極私的映画案内

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マイケル・ムーアの世界侵略のススメ《前編》


いいトコどりで、いい国作ろう!


1月2日、
国防総省の統合参謀本部に呼ばれたマイケル・ムーアは相談を持ちかけられる。

第二次大戦後、米軍は何故戦争に勝てないのか?

朝鮮、ベトナムレバノンイラクアフガニスタンイラク、シリア、リビア、イエメン、イラク…。
予算を無駄遣いし、過激派を産出し、
戦争は更なる戦争を生んだだけで、
石油など得られなかった。

マイケル・ムーアはこう答える。

部隊を一時帰休させ、きちんと休養を取らせろ
しばらく軍事侵攻を中止せよ
軍事顧問の派遣もドローンの奇襲攻撃も
海兵隊の代わりに私を送り込め
名前の発音ができる白人の国を侵略する
必要なものをゲットし、この合衆国へ持ち帰ろう
軍隊では解決できない問題があるから

歴代のリーダー達の一聞正しそうなスピーチ。
その一方で、それとは真逆の皮肉な国内の現状がコラージュされる。
投票者への抑圧、警察権力の横暴、インフラの崩壊、
教育予算の削減、軍人への無慈悲な扱い、冤罪、
異なる考え方に対する暴力、一般市民に対する公権力の暴力的抑圧。

マイケル・ムーアの最初のターゲットはイタリア。

■イタリアの労働環境

ジョニー(警官)とクリスティーナ(服のバイヤー)、労働者階級の夫婦のバカンス自慢

・冬の間に一週間、6月に一週間、
8月に3週間、年間30〜35日の有給休暇
更に結婚すれば15日間の有給休暇。
有給休暇が年間8週間。
・12月には一ヶ月分の上乗せ給与
・使い切れなかった休暇は翌年に繰り越し

ラルディーニ社の経営者
(年商数百万ドル企業:ドルチェ&ガッバーナバーバリーヴェルサーチを手がける)

有給休暇は経営者の喜びだし、
従業員の正当な権利だ
彼らも楽しむべき
休暇を取ることでストレス解消になるし、
発散して職場に戻れる

ラルディーニ社のランチタイムは、
自宅での2時間のランチ。


ドゥカティ社(バイクの世界的なメーカー)
CEOクラウディオ・ドメニカーリ

会社の利益と福利厚生は両立できる

イタリア人にとってアメリカに住むのが夢だと言うジョニーに、マイケル・ムーアがアメリカでは
有給休暇は0日だと明かすと
夫婦は絶句。
アメリカには有給休暇の法規制がない!

イタリアでは産休は5ヶ月間(両親のどちらか)支給される(もちろん有給だが、給料1ヶ月分満額で支給されるのかは不明)。
世界で産休制度のない国はパプア・ニューギニアとアメリカだけ(本当?)
因みに、イタリアは最も生産性の高い世界15カ国に入っている。

人生は一度だけ
二度と戻らない
目一杯楽しまないと

イタリアからは
8週間の有給休暇を持ち帰る。


■フランスの学校給食と性教育

まず片田舎の村の最高の厨房へ潜入。
そこは小学校の食堂。

・陶磁器の皿とナイフ、フォークがきちんとセッティングされたテーブル
・冷蔵庫にストックされている様々なチーズ
子供たちに人気があるのはカマンベール
・シェフ、役人、栄養士が月一で会合を開き
メニューを見直す
・自販機(ソーダ)はなし、水を飲む
・チーズとデザート付きの4品コース

昼休み(給食)は授業の一環。
1時間かけて食事の正しいマナーを学び、
健康的な食事と給仕を楽しむ。
アメリカの給食の写真を見て一様に顔をしかめるシェフと子供たち。
一食あたりの給食予算はアメリカより低い。
フランスでは医療も無料、保育園もほぼ無料。
フランスの給与明細には税金の使途が記載されている。
アメリカでは社会保障税と医療税以外の記載はないが、所得税の60%は軍事費に使われている。


次は高校へ。
教室で教師は生徒たちに語りかける。

初めての性体験は、生涯ずっと心に残るものです
相手の求めてることを察し、
互いに与え合うのが愛の営みです
時間をかけてしてほしいことを相手に伝えましょう

ムーアの時代の性教育は恐怖(病気の感染)を煽るものだった。

禁欲は避妊方法とは言えませんよね
リスクが高すぎますよね

性教育を受けないアメリカの10代の間では性感染症が大流行。
禁欲を推奨し性教育をしないテキサスの10代の妊娠率は全米3位。
アメリカの10代の妊娠率はフランスの2倍、
ドイツの6倍、スイスの7倍。

フランスからは学校給食と性教育をゲット!


フィンランドの学校教育

フィンランドの子供たちの学力は世界でもトップレベル。
エアギター選手権や携帯投げ競技や妻運び競技を作った国、フィンランド

元々フィンランドの学力レベルはアメリカとどんぐりの背比べ状態で決して高くはなかった。
ところが、新手法を取り入れたちまち世界のトップレベルに駆け上がり世界一に。

学力世界一に上り詰めたフィンランドの手法とは?

