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極私的映画案内

新作、旧作含め極私的オススメ映画をご案内します。時々はおすすめ本も。

しあわせへのまわり道

HOW TO DRIVE=HOW TO LIVE


14年前インドから政治亡命してきたダルワーン・シン・トゥールはかつて大学の教師だったが、ここNYでは自動車の教習とタクシー運転手の二足の草鞋を履き、甥プリートのほか、故国から不法入国してきた同胞の面倒をみていた。
ある晩、彼はひと組のカップルを乗せる。
どうやら別れ話を夫の方が切り出したらしい。
夫には愛人がいるようで、夫婦は激しい口論の末、
夫は先に車を降りてしまう。

夫に捨てられた女ウェンディはNYのアッパーウエストサイドに暮らす人気書評家。
大学の教員の夫テッドと結婚21年。
二人の間には大学生の娘ターシャがおり、
公私ともの充実している、はずだった。
しかし、そう思っていたのはウェンディだけだった。
本ばかり読んでその世界にどっぷり浸かっていたウェンディはいつしか十分に夫にに目を向けることもなく、
気づけば夫は他の女の元へ走っていた。

あくる日ひとり娘のターシャが会いに来る。
ターシャ大学を休学してバーモントの農場で働いている。
「ママも来て農場で原稿を書いたら?」
と言うターシャに車の運転が出来ないとか駅から遠すぎるとかネットも通じないとか言い訳を並べるウェンディ。
ウェンディに気分転換させたいターシャ。
パパが戻ったら一緒に会いに行くと答えるウェンディ。
彼女は、こんな夫の気まぐれはこれまでに何度もあった、きっとそのうち戻ってくると高を括っていたのだ。
しかし、ターシャに
「パパはもう戻ってこない。
法的別居の申請をした」

と聞かされショックを受ける。

そこへダルワーンが忘れ物を届けにやって来る。
タクシーの屋根の5時間レッスンの宣伝を目にしたウェンディは発作的に車の免許をとることを決意する。
こうして、クイーンズ在住の敬虔なシーク教徒ダルワーンとアッパーウエストサイドの人気書評家ウェンディ、ふたつの異なる世界の住人が出会うことになる。


「言葉に関わる仕事がしたかったの」

何故書評家という職業を選んだのかと問われ
ウェンディはこう答えるが、
この映画の中にも面白く、
そして滋味深い名台詞がいっぱい。


「人間というのは時に思いがけない行動に出る」

これは教習中にダルワーンが運転中は周囲の人々に注意するよう言うシーンの台詞。
「本当にね」
と答えるウェンディはこの中に離婚という不意打ちを食らわせた夫テッドを思う。


ウェンディの離婚騒動を慰める妹デビーとのシーンではこんな会話。

デビー
「妻以外の女と寝る男って最低
プールでオシッコするのと同じよ
誰も見てなくても水は確実に汚れていく
なのに、すましてるなんて

ウェンディ
「どこで出会うの?
アバズレを売る自販機?」

デビー
「若い女なら誰でもいいのよ
いろいろ教え込める
朝イチの“おしゃぶり”(ブロージョブ)とか」

ウェンディ
「テッドも望んでたかも」
デビー
「男にとっては極楽よ」
ウェンディ
「やらなきゃ」
デビー
「やる方は大変。
だから“仕事”(ジョブ)なの
そうでしょ
私の口は定年よ。年金も欲しい」


教習中のダルワーンのアドバイス

「人生で何が起こっていようと路上には持ち込むな。
ハンドルを握っている時はそれが全て。
いまを生きてる。君の人生だ。大切にしてほしい。」


そしてこれは縦列駐車を教えている時のアドバイス

ダルワーン
「シチューを作る時塩加減はどう確かめる?」
ウェンディ
「味見する」
ダルワーン
縦列駐車で車の向きが分からない時は?」
ウェンディ
「味見?」
ダルワーン
「ほんの少しバックしてどちらに向かうか見る。
“方向の味見”だ」

ウェンディ
「足りない時は…」
ダルワーン
「少しずつ調節していけばいい」

これは後に新居の住み心地をダルワーンに聞かれた際のウェンディの台詞で回収される。

「味見しながら調整中よ」


教習中雷雨に見舞われパニックに陥ったウェンディは急ブレーキを踏み、後続の車に追突されてしまう。

「まっすぐ進めばよかったのになぜ停まったんだ?
悪いことは一瞬で起こる
それで全てを失うんだ」


結婚相手で初対面のジャスリーンをダルワーンが空港に迎えに行くシーン。

ウェンディ
「本当に初対面の女性と結婚するの?」
ダルワーン
「私の故郷に近い村の出身だ。妹が選んだ。」
ウェンディ
「私の妹なら絶対おかしな男を選ぶわ」
ダルワーン
「君らは裕福だ
だから孤独でイかれてるのさ」


