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極私的映画案内

新作、旧作含め極私的オススメ映画をご案内します。時々はおすすめ本も。

今月の読書 〜2017年3月,4月〜

3月はバカみたいに映画ばっかり観てたというのもあるのですが、読み始めたニコライ・ゴーゴリ『死せる魂』に難儀しまして読了出来ずにそっと図書館に返却、結局一冊(佐藤亜紀『吸血鬼』)しか読了出来なかったにで4月分と一緒にご紹介。
4月は、サルマン・ラシュディ『真夜中の子どもたち』でインド史に俄然興味が湧いたし、スベトラーナ・アレクシエービッチ『チェルノブイリの祈り』には打ちのめされたし、ジョーゼフ・ヘラー『キャッチ=22』は息苦しかったし、スティーヴ・エリクソン『黒い時計の旅』)はこれからも読み続けるし、やっぱりロベルト・ボラーニョ『売女の人殺し』)は好きだわ、私。
エンタメはマイケル・ロボサム『生か、死か』がオススメです。

⚫︎吸血鬼/佐藤亜紀
講談社

今年Twitter文学賞日本文学部門の第1位作品。
未読の作家さんということもあって何の予備知識もなく読み始めたが、何と舞台は19世紀のポーランド
オーストリア領となっている地方の村に新任の役人が年若い妻を伴い着任する。
村はいまだに古い因習に囚われており、死者が続くと墓を暴き首を刎ねるのだ。
背後にあるのはポーランド独立運動、社会構造の変化だろう。
最後まで読むと“吸血鬼”とは何をさすのかわかるようになっている。
正直少し読みにくかったが、ただこの独特の世界はクセになるのかもしれない。

吸血鬼

吸血鬼


⚫︎昏き目の暗殺者/マーガレット・アトウッッド
鴻巣友季子訳/早川書房
THE BLIND ASSASSIN/Margaret Atwood/2000

かつては地域随一の実業家一族として繁栄を極めたチェイス家。
時代と共に力を失っていった一家の長女アイリスは新興の大工場主リチャードと結婚。
アイリスの妹ローラは一冊の小説を残し若くして事故死する。
老齢のアイリスによる回想を新聞、雑誌の記事が補完し、ローラの小説「昏き目の殺人者」と小説内で男が女に語るSFストーリーが入れ子になっており、
ローラに一体何があったのか?今は独りで暮らしているらしいアイリスの過去に何があったのかが少しずつ明らかになっていくミステリー仕立てと言ってもいいだろう。
ローラは事故死だったのか?
ローラの小説出版までに何があったのか?
そこにはローラを十分理解してやることが出来ずに助けられなかったアイリスの後悔があった。
世間知らずで無力な若妻だったアイリスの復讐はなかなか痛快でした。
【ガーディアン紙の1000冊】

昏き目の暗殺者

昏き目の暗殺者


⚫︎黒い時計の旅/スティーヴ・エリクソン
柴田元幸訳/福武書店
TOURS OF THE BLACK CLOCK/1989

十代で家族と故郷を捨てた男バニング・ジェーンライト。
彼は長じて時の権力者ヒトラーの私設ポルノ作家となる。
ところが、バニングがロシア移民デーニアと出会ったことで20世紀は二つに切り裂かれる。
私たちがよく知るそれと、枢軸国側が勝利しヒトラーが生き延びたそれとに。
バニングとデーニアがそれぞれが生きる二つのパラレルワールドを行き来する(バニングは書くことでデーニアと繋がる)ストーリーとデーニアの息子マークの物語が絡まり何とも重層的。
エリクソンは『ゼロヴィル』に続き二作目だが、円環構造はここにも。

黒い時計の旅 (白水uブックス)

黒い時計の旅 (白水uブックス)


