極私的映画案内

新作、旧作含め極私的オススメ映画をご案内します。時々はおすすめ本も。

20センチュリーウーマン


大恐慌時代のように

舞台は、1979年カリフォルニア州サンタバーバラ

ドロシアとジェイミーの親子がスーパーで買い物を終え家に帰ろうと店の外に目をやると、
駐車場では乗ってきた車が炎上中。
ドロシアの別れた夫が残していったおんぼろフォードがとうとう壊れたのだ。

炎上した車を消火してくれた消防士を食事に招待するドロシアに、いちいち消防士を食事に呼ぶ?と信じられないといった表情のジェイミー。
ジェイミーも15歳の思春期真っ只中。
日に日に何を考えているか分からなくなっているドロシアは母親だけではジェイミーの成長を助けられないのではないかと思い始める。

間借り人のウィリアムは好人物で大人の男性としてジェイミーのロールモデルになれそうだったが、肝心のジェイミーはウィリアムの話に全然興味が持てない様子。
ドロシアはもう一人の間借り人写真家のアビーとジェイミーの幼なじみで二歳上のジュリーにジェイミーを見守って欲しいと頼む。

大恐慌時代は
ご近所みんなで子どもの面倒をみたのよ


ドロシア 1924年生まれ 55歳
40歳という当時としては高齢出産でジェイミーを授かったドロシアは離婚後女手一つでジェイミーを育ててきた。
ジョン・アップダイクを読み、
ウサギの木彫りを彫る。
ジェイミーとの朝の儀式は新聞の株価欄のチェック。
セーラムのタバコを大量に吸い、
ビルケンシュトックを履く。
理想の男性はハンフリー・ボガート
長らくデートはご無沙汰。


ジェイミー 1964年生まれ 15歳
学校の授業をサボったり、
夜遊びしたりと何かと難しいお年頃の15歳。
幼なじみのジュリーに恋しているが、
肝心のジュリーには「あんたが性に目覚めてから面倒くさい」と言われ、キスもさせてもらえない。
変わり者の母ドロシアにあきれることもあるが、
母の人生は果たして幸せなのかどうか案じている。
スケボーとトーキング・ヘッズが好き。


アビー 1955年生まれ 24歳
ニューヨークで写真の勉強をし仕事もしていたが、
子宮頚がんと診断され地元に戻ってきて手術を受けた。
経過観察では問題なかったものの、将来妊娠は難しいと宣告されてしまう。


ジュリー 1962年生まれ 17歳
近所に住むジェイミーの幼なじみ。
ジェイミーと同じく両親は離婚。
母の再婚後妹が生まれたが障害があるため、両親の関心は妹に集中しがちで家に居場所がないと感じている。
セラピストの母の集団セラピーには強制参加。
ほぼ毎日のようにジェイミーのベッドで眠る。


ウィリアム 年齢不詳
ヒッピーの恋人の後を追って西海岸に移り住んだが、
結局ヒッピー暮らしには馴染めずに今は自動車の修理や半端な大工仕事で暮らしている。
彼の人生は今まさに“踊り場”状態にある。


ドロシアはアビーとジュリーにジェイミーを見守って欲しいと頼むが、助けが、支えが必要なのは何もジェイミーだけではない。
ドロシア自身も子離れする時期にきていて、
これから自分自身の人生を考えるべき時を迎えている。
子どもを持つのは難しいと宣告されたアビーが支えを必要としているのはもちろんだが、
家に居場所がないジュリーも、
人生踊り場状態のウィリアムも、
これからどう生きていくのか考える時を迎えている。


僕にはママがいれば大丈夫だよ


母親の支えだけでは不十分だと思いこんでいたドロシアが、このジェイミーの言葉でどんなに安堵し、嬉しかったかは、息子がいなくても分かり過ぎるくらい分かる。
でも、ドロシアがアビーやジュリーに助けを求めたことが無駄だったかといえばそんなことはない。
ジェイミー自身まだ気づいてないかもしれない。
しかし彼は、ジュリーには幼なじみとしてベッドを共有することを許し彼女にシェルターを提供し、
不安を抱えるアビーには通院に付き添うことで、
他人をどう支えるか、どう寄り添ったらいいのかを学んだのだ。
男としてはジュリーに拒絶されるが、
実らない初恋もまた少年の通過儀礼なのだ。


