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極私的映画案内

新作、旧作含め極私的オススメ映画をご案内します。時々はおすすめ本も。

コーヒーをめぐる冒険

movie
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人生と記憶に出会う24時間

 
法律を勉強することに違和感を感じ、
2年前に大学を中退。
かといってやりたいことも見つからず、
中退を親に隠したまま仕送りを受け続けるニコは、
“考える日々”を送るモラトリアム青年。
 
ある朝、恋人の家で目覚めたニコは、
今夜会えるかどうか尋ねる彼女に対し、
のらりくらりと返事をかわそうとする。
はっきりしないニコに彼女も愛想を尽かし、
彼は部屋を追い出され、
朝一番のコーヒーを飲みそびれる。
引っ越ししたばかりのアパートに戻ってみると、
ニコの様子を伺う怪しい男。
 
運転免許の件で呼び出されていたことに気づいたニコは急いで出掛けるが、意地の悪い担当者は、免許証を返してくれない。
ついてない1日の始まりにウンザリしながら、
カフェでコーヒーを注文すると、
コーヒー一杯が⒊40ユーロ!
手持ちの小銭が足りなかったニコを店員はホームレス扱い。
ATMで現金をおろそうとするも、
カードはマシンに吸い込まれたまま戻ってこない。
アパートに戻ると先ほどの怪しい男。
実は同じアパートの住人である男は
妻の手料理を片手にニコの部屋に押しかけ、
乳がんの手術以降溝が出来てしまった妻との関係を嘆く。
 
こうして、どこへ行っても何故かコーヒーありつけない、ニコのついてない1日が始まる。
 
 
『コーヒーをめぐる冒険』は、現代のベルリンに生きる人々の人生に出会う旅である。
夫婦関係に悩む男、
売れない俳優の親友マッツェの意外な過去、
太っていた過去から立ち直れない同級生、
祖母と暮らすドラッグ・ディーラーの少年…。
そして同時に、ニコ自身が今まできちんと向き合ってこなかった様々なこと(違和感を感じながらもズルズル付き合ってきた恋人との関係、取り上げられた運転免許、隠していた大学中退etc…)のツケが回ってくる旅でもある。
 
そして、深夜になって辿り着いたバーで絡んできた老人から彼は重い遺言を託されることになる。
 
老人がニコに語ったのは、
1938年、ユダヤ人に対する弾圧激化のきっかけともなった「クリスタル・ナハト」(水晶の夜)の記憶。
少年だった老人は夜中父親に起こされ通りへ出ると石を手に握らされ
「お前の底力を見せてみろ」と言われる。
自分も石を握った父親は商店(おそらくは、ユダヤ人が経営する)の窓に向かって石を投げた。
二人が出会ったバーは、まさにその場所だった。
通りを埋めるガラスの破片を見て彼は泣き出した。
もう、自転車で通りを走れないと。
まだ子どもだったにせよ、何もわかっていなかった自分に対し罪悪感を抱え、
老人は70年以上生きてきたのだ。
 
夜明けのベルリンの街が美しく目に映る。
でも同時に、どうしてもここで過去に起きたことを考えずにはいられない。
 
夜が明けて、
ようやく一杯のコーヒーに辿り着いたニコ。
重い遺言を受け取ったニコは何を思い、
何処へ行くのだろうか?
 
 
モノクロの映像と時に軽快時に気だるく全編を彩るジャズはウッディ・アレンを、
冒頭登場するニコの恋人のルックスはゴダールの『勝手にしやがれ』のジーン・セバーグを、
街を彷徨う青年はジャームッシュの『パーマネント・バケーション』を思わせる。
でも、この作品が評価されたのは、
街の記憶、人の記憶、過去と向き合うその視点だったように思う。
 
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⚫︎コーヒーをめぐる冒険/Oh Boy 
                                                    (2012ドイツ)
監督:ヤン・オーレ・ゲルスター
出演:トム・シリング,マルク・ホーゼマン,フリーデリッケ・ケンプター,ユストゥス・フォン・ドーナニー,ウルリッヒ・ノエテン,ミヒャエル・グビスデク,フレデリック・ラウ,カタリーナ・シュトラー,アンドレアス・シュレーダス,カタリーナ・ハウク,キャスリン・フィッシャー,アルント・クラビッター,リエンダー・モーダーゾーン,マルティン・ブラムバッハ,RP・カール,テオ・トレブス,リス・ボットナー,アレクサンダー・アルトミリアノス,シュテファン・C・ユルゲンス,ティム・ウィリアムズ,ザンネ・シュナップ
 
 
 

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