極私的映画案内

新作、旧作含め極私的オススメ映画をご案内します。時々はおすすめ本も。

今月の読書 〜2017年1月〜

2017年1月の読書は10冊。
一年の始まりとしてはまずまずのペースでした。
しかも、今月はどれもハズレなし!
でも、あえて選ぶとすれば、
オススメはジョー・ネスボ『その雪と血を』
アリス・マンロー『ジュリエット』
特に『その雪と血を』は、ノルウェーオスロの厳しい寒さを少しでも実感出来るこの季節に読むことをオススメします!


⚫︎その雪と血を/ジョー・ネスボ
鈴木恵 訳/早川書房
BLOOD AND SNOW/JO NESBØ/2015

ジョー・ネスボは『スノーマン』(〈刑事ハリー・ホーレ〉シリーズ)に続き二作目だが、随分とテイストが違う。
主人公は殺し屋にしかなれなかった男オーラヴ。
売春と麻薬取引を牛耳るマフィアのボスからの新たな依頼は、彼の妻コリナを殺すこと。
しかし、オーラヴは雪のように白い肌を持つ彼女に一目で魅せられてしまう。
コリナは典型的なファム・ファタールだが、もう一人の“運命の女”となるのが彼が助けた聾唖の女マリアだ。186頁と短い小説だが彼女の存在が物語に奥行きを与えている。
あの美しいラストシーンは彼女なしではあり得なかった。
レオナルド・ディカプリオ主演で映画化進行中」とのことだが、どうなんだろう?
読後思い出したのはN・W・レフンの『ドライヴ』だったんだけど。。。
ちなみに『スノーマン』はM・ファスベンダー主演で映画化(監督は『ぼくのエリ〜』『裏切りのサーカス』のトーマス・アルフレッドセン)、
『ヘッド・ハンター』は本国ノルウェーで映画化されていて観ましたがとても面白かった。
こちらもハリウッドリメイクされるというニュースがあったがどうなっているんだろう?


⚫︎水を得た魚 マリオ・バルガス・ジョサ自伝/マリオ・バルガス・ジョサ
寺尾隆吉訳/水声社
EL PEZ EN AGUA/MARIO VARGAS LLOSA/1993

ノーベル賞作家マリオ・バルガス=ジョサの自伝ではあるが、93年執筆ということで半分は80年代後半から巻き込まれてしまった大統領選(出馬に至る経緯と選挙戦)の顛末にページが割かれ、
他のジョサ作品同様、生い立ちと大統領選の経緯が交互に語られている。
とはいえ、生い立ち部分も政治的履歴書の色彩色濃く、敗北に終わった選挙戦について書かずにはいられなかったというのが本当のところではないか。
この時代のペルーの特殊事情はあるが、
ジョサが破れた理由が今回のアメリカ大統領選でクリントン候補が破れた理由に重なって見えた。

水を得た魚―マリオ・バルガス・ジョサ自伝

水を得た魚―マリオ・バルガス・ジョサ自伝


⚫︎ビッグ・ノーウェア/ジェイムズ・エルロイ
二宮磬訳 文藝春秋(文春文庫)
THE BIG NOWHERE /JAMES ELLROY /1988

《暗黒のLA四部作》のうち唯一未読だった二作目。
1950年年明けと共に男性の惨殺死体が発見される。被害者は同性愛者とみられるこの事件の捜査を担当するのは職務に燃える若き保安官補ダニー・アップショー
一方、赤狩り捜査を出世の足掛かりにと狙う検事局警部補マルコム・コンシディーン。
そしてもう一人の主役が一作目にも登場した元悪徳警官バズ・ミークス。
この三人がダニーは殺人事件の捜査、マルコムは出世、そしてミークスは金の為にハリウッドの労組潰しで手を組む。
黒幕は実在の人物である実業家ハワード・ヒューズでありギャングのボス、ミッキー・コーエン。
ダニー、マルコムの二人がこれ以降のシリーズに登場しないのは、なるほどこういう訳だったか。
ダニーが殺人事件捜査に、マルコムが赤狩り捜査にのめり込むのは単に出世のためだけではなく、
ダニーは自らのセクシャリティに向き合うことだったし、マルコムは血の繋がらない息子の親権裁判を有利に運ぶためという切迫した事情があった。
H・ヒューズ、M・コーエン子飼いの揉み消し屋バズ・ミークスは本気で愛した女のために無謀な賭けに出る。
ダニーの事件を二人が引き継ぐ辺りからが熱かった!
鮮やかなラストシーンもお見事。
これぞ、エルロイ・ワールド!
【ガーディアン紙の1000冊】

ビッグ・ノーウェア〈上〉 (文春文庫)

ビッグ・ノーウェア〈上〉 (文春文庫)

ビッグ・ノーウェア〈下〉 (文春文庫)

ビッグ・ノーウェア〈下〉 (文春文庫)


⚫︎ウィンドアイ/ブライアン・エヴンソン
柴田元幸訳/新潮社(新潮クレストブックス)
WINDEYE/BRIAN EVENSON/2012

一年で一番寒さの厳しい季節とあって、布団に潜り込んで読了したものの、こんな経験は初めてだったのは、読んでいた“ストーリーの続きを夢に見てしまう”ことだった。
ブライアン・エヴンソンの嫌な(魅力でもある)ところは、登場人物が遭遇する悪夢のような出来事が“終わらない”ことだが、
まさに“終わらなかった”。
とはいえ、エヴンソンの描く世界への慣れなのか衝撃度は前作の方が上だったかも。
お気に入りは『ダップルグリム』『陰気な鏡』『食い違い』『不在の目』『もうひとつの耳』あたり。
『ボン・スコットー合唱団の日々』は実在の人物(AC/DCのヴォーカル)を描いていて異色。
(収録作品)
・ウィンドアイ
・二番目の少年
・過程
・人間の声の歴史
・ダップルグリム
・死の天使
・陰気な鏡
・無数
モルダウ事件
・スレイデン・スーツ
ハーロックの法則
・食い違い
・知
・赤ん坊か人形か
・トンネル
・獣の南
・不在の目ーマイケル・シスコに
・ボン・スコットー合唱団の日々
・タパデーラ
・もうひとつの耳
・彼ら
・酸素規約
・溺死親和性種
・グロットー
・アンスカン・ハウス

ウインドアイ (新潮クレスト・ブックス)

ウインドアイ (新潮クレスト・ブックス)


⚫︎ジュリエット/アリス・マンロー
小竹由美子訳/新潮社(新潮クレストブックス)
Runaway/Alice Munro/2004

久々に読むとやっぱり巧いなあアリス・マンロー
まるで魔がさしたような一瞬、その一瞬の感情で、判断で人生が大きく変わってしまう。
自分の人生も、他人の人生も。
そういう「一瞬」を描くのがものすごく巧い。
ジュリエットを主人公にした連作『チャンス』『すぐに』『沈黙』を原作としてP・アルモドバルが映画化したこともあってタイトルは『ジュリエット』となっているが、むしろそれ以外の作品が印象深かった。
特に『情熱』『罪』『トリック』。
『罪』のラスト、ローレンのパジャマにくっついて取れないイガイガは彼女が知りたくなかった真実そのものだ。
ジュリエット三部作はアルモドバルの映画を先に観ていたので、どうしても映画との差異を探しながら読みことになってしまって純粋に楽しめなかった。
女性映画を得意とするアルモドバルがアリス・マンローに惹かれるのはよく分かるが、マンローの真骨頂が“苦さ”であるのに、アルモドバルの『ジュリエッタ』は甘すぎた。
(収録作品)
・家出
・チャンス
・すぐに
・情熱
・罪
・トリック
・パワー

ジュリエット (新潮クレスト・ブックス)

ジュリエット (新潮クレスト・ブックス)


⚫︎アメリカ大陸のナチ文学/ロベルト・ボラーニョ
野谷文昭訳/白水社
LA LITERATURA NAZI EN AMÉRICA/ROBERTO BOLAÑO/1993