⚫︎真夜中の子どもたち/サルマン・ラシュディ
寺門泰彦訳/早川書房
MIDNIGHT'S CHILDREN/Salman Rushdie/1981

1947年8月15日インド独立の日に生まれたサリーム。
誰の人生であれ、それは国の歴史に大きく左右されるものだが、インド独立と共に生を受けたサリームほど国の歴史と深くコミットすることになる人物もいないだろう。
とは言え、物語はサリームの祖父アーダム・アジズの時代に遡り、上巻も半ばまできてようやくサリーム誕生。
そして、サリーム9歳の時特殊能力が目覚める。
彼を含め1947年8月15日午前12時から1時間の間に生まれた子供達にはすべて特殊能力が備わっていた。
サリームが持つテレパシー能力は周囲の思考の中に侵入出来るだけでなく、特殊能力を持つ他の子供たちは彼を通じて接触することが出来た。
後半、この子供達が大きく国の歴史を動かしていくのか?と思われたが、しかし、“子供たち”は歴史を動かすというよりもむしろ歴史に翻弄されていく。
ムスリムである一家パキスタンに移住し、
サリーム自身はパキスタン兵としてカシュミール、そしてダッカへと赴く。
姉妹の確執、サリーム出生の秘密、母親の裏切り。
これはある一族の盛衰の物語であり、サリームとシヴァ、同じ時に生を受けた二人の宿命の物語であり、同時にインド・パキスタンの近代史そのものでもあるのだろう。
【ガーディアン紙の1000冊】

真夜中の子供たち〈上〉 (Hayakawa Novels)

真夜中の子供たち〈上〉 (Hayakawa Novels)

真夜中の子供たち〈下〉 (Hayakawa Novels)

真夜中の子供たち〈下〉 (Hayakawa Novels)


⚫︎チェルノブイリの祈りー未来の物語/スベトラーナ・アレクシエービッチ
松本妙子訳/岩波書店岩波現代文庫
CHERNBYL'S PRAYER/Shetland Alexievich/1997

冒頭の消防士の妻の証言を読んでいて思い出したのは、東海村の臨界事故時の被害者に対する治療経過を追ったドキュメンタリーだ。
事故直後は何の外傷もないが時間経過に従って細胞が身体の内側から崩壊していく。
これ程残酷な死に方があるだろうか?とかなりショックだったのでよく覚えている。
勿論事故に至るまでにも多くの過ちがあったのだろうしかし、事故後の対応によってはもっと被害を減らすことも出来た筈だ。
原発はクリーンで安全」何処かで聞いたような話がここでも信じられていた。
情報不足や事実の隠蔽、無知が被害を拡大した。
これだけ大きな悲劇が起きながらも、この事故を教訓とすることが出来ずに“フクシマ”に至ってしまったことに対して何とも言いようのない悔しさを感じるなぜ、事故の可能性を自らのこととして考えることが出来なかったのだろう?
事故に運命を狂わされた多くの声なき声、これを無駄にしてはならない。

チェルノブイリの祈り――未来の物語 (岩波現代文庫)

チェルノブイリの祈り――未来の物語 (岩波現代文庫)


⚫︎他人の顔/安部公房
/新潮社(新潮文庫

実験中の事故で残ったケロイド瘢痕によって“顔”を失った男。
事故後にギクシャクした妻との関係を再構築するために自ら“仮面”を作り“他人”として妻を誘惑しようとする。
「顔は人間同士の通路」男は仮面をつけることで妻との間に新たな通路を作ろうとする。
顔の傷は、周囲からの視線、周囲の人間との関係の変化ももたらすだろうが、それより以前に、自分がその“顔”を自分のものとしてどう受け容れるのか?受け容れることができるのか?が問題である。
彼は他人との関係以前に変わってしまった自分を受け容れることが出来ていなかったのだ。
【ガーディアン紙の1000冊】

他人の顔 (新潮文庫)

他人の顔 (新潮文庫)


⚫︎煽動者/ジェフリー・ディーヴァー
池田真紀子訳/文藝春秋
SOLITUDE CREEK/JEFFERY DEAVER/2015
キネシクスの専門家でCBI捜査官キャサリン・ダンスが活躍するシリーズの4作目。
今回彼女が追う犯人は、人が大勢集まる場所でパニックを起こし多数の死傷者を出させるという新手の手口を使う知能犯。
この手口、事前に防ぐのは難しいだろうし、模倣犯が実際に出たらと考えるとゾッとする。
恒例のどんでん返しについては、ズルい!と言いたくなるのはリンカーン・ライムシリーズ同様。
しかし、キャサリン含めお気に入りキャラがいない(あえて言えば、60年代文化をこよなく愛するT・Jが好きかも)のに一気読み必至のリーダビリティは見事。

