極私的映画案内

新作、旧作含め極私的オススメ映画をご案内します。時々はおすすめ本も。

PK


ただいま、神さま行方不明!


ベルギーに留学中のジャグーは
大ファンの詩人の講演会場へと急いでいた。
しかし、チケットはすでに売り切れ。
詩人の父親と共演する息子の俳優のファンだという青年サルファラーズに半分づつ見ようと持ちかけるが、
二人の持ちあわせを合わせてもダフ屋がふっかけるチケット代には足りない。
それでもどうしても講演を見逃したくないジャグーは見かけたインド人紳士に協力を頼むが、
紳士は自分でチケットを買ってしまう。
結局、講演を見逃してしまった二人だったが、
こうして運命の出会いを果たす。

異国の地で距離を縮めていくジャグーとサルファラーズだったが、二人には乗り越えなければならない壁があった。
サルファラーズはインドとは犬猿の仲の国、
パキスタン人だったのだ。
パキスタン人の恋人なんて
敬虔なヒンズー教徒で何でも導師の言いなりのジャグーの父親が許す筈がない。
既成事実を作ってしまおうと結婚を約束した二人は教会で待ち合わせをするがが、
サルファラーズは姿を現さなかった。

失意のうちに帰国し地元のテレビ局に勤め始めたジャグーは、ある日黄色いヘルメットをかぶりラジカセを持ちビラを貼って回る奇妙ないでたちの男に出会う。
ビラには
神さまが行方不明の文字。
番組で扱うくだらないニュースにウンザリしていたジャグーは神様を探しているという彼に興味を持つが、
“PK”と呼ばれる彼の語る身の上話は到底信じられないものだった。


インド映画のお楽しみ、
歌と踊りももちろんあるし、
ジャグーとサルファラーズのロマンティックな出会いや、
PKがジャグーに寄せる淡い思いなどラブストーリーの要素も持ち合わせつつもこの映画の凄いところは、
神さまは何処に?というあまりにもストレートな問いかけがなされているところだ。
正月には神社で初詣をし、クリスマスを祝い、
教会の結婚式も当たり前で、葬式ではお経をあげてもらうことに何の不思議もない国でなら、
こんな問いかけもさほど問題にはならないだろう。
しかし、ヒンズー教シーク教イスラム教にキリスト教と、それこそ神さまが乱立している国でなされる問いかけとしたら、これはなかなか大胆だ。
実際上映禁止運動を展開する宗教勢力もあったらしい。


PKの願いは故郷に帰ること。
しかし、どんな神に祈りを捧げても
彼の願いは叶わない。
家族の無事、健康、故郷の平和、
信じる神が違っても、
人々が祈ることに大きな差はないのに、
大昔から人間は宗教の違いを理由に争いを繰り返してきた。
この世界を作った創造主が一人(唯一の存在)であるなら、なぜ神は一人ではないのか?
なぜ宗教は一つではないのか?

一体どんな立場の人間(?)ならば、
この問いを投げかけることが出来るのだろう?
どんな考え方にも、
どんな宗教にも毒されていないまっさらな存在。
うまれたての赤ん坊?
それとも、記憶喪失の人間か?
PKをこういう設定にしたのは、
その辺りを考えてのことに違いない。
PKの世界から見れば、厳格な戒律も、
宗教を巡る争いも理解出来ないことばかりだ。

どんな宗教であっても、
共通しているのは人々の祈りだ。
神に祈る人の心は有り様は、
言葉も国も宗教も超えてわかりあえるもの。
PKの問いかけ、PKの姿はそのことを
もう一度私たちに考えさせ、思い出させてくれる。


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●PK/PK(2014 インド)
監督:ラージクマール・ヒラーニ
脚本:ラージクマール・ヒラーニ,アビジャート・ジョーシー
出演:アーミル・カーンアヌシュカ・シャルマ,スシャント・シン・ラージプート,サンジャイ・ダット,ボーマン・イラニ,サウラブ・シュクラ,バリークシト・サーハニー,ランビール・カプール



ラージクマール・ヒラーニ監督の前作『きっと、うまくいく』では40代で大学生を演じたアーミル・カーン、なんと今作では○○○!
彼のルックスがあまりにも○○○らしくて(特にこの大きな耳が!)、ありがちな設定だな〜と一瞬思ってしまったのだが、彼のこの設定には大きな意味があったのだった。
ラストに登場する“お仲間”も耳が大きかった!