『野生の探偵たち』でも膨大な登場人物の数に圧倒されたが、多分ボラーニョは『野生の探偵たち』の登場人物についてもこんな風に作り込んでいたんじゃないかと思わせる。
一応人名事典(風)の体裁をとってはいるが、各章がそのまま発展して一冊の小説になってもおかしくない。むしろその為の下地にも思える。
ただし、ここに取り上げられている詩人や作家はファシズムや極右の信奉者だったりで、
例え実在しても名を残すことは難しかっただろうし、一冊の本の主人公にもなりずらい、というところが何やら物哀しい。
印象に残ったのは、「メンディルセ家の人々」「移動するヒーローたちあるいは鏡の割れやすさ」「素晴らしきスキアッフィーノ兄弟」辺り。
ラストの「忌まわしきラミレス=ホフマン」は唯一“僕”=ボラーニョが登場し、“小説的”で異色。

アメリカ大陸のナチ文学 (ボラーニョ・コレクション)

アメリカ大陸のナチ文学 (ボラーニョ・コレクション)


⚫︎L.A.コンフィデンシャル/ジェイムズ・エルロイ
小林宏明訳/文藝春秋
L.A.CONFIDENTIAL/JAMES ELLROY/1990

《暗黒のLA四部作》再読中。唯一未読だった前作『ビッグ・ノーウェア』のラスト、バズ・ミークス逃走劇の顛末がプロローグとなる本作は、腕っ節の強い叩き上げの刑事バド・ホワイト、警察一族のエリート刑事エド・エクスリー、マスコミにネタを売って小金を稼ぐ麻薬課刑事ジャック・ヴィンセンズ、この三人の視点でストーリーが展開。目の前で母親を父親に殺されたバド、偽りの戦争の英雄エド、民間人を誤って射殺したジャックと三人の抱えるトラウマが半端なく重い。大分時間が経っているとはいえ、うっすらとした記憶のみで殆ど初読み状態なのが情けない。
前作『ビッグ・ノーウェア』でも同じことを思ったけれど、主人公三人ががつまんないプライドやらわだかまりなんぞさっさと捨ててお互いの情報を持ち寄ってたら事件はあっという間に解決したんじゃね?って、まあそう簡単にいかないところにドラマが生まれる訳で。
様々な事件とその関係者が複雑に絡み合う小説を映画版は大分削ぎ落としていた(という記憶がある)が、こちらも再見したい。
バド、エドを演じたラッセル・クロウガイ・ピアース出世作。ジャックはケヴィン・スペイシーが演じている。
小説に登場する実在の人物はマフィアのボス、ミッキー・コーエンと用心棒ジョニー・ストンパナート。ジョニーは愛人だったラナ・ターナーの娘に刺し殺されているが、この史実もうまいこと小説に組み込まれている。
【ガーディアン紙の1000冊】

LAコンフィデンシャル〈上〉 (文春文庫)

LAコンフィデンシャル〈上〉 (文春文庫)

LAコンフィデンシャル〈下〉 (文春文庫)

LAコンフィデンシャル〈下〉 (文春文庫)

カーティス・ハンソン監督による映画版のBlu-rayはこちら👉

L.A.CONFIDENTIAL-ブルーレイ・エディション- [Blu-ray]

L.A.CONFIDENTIAL-ブルーレイ・エディション- [Blu-ray]


⚫︎傷だらけのカミーユ/ピエール・ルメートル
橘明美訳/文藝春秋(文春文庫)
SACRIFICES/Pierre Lemaitre/2012

シリーズ三作目の本作では、ヴェルーヴェン班の主要メンバーであり、カミーユの友人でもあったアルマンの病死というショッキングな幕開け(病気だったのは前作で仄めかされていた?)。
おまけに事件の被害者(!)がカミーユの恋人アンヌだったことから腹心の部下ルイにも秘密を抱えたま捜査は暴走し、カミーユのスタンド・プレイが目立つ結果に。
“あの人”の正体は意外でもなかったし、小説の構成として過去二作のような驚きはなし。
ただもう“傷だらけ”のカミーユが痛々しい。
何もこんなに追い詰めなくてもいいのに。。。

傷だらけのカミーユ (文春文庫) (文春文庫 ル 6-4)

傷だらけのカミーユ (文春文庫) (文春文庫 ル 6-4)

2016年のオススメ本

新年あけましておめでとうございます。
昨年中は更新も気まぐれな当ブログをお読みいただきありがとうございました。
今年はもう少しコンスタントに更新していきたいと思いますので今後ともよろしくお願いします。

2017年の一回目は
2016年のオススメ本を紹介します。

⚫︎部屋/エマ・ドナヒュー
土屋京子訳/講談社
ROOM/Ema Donoghue /2010

2016年の映画賞レースを席巻していた映画の原作ということがなければ、多分手に取ることもなかったと思う。
誘拐監禁事件の生還者である母と息子が、
小さな“部屋”という世界から現実世界に適応しようとする物語。
残念ながら現実にも誘拐監禁事件のニュースを目にすることはある。
しかし、ニュースで私たちが知ることの出来るのはその救出までであって、その後の被害者の闘いについて知ることは殆どない。
外の世界を知ることなく育った5歳の息子の闘いと監禁と暴力によって傷ついた母親の闘いはまったくの別物であり、“部屋”に対する思いもまた別物だ。
息子にとってそこは母親と二人だけの安心できる場所だが、母親にとっては思い出したくもない悪夢の場所だ。だからこそ、ラストシーンに一層心を動かされる。
※昨年公開された映画『ルーム』も(ブリー・ラーソン、ジェイコブ・トレンブレイの好演もあって)素晴らしかった。
詳しくはこちら👉ルーム - 極私的映画案内

部屋 上・インサイド (講談社文庫)

部屋 上・インサイド (講談社文庫)

部屋 下・アウトサイド (講談社文庫)

部屋 下・アウトサイド (講談社文庫)


⚫︎美について/ゼイディー・スミス
堀江里美訳/河出書房新社
ON BEAUTY/Zadie Smith/2005

E・M・フォスター『ハワーズ・エンド』を下敷きに、舞台を現代の米東部の大学町に移したオマージュ小説。
どちらも対照的な二つの家族が描かれるが、
現代のベルシー家とキップス家の対立軸はリベラルと保守、人種、持つ者と持たざる者となかなかに複雑だ。
オリジナルの枠を踏襲しつつも現代的な視点をいくつも持ち込み物語を紡ぐゼイディー・スミスの力量は流石。
距離を縮めていく両家の母親たちの存在の確かさが印象的な一方、互いにいがみ合う父親たちは何かを見失っているように見えるが、それは美しいものを美しいと感じられる心だったのかもしれない。

美について

美について


⚫︎グルブ消息不明/エドゥアルド・メンドサ
柳原孝敦訳/東宣出版
SIN NOTICIAS DE GURB/Eduardo Mendoza/1990

2年後にオリンピックを控えたバルセロナの街に二体の地球外生命体が降り立つ。
ポップス界の歌姫の外見をまとい調査に出発したグルブだったが、最初の現地住民との接触後音信不通に。
グルブの上司「私」によるグルブ捜索に関する調査報告書の体裁を採るのが本書であるが、
チューロをキロ単位で消費し、バルの馴染みになり、
シングルマザーに恋をする。
捜索そっちのけの「私」の暴走ぶりがとにかく楽しい!
ワープロソフトのコピペ機能を多用した繰り返しの文章がとてもいいテンポを生み出している。
思わず吹き出すこと必至!
電車内読書は厳禁です。
※こちら当ブログでも紹介しました👉グルブ消息不明 - 極私的映画案内

グルブ消息不明 (はじめて出逢う世界のおはなし―スペイン編)

グルブ消息不明 (はじめて出逢う世界のおはなし―スペイン編)


⚫︎ドロレス・クレイボーンスティーヴン・キング
矢野浩三郎訳/文藝春秋
DOLORES CLAIBORNE/STEPHEN KING

口の悪い中年女ドロレス・クレイボーンの殺人の告白(供述)という体裁で一気に読ませるキング流石のリーダビリティ。
「彼女は何故殺したのか?」
その経緯が彼女自身の生き生きとした言葉で語られる。
若くして夫選びに失敗し、子供を産み、育てるために、必死に働いてきたドロレス。
彼女と金持ちの雇い主ヴェラとの“冷たく汚い戦争”には唖然としたが、彼女達は“不幸な結婚生活”という共通点で結ばれた戦友でもあったのだ。
キングは本作を自身の母親に捧げているが、
家族のために自分を犠牲にし懸命に生きたすべての母親への敬意にあふれる一冊だった。


