こうしてお前は彼女にフラれる
おかしくも切ない愛と喪失の物語
裏切る相手としては、マグダはおよそ最悪だ。
(「太陽と月と星々」)
お前が婚約したのは素晴らしく心の広い白人女性なんかじゃなかった。お前の彼女はサルセド出身のやっかいな女で、広いナントカなんて何一つ信じてない。
(「浮気者のための恋愛入門」)
ドミニカ人モテ男ユニオールは
浮気をしたらどんなに彼女を傷付け、
その結果彼女が絶対に許してくれない事を十分に認識している。
しかし、
ある時は浮気相手からの暴露文書で、
またある時は削除しようともしなかったごみ箱の電子メールで浮気がバレ、
そうして、彼は彼女にフラれる。
わかっているのにやめられないのだから
自業自得というところだが、
このどうしようもない浮気男を
私はどうしても憎みきれない。
何故彼は浮気をやめられないのか?
それは女たちが言うように彼が恋多きドミニカ人男だからかもしれない。
しかし、忘れてはいけないのは、
彼自身が愛する人間に裏切られた
(置き去りにされた)経験を持つこと。
ラファはおれたちみんなを魅了してた。そんなこと、かっこいいやつにしかできない。
おれのIQはあんたをスパッと真っ二つにしちまうぐらい高かったが、そんなもの、そこそこかっこいい顔と引き換えになら一瞬で手放してただろう。
(「ニルダ」)
最後の数週間、とうとう逃げ出せないくらい弱ると、兄貴はお前とも母ちゃんとも口をきかなくなった。死ぬまで一言も発しなかったのだ。母ちゃんは気にしなかった。兄貴を愛してたし、兄貴のために祈ってたし、まるでまだ兄貴の体調が問題ないみたいに話しかけてた。でもその頑なな沈黙にお前は傷ついた。マジで死ぬ間際だっていうのに、一言もしゃべろうとはしなかったのだ。今日の調子はどう、なんてストレートに何かを訊いても、ラファはむこうを向くだけだった。まるでお前らには答える価値もないみたいに。誰にもそんな価値はないみたいに。
(「ミス・ロラ」)
家族をアメリカに呼び寄せた父親は、
若い愛人の元に去り、
無軌道でかっこ良くて女好きで浮気者だがユニオールの憧れだった兄ラファエルは死を前にして家族を拒絶し、何も言わないまま彼を置いて一人旅立ってしまった。
遺伝子が自分を避けてくれるように、一世代飛ばしてくれるようにとお前は望んできたが、単に自分を欺いていただけだとはっきりした。
(「ミス・ロラ」)
ユニオールが父親や兄と同じような男にはなりたくないと思いながら、結局同じ道を辿ってしまうのは、そうすることでしか、父親や兄を身近に感じることが出来ないからかもしれない。もしも、父親や兄に対するのと同じような無条件の愛情を誰かに対して持ってしまったら、また自分は裏切られる、置き去りにされると恐れている。
それはおれたちが望み得るいちばんいい関係だ。何もはっきりとしないまま、何年も憶えてるような言葉など交わされないままの関係。(「フラカ」)
本当は誰よりも愛し愛され
しっかりとした関係を望んでいながら、
自分からその関係をブチ壊してしまう。
ユニオールは
どうしようもなく不器用な男なのだ。
こうすればいいと分かっていても出来ないことのひとつやふたつ誰にでもある。
だから、私はユニオールを憎めない。
彼の姿はもう一人のあなたの
そして私の姿なのだ。
そして、
もう一つ忘れてはならないのは、
ユニオール一家がドミニカからの移民だということ。
たとえ生まれも育ちもアメリカだとしても、
彼等の“国”はアメリカではない。
あくまでも“ドミニカ共和国”なのだ。
無くしてしまうまで決して考えもしない国、自分がそこにいなくなるまで決して愛することのない国のことを。
(「もう一つの人生を、もう一度」)
おかしくて不器用で切なくて、
でも、どうしようもなく愛おしい
ユニオールの、ラファエルの、
そして、あなたと私の物語。
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こうしてお前は彼女にフラれる
THIS IS HOW YOU LOSE HER
ジュノ・ディアス
Junot Díaz
・太陽と月と星々
・アルマ
・もう一つの人生を、もう一度
・フラカ
・プラの信条(プリンシプル)
・インビエルノ
・ミス・ロラ
・浮気者のための恋愛入門
都甲幸治、久保尚美 訳
新潮クレスト・ブックス
新潮社
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