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極私的映画案内

新作、旧作含め極私的オススメ映画をご案内します。時々はおすすめ本も。

今月の読書 〜2017年1月〜

2017年1月の読書は10冊。
一年の始まりとしてはまずまずのペースでした。
しかも、今月はどれもハズレなし!
でも、あえて選ぶとすれば、
オススメはジョー・ネスボ『その雪と血を』
アリス・マンロー『ジュリエット』
特に『その雪と血を』は、ノルウェーオスロの厳しい寒さを少しでも実感出来るこの季節に読むことをオススメします!


⚫︎その雪と血を/ジョー・ネスボ
鈴木恵 訳/早川書房
BLOOD AND SNOW/JO NESBØ/2015

ジョー・ネスボは『スノーマン』(〈刑事ハリー・ホーレ〉シリーズ)に続き二作目だが、随分とテイストが違う。
主人公は殺し屋にしかなれなかった男オーラヴ。
売春と麻薬取引を牛耳るマフィアのボスからの新たな依頼は、彼の妻コリナを殺すこと。
しかし、オーラヴは雪のように白い肌を持つ彼女に一目で魅せられてしまう。
コリナは典型的なファム・ファタールだが、もう一人の“運命の女”となるのが彼が助けた聾唖の女マリアだ。186頁と短い小説だが彼女の存在が物語に奥行きを与えている。
あの美しいラストシーンは彼女なしではあり得なかった。
レオナルド・ディカプリオ主演で映画化進行中」とのことだが、どうなんだろう?
読後思い出したのはN・W・レフンの『ドライヴ』だったんだけど。。。
ちなみに『スノーマン』はM・ファスベンダー主演で映画化(監督は『ぼくのエリ〜』『裏切りのサーカス』のトーマス・アルフレッドセン)、
『ヘッド・ハンター』は本国ノルウェーで映画化されていて観ましたがとても面白かった。
こちらもハリウッドリメイクされるというニュースがあったがどうなっているんだろう?


⚫︎水を得た魚 マリオ・バルガス・ジョサ自伝/マリオ・バルガス・ジョサ
寺尾隆吉訳/水声社
EL PEZ EN AGUA/MARIO VARGAS LLOSA/1993

ノーベル賞作家マリオ・バルガス=ジョサの自伝ではあるが、93年執筆ということで半分は80年代後半から巻き込まれてしまった大統領選(出馬に至る経緯と選挙戦)の顛末にページが割かれ、
他のジョサ作品同様、生い立ちと大統領選の経緯が交互に語られている。
とはいえ、生い立ち部分も政治的履歴書の色彩色濃く、敗北に終わった選挙戦について書かずにはいられなかったというのが本当のところではないか。
この時代のペルーの特殊事情はあるが、
ジョサが破れた理由が今回のアメリカ大統領選でクリントン候補が破れた理由に重なって見えた。

水を得た魚―マリオ・バルガス・ジョサ自伝

水を得た魚―マリオ・バルガス・ジョサ自伝


⚫︎ビッグ・ノーウェア/ジェイムズ・エルロイ
二宮磬訳 文藝春秋(文春文庫)
THE BIG NOWHERE /JAMES ELLROY /1988

《暗黒のLA四部作》のうち唯一未読だった二作目。
1950年年明けと共に男性の惨殺死体が発見される。被害者は同性愛者とみられるこの事件の捜査を担当するのは職務に燃える若き保安官補ダニー・アップショー
一方、赤狩り捜査を出世の足掛かりにと狙う検事局警部補マルコム・コンシディーン。
そしてもう一人の主役が一作目にも登場した元悪徳警官バズ・ミークス。
この三人がダニーは殺人事件の捜査、マルコムは出世、そしてミークスは金の為にハリウッドの労組潰しで手を組む。
黒幕は実在の人物である実業家ハワード・ヒューズでありギャングのボス、ミッキー・コーエン。
ダニー、マルコムの二人がこれ以降のシリーズに登場しないのは、なるほどこういう訳だったか。
ダニーが殺人事件捜査に、マルコムが赤狩り捜査にのめり込むのは単に出世のためだけではなく、
ダニーは自らのセクシャリティに向き合うことだったし、マルコムは血の繋がらない息子の親権裁判を有利に運ぶためという切迫した事情があった。
H・ヒューズ、M・コーエン子飼いの揉み消し屋バズ・ミークスは本気で愛した女のために無謀な賭けに出る。
ダニーの事件を二人が引き継ぐ辺りからが熱かった!
鮮やかなラストシーンもお見事。
これぞ、エルロイ・ワールド!
【ガーディアン紙の1000冊】

