入口は「魔法少女ユキコ」、出口は「黒蜥蜴」
日本のアニメ「魔法少女ユキコ」の大ファンである彼女の夢は、ユキコのコスチュームを着て歌って踊ること。
父親ルイスはそんな彼女の最後の夢を叶えてやりたいが、元々文学の教師である彼は現在失業中。
有名デザイナーとのコラボであるレアな衣装はとても高額(日本円で90万円、約7000ユーロ!)で彼にはとても手が届かない。
夫婦の間はかろうじて平和が保たれていたが、彼女は家に招いた友人夫婦の前で、かなり不謹慎な態度をとってしまう。
夫にさえ見放されそうになり不安定になった彼女は大量の薬を飲んでしまう。
服役中の元数学教師のダミアンは出所間近。
しかし、彼はカウンセラーに不安を訴えていた。
もう少しここに置いてもらえないかと。
彼は言う。「バルバラに会うのが怖い」と。
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※以降ネタバレにつき、本編をご覧になってからお読みになることをお勧めします。
敢えて描かれない部分があることは、今作の大きな特徴のひとつである。
先ず、アリシアの母親の不在の理由。
母親が生きていれば余命わずかなアリシアの側にいないということは考えにくい。それに母親がいれば7000ユーロという高額なレアものでなくてもコスチュームを用意出来た、その知恵(似たものをオーダーするとか何とか安価に手に入れることが出来たはず)があったはずだ。
これは、悲劇を招くひとつの理由になっている。
父親にそばにいてほしい。
それが、アリシアの願いだった。
もしもラジオで流された彼女のメッセージをもしもルイスが聴いていたら、悲劇は起きなかっただろうか?
しかし、願い事が書かれたノートはすぐに読める状態だった。
それが、父親がノートを見るだろうという前提で書かれたものだったら?
こんな邪推をしてしまうのは、こちらの心が曇っているのか?
しかし、12歳の娘は父親が思うよりずっと大人であることは確かだ。
二つめは、ルイスに脅迫されたバルバラがお金を作った方法(その時彼女が頼ったアダとの関係も含めて)である。
彼女が自分の身体を提供し報酬を得たことは明らかだが、その様子は一切描かれない。
そして、トカゲ部屋とは何なのか?
観る側はめちゃくちゃに痛めつけられた彼女の様子だけを見せられ、どうしても妄想を逞しくしてしまう。
そして、ダミアンとバルバラの過去に一体何があったのか?
バルバラがダミアンの教え子だったこと、
ダミアンが彼女のために罪を犯したことは明かされる。
しかし、バルバラがどうやってダミアンを唆したのは分からないままだ。
情報を多く与えない映画はあるが、
これほど、その描かれない部分が観る側に妄想や邪推を強いる作品も珍しい。
これは、どの情報を与え、どの情報を与えないかの取捨選択が巧みだという証拠だろう。
二人の“マジカル・ガール”によって男たちは破滅していった。
そして、最終的には(ある意味)彼女たちも彼らと運命を共にしたのである。
監督(脚本も執筆)のカルロス・ベルムトはこれが本格的な長編デビュー作である。
スペイン映画恐るべし。
次の作品を楽しみに待ちたい。
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●マジカル・ガール/Magical Girl
(2014 スペイン)
監督・脚本:カルロス・ベルムト
「魔法少女」の系譜は古くは「ひみつのアッコちゃん」あたりだろうか?
日本ではこのジャンルに長い歴史があり、
その世代毎に「魔法少女」が存在する。
「魔法少女」も昭和のポップスも日本人にとっては珍しいものではないが、スペイン本国やその他の国でこのテイストはどう受け取られているのか、それが気になります。
公式HPはこちら👉映画『マジカル・ガール』公式サイト
予告編はこちら👉映画『マジカル・ガール』予告編 - YouTube