極私的映画案内

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あなたを抱きしめる日まで

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罪と罰

 
18歳で妊娠し両親に強制的に修道院に入れられたフィロミナはそこで息子アンソニーを産む。
彼女は息子と二人で暮らす日を励みに厳しい修道院生活を耐えていたが、三歳になったアンソニーはアメリカ人の夫婦に養子に出されてしまう。
もちろん、フィロミナには何の断りもなしに。
その後、彼女は長年看護師として働き、
娘にも恵まれたが、50年間ずっとアンソニーの行方を探し続けていた。
母親からその事実を聞いた娘は、
偶然知り合ったジャーナリストのマーティンに母親の物語を聞かせる。
元々政治が専門のマーティンは社会面(三面記事)のネタだと最初は馬鹿にしていたが、
政府機関の広報官の職を追われたばかりの彼はどんなネタでも文句は言えなかった。
それでも気乗りしないまま、フィロミナの息子探しに協力するマーティンだったが…。
 
 
フィロミナはアンソニーを産んだこともアンソニー父親と恋に落ちたことにも後悔はない。
しかし、セックスを楽しんだことは罪だと言う。
彼女には息子を奪った修道院に対する恨みや憎しみはないのだろう。
息子に会いたい、ただそれだけなのだ。
この辺りの感覚は、クリスマスを祝い、正月は神社に初詣に行き、葬式にはお経をあげてもらう日本人的感覚から見れば理解に苦しむ。
それは無神論者のマーティンも同じで、
彼の視点があることでカトリック教徒ではない人間にとっても共感出来るようになっている。
 
法を犯せば、法によって罰せられる。
そして、法を犯さなくとも、
人間として犯してははならない罪も存在する。
しかし、その罪を罰するとしたら、
それは神であり、教会ではないはず。
まして、シスター個人であってはならないはずだ。
 
シスター・ヒルデガードがフィロミナと息子アンソニーにしたこと。
シスターは神に代わって罰を与えたつもりだったろうが、果たして本当にそうだったろうか?
恋に落ちセックスを楽しみ息子を授かったフィロミナに対する、彼女の女としての嫉妬ではなかっただろうか?
私にはそう思えて仕方なかった。
 
 
フィロミナの息子探しの意外な展開を考えると、
このいかにも瞼の母的な邦題はいかがなものだろうか?
カトリック教徒ながらセックスを楽しんだと堂々と言い放ち、息子がゲイであることにも気付いていたという、実にさばけたフィロミナという人(きっとご本人もそういうお方なのだろう)のキャラクターにも合っていないと思う。
 
ダラス・バイヤーズクラブ』『ひとりの体で』(ジョン・アーヴィング)、そして今作と、最近の物語の中で80年代のエイズ禍に行き着くということは、もう一度この問題について考えなければならない時期に来ているということなのか?
なんてことをちょっと考えたりしました。
 
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 (2013イギリス/アメリカ/フランス)
脚本:スティーヴ・クーガン,ジェフ・ホープ
出演:ジュディ・デンチスティーヴ・クーガン,ソフィ・ケネディ・クラーク,アンナ・マックスウェル・マーティ,ミシェル・フェアリー,バーバラ・ジェフォード,ルース・マッケイヴ,ケイト・フリートウッド・ピーター・ハーマン,メア・ウィンガム
 
 
 
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ロマンス小説好きのチャーミングなフィロミナ(ジュディ・デンチ)と皮肉屋のマーティン(スティーヴ・クーガン)の掛け合いが楽しいし、
 
 

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