煽動者

煽動者


⚫︎キャッチ=22/ジョーゼフ・ヘラー
飛田茂雄訳/早川書房
CATCH-22/Joseph Heller/1961

イタリア中部ピアノーサ島アメリカ空軍基地所属のヨッサリアン大尉の願いはただひとつ、生きのびること。
仮病や狂気を訴えあの手この手で飛行勤務の免除を勝ち取るべくジタバタするヨッサリアン。
しかし、そんな彼を嘲笑うかのように立ち塞がるのが、謎の軍規“キャッチ=22”。
気の狂った者はそれを願い出ねばならぬが、願い出ることの出来る者は正気である、ゆえに、飛行勤務を免除出来ない。
時系列もバラバラ、さも既に説明済みかのように触れられるエピソードは後々詳細が語られたりとこちらも混乱。一体何が正気で、何が狂気か?
確かにブラック・コメディではあるのだが、
読んでいるうちに次第に息苦しくなってくる。
功を焦る大佐によって次々に増やされる責任出撃回数を始め、戦場の若者たちを死へと追いやる“キャッチ=22”。
一体何の為か謎でしかないルーティンワーク、終わらない意味のない会議、隠蔽される公文書、不祥事だらけの内閣の何故か落ちない支持率etc…。現実の世界においてもキャッチ=22は私達を苦しめる。
そんな世界で私たちは、キャスカート大佐?従軍牧師?ヨッサリアン?それともオアのように?
一体どう生きるのか?それが今現代を生きる私たちに問われている。
【ガーディアン紙の1000冊】

キャッチ=22〔新版〕(下) (ハヤカワepi文庫 ヘ)

キャッチ=22〔新版〕(下) (ハヤカワepi文庫 ヘ)

👇マイク・ニコルズ監督による映画化作品はこちら。観たい!

キャッチ22 [DVD]

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⚫︎売女の人殺し/ロベルト・ボラーニョ
松本健二訳/白水社
PUTAS ASESINAS/Robert Bolaño/2001
「訳者あとがき」でも触れられているように、収録されている13編はボラーニョの分身(あるいはボラーニョ自身)が語り手になっているものとまったくのフィクションの二つに分けられるが、どちらも素晴らしかった!
歴史に名を残すこともなく消えていった人々、挫折や心の傷を負った人々に対する突き放すでもなく、かといって強く抱きしめるわけでもないセンチメンタル過ぎないボラーニョの距離のとりかたが私には心地いい。
お気に入りは「ゴメス・パラシオ」「ラロ・クーラの予見」(ポール・トーマス・アンダーソンの『ブギーナイツ』を思い出させる)「ブーバ」「歯医者」辺りですが、全部好き!
「ブーバ」の語り手であるアセベトやエレーラ、ブーバが活躍したサッカークラブはバルセロナがモデルだと思いますが、
小説の中でブーバがイタリアのユベントスに移籍した後両チームがチャンピオンリーグで対戦した時のスコア(ユベントスホーム3ー0でユベントスバルセロナホームでスコアレスドロー)が何と今シーズンの結果と同じ!
まあ、ただの偶然なんですけど。
(収録作品)
・目玉のシルバ
・ゴメス・パラシオ
・この世で最後の夕暮れ
・1978年の日々
・フランス、ベルギー放浪
・ラロ・クーラの予見
・売女の人殺し
・帰還
・ブーバ
・歯医者
・写真
・ダンスカード
エンリケ・リンとの邂逅

売女の人殺し (ボラーニョ・コレクション)

売女の人殺し (ボラーニョ・コレクション)


