『飛ぶ孔雀』R・J・パラシオ『もうひとつのワンダー』


■戦時の音楽/レベッカマカーイ
藤井光訳
新潮社(新潮クレスト・ブックス)
MUSIC FOR WARTIME/Rebecca Makkari/2015

現代のNYを舞台にピアノの中からバッハを甦らせたり(「赤を背景とした恋人たち」)、
アーティストが出演するリアリティ番組の裏側をえがいたり(「十一月のストーリー」)、
一枚の写真を起点にその前後の家族のエピソードを語る(「一時停止 一九八四年四月二十日」)など、設定にとてもオリジナリティを感じる。
しかし、バラエティに富んでいるがゆえに、
どういう作家なのかはぼんやりしてしまっかも。
それでもやっぱり著者自らのルーツ(ハンガリー)につながる物語(「惜しまれつつ世を去った人々の博物館」)が印象に残った。
〈収録作品〉
⚫︎歌う女たち
The Singing Woman
⚫︎これ以上ひどい思い
The Worst You Ever Feel
⚫︎十一月のストーリー
The November Story
⚫︎リトルフォーク奇跡の数年間
The Miracle Years of Little Fork
⚫︎別のたぐいの毒(第一の言い伝え)
Other Brands of Poison(First Legend)
⚫︎ブリーフケース
The Brief Case
⚫︎砕け散るピーター・トレリ
Peter Torrelli,Falling Apart
⚫︎赤を背景とした恋人たち
Couple of Lovers on a Red Background
⚫︎侍者(第二の言い伝え)
Acolyte (Second Legey)
⚫︎爆破犯について私たちの知るすべて
Everything We Know About the Bomber
⚫︎絵の海、絵の船
Painted Ocean,Painted Ship
⚫︎家に迷い込んだ鳥(第三の言い伝え)
A Bird in the House(Third Legend)
⚫︎陳述
Exposition
⚫︎十字架
Cross
⚫︎聖アントニウスよお出ましを
Good Saint Anthony Come Around
⚫︎一時停止 一九八四年四月二十日
Suspension:April20,1984
⚫︎惜しまれつつ世を去った人々の博物館
The Museum of this Dearly Departed

戦時の音楽 (新潮クレスト・ブックス)

戦時の音楽 (新潮クレスト・ブックス)


■ザ・カルテルドン・ウィンズロウ
峯村利哉訳
角川書店(角川文庫)

『犬の力』でDEA捜査官アート・ケラーによって刑務所に送られたカルテルのボス、アダン・バレーラの脱獄から幕を開ける続編は、調停、和平、裏切り、と正に麻薬戦争版“戦国時代”といった様相を呈す。
主な登場人物は勿論フィクションだろうが、実名で登場する人物から推察するにかなりリアリティのあるストーリーになっているに違いない。

「なぜ、こんなことに?北米人がハイになるためだ。国境のすぐ向こうには巨大なマーケットが存在している。そして、飽くことを知らぬ隣国の消費マシーンが、巡り巡ってこの国の暴力をエスカレートさせる」

前作『犬の力』に続きケラーとアダン・バレーラの因縁がストーリーの核ではあるが、アダンが服役したこともあって、正にメキシコはカルテルの群雄割拠の戦国時代に突入。疑心暗鬼、和平、裏切りと目まぐるしく情勢が変化していく。
前作で印象的だった脇キャラ、ショーンとノーラは登場しないが、本作で活躍を見せるのは、アダンの愛人から麻薬商にのし上がる元ミスコン女王マグダと育った環境ゆえに幼くして戦争に巻き込まれるチュイだ。
もしも、アメリカと国境を接していなかったら、
メキシコはどんな国だっただろう?


日本文学盛衰史高橋源一郎
講談社

石川啄木が伝言ダイヤルで女子高生と援交してブルセラショップの店長してたり、田山花袋がAV監督を引き受けたり、下ネタが過ぎる!
と思わなくもなかったけれど、読み終わってみれば、新しい時代の新しい文学を求めて七転八倒苦闘した文学者たちの真摯な情熱に胸打たれてしまう。
今じゃ当たり前の「言文一致」の文学を獲得するまでにこれだけ苦労があったとは通り一遍の文学史からじゃ分からない。
もしも現代に彼らがよみがえって書店を訪れたら、
何を思うんだろう?
今、書店に並んでいる“文学”の一体どれが何十年後も残っているだろう?