・宿題がない
・小学校一年生の週の授業時間は20時間
・外国語教育
・選択式テストの廃止(あっても少し)
・統一学力テストの廃止
フィンランドの学校は全部同じレベル
近隣の学校が一番、学校選びの必要がない

フィンランドでは、
学校を設立し授業料を取るのは違法で、
私立校はほとんど存在しない。
裕福な子供も公立校に通い様々な境遇の子供と一緒に学ぶ。
大人なっても他人の境遇を尊重できる人になるように。
子供の将来を見据え希望に沿った内容を教える。
“好きなものになれる”という言葉にウソはない。

フィンランドの教育を成功させた方策の多くは元々はアメリカの発想だった。

現在、アメリカでは授業の3分の1が試験対策に費やされ、音楽や美術の授業は削減され試験科目ではない公民も授業から外されている。

でも学校って幸せになる方法を見つける場所じゃない?

生徒が自分の脳を活用できるよう
必要なことはすべて教えるわ
体育も美術も音楽も含めて
脳を活性化するものはすべて

調理したり歌ったり、
美術や自然探索もみんな必要よ
子供でいられる時間は短いんだもの

フィンランドからは教育法をゲット!


スロベニアの借金なしの大学生

ラプンツェル、眠り姫の故郷スロベニアには珍しい伝説の生物がいる。
それは借金なしの大学生だ。

スロベニアは大学の学費が無料になっている国のひとつ。
借金のある学生は皆無と言っていい。
唯一借金のあった学生は、アメリカで学費が払えなくなってスロベニアの大学に編入してきた学生だった。
他の国の学生も無料で学べる。
スロベニアの大学は教育レベルも高い。
多くの講義が英語で行われている。
スロベニアでは教育は公共の利益として見なされている。
最近、スロベニア政府は学費を取り始めることを発表したが、学生たちはこれに反発。
反対運動を組織し政権交代に追い込んだ。

スロベニアからは大学の学費をタダにして若者に借金を背負わせない発想、無料教育制度をゲット!

〈参考:大学の学費が無料の国〉
アルゼンチン、オーストリア、ブラジル、キューバチェコデンマークエクアドルフィンランド、フランス、ドイツ、アイスランドアイルランドルクセンブルク、メキシコ、モロッコノルウェーパナマスロベニアスウェーデンチュニジアウルグアイベネズエラ


■ドイツの中産階級歴史教育

奨学金の返済もなく社会に飛び出し、
週36時間勤務で40時間分の給与。
そんな羽振りのいい中産階級が、
ドイツ、ニュルンベルクの鉛筆工場に生息。

鉛筆メーカーのファーバーカステル社は昨年このIT時代に史上最高の売上を記録。

・光に溢れた明るい職場
・就業時間は午後2時まで
・ストレス過多の人は無料でスパに3週間滞在

ドイツ人にこのような恩恵があるのは労働組合が力を持っているから。
企業には監査役会の設置義務があり、メンバーには労働者側の代表が半数以上と法律で定められている。
監査役会に労働者がいることで、
会社が法律を破れば社員が会社を告発する。

社員の声を聞くことが成功の鍵

因みにドイツでは休暇中の社員に接触することは禁止されており、違法である。
多くの企業で終業後の社員にメールを送らない規則がある。


ニュルンベルクは第二次大戦後ナチスの指導者を裁くニュルンベルク裁判が行われた地でもある。

負の遺産を見つめる歴史教育

強制収容されたユダヤ人の遺品を見せ、彼らの立場に立って、実際に子供たちに大事なものをカバンに詰めさせる授業が行われている。
ドイツでは毎日どの学校でも子供たちに祖先のしたことを教える。

何のために思い出すの?

ごまかさず、なかったことにもしない
“生まれる前のこと”片付けない
“自分には関係ない”とか
“自分のせいじゃない”とか

ドイツでは、歩道の石畳にかつてそこに住み強制収容所で殺されたユダヤ人の家族の名前が刻まれている。
街角には昔の“ユダヤ人禁止”の看板が掲げられている。

罪を見つめ、償いを考えることは、
人として国として向上する最初の一歩。

ドイツからは羽振りのいい中産階級と過去の罪を見つめる歴史教育をゲット!


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マイケル・ムーアの“侵略”もようやくこれで半分。
“侵略”という言葉は少々強すぎるかもしれないが、
マイケル・ムーアの真意は各国のいいところを学びたい、取り入れたいというものだ。
どの国でも、アメリカでは考えられない現状に唖然呆然といった感じのマイケル・ムーアの表情が印象的だが、これらは日本人にとっても他人事とは言えない。
ブラック企業、残業代の不払い、過労死といった労働環境の悪化は大問題だし、ある政令指定都市では給食がなくお昼休みも15分しかないとか、大学の給付型奨学金ゆとり教育の弊害、歴史教育問題など、アメリカを日本に置きかえてこのドキュメンタリーを見ると考えさせられることばかりだ。
もちろん、上手く行っている国と同じようにやったからといって上手く行くとは限らないだろう。
ただ、なぜそれが上手くいっているのか学び、研究することには意味があると思う。
どんな社会を作り、どんな社会で生きていきたいのかを考えるヒントにもなるはずだ。
後編はポルトガルノルウェーチュニジアアイスランドへ。
マイケル・ムーアの侵略はまだまだ続きます。

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⚫︎マイケル・ムーアの世界侵略のススメ
/WHERE TO INVATE NEXT
(2015年 アメリカ)
監督・脚本・出演:マイケル・ムーア


予告編はこちら👉映画『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』予告編 - YouTube


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