ビッグ・ノーウェア〈上〉 (文春文庫)

ビッグ・ノーウェア〈上〉 (文春文庫)

ビッグ・ノーウェア〈下〉 (文春文庫)

ビッグ・ノーウェア〈下〉 (文春文庫)


⚫︎ウィンドアイ/ブライアン・エヴンソン
柴田元幸訳/新潮社(新潮クレストブックス)
WINDEYE/BRIAN EVENSON/2012

一年で一番寒さの厳しい季節とあって、布団に潜り込んで読了したものの、こんな経験は初めてだったのは、読んでいた“ストーリーの続きを夢に見てしまう”ことだった。
ブライアン・エヴンソンの嫌な(魅力でもある)ところは、登場人物が遭遇する悪夢のような出来事が“終わらない”ことだが、
まさに“終わらなかった”。
とはいえ、エヴンソンの描く世界への慣れなのか衝撃度は前作の方が上だったかも。
お気に入りは『ダップルグリム』『陰気な鏡』『食い違い』『不在の目』『もうひとつの耳』あたり。
『ボン・スコットー合唱団の日々』は実在の人物(AC/DCのヴォーカル)を描いていて異色。
(収録作品)
・ウィンドアイ
・二番目の少年
・過程
・人間の声の歴史
・ダップルグリム
・死の天使
・陰気な鏡
・無数
モルダウ事件
・スレイデン・スーツ
ハーロックの法則
・食い違い
・知
・赤ん坊か人形か
・トンネル
・獣の南
・不在の目ーマイケル・シスコに
・ボン・スコットー合唱団の日々
・タパデーラ
・もうひとつの耳
・彼ら
・酸素規約
・溺死親和性種
・グロットー
・アンスカン・ハウス

ウインドアイ (新潮クレスト・ブックス)

ウインドアイ (新潮クレスト・ブックス)


⚫︎ジュリエット/アリス・マンロー
小竹由美子訳/新潮社(新潮クレストブックス)
Runaway/Alice Munro/2004

久々に読むとやっぱり巧いなあアリス・マンロー
まるで魔がさしたような一瞬、その一瞬の感情で、判断で人生が大きく変わってしまう。
自分の人生も、他人の人生も。
そういう「一瞬」を描くのがものすごく巧い。
ジュリエットを主人公にした連作『チャンス』『すぐに』『沈黙』を原作としてP・アルモドバルが映画化したこともあってタイトルは『ジュリエット』となっているが、むしろそれ以外の作品が印象深かった。
特に『情熱』『罪』『トリック』。
『罪』のラスト、ローレンのパジャマにくっついて取れないイガイガは彼女が知りたくなかった真実そのものだ。
ジュリエット三部作はアルモドバルの映画を先に観ていたので、どうしても映画との差異を探しながら読みことになってしまって純粋に楽しめなかった。
女性映画を得意とするアルモドバルがアリス・マンローに惹かれるのはよく分かるが、マンローの真骨頂が“苦さ”であるのに、アルモドバルの『ジュリエッタ』は甘すぎた。
(収録作品)
・家出
・チャンス
・すぐに
・情熱
・罪
・トリック
・パワー

ジュリエット (新潮クレスト・ブックス)

ジュリエット (新潮クレスト・ブックス)