⚫︎ハーレムの闘う本屋 ルイス・ミショーの生涯
/ヴォーンダ・ミショー・ネルソン

原田勝訳/あすなろ書房
NO CRYSTAL STAIR/Vaunda Micheaux Nelson/2012

黒人が現状を変えるには自らのルーツ、歴史を知り、
自分の価値を知り、尊厳を取り戻さなくてはならない、それには知識だと黒人が書いた、
黒人に関する、黒人にとって意義ある本を扱う本屋を開かなければ。
そう決意したルイス・ミショーは1939年44歳の時、
ニューヨークのハーレムで「ナショナル・メモリアル・アフリカン・ブックストア」を開店した。たった5冊の本と100ドルの資金で。
こつこつと扱う本を増やし、人々を啓蒙し、40年近くに渡り黒人社会に貢献し続けた。
マルコムXをはじめとする活動家や黒人作家が慕った信念の人ルイス・ミショーがとにかくカッコいい!
課題図書(高校生対象)になっていたのは、
選挙権が18歳に引き下げられたことも関係あるのかなと思うが、なにかを判断するには判断する材料が必要で、それはやはり知識だ。
黒人社会に限らずどんな社会においても「ミショーの本屋」は必要なのだ。自ら考え判断するために。

ハーレムの闘う本屋

ハーレムの闘う本屋


⚫︎黒い本/オルハン・パムク
鈴木麻矢訳/藤原書店
KARA KITAP/Orhan Pamuk/1994

ジェラールに憧れたガーリップ、別の人生を思うリュヤー、「自分にならなくてはならぬ」と書くジェラール。
別の誰か、別の人生に憧れるのも人の性なら、自分自身でありたいと願うのもまた人の性。
相反するようでいて、多くの人はその狭間で常に揺らいでいる。
それは西洋と東洋の間で揺らぐトルコという国の姿でもあるのだろう。
ガーリップがリュヤーの行方を追うストーリーをジェラールのコラムが補完する構成になっているが、
このコラムが素晴らしい。
こんなコラムが掲載された新聞が実際にあったら凄い!

黒い本

黒い本


⚫︎望楼館追想/エドワード・ケアリー
古屋美登里訳/文藝春秋
OBSERVATORY MANSIONS/EDWARD CAREY/2000

決して白手袋を外さないフランシス、魂が抜けた父、
眠り続ける母、テレビの前から離れないクレア、
汗と涙を流し続けるピーター、言葉の通じない犬女トウェンティ。
奇妙な住人が孤独を確かめ合いながら暮らす望楼館の静かな生活は新たな住人アンナによって変化の兆しが。
個々の辛い過去が呼び覚まされ、彼らは次の一歩を踏み出さざるを得なくなる。
それは現実と向き合うことであり、彼らにとって試練だが避けて通れないものだった。
痛々しく哀しい物語ではあるが読後感は不思議といい。
これがデビュー作のエドワード・ケアリー、恐るべし!

望楼館追想 (文春文庫)

望楼館追想 (文春文庫)


⚫︎プリズン・ブック・クラブ コリンズ・ベイ刑務所読書会の一年/アン・ウォームズリー
向井和美訳/紀伊國屋書店
THE PRIZON BOOK CLUB/ANN WALMSLEY

塀で隔てられた刑務所の中の人生。
しかし、心の中にも塀はある。
私の中に偏見がないとは言えない。
強盗に襲われた経験を持つ著者にとってその塀は想像以上に高いものだったに違いない。
しかしそんな著者が友人に誘われて参加したのが刑務所の中の読書会だった。これはその一年間の記録だ。
読書会で取り上げられた本は既読のものもそうでないものもあったが、メンバーの意見や感想はどれもとても興味深いものだった。
普段本を読まない人に対してどうしたらその楽しみを伝えられるのかはなかなか難しいが、その答えがこの本の中にあった。
その答えは、つまるところ、読書会で読んだ本の中でどれが一番面白かったか聞かれたメンバーのこの言葉にあると思う。
「どれが好きっていうのではなく、本を一冊読むたびに、自分の中の窓が開く感じなんだな。どの物語にも、それぞれきびしい状況が描かれているから、それを読むと自分の人生が細いところまではっきり見えてくる。そんなふうに、これまで読んだ本全部がいまの自分を作ってくれたし、人生の見かたも教えてくれたんだ」
著者を読書会に誘ったキャロルのこの言葉もまた真理。「読書の楽しみの半分は、ひとりですること、つまり本を読むことよ」 「あとの半分は、みんなで集まって話し合うこと。それによって内容を深く理解できるようになる。本が友だちになるの」
読書を愛するすべて人に読んでほしい一冊。

プリズン・ブック・クラブ--コリンズ・ベイ刑務所読書会の一年

プリズン・ブック・クラブ--コリンズ・ベイ刑務所読書会の一年


⚫︎すべての見えない光/アンソニー・ドーア
藤井光訳/新潮社
ALL THE LIGHT WE CANNOT SEE/Anthony Doerr/2014

孤児として育つドイツ人少年ヴェルナーと視力を失ったフランス人の少女マリー。
共に聡明な若い二人が戦争という運命に翻弄され、第二次大戦末期、フランスの海辺の町サン・マロで出会う。
恋というにはあまりにも淡い、しかし共に過ごした時間はあまりにも濃密な唯一無二の出会い。
二人の魅力的な主人公、二つの時間軸が牽引力となりストーリーに引き込んで読者を離さない。
純粋な二人の主人公は勿論だが、脇役のキャラクターがとても効いている。特にヴェルナーの軍での上司でストーリーを着地点に導く寡黙なフランク・フォルクハイマーのキャラクターが印象に残った。
短編のイメージが強かったアンソニー・ドーアが長編小説で見事な構成力。恐れ入りました。

すべての見えない光 (新潮クレスト・ブックス)

すべての見えない光 (新潮クレスト・ブックス)


⚫︎四人の交差点/トンミ・キンヌネン
古市真由美訳/新潮社
Neljäntienristeys/Tommi Kinnunen/2014

助産師として自立し子どもを産み育てたマリア、
母と同様に手に職を持ちながら結婚という道を選んだラハヤ、この家に嫁ぎ自分の居場所を確かなものにしようと奮闘したカーリナ、家族に秘密を持つことに遂に耐えられなかったラハヤの夫オンニ。
どちらかといえば馴染みのないフィンランドの北東部の小さな村に生きた家族の100年の物語もその辛抱強い国民性はなぜか身近に感じられる。
親子、家族の間の小さなすれ違い、秘密。
たとえ家族であっても、何でも口にしてしまえばいいというものでもない。
沈黙が(表面的ではあっても)平和を守ることもある。
年代順にストーリーを語るのではなく、
マリア、ラハヤ、カーリナ、オンニそれぞれが主人公の物語を並べた構成が巧み。
しかもこの順番も絶妙で、ミステリーの風味もあり。
この辺りは著者の脚本家としてのキャリアが活きているのかもしれない。

四人の交差点 (新潮クレスト・ブックス)

四人の交差点 (新潮クレスト・ブックス)


⚫︎熊と踊れ/アンデシュ・ルースルンド、ステファン・トゥンベリ
ヘレンハルメ美穂、羽根由訳/早川書房
BJÖRNDANSEN/Anders Roslund & Stefan Thunberg/2014

