極私的映画案内

新作、旧作含め極私的オススメ映画をご案内します。時々はおすすめ本も。

アイアムアヒーロー


俺が君を守る!


新人コミック賞受賞から早13年。
三十代半ばにもなろうというのに鈴木英雄は未だ漫画家アシスタントとして鳴かず飛ばず
編集者に原稿を見せてはいるものの色よい返事はもらえず、連載はおろか掲載にさえこぎつけられない。

主人公がね、なんか普通なんですよね〜

同時期に新人コミック賞を受賞した早川コロンは今や表紙を飾る売れっ子漫画家になっていた。
英雄の成功を信じて支え続けてきた同棲中の恋人てっこもとうとう痺れを切らし英雄にこう言い放つ。

英雄くんのはね、夢って言わない!
妄想って言うの!
成功なんて一握りの特別な人しか出来ないんだよ!
英雄くん普通じゃん、普通の人じゃん!
今のままじゃ何にもなれない!死ぬまで!

趣味である猟銃と共にアパートを追い出された英雄は仕方なく仕事場へ。
そんな彼に夜明け前、てっこから電話がかかってくる。

酷いこと言ってごめん。
やっぱりあたし英雄くんといたい。

てっこのただならぬ様子に慌ててアパートに戻った英雄を待っていたのは、変わり果てた姿の彼女だった。
何かに感染したのか、異様な動きで英雄に襲いかかった彼女は、もう“てっこ”ではなかった。
何とか彼女を撃退し、再び仕事場へ戻った英雄を迎えたのは先輩のアシスタント三谷だった。
しかし、彼の手には血まみれのバットが。
傍らには殴り殺された同僚が倒れていた。
そして三谷は感染した先生を日頃の恨みとばかりに執拗に殴打。
ネット情報によれば頭部を完全に破壊する必要があるらしい。
噛みつかれ感染していた三谷は自ら死を選ぶ。
慌てて外に逃げ出す英雄。
しかし、すでに人々がパニック状態に陥っていた。。。


R-15指定。
まあ、これだけグロ描写満載ならそれも致し方なし。
多分原作漫画は15歳以下の読者もいるだろうから、
R指定を受けてしまうとみすみす潜在的な観客を失ってしまうことになっただろうに、あえてリスクを冒してグロ描写を抑えなかったことに先ずは拍手を送りたい。
よくぞやり切った!
編集が巧いのだろうが、
全編通してテンポがいい。
特に前半東京脱出までのテンポは素晴らしくて
一気に引き込まれた。
ゾンビ映画を観尽しているわけではないが、
ZQN感染者(ゾンビ)の動きやグロ描写も
欧米の作品に決してひけをとらない出来になっていると思う。
特に感染者がZQNになる過程の生々しさは
見どころのひとつだろう。
英雄にとって初めてのZQN感染者となる恋人てっこの変態の様子のおどろおどろしさといったら!
(てっこ役の片瀬那奈さん、グッジョブ👍
玄関のドアに噛みついたてっこの歯がボロボロ欠けていくシーンは何度も巻き戻して観てしまった!)
もうひとつこの映画で初めて観たのは、
高飛び選手だったというZQN感染者の動きだ。
過去の記憶の中で存在しているZQN感染者は生前の動きを繰り返しているが、超人的な力を獲得した彼の動きは斬新だ。


原作漫画は現在も連載中。
結末が決まっていないストーリーを映画にするにあたっては、割愛せざるを得なかったエピソードや登場人物、無視せざるを得なかった登場人物の関係性もあっただろう。
特に、舞台がショッピング・モールに移ってからの人間関係や、主人公英雄以外の登場人物の背景が分かりにくい。
もう一点、気になるのは、
ZQN感染者に子どもが登場しないことである。
ゾンビ映画で登場人物が直面する試練は、
先ずゾンビ化した幼い子どもたちにどう対処するか?
もうひとつは友人知人、家族がゾンビ化した時にどう対処するか?である。
ここでは、幼い子どもが登場しないので、
子どもたちに対処する時の葛藤は存在しない。
友人知人がゾンビ化した時の葛藤は、猟銃の所持許可証を持っている英雄が人に銃を向けることが出来ないという、彼個人の試練になっている。
この辺りの葛藤の描き方も物足りなく感じるが、
これも尺を考えると致し方なしか。
それでもこの尺で巧くまとめたなと感心した。
ゾンビ映画だって、やればこのくらいのものは出来る。
日本映画の力を見直す一本になったことは確かだ。


既存の社会システムが崩壊した世界では、
以前の社会的地位や財産など何の役にも立たない。
必要なのは、臨機応変に対応出来るサバイバル能力と
多少の戦闘能力。
英雄は芽の出ない漫画家。
学校にはどうも居場所がなさそうな様子の女子高生比呂美。
ショッピング・モールに籠城するサンゴは元引きこもり。
元看護師の藪は患者を見捨てたという罪悪感を抱えている。
既存の世界では名もなき人々がヒーローになれるかもしれない、いや、ヒーローにならなければならない世界。
それが彼らが生き抜いていかなければならない世界なのだ。


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⚫︎アイアムアヒーロー (2016 日本)
監督:佐藤信
原作:花沢健吾
アイアムアヒーロー』(小学館
脚本:野木亜紀子
出演:大泉洋有村架純長澤まさみ吉沢悠岡田義徳片瀬那奈片桐仁マキタスポーツ塚地武雅徳井優風間トオル村松利史


斧を片手に比呂美ちゃんを背負って逃げる逞しさを見せる元看護師、藪を演じた長澤まさみと半感染者として超人的な力を手にした比呂美ちゃんの有村架純
比呂美ちゃんには高い戦闘能力をもっと見せてもらいたかった!

予告編はこちら👉「アイアムアヒーロー」予告 - YouTube


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