極私的映画案内

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アクトレス〜女たちの舞台〜


女優を演じる女優


列車でチューリッヒへ移動中の大物スター女優、
マリア・エンダースと個人秘書のヴァレンティン。
マリアのチューリッヒ行きは、
彼女の恩人である劇作家ヴィルヘルム・メルリオールの代理で彼の業績を讃える賞を受け取るためだ。
彼自身は賞をを受け取ることを断っていた。
20年前ヴィルヘルムは、
当時無名だったマリアを舞台『マローヤのヘビ』の主役シグリットに抜擢、映画化された際にも彼女を起用し、作品はマリアの出世作となった。

マリアがスピーチの原稿を練っていると
弁護士から連絡が入る。
彼女は離婚調停中でアパートの売却を巡り
夫と揉めていたのだ。
一方、ヴァレンティンの携帯にはヴィルヘルムが亡くなったという思いも寄らない知らせが入る。
突然の知らせに授賞式に出席すべきかどうか躊躇うマリアだったが、ヴィルヘルムの作品の常連である俳優ヘンリク・ヴァルトが出席し彼女の代わりに賞を受け取ってもいいと言っていると聞き、やはり出席を決める。
『マローヤのヘビ』でも共演していた二人は過去に関係があったのだ。

授賞式後のレセプションでヴァレンティンはマリアを新進気鋭の舞台演出家クラウスに引き合わせる。
クラウスは『マローヤのヘビ』の再演を企画しており
マリアに出演して欲しいと言う。

『マローヤのヘビ』は、
会社経営者で妻で母親でもあるヘレナが、
若く魅力的なシグリットに翻弄されやがて破滅するというストーリー。
クラウスは20年前シグリットを演じたマリアに
今度はヘレナを演じて欲しいと言う。
シグリットを演じるのは、ハリウッドの人気若手女優
19歳のジョアン・エリス。
マリアは当時ヘレナを演じたスーザン・ローゼンバーグがその後事故で亡くなったという事実がヘレナの運命と重なり、それがどうしても気になってこの話を断ってしまう。
しかし、『マローヤのヘビ』はヴィルヘルム自身が続編を構想していた作品。
彼が亡くなったということもあり、
マリアは結局オファーを受ける。

妻ローザの好意で、『マローヤのヘビ』が書かれた場所であるヴィルヘルムの自宅で役作りをすることにしたマリアはヴァレンティンを伴いスイス、シルス・マリアへと向かう。

しかし、ヴァレンティンを相手役に稽古を始めたマリアはどうしてもヘレナという役が掴めない。
ヘレナを理解することが出来ない。
ヴァレンティンはマリアをサポートしようと彼女なりの解釈を伝えるが、それをマリアに悉く否定され苛立ちが募る。

「私の解釈はあなたを混乱させるだけ。
それが悔しいし気まずく感じる。居づらいの」

「残って頂戴。あなたが必要よ」


シグリットという役の性格を考えれば、
どう考えてもクロエ・グレース・モレッツより
断然クリステン・スチュワートだし、
何故監督はクリステンをジョアンではなくヴァレンティンにキャスティングしたのだろう?
スキャンダルとは無縁のクロエだが、
クリステンは『トワイライト』シリーズで共演したロバート・パティンソンと交際中に出演作の監督(既婚)との不倫スキャンダルが話題になったり、
その後は同性の恋人と交際したりと何かとゴシップのネタになってきたし、どちらかといえばジョアンという役のイメージにも近い。
しかし、何故クリステンがヴァレンティン役なのか、
だんだん監督の意図が分かってくる。
ジョアン=シグリット
ではなく
ヴァレンティン=シグリット
マリア=ヘレナ
なのだ。

マリアとヴァレンティンの関係は、恋愛とまでは言えないものの、スターとアシスタントという関係よりももっと親密なものだ。
ヴァレンティン(シグリット)とマリア(ヘレナ)のセリフのやりとりを聞いているうちに、こちらにも二人がシグリットとヘレナに見えてくる。
シグリットとヘレナの関係がヴァレンティンとマリアの関係と重なってくるのだ。


ヴァレンティンはマリアに言い放つ。

「あなたは人間として完成され女優としても円熟してる。なのに若さの特権にしがみつく」

マリアはシグリットのままでいたかった。
自分はもうシグリットを演じることは出来ない、
自分はもう若くはない、ヘレナなのだということを受け容れることが出来ない。

マローヤのヘビ(MALOJA SNAKE)とは、
マローヤ峠に現れる珍しい自然現象(雲の形状)のことで、天気が崩れる前ぶれだと言われている。
この現象に魅せられたヴィルヘルムはこう語ったという。

「大自然の隠された本質が、
自らその姿を現す瞬間だ。」

この現象を戯曲のタイトルにしたヴィルヘルムの真意はどこにあったのだろうか?
ヘレナにとってシグリットとの出会いは
人生を崩壊させる前ぶれだったのか?
それともヴァレンティンが言ったように
姿を消したヘレナは何処か他の場所で
人生をリセットしたのだろうか?


女が歳をとるのは難しい。
とかく若いことに価値が置かれている(かのような)映画界ならなおのこと。
女が歳をとること以上に女優が歳をとることは難しいのだと思う。

ジュリエット・ビノシュ=マリア・エンダース
女優を演じることでより一層役と俳優の距離は縮まり、観る人はジュリエットとマリアを重ねる。
ジュリエットはマリアを演じるにあたり葛藤はなかったのだろうか?
女優が歳をとることをどう受け容れているのだろうか?

その答えは、最後のマリアの微笑にある、
そんな気がした。

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⚫︎アクトレス〜女たちの舞台〜
/CLOUDS OF SILS MARIA
(2014 フランス/スイス/ドイツ)
監督・脚本:オリヴィエ・アサイヤス
出演:ジュリエット・ビノシュクリステン・スチュワートクロエ・グレース・モレッツ,ラース・アイディンガー,ジョニー・フリン,ブラディ・コーベット,ハンス・ジシュラー,アンゲラ・ヴィングラー,ノラ・フォン・ヴァルトシュテッテン



有能なアシスタント、ヴァル(ヴァレンティン)をクールに演じたクリステン・スチュワート
ベテラン女優ジュリエット・ビノシュと堂々と渡り合い、高く評価された。
“あのトワイライトの”という枕詞はもう完全に払拭。
クリステンはオリヴィエ・アサイヤスの次の作品『Personal Shopper』にも出演している。


クロエ・グレース・モレッツはハリウッドの人気女優にはぴったりだが、この役はちょっと背伸びしすぎの印象。しかし、それもまた狙いなのか。

マリア=ジュリエット・ビノシュであるように、
ジョアン=クロエ・グレース・モレッツ
であり、同時に
ジョアン=クリステン・スチュワート
であり、
シグリット=クロエ・グレース・モレッツ
シグリット=クリステン・スチュワート

でもある。
彼女たちもいずれマリア、そしてヘレナの年齢を迎える時がくる。

クリステンもクロエも子役として幼い頃からハリウッドで生きてきたという共通点があるが、
クリステンは今作や『アリスのままで』の好演で一皮むけ、着々と実力派としてキャリアを積んでいる。
一方、クロエ・グレース・モレッツは先頃決まっていた作品を全てキャンセルしたというニュースがあったが、大人の女優になる過渡期であり、今は立ち止まって考えたい時期なのかもしれない。


公式サイトはこちら👉映画『アクトレス ~女たちの舞台~』(ACTRESS)公式サイト

予告編のこちら👉映画『アクトレス~女たちの舞台~』予告編 - YouTube


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