スウェーデンは暴力犯罪の少ない国だそうだが、
この物語の中心となるレオ、フェリックス、ヴィンセントの三兄弟は父イヴァンが暴力で家族を支配する家庭で育つ。
大人になったレオをリーダーとして三兄弟は史上例のない銀行強盗計画を決行するが、彼らを追う市警のブロンクス警部もまた凶暴な父親が支配する家庭で育つという生い立ちを持つ。
正に大胆不敵、前代未聞の強盗事件を次々に成功させる“軍人ギャング”一味とストックホルム市警のブロンクス警部の攻防戦、というよりもやはりこれは父と息子の、兄弟の、家族の物語だ。
物語の後半、凶暴な父イヴァンの支配と決別した筈の長男レオがかつての父のように弟たちを支配しようとし始め、兄弟の間に亀裂が生まれる。父イヴァンが何故ここまで家族の結束に執着したかといえば、それは語られない彼の旧ユーゴでの生い立ちにあり、かつては彼も暴力の被害者だったのだろう。世代を越え受け継がれていく暴力の連鎖がやりきれない。
一方、軍人として生きる道を絶たれるというヤスベルの大きな挫折はその後の彼の行動に大きな影響を及ぼしたが、いくら行動を共にしても決して兄弟にも家族にもなれない彼の深い孤独も心に残る。
著者コンビの片割れステファン・トゥンベリの経歴を読んで吃驚!
三兄弟の真ん中、フェリックスの立ち位置が切なくて共感してしまったのは、彼の特別な思いがあったのだと納得。

熊と踊れ(上)(ハヤカワ・ミステリ文庫)

熊と踊れ(上)(ハヤカワ・ミステリ文庫)

熊と踊れ(下)(ハヤカワ・ミステリ文庫)

熊と踊れ(下)(ハヤカワ・ミステリ文庫)


エブリバディ・ウォンツ・サム!!世界はボクらの手の中に


全身全霊で今を楽しめ!

1980年9月。
新学期を3日後に控えた南東テキサス州立大に一人の新入生がお気に入りのレコードコレクションと共に引っ越してくる。
奨学生の野球部員ジェイクだ。
高校ではエースピッチャーだった彼も
大学では新入生のひとり。
期待と不安を胸に野球部の寮になっているシェアハウスに到着すると、天井からはミシミシと不穏な音が聞こえてくる。
ウォーターベッドに水を注入中の二階では、
このベッドで女の子と一戦交えようと部員たちが
大盛り上がり!
水を止めてこいと命じられたジェイクは
もう何が何やら。
早速ポジションを聞かれ、ピッチャーだと答えると
いきなり「ピッチャーは嫌いだ」と言われる始末。

戸惑うジェイクは同じく新入りプラマーと共に
先輩のフィル、ローパー、デイルに連れられキャンパスを偵察に出掛ける。
早速引っ越し中の女子学生二人に声をかけるフィルとローパー。
演劇専攻だという彼女たちにあっさり袖にされるが、
二人のうちのひとり、ビバリーはこう答える。

「後ろの席の静かな彼(ジェイク)が好き❤️」

面白くない先輩たちはさっさとその場を離れようとするが、ジェイクはしっかりと彼女の部屋のナンバーを見ていた。

初めてのミーティングでは、コーチから新入りのジェイク、プラマー、ビューターことビリー、ブラムリーの4人と編入してきたナイルズとウィロビーが紹介される。
コーチからはシェアハウスで守るべき2つのルールが言い渡される。

・アルコール禁止
・二階には女の子を上げない

しかし、
そんなルールなんて知ったこっちゃない!
早速、その晩から飲んで騒いでの大パーティー!
ジェイクもいい感じになった女子をベッドに連れ込もうとするが、同室のビューターに部屋を明け渡すことを断固拒否される。
翌朝、荷造りをしたビューターの姿が。

「生理が遅れてるの」

故郷に残してきた彼女から連絡があり、
急遽戻ることになったのだ。

新学期まであと2日。


野球の映画たくさんあるけれど、ほとんどはプロの世界、メジャーリーグを舞台したものだ。
メジャーの選手だってプロになる前は高校や大学でプレーしてた訳で、考えてみれば当たり前の話だが、何故か今まで大学野球についてはまったく知らなかった。
うんうん、そうだよな、大学からドラフトを経てプロになるんだよなと思いつつ見ていたが、

こっ、この野球部大丈夫か?
つか、ホントにこいつらアスリート⁉︎

この時代、80年代初めのファッション、特にこんなに口ヒゲが流行っていたかどうかは定かではないが、この人たち、ちょっとオッサン過ぎない?とか、
日本人の感覚なのか、いやでも新入りのジェイク、プラマー、ブラムリー(口ヒゲ成長中!)はそれなりにフレッシュに見えるので、大学生活に染まるとこんな感じになってしまうのか?とか、
まあ、とにかくいろいろ違和感を感じつつもストーリーを追っていると、
こうストーリーらしきストーリーはない。
とにかく新学期までの数日をビール飲んで騒いで女の子を口説いて過ごす、と。
大学のパーティー三昧を見せるコメディなら、
他にいくらでもあるし、
主にテレビで活躍してたり、これがデビュー作だったりで、キャストもちょっと印象薄いなあとか思って見てた訳ですよ、途中までは。

でも、あら不思議!
最後にはみんなのこと、
大好きになっちゃった!



最初は、こいつらホントに野球出来んの?と思わされるけれど、
「ベースボール=野球」
やっぱりこの要素がすごく重要。
野球経験者が多くキャスティングされている(中でもナイルズ役のジャスティン・ストリートは元プロ野球選手)のもその証拠で、153キロの速球を自慢する編入生のネイルズ渾身の一球をチームのキャプテンマックが軽々と打ち返す。南東テキサス州立大が強豪校だと見せること、
彼らが優秀なプレーヤーだと見せることはとても重要なのだ。

(こんな恒例の新入り歓迎行事もあるよ!
ダクトテープ最強!)


彼らは(多分)皆が野球で奨学金をもらっている。
将来皆がメジャーで活躍出来る訳でもないし、プロになる訳でもない。
それどころか、成績が振るわなかったり、
怪我をしてプレー出来なくなれば、
大学を去らなくてはならなくなるかもしれない。
多分、そういう学生の姿を先輩たちは見てきている。
野球を生活の中心に出来るのもこれが最後かもしれない。
だから今、チームが結束し、プレーし、
試合に勝つことが重要なのだ。
編入生のウィロビーが実は経歴や名前、年齢を偽り大学を渡り歩いていたのも、人生においては学生時代が特別な時間であることを本当は30歳だった彼が知っているからだろう。
学生生活をいかに楽しむかを先輩たちが新入りにレクチャーするのも、これから先には楽しいことばかりじゃない、厳しい局面も必ず訪れることを彼らが知っているからだ。
これって、買いかぶり過ぎかな?

確かなことは、ラスト、
新入りがみんながすっかりチームの一員になっていたこと。
しかも、たった3日間で!
なんて完璧なオリエンテーション!!!

=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=
●エブリバディ・ウォンツ・サム!!世界はボクらの手の中に/EVERYBODY WANTS SOME!!
(2016 アメリカ)
監督・脚本:リチャード・リンクレーター
出演:ブレイク・ジェナー,ゾーイ・ドゥイッチ,グレン・パウエル,ワイアット・ラッセル,オースティン・アメリオ,テンプル・ベイカー,ウィル・ブリテン,ライアン・グスマン,タイラー・ホークリン,J・クレイトン・ジョンソン,タナー・カリーナ,ジャスティン・ストリート,フォレスト・ビッカリー



ジェイクを演じるのは、『glee』でブレイク(『glee』は途中までしか観てないので彼のことは知らなかった)したブレイク・ジェナー。
glee』で共演した『SUPERGIRL』のメリッサ・ブノワと結婚。



口が達者で面倒見のいい、でもとても野球選手には見えない先輩フィルを飄々と演じたグレン・パウエル。最初はアホ先輩に見えたけど、最後は頼もしく見えました。



いきがるナイルズの速球を気持ちよくかっ飛ばしてくれたキャプテン役のタイラー・ホークリンは一時プロを目指していたそう。



ヒロイン、ビバリー役のゾーイ・ドゥイッチはなんとなくジュリー・デルピーに似ていて、監督リチャード・リンクレーターの好みなのかなと思ったら、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でおなじみのリー・トンプソンのお嬢さん!確かにお母さんによく似てる!



映画を離れても、みんな仲が良さそう!


