極私的映画案内

新作、旧作含め極私的オススメ映画をご案内します。時々はおすすめ本も。

シング・ストリート 未来へのうた


いつもそばに音楽があった

1985年アイルランド、ダブリン。
両親のロバートとペニー、兄ブレンダン、姉アンと暮らすコナーは14歳。
コナーの部屋には今日も怒鳴りあう声が聞こえてくる。
最近両親はケンカが絶えないのだ。
そんな現実を忘れさせてくれるのは、音楽。
兄ブレンダンと一緒にお気に入りのバンドのミュージック・ビデオを流す番組「トップ・ハンドレッド」を楽しみにしている。
そんなある日、失業した父ロバートは家族を招集、
家計の緊縮を宣言し、
コナーは荒れた公立校へと転校することになってしまう。

転校初日は散々。
早々にガラの悪そうな生徒バリーに因縁をつけられ、
校長には校則で指定されている黒い靴ではなく茶色の靴を履いていたことで一日中靴を脱いで過ごすことを命じられる。
しかし、
そんな暗黒のスクールライフにひと筋の光が射す。
学校の向かいで人待ち顔の少女ラフィーナに一目惚れしたのだ。
聞けば、ラフィーナはコナーよりも一つ年上で学校には行っていないという。
彼女がモデルを目指していると聞いたコナーはまだ組んでもいないバンドのミュージック・ビデオの出演を依頼してしまう!
「彼女にはタチの悪いボーイフレンドがいるらしいよ」
コナーは学校で最初に声をかけてくれたダレンの忠告にも耳をかさず、ダレンをマネージャーに任命、
早速バンドのメンバー集めを始める。

最初に声をかけたのは、
父親がミュージシャンで、
ひと通りの楽器をこなすエイモン。
ダレンとエイモンの人脈でメンバーは無事集まり、
まずはデュラン・デュランのコピーから練習開始!
バンド名は、SYNGE STREET校にちなんで、
SING STREET!
「カバーなんてダサい」と音楽のメンターである兄ブレンダンにいわれたコナーはエイモンと一緒にオリジナル曲を書き始めるのだが。。。



今ではyoutubeで何時でも何処でもお気に入りのバンドのPVを観ることができるが、
80年代はまさにMTV全盛の時代。
コナーとブレンダンが「トップ・ハンドレッド」を楽しみにしていたように、この国でも「ベストヒットUSA」(司会:小林克也)や「ザ・ポッパーズMTV」(司会:ピーター・バラカン)といったMVを流すテレビ番組が数少ない情報源だった。
デペッシュ・モードデュラン・デュランザ・キュアー、a-ha、スパンダー・バレエホール&オーツジョー・ジャクソン
登場するバンドをリアルタイムで聴いている世代は、
曲が流れてくるだけでもう鼻の奥がツンとして涙腺が怪しくなってくる。
記憶は音楽と強く結びついていて、
その頃の曲を聴くだけで、
誰が側にいたのか、どんな場所で聴いたのか
記憶がよみがえってくる。
嬉しい時、楽しい時、落ち込んでる時、憂鬱な時、
いつでも側に音楽があった。
シング・ストリートの面々のように、
好きなバンドのファッションにだってすぐに感化されてしまう誰にでもあった時代。
大人になって初めて分かるけれど、
そういう時代の記憶が自分を作り、
その記憶が自分を支えてくれる。
そんな時は誰にでも必ずやって来る。
監督ジョン・カーニーもきっとそうに違いない。