初対面の女性と結婚したダルワーンが信じられないウェンディにダルワーンはこう答える。

シク教徒の家族は互いを本人より理解してる。
だから正しい相手を選べるんだ。
自分で選べばエゴゆえにはんだんを誤ってしまう」


最初の試験に落第したウェンディ。

「無理よ。私が得意なことは一つだけ。
周りの人たちを無視することだもの
孤独な人間にはそうなる理由がある。
私は夫を無視したわ。裏切られて当然よ。
裏切り者は私。
私が愛していたのは彼より言葉なんだもの」

「この世は愛を邪魔するものだらけ。
なのに夫婦で“1つの魂”になれるなんて」

「教えて
もし奥さんが何らかの形であなたを失望させたら、
彼女を裏切る?」

「いや、決して」
と答えるダルワーン

「あなたは誠実ね。私の救いよ」

実はジャスリーンと上手くいっていないダルワーンはウェンディに彼女になんと言えばいいかアドバイスを求める。ウェンディはこう答える。

「“これから君を理解していく。必死で頑張る。
違うを乗り越えるべく日々闘う。
君にはその価値がある”」


ターシャが農場に残りたがっていたのは恋人の存在があったからだが、彼が地元に戻ってしまい、彼女はウェンディと一緒に暮らしたいと言い出す。

「挫折したまま逃げてきたら
いつまでも心に傷が残る
農場に戻って収穫までやり通しなさい
けじめをつけるの」

これはターシャに対する助言のようで実はウェンディの自分自身への言葉である。
彼女はもう一度試験に挑戦する。


「運転とは自由を手にすることだ」

初めて車を運転したときのことを思い出してみよう。
恐るおそるアクセルを踏んで車が動き出した時、
ウェンディと同じように思わず「動いた!」と感動しなかっただろうか?
自分の体重の何倍もの大きなものを動かしているというある種の力を感じなかっただろうか?
まさに「自由を手に入れた」感覚。
タクシーバス、あるいは誰かに運転してもらっても同じ距離を移動することは出来る。
しかし、自分で運転して移動するということはそれとは全くの別物である。

人生においては誰もが避けては通れない痛手。
それは、仕事上の挫折かもしれないし、
大切な誰かとの別離かもしれない。
そんな時立ち上がって再び前に進むために必要なものは何だろう?
それは、前の車を追い越すときのダルワーンのアドバイスに凝縮されている。

「必要なのは少しの勇気とアクセルだ」

新しいことに挑戦する少しの勇気と
やり遂げるための後押し。
それがウェンディにとって必要だった。

思いがけない事態に冷静に対処すること、
味見しながら調整すること。
車を運転することと、どう生きていくかということの間には意外と共通点が多いのだ。

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⚫︎しあわせへのまわり道/Learning to Drive
(2014 アメリカ)
監督:イザベル・コイシェ
原作:キャサ・ポリット『Learning to Drive』
脚本:サラ・ケルノチャン
出演:パトリシア・クラークソンベン・キングズレー,ジェイク・ウェバー,グレイス・ガマー,サリタ・チョウドリー,アヴィ・ナッシュ,ジーナ・ジャリーン,サマンサ・ビー,マット・サリンジャー、ラジカ・ブリ



グリーンのノースリーブのワンピースがとってもお似合いのパトリシア・クラークソン
お気に入りの作家が夫の愛人だと知り、
手のひらを返し尻軽女とこき下ろす率直さ、
無事試験に合格してぴょんぴょんジャンプして喜ぶ姿もキュート!



インド人ドライバー役のベン・キングズレー
最近ではインド人俳優がハリウッド映画に出演することも多い。
彼がキャスティングされたのはやはり『ガンジー』の影響だろうと思ったが、ベン・キングズレーは母親がイギリス人父親がインド人のハーフ。


ウェンディの浮気夫を演じるのはTVシリーズ『ミディアム』で霊能者アリソン(パトリシア・アークエット)良き夫だったジェイク・ウェバー。良き夫良き父親のイメージ強し!


ウェンディの娘ターシャ役はグレイス・ガマー。
大女優メリル・ストリープの娘。
お母さんに 似てるというよりもお姉さんのメイミー・ガマーとそっくりで見分けがつかない。



公式サイトはこちら👉映画『しあわせへのまわり道』公式サイト

予告編はこちら👉パトリシア・クラークソンとベン・キングズレー共演!映画『しあわせへのまわり道』予告編 - YouTube


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