インド映画のヒロインといえば、長い黒髪の美女と相場は決まっているが(?)、本作のヒロイン、ジャグーを演じるアヌシュカ・シャルマはショートカットがキュートな美女!
ちょっぴり頑固でめげないジャグーにぴったり!


公式サイトはこちら👉映画『PK』公式サイト


予告編はこちら👉[映画『PK』予告編 - YouTube


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彼は秘密の女ともだち


本当の自分に出会うまで


化粧を施され美しいウェディングドレスを着せられたローラは今、棺に納められようとしている。
彼女は夫ダヴィッドと幼い娘リュシーを残して亡くなったのだ。

「ローラは親友でした
私の生涯の友…
出会った瞬間にひと目惚れしました
彼女も、そして私も
まだ7歳でしたが、“永遠の友達”だと確信しました」

「幼い頃と同じように、2人で約束しました
私はあなたに誓った
ローラ、この誓いを守り通すわ
私の命がある限り、
あなたの娘リュシーとダヴィッドを見守るわ」

7歳の時ローラが越して来て以来ずっと一緒だった
クレールとローラ。
お互い結婚後も近所に暮らし、
クレールはリュシーの名付け親になり、
二人はこれからもずっと一緒に年を重ねて行くはずだった。
しかし、彼女は旅立ってしまった。
ダヴィッドとリュシーを見守っていくと誓ったクレールだったが、葬儀後、まだダヴィッドに連絡出来ずにいた。
彼女自身ローラの死から立ち直れず、
仕事も手につかない状態だったのだ。
一週間休みをとり、ジョギングがてらダヴィッドを訪ねたクレールは、そこで思いもよらない光景を目にする。
リュシーにミルクを飲ませる金髪の女性、
それはウィッグをつけローラの服を着たダヴィッドだった。

驚いて帰ろうとするクレールを引き留めるダヴィッド。
彼は、結婚前からローラはダヴィッドの女装癖を知っていたこと、ローラがいた時は彼女の女性らしい存在に満たされ女装はしていなかったこと、ローラの死後ぐずるリュシーをあやすためにローラの香りが残る服を着たことを告白する。
ローラの香りに満たされ、彼女のいない苦しみが消え去ったと。

「僕を理解してほしい、ローラのように」

クレールに懇願するダヴィッド。

クレールがダヴィッドの女装癖を夫ジルに話そうかどうか迷っていると、
ダヴィッドから連絡が入る。

「会いたいんだ。
君と秘密を共有できてうれしい」

ダヴィッドとの関係をジルに疑われないようクレールは携帯の登録名をヴィルジニアに変更する。

リュシーを一週間ローラの両親に預けたダヴィッドは、クレールにショッピングに付き合ってほしいという。
そうヴィルジニアと一緒に。
ダヴィッドの女装に戸惑いながらも彼(彼女)のショッピングに付き合うクレール。
ショッピングをして、お茶を飲んで、映画を観る。
その時間は、まるでローラと過ごした時間が戻ったかのようにクレールには感じられた。
一方、ダヴィッドはヴィルジニアとして人目にさらされることで、これが本来の自分だと自覚を深めていく。
こうして二人は秘密を共有する女ともだちになる。


一緒に過ごすことでお互いローラの死から立ち直ろうとするがダヴィッドとクレールだったが、
その関係は次第に、(ローラの存在ぬきの)
ヴィルジニアとクレールの関係に発展していく。
本人の言うとおり、
ダヴィッドの女装はリュシーのためだけではない。
女装は、ローラの死をきっかけに彼の中の女性、
ヴィルジニアの存在がより大きくなったことの証だった。
そして、ヴィルジニアとの出会いによってクレールにも大きな変化があらわれる。
今までは華やかなローラの陰でどちらかといえば地味な存在だったクレール。
もちろんローラを愛していたが、
彼女に対するコンプレックスもあったはず。
辛い出来事ではあったがローラの死はクレールの中の本来の彼女を開放したのだ。
地味なパンツスタイルばかりだった彼女がスカートもはくようになり、小さなまとめていた髪を下ろし、
髪の色に映える赤いドレスを身に付ける。
彼女の愛車が、クレールの地味なファッションからは想像出来ない派手なMAZDAのスポーツカーだったことに驚いたが、これが本来のクレールの本質だったのだと思う。(彼女をこの車に乗せたのは、すごくいいチョイス!)

