極私的映画案内

新作、旧作含め極私的オススメ映画をご案内します。時々はおすすめ本も。

今月の読書 〜2018年1月〜

本当にもう今さらですが、記録として
今月の読書2018年1月分をお届けします。
ベストは、パク・ミンギュ『ピンポン』ロベルト・ボラーニョ『はるかな星』アンヌ・ヴィアゼムスキー『彼女のひたむきな12カ月』


■運命と復讐/ローレン・グロフ
光野多恵子訳
新潮社(新潮クレスト・ブックス)
FATE AND FURIES/Lauren Geoff/2015

一目で恋に落ち、若くして結婚した美男美女カップルのロットとマチルド。夫の視点で描かれる幸せな結婚生活と妻の視点で描かれる結婚生活の陰にひそむ秘密。
個人的には、親子だから、夫婦だからといってお互いに何もかも知っている必要はないと思う。
しかし、嘘はなかったかもしれないが、マチルドがロットに話さなかったことは余りにも大き過ぎた。夫はとうとう妻がどういう人間だったのか知らずに亡くなってしまった。
夫亡き後のマチルドの苦悩の元はこの辺りにあったのだと思う。
そして、マチルドを認めなかった義母の秘密のなんと罪深いことか!
これを読んですぐに思い出されたのはギリアン・フリンの『ゴーン・ガール』だが、こちらの方がよりリアルかもしれない。

運命と復讐 (新潮クレスト・ブックス)

運命と復讐 (新潮クレスト・ブックス)


■ピンポン/パク・ミンギュ
斎藤真理子訳
白水社(EXLIBRIS)
Ping-pong/Patk Mingyu/2006

中学生の釘とモアイがチスをリーダーとするグループから受けるイジメは最早イジメというより暴行傷害だし恐喝のレベル。
もちろん、釘もモアイもそんな毎日から抜け出したいと思っているが、そこから抜け出せたとしても、何のために生きるのか?
幸せって何なのか?
彼らにそれを問われても答えられる自信が私にはない。
きっと「ハレー彗星を待ち望む会」の入会希望者には大人も沢山いるに違いないのだ。
自分の意見を持つことを忘れてしまった大人こそ、自分のラケットを持って原っぱの卓球台でインストールかアンインストールか選ばなくっちゃね。
転がってきたピンポン球からこんな奇想天外なストーリーを紡ぎ出すパク・ミンギュ、面白い作家だなあ。
アメリカで死んだモアイの従兄がファンだったという作家のジョン・メーソンって、カート・ヴォネガットの小説に登場するキルゴア・トラウトが元ネタなんじゃないかな?

ピンポン (エクス・リブリス)

ピンポン (エクス・リブリス)


■スティール・キス/ジェフリー・ディーヴァー
池田真紀子訳
文藝春秋
THE STEEL KISS/JEFFERY DEAVER/2016

リンカーン・ライムシリーズ第12弾。
今回犯人に狙われるのは、IoT、モノのインターネット。
現在、インターネットに繋がる様々な家電や車が登場しているが、ハッキングされた家電や車が凶器と化す。
現代社会を反映した着眼点だが、今作ではリンカーンの犯罪捜査からの引退、アメリアの元恋人の再登場がサブプロットになっている。
どんでん返しはディーヴァー作品のお約束。こちらも相当身構えているので、今作のそれは想定内といったところから。
サブプロットのオチにも驚きなし。高評価だという次作に期待します。

