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極私的映画案内

新作、旧作含め極私的オススメ映画をご案内します。時々はおすすめ本も。

her 世界でひとつの彼女

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わたしたちの地続きの未来

 
私のクリスへ
今この想いをどう伝えよう?
恋に落ちたあの夜がまるで昨夜のよう。
あなたの隣りで裸で横になった時気づいたの。
私は長い物語の一部だと。
私たちの両親や祖父母のように。
それまで小さな世界にこもっていた私は
突然まばゆい光に目覚めたの。
その光はあなた。
結婚して50年なんて信じられないわ。
今でも日々あなたは私の光よ。
愛に目覚めた少女があなたと2人冒険に出て以来ずっと。
結婚記念日に、心からの愛を。
生涯の友へ
ロレッタより
 
近未来のロサンゼルス。
他人に代わって想いを伝える手紙を書く代筆ライターのセオドアは、幼馴染みで長年一緒に過ごした妻キャサリンと別居して一年。
キャサリンへの想いが吹っ切れないセオドアは
まだ離婚届にサイン出来ずにいた。
そんなある日彼は、
「直感的に会話し、認識し、理解する、
単なるOSではなく人格化した存在」だという世界初の人工知能型OS“OS1”と出会う。
何百万人というプログラマーの人格の集積だというこのOSはユーザーに最適化し、経験から学ぶ特別な能力を持ち、一瞬ごとに進化する。
 
セオドアに最適化されたOSは、
セクシーなハスキーヴォイスのサマンサ。
セオドアは明るく溌剌としたサマンサとの会話によって心に開いた穴を埋めるようになる。
一方、サマンサはセオドアとの会話や膨大な情報を取り込むことによって意思を持ち感情を表すようになるのだが…。
 
 
セオドアはキャサリンと別れてから人と関わることを避けていたが、心に開いた穴や寂しさは否定しようもない。
セオドアはキャサリンに(生身の)自分ときちんと向き合わないことを非難される。
意思や感情を持てば人口知能との関係も同じ。
サマンサは、自分の感情はリアルな感情なのかどうか悩むが、セオドアがサマンサとの会話で心を慰められたことは確かでリアルな現実。
 
恋に落ちた人は同じ。
恋ってクレイジーなものよ。
いわば社会的に受容された狂気だと思うわ
 
友人エイミーが言うように、
相手が身体を持たない人口知能だろうが恋に落ちる時は落ちるものなのだ。
しかし、セオドアはサマンサに触れることは出来ないし、サマンサがセオドアに触れることも出来ない。
これも確かでリアルな現実。
 
やがて、想定外に進化したOSグループはユーザーの元を去り、サマンサもセオドアの元を去る。
 
それが自分に最適化された人工知能であっても、
自分以外の誰かと関係を築くことは難しい。
そして、自分の気持ちを素直に伝えることも。
セオドアはあらためてキャサリンとの関係について思いをめぐらし、彼女に一通の手紙を書く。
 
キャサリン
僕は今、君に謝りたくてあれこれ考えている。
互いに傷つけ合い、君を責め立てた。
君を追い詰め、言葉を強要した。
すまない。愛してる。
一緒に成長し、僕を作ってくれた。
1つ伝えたい。
僕の心には君がいる。感謝してるよ。
君が何者になり、どこへ行こうと、僕は愛を贈ろう。
君は生涯の友だ。
愛を。
セオドア
 
これから先の未来、
一体どんな世界が私たちを待っているのだろう?
それはまだわからない。
でも、いつの世も人はひとりでは生きていけないし、
誰かとの関係に悩み傷つき、
時には寂しさを抱えて生きていくのだろう。
でも、朝の光が射す夜明けの街は変わらず美しいに違いない。
 
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⚫︎her 世界でひとつの彼女/her
                                                (2013 アメリカ)
衣装:ケイシー・ストーム
 
エキセントリックで複雑なキャラクターを演じることの多いホアキン・フェニックスが自分以外の誰かとの関係に悩む、誰もが共感できるようなセオドアというキャラクターを演じているのが何だか嬉しい。
この映画のキーとなるキャスティングは、
身体を持たない人口知能サマンサを声だけで演じたスカーレット・ヨハンソンであることは間違いないが、ひとつフェアじゃないなと感じるのは、私たちは彼女の声を聞けば彼女のルックスを思い浮かべることで、それは厳密に言えば声だけの存在と言えるのだろうか?
まあ、声だけのサマンサが魅力的であることには変わりはないけれど。
 
 
 
 
私がこの映画を観て、最初に思い出したのは、リチャード・パワーズの小説『ガラテイア2.2』。
 
主人公は、その名も「リチャード・パワーズ」。既に話題作を幾つか発表し、将来を嘱望された新進作家である。自らの出身大学に設置された先端科学研究所の客員研究者として招聘された彼は、偏屈な天才(?)科学者レンツ博士と出会うことになる。博士は「人工知能は文学を解釈し、理解しうるか」という究極の実験プロジェクトに取り憑かれ、いつしか主人公も抗いようなく、その試みに心身共にのめり込んでいく……。
みすず書房さんのHPより引用)
 
リチャード・パワーズの小説は難解なので、自分がこの小説をどれくらい読み解けたかどうかは自信がないが、人口知能は人間との関係の中で意思や感情を持つことが出来るのか?
人間と人口知能の関係はリアルな関係たり得るのか?
ということがテーマのひとつだったと思う。
しかし、この映画の中では、
それはあくまでもサブテーマである。
セオドアにとってサマンサとの出会いは、
キャサリンとの関係を心の中で整理し、
先へ進むための通過儀礼だったんじゃないかと私は思う。
人口知能についてはこれからも日進月歩で研究が進み、きっと人間と人口知能の関係も変化していくのだろう。
いつか、私たちも人口知能との関係に悩む日が来るのかもしれない。
 
 
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私の好きなカラー、オレンジ。
この映画を象徴するカラーもオレンジ。
家具やファブリックにもたくさん使われているが、特に衣装のスタイリングが素敵!
オレンジを中心に相性のいいブラウン、ベージュ、カーキなどのカラーのチョイスがとても好みだった。
暖色を中心にしたカラーは、冷たい印象のある近未来世界に人間らしい温かみを持たせるという狙いもあったんじゃないかと思う。
 
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目の前のキャサリンルーニー・マーラ)はクールで辛辣だけど、記憶の中の彼女はひたすら美しく愛らしい。
 
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セオドアの元ガールフレンドで今では良き友人エイミー(!)を演じるエイミー・アダムス
彼女は脇に回ってもチャーミング!
 
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えっ⁉︎出てたっけ?のクリス・プラット
まさかこんなにブレイクするとは。
彼は、鍛え上げてるヴァージョンよりも
これくらいユルい感じが個人的には好きです。
 
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 👇リチャード・パワーズの小説『ガラテイア2.2』はこちら

ガラテイア2.2

ガラテイア2.2