⚫︎アメリカ大陸のナチ文学/ロベルト・ボラーニョ
野谷文昭訳/白水社
LA LITERATURA NAZI EN AMÉRICA/ROBERTO BOLAÑO/1993

『野生の探偵たち』でも膨大な登場人物の数に圧倒されたが、多分ボラーニョは『野生の探偵たち』の登場人物についてもこんな風に作り込んでいたんじゃないかと思わせる。
一応人名事典(風)の体裁をとってはいるが、各章がそのまま発展して一冊の小説になってもおかしくない。むしろその為の下地にも思える。
ただし、ここに取り上げられている詩人や作家はファシズムや極右の信奉者だったりで、
例え実在しても名を残すことは難しかっただろうし、一冊の本の主人公にもなりずらい、というところが何やら物哀しい。
印象に残ったのは、「メンディルセ家の人々」「移動するヒーローたちあるいは鏡の割れやすさ」「素晴らしきスキアッフィーノ兄弟」辺り。
ラストの「忌まわしきラミレス=ホフマン」は唯一“僕”=ボラーニョが登場し、“小説的”で異色。

アメリカ大陸のナチ文学 (ボラーニョ・コレクション)

アメリカ大陸のナチ文学 (ボラーニョ・コレクション)


⚫︎L.A.コンフィデンシャル/ジェイムズ・エルロイ
小林宏明訳/文藝春秋
L.A.CONFIDENTIAL/JAMES ELLROY/1990

《暗黒のLA四部作》再読中。唯一未読だった前作『ビッグ・ノーウェア』のラスト、バズ・ミークス逃走劇の顛末がプロローグとなる本作は、腕っ節の強い叩き上げの刑事バド・ホワイト、警察一族のエリート刑事エド・エクスリー、マスコミにネタを売って小金を稼ぐ麻薬課刑事ジャック・ヴィンセンズ、この三人の視点でストーリーが展開。目の前で母親を父親に殺されたバド、偽りの戦争の英雄エド、民間人を誤って射殺したジャックと三人の抱えるトラウマが半端なく重い。大分時間が経っているとはいえ、うっすらとした記憶のみで殆ど初読み状態なのが情けない。
前作『ビッグ・ノーウェア』でも同じことを思ったけれど、主人公三人ががつまんないプライドやらわだかまりなんぞさっさと捨ててお互いの情報を持ち寄ってたら事件はあっという間に解決したんじゃね?って、まあそう簡単にいかないところにドラマが生まれる訳で。
様々な事件とその関係者が複雑に絡み合う小説を映画版は大分削ぎ落としていた(という記憶がある)が、こちらも再見したい。
バド、エドを演じたラッセル・クロウガイ・ピアース出世作。ジャックはケヴィン・スペイシーが演じている。
小説に登場する実在の人物はマフィアのボス、ミッキー・コーエンと用心棒ジョニー・ストンパナート。ジョニーは愛人だったラナ・ターナーの娘に刺し殺されているが、この史実もうまいこと小説に組み込まれている。
【ガーディアン紙の1000冊】

LAコンフィデンシャル〈下〉 (文春文庫)

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⚫︎傷だらけのカミーユ/ピエール・ルメートル
橘明美訳/文藝春秋(文春文庫)
SACRIFICES/Pierre Lemaitre/2012

シリーズ三作目の本作では、ヴェルーヴェン班の主要メンバーであり、カミーユの友人でもあったアルマンの病死というショッキングな幕開け(病気だったのは前作で仄めかされていた?)。
おまけに事件の被害者(!)がカミーユの恋人アンヌだったことから腹心の部下ルイにも秘密を抱えたま捜査は暴走し、カミーユのスタンド・プレイが目立つ結果に。
“あの人”の正体は意外でもなかったし、小説の構成として過去二作のような驚きはなし。
ただもう“傷だらけ”のカミーユが痛々しい。
何もこんなに追い詰めなくてもいいのに。。。

傷だらけのカミーユ (文春文庫) (文春文庫 ル 6-4)

傷だらけのカミーユ (文春文庫) (文春文庫 ル 6-4)