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極私的映画案内

新作、旧作含め極私的オススメ映画をご案内します。時々はおすすめ本も。

ルック・オブ・サイレンス

movie


彼らは何故殺人を再現出来たのか?


1965年、インドネシア政府は軍に権力を奪われた。
軍の独裁に逆らう者は組合員、小作農、知識人、
すべて共産主義者として告発された。
わずか1年弱で100万人以上の“共産主義者”が殺された。
今でもその加害者たちは国中で権力を握っている。



アディと母親のロハニ/虐殺の犠牲者ラムリの弟と母親

「裁くのは神様だよ。見てるがいい。
死後がある。犠牲者たちが復讐するよ」
「人殺しの子どもが苦しむよう祈ってる。
その子どもや孫も。
お前(ラムリ)を殺した人たちみんなが殺されるように人殺しどもが苦しむように祈ってる」

こう語るロハニは今も加害者たちに囲まれて暮らしている。
彼女の弟は収容所で看守をしていたが、
彼女はその事実をアディから聞くまで知らなかった。



ルクン/アディとラムリの父親
ラムリが殺された後彼の歯は毎朝一本ずつ抜けていったという。
彼は殺された息子を忘れ“17歳”に戻ってしまった。



アディ/ヘビ川で兄ラムリを殺された
母ロハニは彼を兄の生まれ変わりだという。

殺人を再現する加害者を映像で見せられたアディは最初「彼がこんな風に演じるのは理由がある。おそらく自分の行為を後悔してる。人を殺したことを悔やんでいるんだ。彼は罪の意識を感じている。だから殺しを再現する時感情を失っている」という。
しかし、ラムリの虐殺の状況を具体的に語る村の殺人部隊のリーダーの様子を見たアディの表情には明らかに怒りが浮かんでいた。


虐殺の加害者による殺人の再現という異様な姿を追ったドキュメンタリー『アクト・オブ・キリング』の続編。
被害者に対する取材は当局によって中止させられたと聞いていたが、本作の主人公は兄ラムリを殺された被害者家族メガネ技師アディだ。
収容所に収容されていたラムリはある夜村の殺人部隊(コマンド・アクシ)に連れ出され拷問された上で殺され遺体はヘビ川に投げ込まれた。
アディは被害者家族であるが、虐殺事件後の1968年に生まれた。
ここは当局にも盲点だったのかもしれない。
警戒されないように検眼のサービスを装いアディは加害者と対峙する。



イノン/村の殺人部隊のリーダー

「人の血を飲んでなかったら、おかしくなってた」

虐殺に加わった中には正気を失った者も大勢いたという。正気を保つ為に犠牲者の血を飲んだと語るイノン。

共産党員は信仰心がない」
「奴らは妻を交換してセックスしてた」

こんな根も葉もない噂を信じたというイノン。
虐殺という行為が正気を失わせると理解していた(善悪の判断は出来ていた?)のに、
彼は何故リーダーとして積極的に虐殺に加担し悪びれもせずに殺人を再現出来るのだろうか?



アミール・シアハーン/ヘビ川殺人部隊司令

「我々は国際的な問題を扱ったんだ。
だからそれを讃え我々に何か褒美をくれてもいいはずだ。
アメリカ旅行とかー飛行機がダメなら船旅でもいい。
そうだろ。アメリカのために共産主義者を殺した」

こう嘯く彼は司令官として“殺しのリスト”にサインし続けていた。
「兄が殺されたのはあなたの命令です」と言うアディに自らの責任を認めようとはしない。



M・Y・バスラン/コマンド・アクシ幹部
現在、地方議会議長

「あの当時の大虐殺は人民の間から自然と起きた。
共産主義者は嫌われていた。」

コマンド・アクシが政治犯収容所から犠牲者を選び警察の護衛付きでヘビ川まで運び殺したにもかかわらず言い逃れようとするバスラン。


共産主義者の撲滅に貢献したなんて父を誇らしく感じたわ」

父親が多くの共産主義者を殺したことを中学生の時に知ったという娘はこう語る。
ところが、父親が具体的に虐殺の状況を語ると顔色が変わる。
彼女は知らなかったのだ。
父親が実際何をしたのか。

アディの兄ラムリに直接手を下したコマンド・アクシのリーダー、アミール・ハサンは既にこの世にはなく、
アディはアミールが自ら書いて残した本(ヘビ川虐殺の記録)を遺族に見せ、ラムリの最期の様子を語る。
息子たちは何も知らなかったと言い、知っていたはずの妻も(アミールが本のことを話している傍らに妻もいたことが映像に残っている)知らなかったと言う。
息子たちは証拠の映像を観ることを拒否する。

「アディ、ごめんなさい。
私たちもあなたと同じように感じているわ」

「彼らがあの行為を後悔してるなら許せるかもしれない」

アミールの年老いた妻の言葉は、
母親にこう語ったアディの慰めになっただろうか?



まだいたのか⁈
これがこの映画を観た最初の印象だ。
100万人もの人が虐殺されたのだから加害者も大勢いる。
少し考えれば分かることだが、
しかし、殺人の再現をするなどという異様な行為を嬉々としてやる当時の加害者が他にもいたことにショックを受けたのだ。
何故彼らはそんなことが出来るのか?

「過去は過去だ」

ヘビ川の生き残りも虐殺の加害者も口を揃えてこう語る。
しかし、本当にもう終わったことなんだろうか?
コマンド・アクシの幹部だったバスランが長い間権力を握り、犠牲者の家族がひっそりと口をつぐんで暮らしているのは彼らがいまだに怯えているからだ。
「犠牲者家族が過去を蒸し返せばまた同じような虐殺が起こる」
バスランはそう言うが、これはまったくの逆だ。
歴史を歪め過去の過ちを認めようとしない、
誰も責任を認めない社会では、
また同じことが起きる。
加害者たちが過去の自分の行いを正しく認識出来ないのは、国全体で「過去は過去だ」と臭いものに蓋をしてしまったからだ。

共産主義者は残酷だ。
共産主義者は神様を信じていない。
だから政府は彼らを取り締まったんだ。

インドネシアの学校では今も歪められた歴史が教えられている。
虐殺の加害者が多く国の中枢で権力を握っている今この状況を変えることは難しいだろう。
犠牲者家族にとっても加害者家族にとっても事実を直視することは簡単な作業ではない。
しかし、事件後に生まれたアディがその勇気を持てたように、彼やその子供たちの世代ならそれが出来るかもしれない。
アディの二人の子供たちを登場させたのは、
監督のそんな願いが込められているからだと思う。

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●ルック・オブ・サイレンス
/THE LOOK OF SILENCE
(2014 デンマークフィンランドインドネシアノルウェー/イギリス)
監督:ジョシュア・オッペンハイマー
出演:アディ・ルクン,アミール・シアハーン,アミール・ハサン,イノン・シア,M・Y・バスラン

公式サイトはこちら👉映画『ルック・オブ・サイレンス』公式サイト

予告編はこちら👉『ルック・オブ・サイレンス』予告編 - YouTube

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