極私的映画案内

新作、旧作含め極私的オススメ映画をご案内します。時々はおすすめ本も。

転々

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歩くスピードで

 
三木聡は、その昔シティボーイズのライブの作・演出をやってた人だ。
このライブはずっと見ているのだが、
三木聡の作・演出、ゲストがいとうせいこう中村有志の時代が一番面白かったと私は思っている。
その後、三木聡構成作家としてテレビでの仕事が多かったようだが、奥田英朗の人気小説『イン・ザ・プール』で映画監督としてデビューを果たした。
三木聡が面白いものを作る人だと分かっていたし、それなりに期待はしていたのだが、
正直言って映画版『イン・ザ・プール』は微妙だった。

そして、三木聡の監督三作目(四作目かもしれない)がこの『転々』
実はこれにも原作が存在するが(藤田宜永『転々』読んでいないので、映画版がどこまで原作に忠実なのかはわからない。
でも、あまりにシティボーイズ時代のネタ(大量のダルマや天狗の鼻、ピアノの粉末)や、
TVドラマ『時効警察』のキャスト岩松了ふせえり麻生久美子は『時効警察』の三日月さんのまま出演)が自然に映画の中に溶け込んでいるので、エンドロールで確認するまで、
すっかり三木聡のオリジナル脚本だと思い込んでしまったほど。
この原作と三木聡の相性はかなりいいらしい。


大学8年生の竹村文哉は借金84万円を抱え返済のあてもなく行き詰まっていた。
何かが変わるかもしれないと三色ストライプの歯磨き粉を買ってじっと見つめていたところへ借金取り福原が取り立てにやって来る。

「三日間だけ待ってやる。」
 
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借金を返すあてもないま外に出た文哉の足下にコインロッカーの鍵。
しかし中にあったカバンの中にはもちろん現金など入っているはずもなく、
なぜか大量のダルマと天狗の鼻が。
そこへ史哉を尾行していた福原が現れ、
意外な提案をする。

「借金を返す方法が見つかったぞ。
100万ある。これをお前にやる。
その代わり俺に付き合え、東京散歩。
一応目的地は、霞ヶ関。期限はない。
俺が満足いくまで歩く。」

この意外すぎる提案にいやな予感を覚える文哉だったが、100万の現ナマを見せられ受け入れることに。

福原の目的地である霞ヶ関は、
具体的には桜田門の警視庁。
亭主の留守に若い男と遊び回っていた妻を殺してしまったという。
福原は妻と引退したら東京を一緒に散歩しようと常々話し合っていて、自首する前に思い出の地を歩きたいのだという。
一応法学部の学生である文哉は、
自首は遺体が発見される前に出頭しないと成立しないと早く自首するようにすすめるが、
福原は取り合わない。

一方、福原の妻の職場では彼女の欠勤を同僚が訝ってはいるものの、どうにもオフビートなこの面々、いつも肝心なところで話がそれてしまい、様子を見に行くまでには至らない。
 
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殺人犯と東京散歩。
およそミスマッチな取り合わせ。
自首するつもりだから逃亡してるわけでもなし、神社で柏手打ったり、買い食いしたり、
妻との思い出話や文哉の初恋話。
なんだか本気で東京散歩である。
そして自首をすすめた文哉も、
このまま散歩を続けていたい、
福原に逃げてほしいとさえ思いはじめる。

見知らぬ同士が一緒に旅するうちにわかりあっていくというのは、いわゆるロードムービーの定石で、そういう映画もたくさんあるがこの映画全体を包む心地よい空気はちょっと特別だ。
それは、その移動手段である足、
歩くスピードによって生み出されているように思う。
三木聡の作品は脱力系と表されることも多いが、そのオフビート感とこの映画の空気、
歩くスピードはぴったりマッチしている。

たまには、車ではなく自転車や歩きで、
歩くスピードで周りを見直してみるのも悪くない。
そうすれば、今までは気付かなかった季節の花の匂いや、聞こえなかった音にも気付くことができるかもしれない。
そして、
偶然ばったり
岸部一徳に遭遇!(👈本編参照のこと)
なんてこともあるかもしれない。

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●転々    (2007年 日本 )
監督・脚本:三木聡
出演:オダギリ・ジョー三浦友和小泉今日子吉高由里子岩松了ふせえり松重豊岸部一徳ほか

本編中、ラヴェルピアノ曲「亡き王女のためのパヴァーヌ」が効果的に使われているのだが、この映画を観た前後一週間くらいの間に4回も偶然この曲に遭遇してびっくり。
なんだかありえない確率だけど、名曲です。
 
 

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