日本文学盛衰史 (講談社文庫)

日本文学盛衰史 (講談社文庫)


■飛ぶ孔雀/山尾悠子
文藝春秋

「シブレ山の石切り場で事故があって、火は燃え難くなった」

火が燃え難くなった世界を共有する『飛ぶ孔雀』と『不燃性について』。
前者の主な舞台となるのは川中島Q庭園での大寄せ茶会、後者は山頂ラボの新人歓迎会、そして飛ぶ孔雀と地下に蠢く大蛇。この場面とこの場面、
あの人とあの人、繋がりを辿ろうとすれば出来なくもないようでいて、かえって混乱するような。ああ、この感覚、なんだろう?と思ったら、『ツイン・ピークス The Return 』ですよ!みなさん!
深追いすればするほど、迷宮に落ちていく。

飛ぶ孔雀

飛ぶ孔雀


■オールドレンズの神のもとで/堀江敏幸
文藝春秋

様々な媒体で発表された(悪く言えば寄せ集め的な)短編集ではありますが、ロクでもないニュースばかりで心がカサカサボロボロになる昨今、堀江さんの静かな文章にそんな心も次第に凪いでいくようでした。
オクラとレタスを連れて散歩に出掛けたくなる『果樹園』、剣豪オタクの先生の思い溢れる『柳生但馬守宗矩』、寒くなったら具沢山の糟汁を作ろうと思った『あの辺り』辺りがお気に入り。黒電話の呼び鈴がどんな音だったかちょっと思い出せない(『黒電話』)。
〈収録作品〉
I
⚫︎窓
⚫︎樫の木の向こう側
⚫︎杏村から
⚫︎果樹園
II
⚫︎リカーショップの夢
⚫︎コルソ・プターチド
⚫︎平たい船のある風景
⚫︎黒百合のある光景
⚫︎柳生但馬守宗矩
⚫︎天女の降りる城
⚫︎めぐらし屋
⚫︎徳さんのこと

⚫︎黒電話
⚫︎月の裏側
⚫︎ハントヘン
⚫︎あの辺り
⚫︎十一月の肖像
⚫︎オールドレンズの神のもとで

オールドレンズの神のもとで

オールドレンズの神のもとで


■ボタニカル・ライフ植物生活/いとうせいこう
新潮社(新潮文庫

『植物男子ベランダー』の原作本ということは前から知っていたのだが、今回読んでみようと思ったのは、春は花粉がひどいから、夏は酷暑だったからと庭仕事(多肉植物のお世話)を見て見ぬ振りをして後回しにしていた自分への叱咤激励のつもり。
水が足りないのか、日光が足りないのか、それとも風通しが悪いのか?どうして欲しいのか言ってくれ!
でも、植物は決して語ってはくれない。植物を相手にしていると自然と謙虚な気持ちになりますね、ホントに。
秋に読んだ本の感想を冬に書いている私、まだ植え替え作業が出来ていない。きっと、春には!

ボタニカル・ライフ?植物生活 (新潮文庫)

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■ワンダー/R・J・パラシオ
中井はるの訳
ほるぷ出版
WONDER/R.J.Palacio/2012

続編を読む前に復習として再読。オーガストの学校生活のしんどさは他とは比べられないけれど、十代のうちは、自分ではどうにもならない両親の離婚とか、友達付き合いとか、世界が狭いが故のしんどさってあるよね。
過ぎてしまえば、いい時代だったなあと振り返ることも出来るけど、もう一度繰り返したいとは思わない。

ワンダー Wonder

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■もうひとつのワンダー/R・J・パラシオ
中井はるの訳
ほるぷ出版
AUGGIE & ME THREE WONDER STORIES/R.J.Palacio/2014

前作では語り手となることのなかった優等生シャーロット、オーガストの幼馴染クリストファー、イジメの首謀者ジュリアンのスピンオフ。
善意の人シャーロットも女の子同士の友達付き合いに悩んでいたり、今はオーガストと離れて暮らすクリストファーも両親の別居に悩んでいる。
中でもジュリアンは結局退学することになって、前作で唯一救われない存在だったので気になっていたが、こんな形で救われるとは!
イジメっ子皆にジュリアンのおばあちゃんのような強烈な体験を持つ肉親がいる訳じゃないけれど、イジメをなくすにはイジメっ子を救わないとね。

もうひとつのワンダー

もうひとつのワンダー