スティール・キス

スティール・キス


■真夜中の閃光/W・ブルース・キャメロン
真崎義博訳

早川書房(ハヤカワ文庫)
THE MIDNIGHT PLAN OF THE REPO MAN/W Boyce Cameron/2014

大学時代はNFLでの活躍も期待されたが今はしがないレポマン(車の回収屋)、ラディ。
そんな彼はある日二人の男に襲われ殺されるという妙にリアルな夢を見る。
その直後から、彼の頭の中で声が聞こえるようになる。アランと名乗る彼は殺されたと言う。
アランは実在するのか?実在するとすれば、誰が彼を殺したのか?ラディは何故フットボール選手の道を断たれたのか?
この二つの謎が両輪となってストーリーを牽引する変化球のバディものであり、幽霊譚でもある。
ラディとアランの迷コンビぶりが最大の魅力なのでラストは切ない。
W・ブルース・キャメロンの2010年の作品『野良犬トビーの愛すべき転生』は『僕のワンダフル・ライフ』として映画化されているので、これも映像化されるんじゃないかな。
すごく映像化向きだと思います。


■はるかな星/ロベルト・ボラーニョ
斎藤文子訳
白水社(ボラーニョ・コレクション)
ESTRELLA DISTANTE/Roberto Bolaño/1996

「一応人名事典(風)の体裁をとってはいるが、各章がそのまま発展して一冊の小説になってもおかしくない」
アメリカ大陸のナチ文学』の感想でこう書いたが、当然、ボラーニョ自身、そう考えたらしい。
これは、唯一ボラーニョ自身らしき人物が語り手の「カルロス・ラミレス・ホフマン」を発展させたもの。
空飛ぶ詩人で連続殺人鬼カルロス・ビーダーの足跡を辿る物語だ。
多くの人々がある日突然姿を消す、それが半ば日常だった不穏な時代。
絶えず後ろを振り返りたくなるような緊張感がラスト近くで頂点に達する。私の心拍数は明らかに上がっていた。

はるかな星 (ボラーニョ・コレクション)

はるかな星 (ボラーニョ・コレクション)


■怒り/ジグムント・ミウォシェフスキ
田口俊樹訳
小学館小学館文庫)
RAGE/Zygmunt Mitoszewski/2014

常に「着氷性の霧雨が降っている」ポーランドの地方都市オルシュティン。
この街の検察官テオドル・シャツキが主人公。
バツイチだがウェディングプランナーの恋人と同棲中、一人娘も同居と、よくある家庭崩壊の主人公とは一味違う。
ポーランドのミステリーは初めてだが、天気からして、いかにも陰鬱。
白骨化した遺体の発見が事件の発端だが、シャツキ以外の視点で挿入される抑圧されるDV被害者の姿が事件の背景を想像させる。
セクハラやDVの加害者には、同じことをされてみればいいとも思うし、お菓子食べながら『必殺!』シリーズを観るという子供時代を送ってきたので、虐げられた人々の恨みつらみを果たしてくれる仕事人の活躍に胸がすく思い!っていうのは理解出来ても、実際問題、やっぱりこれはやっちゃ駄目だと思うし、たとえフィクションでもモヤモヤが残る。それに、これ、三部作の最終作ですって!このラストを知っていて、過去作読む気になります?

怒り 上 (小学館文庫)

怒り 上 (小学館文庫)

怒り 下 (小学館文庫)

怒り 下 (小学館文庫)


■彼女のひたむきな12カ月/アンヌ・ヴィアゼムスキー
原正人訳
DU BOOKS
UNE ANNÉE STUDIEUSE/Anne WIAZEMSKY/2012

ロベール・ブレッソンバルタザールどこへ行く』出演後のアンヌは気鋭の映画監督ジャン=リュック・ゴダールと恋に落ちる。
祖父はノーベル賞作家、父はロシア貴族という上流家庭で育ったアンヌ。17歳の年上のバツイチ男と娘の関係を家族が歓迎するはずもなく、アンヌは直情的なゴダールと家族の間で板挟み。
とにかくアンヌを側に置いておきたいゴダールの行動は大人気ないが、ゴダール人脈に次々と引き合わされ、これはアンヌにとってすごい財産になったんじゃなかろうか?
続編があるそうで、関係崩壊が描かれるのか、そちらの方が興味あるかも。

彼女のひたむきな12カ月

彼女のひたむきな12カ月