公式サイトはこちら👉映画『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』公式サイト

予告編はこちら👉R・リンクレイター監督作/映画『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』予告編 - YouTube


👇『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』のBlu-rayこち


ピンボールマシンやインベーダーゲーム(“名古屋撃ち”!)など80年代ぽいアイテムもたくさん登場するが、なんといっても
The Knackの「My Sharona」を初めとする当時のヒットチューンが耳に嬉しい!
個人的に一番懐かしかったのは、
The S.O.S.Bandの「Take your time(Do It Right)」でした。
👇『エブリバディ・ウォンツ・サム!!世界はボクらの手の中に』のサウンドトラックはこち

エブリバディ・ウォンツ・サム! !  世界はボクらの手の中に

エブリバディ・ウォンツ・サム! ! 世界はボクらの手の中に

マップ・トゥ・ザ・スターズ

これもひとつの
いわゆるハリウッド残酷物語


映画の都ハリウッドに到着したバスから降りてきた少女といってもいいような若い女。
予約した車の運転手ジェロームに彼女はある住所へ向かうように言う。
廃墟となったその住所はかつて映画『いけない子守』の子役スター、ベンジー・ワイスが住んでいた場所。
彼女はそのベンジーの“子守”だったと話す。
しかし、それは事実ではなかった。
彼女はベンジーの姉アガサ。
七年前、ベンジーに薬を飲ませた上で家に放火、
弟を殺しかけ、自らも大やけどを負った。
腕のやけどの痕を彼女は黒い手袋で隠している。

一方、13歳なったベンジーはかつてのヒット作の続編『いけない子守2』でドラッグ中毒からの再起を図ろうとしていた。
ベンジーは病気で入院中のファン、キャミーを見舞う。
「君の人生を映画にしてあげるよ」
その場かぎりの励ましの言葉を本気にするマネージャーを罵倒するベンジー

そして、
もうひとりキャリアの危機に直面している女優がいた。
彼女の名はハバナ・セグラン。
ゴールデングローブ賞も受賞している有名女優だが年齢を重ね最近はキャリアが低迷している。
同じく女優で若くして亡くなった母クラリスが主演したアートフィルム『盗まれた水』のリメイク版に出演することを熱望しているが、
監督のダミアンとは連絡が取れずイライラを募らせている。
精神的に不安定なハバナは心理学者スタッフォード(アガサとベンジー父親)のセラピーに頼るが、
若く美しいままのクラリスの亡霊が彼女を苦しめる。
結局リメイク版『盗まれた水』にはハバナよりも若い女優アジタがキャスティングされる。

Twitterを通じて女優キャリー・フィッシャーと知り合いになっていたアガサはキャリーのコネでハバナに紹介され個人秘書として雇われる。
アジタと偶然会ったハバナは表面的には役を勝ちとった彼女を祝福する。
しかし、そんな矢先、アジタの息子マイカがプールで溺れて亡くなり、アジタは映画を降板。
ハバナが代役に抜擢される。

リハビリや定期的な検査を条件にスタートした『いけない子守2』の撮影だったが、場面をさらう子役ロイの存在が気にくわないベンジー
結局亡くなってしまったキャミーの亡霊にも悩まされており不機嫌だった。
そんな彼のトレーラーに突然アガサが現れる。
ここへ来たことを両親には黙っていてくれるように頼むアガサを受け入れるベンジー
しかし、スタッフォードはハバナとの会話から彼女が雇った個人秘書がアガサだと気付いてしまう。
激怒したスタッフォードはアガサに金を与え、
姿を消し家族に近づかないように強く迫る。


幼い時からスターとして巨額のギャラを稼いでいたベンジーが両親の愛情を独り占めしていたことは想像に難くない。
しかし、心理学者として成功した父親にとってお金は問題ではなかったはずだ。
ベンジーの成功が両親にとっては自分たちは間違ったことはしていないという証でもあったのだろう。
しかし、両親の秘密を知ったアガサは事件を起こし、ベンジーはドラッグに溺れてしまった。
だから、ベンジーの再起は両親にとっても大きな問題だったのだ。

ハリウッドに戻ってきたアガサは
一体何がしたかったのだろう?
家族に謝罪し、やり直したかったのか?
両親の秘密を弟と共有したかったのか?
それともベンジーとの儀式を最後までやり終えたかったのか?
しかし、父親に拒絶され、ジェロームの裏切りを目撃し、ハバナに罵倒されたアガサが戻る場所はひとつしか残されていなかった。
それは再び問題を起こしてしまったベンジーもまた同じだった。

「13回夏を過ごした。文句ないさ」

こう言うベンジーはどこかホッとしているように見える。
これでようやく解放された、とでもいうような。


子役スターの転落の物語は珍しくない。
10歳にもならないうちから週に何十万ドルも稼げるような世界は異常でしかない。
その異常さから彼らを守るのは周りの大人の仕事で責任だが、その大人自身がハリウッドの罠に絡め取られてしまう。
若く美しいまま亡くなった母親の亡霊から逃れられなかったハバナもまたそんなハリウッドの残酷な物語の犠牲者だったのかもしれない。


〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜
劇中アガサが儀式で唱えるのはフランスの詩人
ポール・エリュアールの詩『自由』。
参考までに英語訳と日本語訳を紹介。


Liberté Paul Eluard

On my school notebooks
On my desk and on the trees
On the sands of snow
I write your name

On the pages I have read
On all the white pages
Stone, blood, paper or ash
I write your name

On the images of gold
On the weapons of the warriors
On the crown of the king
I write your name

On the jungle and the desert
On the nest and on the brier
On the echo of my childhood
I write your name

On all my scarves of blue
On the moist sunlit swamps
On the living lake of moonlight
I write your name

On the fields, on the horizon
On the birds’ wings
And on the mill of shadows
I write your name

On each whiff of daybreak
On the sea, on the boats
On the demented mountaintop
I write your name

On the froth of the cloud
On the sweat of the storm
On the dense rain and the flat
I write your name

On the flickering figures
On the bells of colors
On the natural truth
I write your name

On the high paths
On the deployed routes
On the crowd-thronged square
I write your name

On the lamp which is lit
On the lamp which isn’t
On my reunited thoughts
I write your name

On a fruit cut in two
Of my mirror and my chamber
On my bed, an empty shell
I write your name

On my dog, greathearted and greedy
On his pricked-up ears
On his blundering paws
I write your name

On the latch of my door
On those familiar objects
On the torrents of a good fire
I write your name

On the harmony of the flesh
On the faces of my friends
On each outstretched hand
I write your name

On the window of surprises
On a pair of expectant lips
In a state far deeper than silence
I write your name

On my crumbled hiding-places
On my sunken lighthouses
On my walls and my ennui
I write your name

On abstraction without desire
On naked solitude
On the marches of death
I write your name

And for the want of a word
I renew my life
For I was born to know you
To name you

Liberty.



ポール・エリュアール「自由」Liberte
(壺齋散人訳)