1979年の夏。
ちょっと奇妙な疑似家族が大恐慌時代のように互いを支え合った夏の日々。
この夏がそれぞれにとってどんな意味があったのか?
それは何年も何年も経って、ようやく気付くこと。
それが、どれだけかけがえのない夏だったのか。

=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=
⚫︎20センチュリーウーマン
/20th Century Women(2016アメリカ)
監督・脚本:マイク・ミルズ
撮影:ショーン・ポーター
音楽:ロジャー・ネイル
衣装:ジェニファー・ジョンソン
美術:クリス・ジョーンズ
編集:レスリー・ジョーンズ
出演:アネット・ベニンググレタ・ガーウィグエル・ファニング,ルーカス・ジェイド・ズマン,ビリー・クラダップ


大きな起承転結のあるストーリーではないだけに、
どの役も役者の力量が問われる作品。
アネット・ベニングゴールデングローブ賞にノミネートされたが、主要キャストの五人すべてが素晴らしい仕事をしているし、それを引き出したマイク・ミルズも演出力も見事。


「男を育てるのは男でしょ」

「子育てって大変そうね」
「どんなに愛してても、しんどいことだらけ」

「あなたは外の世界のあの子を見られる、うらやましいわ」


名台詞オンパレードのマイク・ミルズの脚本はアカデミー賞脚本賞ノミネート。




55歳のドロシアを演じたのは実年齢58歳のアネット・ベニング。若い頃(『グリフターズ詐欺師たち』の頃)は勿論美しかったが、
最近のシワもシミも隠さない自然体も素敵。
見習いたい、いい歳の取り方。



ジェイミーを翻弄する幼なじみのジュリーを演じるのは実年齢19歳のエル・ファニング
少女から大人の女性への過渡期、壊れそうな繊細さと大人びた物言い、両方が同居する17歳のジュリーを見事に体現している。
以前は“ダコタ・ファニングの妹のエル・ファニング”だったが、最近は逆転している印象あり。
大人の女性に変貌していく中で、その時々で自分にぴったりの作品選びも賢い。
こんな幼なじみ、側にいたら、たまんないよね。



劇中、デヴィッド・ボウイに影響されたというアビーの髪は綺麗な赤。
ショートのヘアスタイルも赤い髪色もグレタ・ガーウィグによく似合っている。
ブロンドより個性的でいい!
アビーのモデルはマイク・ミルズの姉とのこと。



個性的な三人の女性に囲まれかけがいのない夏を過ごすジェイミーを演じるのは初めましてのルーカス・ジェイド・ズマン。
イライジャ・ウッドをもう少しシャープにした感じの美少年。目はキラキラ!
どんなハンサム青年に成長するのか楽しみです。



主要キャラクターの中でも一番つかみどころのない難役と言っても過言ではないウィリアムを演じたのはビリー・クラダップ
この疑似家族の中で目立たないけれども、
唯一の大人の男性として重要な役どころ。
若い頃には主演作も多かったけれども、
最近では脇に回ってもいい仕事をしている印象。
歳を重ねてますますセクシー!



このシーンに象徴されるように、全編を通じて柔らかい光が優しく作品を包む。
一緒にこのビーチを散歩したい。



たとえば、Tシャツひとつとっても何度も洗濯を繰り返して布がクタッと柔らかくなっている感じとか、同じアイテムをきちんと着回しているスタイリングが素敵!
ひとりの人物のコーディネートはもちろんだけど、各キャラクターが集まった時の色のバランスもいい。


友だちとの殴り合いのきっかけになってしまうこのトーキング・ヘッズのTシャツはマイク・ミルズの私物でお姉さんからのプレゼントだそう。



公式サイトはこちら👉映画『20センチュリー・ウーマン』公式サイト | トップページ

予告編はこちら👉【本予告】『20センチュリー・ウーマン』 6/3(土)丸の内ピカデリー/新宿ピカデリーほか全国公開 - YouTube


👇母世代のルイ・アームストロングデューク・エリントンから息子世代のトーキング・ヘッズデヴィッド・ボウイまで網羅したサントラはこち

20センチュリー・ウーマン

20センチュリー・ウーマン