⚫︎特捜部Qー吊るされた少女ー/ユッシ・エーズラ・オールスン
吉田奈保子訳/早川書房ハヤカワ・ポケット・ミステリ
DEN GRÆNSELØSE/JUSSI ADLER-OLSEN/2014
TVドラマであれ映画であれ小説であれフィクションにはどうしても凝ったプロットを求めてしまいがちだが、現実の犯罪の殆どは金だったり痴情のもつれだったりありきたりの人間の欲が原因だ。
そう考えると特捜部Qの面々が最新作で追う事件はより現実的と言えるのかもしれない。
今作に登場する新興宗教のカリスマ教祖(導師)アトゥの人物像もリアルに感じた。(こういう人気者、貴方の周りにもいませんか?いかにも胡散臭いけど。)
モーデン、ミカ、イェスパまで家を離れ、ハーディと二人きりになったカールの私生活も気になるが、釘打ち機事件の真相を巡るハーディの動揺が心配。
映画版はカール、アサド、ローセの軽妙なやりとりがほとんどないので、やっぱり小説がいいなあ。ラクダ豆知識もあるし。。。

特捜部Q―吊された少女― (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

特捜部Q―吊された少女― (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)


⚫︎生か、死か/マイケル・ロボサム
越前敏弥訳/早川書房ハヤカワ・ポケット・ミステリ
LIFE OR DEATH/MICHAEL ROBOTHAM/2014

現金輸送車襲撃事件の共犯として10年の刑に服すオーディ・パーマー。
彼は服役中何度も命を狙われるが消えた700万ドルの行方については固く口を閉ざす。
そして出所前夜、オーディは脱獄する。
何故彼は出所前夜に脱獄したのか?
そもそも彼は何故襲撃事件に関わることになったのか?
この二つの謎がストーリーを牽引するのだが、とにかく主人公オーディをはじめ悪党にしかなれなかったオーディの兄カール、オーディのムショ仲間で彼の行方を追うモス、とびきり小柄だけどとびきり優秀なFBI捜査官デジレー等、キャラクター造形が抜群にいい!

生か、死か (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

生か、死か (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)


⚫︎年月日/閻連科
谷川毅訳/白水社
NIAN YUE RI/Yan Lianke/1997

一人また一人村を離れとうとう独り取り残された老人と犬。
というと、どうしても思い出すのがフリオ・リャマサーレスの『黄色い雨』で、“黄色い雨”が降り積もる中、孤独のうちに死を待つ老人の姿に胸を締め付けられた。
しかし両者が決定的に違うのは、雨乞いの儀式で目の見えなくなった犬メナシと先じいはあくまでも生き抜くため、“命をつなぐ”ために最後まで闘い続ける。
人気のなくなった村で逞しい鼠の群れ、水場を巡る狼との対峙など恐ろしくも美しい描写も心に残るが、
何よりも強烈に“生きること”の意味を痛感させられた。

年月日

年月日


⚫︎もう過去はいらない/ダニエル・フリードマン
野口百合子訳/東京創元社創元推理文庫
DON'T EVER LOOK BACK/Daniel Friedman/2014
メンフィス署の元刑事バック・シャッツ88歳!
前作で負傷しリハビリ中のバックは妻ローズと共に老人ホームに住まいを移している。
そこへ訪ねてきたのは78歳になったかつての仇敵銀行強盗のイライジャ。
彼は何故今頃になってバックの元を訪れ助けを求めてきたのか?
現在(2009年)と1965年を行き来してストーリーは進むが、現在の事件の鍵が昔の事件に隠されている構成がよく、最後まで一気に読ませる。
強制収容所の生き残りイライジャの社会に対する怨念と正義の為に働いてきた警官としてのバックの矜持のぶつかり合いが読みどころ。
悪人を刑務所にぶち込む為なら暴力も辞さないバック・シャッツのような父親の息子ブライアンも孫のテキーラもめちゃくちゃリベラルなのが面白い。

もう過去はいらない (創元推理文庫)

もう過去はいらない (創元推理文庫)

👇シリーズ一作目『もう年はとれない』はこちら

もう年はとれない (創元推理文庫)

もう年はとれない (創元推理文庫)