  学習ノートに
  机に 木々に
  砂に 雪に
  ぼくは書きつける

  読み終えたページに
  真っ白な紙に
  石 血 紙 又は灰に
  ぼくは書きつける

  黄金の像に
  兵士の武器に
  王冠に
  ぼくは書きつける

  ジャングルに 砂漠に
  巣に 藪に
  子供の頃のこだまに
  ぼくは書きつける

  すてきな夜に
  白いパンに
  婚約した季節に
  ぼくは書きつける

  青いぼろきれに
  沼に カビの生えた太陽に
  湖に 明るい月に
  ぼくは書きつける

  野原に 地平線に
  鳥の翼に
  風車の影に
  ぼくは書きつける

  オーロラのきらめきに
  海に 船に
  悠々たる山に
  ぼくは書きつける

  あわのような雲に
  嵐のような汗に
  霏霏たる雨に
  ぼくは書きつける

  きらめく形に
  色鮮やかな時計に
  物質の真実に
  ぼくは書きつける

  上り坂に
  広い道に
  はみ出た場所に
  ぼくは書きつける

  燃えるランプに
  消えたランプに
  建て直した家に
  ぼくは書きつける

  鏡の中の 部屋の中の
  おいしそうな果物に
  ベッドに 貝殻に
  ぼくは書きつける

  食いしん坊のかわいい犬に
  ピンとたった犬の耳に
  不器用そうな犬の足に
  ぼくは書きつける

  玄関のステップに
  見慣れたオブジェに
  聖火の列に
  ぼくは書きつける

  調和した肉体に
  友達の額に
  差し出された手に
  ぼくは書きつける

  驚きのガラスに
  きりりと黙って
  引き締まった唇に
  ぼくは書きつける

  廃墟の隠れ家に
  崩れた灯台
  倦怠の壁に
  ぼくは書きつける

  欲望の不在に
  裸の孤独に
  葬式の行進に
  ぼくは書きつける

  回復した健康に
  なくなった危険に
  過去のない希望に
  ぼくは書きつける

  言葉の力を借りて
  ぼくは人生をやり直す
  その言葉がぼくを勇気付ける
  それは自由という言葉だ

=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=
●マップ・トゥ・ザスターズ
/MAPS TO THE STARS
(2014 カナダ/アメリカ/ドイツ/フランス)
監督:デヴィッド・クローネンバーグ
脚本:ブルース・ワグナー
出演:ジュリアン・ムーアミア・ワシコウスカジョン・キューザックロバート・パティンソン,オリヴィア・ウィリアムス、エヴァン・バード,サラ・ガトン,ニーアム・ウィルソン,ドーン・グリーンハルグ,キャリー・フィッシャー




本作の演技によって第67回カンヌ映画祭女優賞を受賞したジュリアン・ムーア
本作で一番露悪的であり、人によっては受け付けないハバナというキャラクターには彼女がいままでに見聞きした女優たちの要素が入っているそうだが、まさか放屁(音もホンモノ?)まで披露するとは!
本来赤い髪の彼女が金髪に染めているが、
この金髪がいかにも落ち目の女優らしさを表していた。
こういう役は、ジュリアン・ムーア自身は年を重ねて益々女優として輝かしいキャリアを築いているからこそ演じられるのだと思う。
現実にキャリアが低迷している女優が演ったら痛すぎる。




線が細くて精神的にも脆そうな役がはまるミア・ワシコウスカ
生理の出血でハバナの高級カウチを汚してしまい彼女になじられキレてしまうシーンは『キャリー』(ブライアン・デ・パルマ)にインスパイアされている、と見た。
そういえば、ジュリアン・ムーアはリメイク版の『キャリー』に母親役で出演している。



若くして美しいまま亡くなったハバナの母クラリス・タガートを演じるのはサラ・ガトン。
亡霊となってハバナの前に現れ彼女を苦しめる。



最近出演作を選んでないように見えるジョン・キューザック。目が怖い!
しかし、“自分史のツボ”なんてないだろ!



脚本家兼俳優の卵ジェロームを演じるのはデヴィッド・クローネンバーグ作品には『コズモポリス』に引き続き出演。
この役には実際リムジンドライバーだった脚本を書いたブルース・ワグナー自身が投影されているのだろう。
ハリウッド以外の世界を知らない他の登場人物に対し、ジェロームは唯一の部外者であり、
一般社会の常識を持った人物として描かれる。



どの登場人物も痛々しいが、
中でもこのベンジーが一番痛々しい。
大人みたいな口をきいて大人な格好をしていても
まだ13歳の子ども。
本来ならまだまだ無邪気な時代を
謳歌していていいはず。
演じるエヴァン・バードの華奢な肩が、
ベンジーの幼さを物語っている。



予告編はこちら👉映画『マップ・トゥ・ザ・スターズ』予告編 - YouTube


👇『マップ・トゥ・ザ・スターズ』のBlu-rayこち

PK


ただいま、神さま行方不明!


ベルギーに留学中のジャグーは
大ファンの詩人の講演会場へと急いでいた。
しかし、チケットはすでに売り切れ。
詩人の父親と共演する息子の俳優のファンだという青年サルファラーズに半分づつ見ようと持ちかけるが、
二人の持ちあわせを合わせてもダフ屋がふっかけるチケット代には足りない。
それでもどうしても講演を見逃したくないジャグーは見かけたインド人紳士に協力を頼むが、
紳士は自分でチケットを買ってしまう。
結局、講演を見逃してしまった二人だったが、
こうして運命の出会いを果たす。

異国の地で距離を縮めていくジャグーとサルファラーズだったが、二人には乗り越えなければならない壁があった。
サルファラーズはインドとは犬猿の仲の国、
パキスタン人だったのだ。
パキスタン人の恋人なんて
敬虔なヒンズー教徒で何でも導師の言いなりのジャグーの父親が許す筈がない。
既成事実を作ってしまおうと結婚を約束した二人は教会で待ち合わせをするがが、
サルファラーズは姿を現さなかった。

失意のうちに帰国し地元のテレビ局に勤め始めたジャグーは、ある日黄色いヘルメットをかぶりラジカセを持ちビラを貼って回る奇妙ないでたちの男に出会う。
ビラには
神さまが行方不明の文字。
番組で扱うくだらないニュースにウンザリしていたジャグーは神様を探しているという彼に興味を持つが、
“PK”と呼ばれる彼の語る身の上話は到底信じられないものだった。


インド映画のお楽しみ、
歌と踊りももちろんあるし、
ジャグーとサルファラーズのロマンティックな出会いや、
PKがジャグーに寄せる淡い思いなどラブストーリーの要素も持ち合わせつつもこの映画の凄いところは、
神さまは何処に?というあまりにもストレートな問いかけがなされているところだ。
正月には神社で初詣をし、クリスマスを祝い、
教会の結婚式も当たり前で、葬式ではお経をあげてもらうことに何の不思議もない国でなら、
こんな問いかけもさほど問題にはならないだろう。
しかし、ヒンズー教シーク教イスラム教にキリスト教と、それこそ神さまが乱立している国でなされる問いかけとしたら、これはなかなか大胆だ。
実際上映禁止運動を展開する宗教勢力もあったらしい。


PKの願いは故郷に帰ること。
しかし、どんな神に祈りを捧げても
彼の願いは叶わない。
家族の無事、健康、故郷の平和、
信じる神が違っても、
人々が祈ることに大きな差はないのに、
大昔から人間は宗教の違いを理由に争いを繰り返してきた。
この世界を作った創造主が一人(唯一の存在)であるなら、なぜ神は一人ではないのか?
なぜ宗教は一つではないのか?

一体どんな立場の人間(?)ならば、
この問いを投げかけることが出来るのだろう?
どんな考え方にも、
どんな宗教にも毒されていないまっさらな存在。
うまれたての赤ん坊?
それとも、記憶喪失の人間か?
PKをこういう設定にしたのは、
その辺りを考えてのことに違いない。
PKの世界から見れば、厳格な戒律も、
宗教を巡る争いも理解出来ないことばかりだ。

どんな宗教であっても、
共通しているのは人々の祈りだ。
神に祈る人の心は有り様は、
言葉も国も宗教も超えてわかりあえるもの。
PKの問いかけ、PKの姿はそのことを
もう一度私たちに考えさせ、思い出させてくれる。


=+=+=+=+=+=+=+=+=++=+=+=++=+=+=++=+=+=+=
●PK/PK(2014 インド)
監督:ラージクマール・ヒラーニ
脚本:ラージクマール・ヒラーニ,アビジャート・ジョーシー
出演:アーミル・カーンアヌシュカ・シャルマ,スシャント・シン・ラージプート,サンジャイ・ダット,ボーマン・イラニ,サウラブ・シュクラ,バリークシト・サーハニー,ランビール・カプール



ラージクマール・ヒラーニ監督の前作『きっと、うまくいく』では40代で大学生を演じたアーミル・カーン、なんと今作では○○○!
彼のルックスがあまりにも○○○らしくて(特にこの大きな耳が!)、ありがちな設定だな〜と一瞬思ってしまったのだが、彼のこの設定には大きな意味があったのだった。
ラストに登場する“お仲間”も耳が大きかった!




インド映画のヒロインといえば、長い黒髪の美女と相場は決まっているが(?)、本作のヒロイン、ジャグーを演じるアヌシュカ・シャルマはショートカットがキュートな美女!
ちょっぴり頑固でめげないジャグーにぴったり!