監督ジョン・カーニーの半自伝的作品ということだが、
彼は「ただ音楽だけの物語にはしたくなかった」という。
その思いが、コナーの初恋の物語にややウェイトが置かれている(と感じる)ことに繋がっているのだろう。
80年代のアイルランド
父親ロバートが失業しコナーが公立校への転校を強いられたように失業率は20%を越え、
不況のドン底だった。
エイモンの父親はリハビリ施設に入所し不在、
本当はいい子のバリーの両親はともに酒浸りで家庭崩壊寸前。
彼等それぞれのドラマを描くことで
「ただ音楽の物語」にはならなかったはずだ。
バンドが形になっていく過程の軽快なテンポや
バンドの面々のキャラクターが
とても魅力的でチャーミングなだけに
彼等のドラマ、「友情の物語」をもっと観たかった、
というのが少しだけ残念なところ。



バンドのメンバーはみんなかわいくて、
ひとりひとりの髪をくしゃくしゃにしてハグしたいくらいだが、
中でもお気に入りは、ウサギを愛する少年エイモン。
演じているMark McKennaの父親はエイモンの父親と同様ミュージシャンで名前はなんと“エイモン”。
この映画は、ジョン・カーニーの物語であるとともに“エイモン”の物語であるのかもしれない。


最後に、最近読んだ『ハーレムの闘う本屋』(ヴォーンダ・ルイス・ミショー著。今年の高校生向けの課題図書になっている)という本の中に登場するラングドン・ヒューズの詩がこの映画にぴったりなので、紹介したい。


夢の番人/ラングドン・ヒューズ

夢見る者たちよ、
きみらの夢を残らずここへ持ってこい
きみらの心の旋律を残らずここへ持ってこい
そしたら、
それを青い雲の薄衣で包んであげよう
世間のあまりにがさついた指からわたしが守ってあげよう


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⚫︎シング・ストリート 未来へのうた
/Sing Street
(2015 アイルランド/イギリス/アメリカ)
監督・原案・脚本:ジョン・カーニー
原案:サイモン・カーモディ
歌曲:ゲイリー・クラーク,ジョン・カーニー
音楽監修:ベッキーベンサム
主題歌:アダム・レヴィーン『GO NOW』
出演:フェルディア・ウォルシュ=ピーロ,ルーシー・ボーイトン,マリア・ドイル・ケネディエイダン・ギレン,ジャック・レイナー,ケリー・ソーントン,
Ben Carolan,Mark McKenna,Percy Chamburuka,Conor Hamilton,Karl Rice,Ian Kenny,Don Wycherley,Lydia McGuinness


ルーシー・ボーイトン演じるラフィーナのファッションは明らかに80年代の“マドンナ”。



コナーのお母さんペニー役のマリア・ドイル・ケネディは“バンドやろうぜ!”ムービー、マイ・オールタイム・ベストの『ザ・コミットメンツ』(1991年)でバンドのコーラス、ナタリーを演じてました。
時の流れを感じます。。。


公式サイトはこちら👉映画『シング・ストリート 未来へのうた』公式サイト

予告編はこちら👉『シング・ストリート 未来へのうた』予告編 - YouTube


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👇80年代ヒットチューンの他、
80年代テイストも絶妙なシング・ストリートのオリジナル曲もゴキゲンなサウンドトラックはこちら

シング・ストリート 未来へのうた

シング・ストリート 未来へのうた


👇ジョン・カーニー長編デビュー作『ONCE ダブリンの街角で』はこちら
公開当時、来日した主演の二人、グレン・ハンサードとマルケタ・イルグロバが「筑紫哲也のニュース23」で披露したパフォーマンスは今でも覚えてます。

👇“バンドやろうぜ!”ムービー、オールタイム・ベストマリア・ドイル・ケネディも出演している『ザ・コミットメンツ』のDVDはこちら

ザ・コミットメンツ [DVD]

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👇1939年、黒人が書いた、黒人に関する、黒人にとって意義ある本を扱う本屋「ナショナル・メモリアル・アフリカン・ブックストア」をたった5冊の本と100ドルの資金で開店。こつこつと扱う本を増やし、人々を啓蒙し、40年近くに渡り黒人社会に貢献し続けたルイス・ミショーの生涯を辿る『ハーレムの闘う本屋』はこちら

ハーレムの闘う本屋

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