公式サイトはこちら👉映画『PK』公式サイト


予告編はこちら👉[映画『PK』予告編 - YouTube


👇『PK』のBlu-rayこち

PK ピーケイ [Blu-ray]

PK ピーケイ [Blu-ray]


👇ラージクマール・ヒラーニ監督の前作『きっと、うまくいく』のDVDはこち

きっと、うまくいく [DVD]

きっと、うまくいく [DVD]

彼は秘密の女ともだち


本当の自分に出会うまで


化粧を施され美しいウェディングドレスを着せられたローラは今、棺に納められようとしている。
彼女は夫ダヴィッドと幼い娘リュシーを残して亡くなったのだ。

「ローラは親友でした
私の生涯の友…
出会った瞬間にひと目惚れしました
彼女も、そして私も
まだ7歳でしたが、“永遠の友達”だと確信しました」

「幼い頃と同じように、2人で約束しました
私はあなたに誓った
ローラ、この誓いを守り通すわ
私の命がある限り、
あなたの娘リュシーとダヴィッドを見守るわ」

7歳の時ローラが越して来て以来ずっと一緒だった
クレールとローラ。
お互い結婚後も近所に暮らし、
クレールはリュシーの名付け親になり、
二人はこれからもずっと一緒に年を重ねて行くはずだった。
しかし、彼女は旅立ってしまった。
ダヴィッドとリュシーを見守っていくと誓ったクレールだったが、葬儀後、まだダヴィッドに連絡出来ずにいた。
彼女自身ローラの死から立ち直れず、
仕事も手につかない状態だったのだ。
一週間休みをとり、ジョギングがてらダヴィッドを訪ねたクレールは、そこで思いもよらない光景を目にする。
リュシーにミルクを飲ませる金髪の女性、
それはウィッグをつけローラの服を着たダヴィッドだった。

驚いて帰ろうとするクレールを引き留めるダヴィッド。
彼は、結婚前からローラはダヴィッドの女装癖を知っていたこと、ローラがいた時は彼女の女性らしい存在に満たされ女装はしていなかったこと、ローラの死後ぐずるリュシーをあやすためにローラの香りが残る服を着たことを告白する。
ローラの香りに満たされ、彼女のいない苦しみが消え去ったと。

「僕を理解してほしい、ローラのように」

クレールに懇願するダヴィッド。

クレールがダヴィッドの女装癖を夫ジルに話そうかどうか迷っていると、
ダヴィッドから連絡が入る。

「会いたいんだ。
君と秘密を共有できてうれしい」

ダヴィッドとの関係をジルに疑われないようクレールは携帯の登録名をヴィルジニアに変更する。

リュシーを一週間ローラの両親に預けたダヴィッドは、クレールにショッピングに付き合ってほしいという。
そうヴィルジニアと一緒に。
ダヴィッドの女装に戸惑いながらも彼(彼女)のショッピングに付き合うクレール。
ショッピングをして、お茶を飲んで、映画を観る。
その時間は、まるでローラと過ごした時間が戻ったかのようにクレールには感じられた。
一方、ダヴィッドはヴィルジニアとして人目にさらされることで、これが本来の自分だと自覚を深めていく。
こうして二人は秘密を共有する女ともだちになる。


一緒に過ごすことでお互いローラの死から立ち直ろうとするがダヴィッドとクレールだったが、
その関係は次第に、(ローラの存在ぬきの)
ヴィルジニアとクレールの関係に発展していく。
本人の言うとおり、
ダヴィッドの女装はリュシーのためだけではない。
女装は、ローラの死をきっかけに彼の中の女性、
ヴィルジニアの存在がより大きくなったことの証だった。
そして、ヴィルジニアとの出会いによってクレールにも大きな変化があらわれる。
今までは華やかなローラの陰でどちらかといえば地味な存在だったクレール。
もちろんローラを愛していたが、
彼女に対するコンプレックスもあったはず。
辛い出来事ではあったがローラの死はクレールの中の本来の彼女を開放したのだ。
地味なパンツスタイルばかりだった彼女がスカートもはくようになり、小さなまとめていた髪を下ろし、
髪の色に映える赤いドレスを身に付ける。
彼女の愛車が、クレールの地味なファッションからは想像出来ない派手なMAZDAのスポーツカーだったことに驚いたが、これが本来のクレールの本質だったのだと思う。(彼女をこの車に乗せたのは、すごくいいチョイス!)

しかし、ヴィルジニアダヴィッドでもある。
ここがこの関係の一筋縄ではいかないところで、
二人は強く惹かれ合うものの、
クレールにとってダヴィッドと一線を越えることはローラへの裏切りで、男性の身体であるヴィルジニアとはセックス出来ない。
ヴィルジニアに惹かれている、
この自分の気持ちは一体何なのか?
クレールは混乱する。

クレールはローラとの出会いを一目惚れと表現しているが(フランス語ではどういうニュアンスなのか分からないが翻訳を信用すれば)、多分彼女には元々レズビアン的要素があったのかもしれない。
しかし、女装はしていても(ヴィルジニアであっても)、ダヴィッドが男性であることには間違いなくて、その場合クレールはレズビアンなのか?
ストレートなのか?

ダヴィッド=ヴィルジニア=ローラ
クレールにとってヴィルジニアはローラの生まれ変わり。
ダヴィッドにとってもクレールはローラの不在を埋めてくれる存在。
クレールはローラを失ってヴィルジニアと出会い、
本当の自分を見つけた。
一方、ダヴィッドはローラを失って自分の中のヴィルジニアと再会し、クレールに恋したのだ。
それは間違いない。


ラストシーン。
7歳(きしくもクレールがローラと出会った歳)になったリュシーを迎えるクレールとヴィルジニア
落ち着いた髪の色、
そしてパンツスタイルのヴィルジニア
クレールは大きなお腹。

クレールのお腹の子の父親はジルだろうか?
それともヴィルジニアだろうか?
ジルが父親であれば、ヴィルジニアになったダヴィッドをジルが受け入れ、ヴィルジニアとクレールは(かつてのローラとクレールのように)女ともだち。
(しかし、路上に立つ女装の娼婦に嫌悪感を露わにするジルのシーンもあった)
ヴィルジニア父親であるとすれば、
クレールが男性の身体のヴィルジニアを受け入れ、
多分ジルは二人の元を去ったのだろう。


女装はしていても、
妻も子もいる家庭を持っている人もいるし、
もちろん男性に惹かれる人もいる。
女装しているといっても、
性的指向は人それぞれで単純に一括りには出来ない。
ただ、自分が自分らしくいられる人と共に生きる幸せは誰もが求めているものだと思う。

=+=+=+=+=+==+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=
●彼は秘密の女ともだち/Une nouvelle amie
(2014 フランス)
監督・脚本:フランソワ・オゾン
原作:ルース・レンデル『女ともだち』
出演:ロマン・デュリス,アナイス・ドゥムースティエ,ラファエル・ペルソナ,イジルド・ル・ベスコ,オーロール・クレマン,ジャン=クロード・ボル=レダ,ブルーノ・ぺラール,クロディーヌ・シャタルアニタ・ジリエ,アレックス・フォンダ,ジタ・ハンロ

日本では唯一(と言ってもいいかも)新作がもれなく公開されるフランソワ・オゾン
前作『17歳』は、主人公と自分の違い過ぎる年齢(自分の子どもみたいな年齢)とあまりの美少女ぶりに感情移入するのが難しかったけれど、
今作は、クレール、ダヴィッド(ヴィルジニア)、
ジル、それぞれの立場で考えることが出来て色々と面白かった。
LGBTという言葉は大分ポピュラーになったが、
本当に人それぞれなので、簡単にカテゴライズすることはすれ違いや誤解の原因になる思う。




ロマン・デュリスヴィルジニアは素晴らしかった!
単純に女装するだけならラファエル・ペルソナ(実際監督の構想にあった)の方が美しかったかもしれないが、その仕草ひとつでダヴィッドの中のヴィルジニアを体現していた。
どちらかといえば、彼は男性としては華奢な身体つきだが(足がキレイ!)、髭は濃い。
それが逆にリアル。
本来は濃い胸毛もキレイに剃ってた!




アナイス・ドゥムースティエは
今回はじめましての女優さん。
とびきりの美人ではないけれど、
GIRL NEXT DOOR的な雰囲気がキュートで
クレールの混乱を身近に感じさせてくれました。



クレールとダヴィッドの二人の関係が怒涛の展開を見せるのに対して、ちょっと一人蚊帳の外で気の毒なクレールの夫ジルを演じたラファエル・ペルソナ。
こんな素敵な旦那さんにゴハン作ってもらったら
私なら絶対裏切りませんよ!




7歳のローラを演じたMayline Duboisちゃん
(写真上)。
彼女がもの凄い美少女だったので、
大人になったローラはどんな美人になったの?
と期待してたので、心の中で思わず
「えっ⁈」と絶句してしまいました。
ごめんなさい、イジルド・ル・ベスコさん。。。
(棺の中の彼女は美しかった!)
でも、容姿はクレールのコンプレックスになってるはずなのでローラが華やかな美人であることは重要。


公式サイトはこちら👉彼は秘密の女ともだち | 『フランス映画祭2015』公式サイト

予告編はこちら👉亡くなった親友の旦那が女装!?映画『彼は秘密の女ともだち』予告編 - YouTube


👇『彼は秘密の女ともだち』のBlu-rayこち

ナイトクローラー


サイコパスにうってつけの職業


人通りのない夜のロサンゼルス。
線路脇でフェンスを盗もうとしている男
ルー(ルイス)・ブルーム。
しかし、すぐに警備員に見つかってしまう。
道に迷っただけだと言い訳をしながら警備員の腕時計に目をつけたルーは突然警備員を襲い、腕時計を奪う。

盗んだフェンス、銅線、マンホールのフタをスクラップ工場に持ち込むルー。
盗品だと足元を見られたルーは市価を下回る価格での取引を余儀なくされるが、今度は自分を売り込む。

「仕事を探している。
学べて成長できる仕事をね。
僕は勤勉で志は高く粘り強い。」

「コソ泥は雇わない」

社長の返事は素気無いものだった。

ところがその帰路、
ルーは天職との出会いを果たす。
交通事故の現場。
警察官が負傷者を救出している。
それを撮影しているのは事故や犯罪現場を専門にする
パパラッチだ。
次の現場へ急ぐカメラマンに声をかけたルー。

「稼げるのかな?」

バンの中の沢山のカメラや機材を目にするルー。
少なくともこの機材を買えるくらいには儲かるらしい。

これだ!

翌日、早速ルーは高級自転車を盗み、
カメラと警察無線の傍受機を手に入れる。
運良く最初のカージャックの現場を撮影したルーは
映像を地元のテレビ局に持ち込む。
映像は250ドルで売れた。
ルーは他のパパラッチよりもいい位置で撮影出来たのだ。

「見る目を持ってる 何か撮ったら一番に見せて」

ルーはディレクターのニーナに励まされる。
彼女の求めるシナリオは、郊外に忍び寄る都市犯罪。
被害者は裕福な白人で、犯人は貧困層か少数派が好ましい。
彼女の要求をしっかり理解するルー。
彼は勤勉で志は高く粘り強いのだ。

ルー犯人は仕事もなく家もなく金に困っていた男リックをアシスタントとして雇う。
そして、次々と特ダネをものにするルーはニーナの信頼を勝ちとっていく。


ニーナを食事に誘ったルーは他所の局に映像を持ち込むと彼女を脅し、関係を強要する。
視聴率の調査期間が近づく中、
ルーの映像が是が非でも必要だったニーナは
彼の要求を拒絶することは出来なかった。
その一方で、事故現場で遺体を動かしたことを手始めにルーは次々と一線を越えていく。


いわゆる人の不幸が飯のタネである仕事をする中で次第に壊れていく男が主人公かと思っていたがまったく違った。
最初にルーの盗みの現場を見せる脚本が実に巧みで、
彼には最初から超えてはならない一線など存在しない。
倫理観もない、罪の意識もない。
金のためはもちろんだが、
ルーはこの仕事を純粋に楽しんでいる。
これはサイコパスの男が天職に出会う話なのだ。
そう気付いてサイコパスの定義を調べてみたら
すべてがルーというキャラクターに当てはまる。

犯罪心理学者のロバート・D・ヘアはサイコパスを次のように定義している。

・良心が異常に欠如している
・他者に冷淡で共感しない
・慢性的に平然と嘘をつく
・行動に対する責任が全く取れない
・罪悪感が皆無
・自尊心が過大で自己中心的
・口が達者で表面は魅力的


監督のダン・ギルロイはテレビで流される映像を見て事故や犯罪現場のパパラッチという職業に興味を持ったそうだ。
これを仕事にしているのは、
一体どういう人間なのか?
パパラッチが皆ルーのような人間だとは思わないが、
金のために倫理観や良心を封印している、
そうしなければ出来ない仕事であることは間違いない。
ただし、
この手の映像が視聴率を稼ぐこともまた事実であり、
彼らの仕事はそれを見る視聴者がいて初めて成り立つ。
視聴者である私たちもまた
彼らの仕事に加担しているのだ。
倫理観、被害者感情への配慮、良心、
考えなければならないのは私たちなのである。

=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=+=
ナイトクローラー/Nightcrawler
(2014 アメリカ)
監督・脚本:ダン・ギルロイ
出演:ジェイク・ギレンホールレネ・ルッソ,リズ・アーメッド,ビル・パクストン,アン・キューザック,ケヴィン・ラーム,キャスリン・ヨーク,エリック・ランジ,キック・ヴァンデンヒューヴェル,ジョニー・コイン,マイケル・ハイアット,マイケル・パパジョン

ボーン・レガシー』『リアル・スティール』で知られるダン・ギルロイの監督デビュー作。
兄は脚本家で監督のトニー・ギルロイ
撮影のロバート・エルスウィットは、
ポール・トーマス・アンダーソン作品でおなじみ。
夜のLAの景色が禍々しくも美しく切り取られている。




この役を演じるにあたって12キロの減量をして臨んだというジェイク・ギレンホール
同業者ジョー・ローダーを重傷に追い込み、
その酷く傷ついた姿を撮影している姿は『ノーカントリー』の殺し屋アントン・シガー(ハビエル・バルデム)を、ルーの早口は『ソーシャル・ネットワーク』のマーク・ザッカーバーグジェシー・アイゼンバーグ)を思い起こさせる。
前者は完全なサイコパス、後者は他人と人間関係を築くのが不得手。
悪役を演じる俳優を観るといつも感じるが、
ジェイク・ギレンホールもまた実に楽しそうにサイコパスを演じている。
今後もジェイクは、
ジャン・マルク・ヴァレ監督『Demolition』、
デヴィッド・ゴードン・グリーン監督『Stronger』、
ポン・ジュノ監督『Okja』と気鋭の監督作品への出演が続く。



ルーに酷い目に遭わされるアシスタントのリックを演じたリズ・アーメッド。
サイコパスのルーに対して、リックは常識を持ち合わせている人間として描かれる。
リックには超えられない一線があるのだ。
学歴もなければ仕事もなく家もないという社会の底辺で生きる青年役だったが、本人はオックスフォード大学卒業のインテリ。
今後の出演作は『ジェイソン・ボーン』『ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー』と大作への出演が続いている。



キャリアの危機に直面している崖っぷちのテレビディレクター、ニーナ。
視聴率のためなら(自分のキャリアのためなら)ルーの手法にも目をつぶり、道徳的、倫理的にも問題がある(被害者感情などどこ吹く風)映像も流すニーナもまたルーと同じ穴のムジナだ。
ニーナを演じるのは、監督ダン・ギルロイの奥様レネ・ルッソ
御歳62歳には見えない妖艶さだが、
この役は若い女優には演じられないだろう。
他にも、監督の兄トニーはプロデューサーとして名を連ね、双子の兄弟ジョンは編集を担当している。


公式サイトはこちら👉映画『ナイトクローラー』公式サイト|大ヒット公開中!

予告編はこちら👉映画『ナイトクローラー』予告編 - YouTube


👇『ナイトクローラー』のBlu-rayはこちら

ナイトクローラー [Blu-ray]

ナイトクローラー [Blu-ray]