しかし、ヴィルジニアダヴィッドでもある。
ここがこの関係の一筋縄ではいかないところで、
二人は強く惹かれ合うものの、
クレールにとってダヴィッドと一線を越えることはローラへの裏切りで、男性の身体であるヴィルジニアとはセックス出来ない。
ヴィルジニアに惹かれている、
この自分の気持ちは一体何なのか?
クレールは混乱する。

クレールはローラとの出会いを一目惚れと表現しているが(フランス語ではどういうニュアンスなのか分からないが翻訳を信用すれば)、多分彼女には元々レズビアン的要素があったのかもしれない。
しかし、女装はしていても(ヴィルジニアであっても)、ダヴィッドが男性であることには間違いなくて、その場合クレールはレズビアンなのか?
ストレートなのか?

ダヴィッド=ヴィルジニア=ローラ
クレールにとってヴィルジニアはローラの生まれ変わり。
ダヴィッドにとってもクレールはローラの不在を埋めてくれる存在。
クレールはローラを失ってヴィルジニアと出会い、
本当の自分を見つけた。
一方、ダヴィッドはローラを失って自分の中のヴィルジニアと再会し、クレールに恋したのだ。
それは間違いない。


ラストシーン。
7歳(きしくもクレールがローラと出会った歳)になったリュシーを迎えるクレールとヴィルジニア
落ち着いた髪の色、
そしてパンツスタイルのヴィルジニア
クレールは大きなお腹。

クレールのお腹の子の父親はジルだろうか?
それともヴィルジニアだろうか?
ジルが父親であれば、ヴィルジニアになったダヴィッドをジルが受け入れ、ヴィルジニアとクレールは(かつてのローラとクレールのように)女ともだち。
(しかし、路上に立つ女装の娼婦に嫌悪感を露わにするジルのシーンもあった)
ヴィルジニア父親であるとすれば、
クレールが男性の身体のヴィルジニアを受け入れ、
多分ジルは二人の元を去ったのだろう。


女装はしていても、
妻も子もいる家庭を持っている人もいるし、
もちろん男性に惹かれる人もいる。
女装しているといっても、
性的指向は人それぞれで単純に一括りには出来ない。
ただ、自分が自分らしくいられる人と共に生きる幸せは誰もが求めているものだと思う。

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●彼は秘密の女ともだち/Une nouvelle amie
(2014 フランス)
監督・脚本:フランソワ・オゾン
原作:ルース・レンデル『女ともだち』
出演:ロマン・デュリス,アナイス・ドゥムースティエ,ラファエル・ペルソナ,イジルド・ル・ベスコ,オーロール・クレマン,ジャン=クロード・ボル=レダ,ブルーノ・ぺラール,クロディーヌ・シャタルアニタ・ジリエ,アレックス・フォンダ,ジタ・ハンロ

日本では唯一(と言ってもいいかも)新作がもれなく公開されるフランソワ・オゾン
前作『17歳』は、主人公と自分の違い過ぎる年齢(自分の子どもみたいな年齢)とあまりの美少女ぶりに感情移入するのが難しかったけれど、
今作は、クレール、ダヴィッド(ヴィルジニア)、
ジル、それぞれの立場で考えることが出来て色々と面白かった。
LGBTという言葉は大分ポピュラーになったが、
本当に人それぞれなので、簡単にカテゴライズすることはすれ違いや誤解の原因になる思う。




ロマン・デュリスヴィルジニアは素晴らしかった!
単純に女装するだけならラファエル・ペルソナ(実際監督の構想にあった)の方が美しかったかもしれないが、その仕草ひとつでダヴィッドの中のヴィルジニアを体現していた。
どちらかといえば、彼は男性としては華奢な身体つきだが(足がキレイ!)、髭は濃い。
それが逆にリアル。
本来は濃い胸毛もキレイに剃ってた!




アナイス・ドゥムースティエは
今回はじめましての女優さん。
とびきりの美人ではないけれど、
GIRL NEXT DOOR的な雰囲気がキュートで
クレールの混乱を身近に感じさせてくれました。



クレールとダヴィッドの二人の関係が怒涛の展開を見せるのに対して、ちょっと一人蚊帳の外で気の毒なクレールの夫ジルを演じたラファエル・ペルソナ。
こんな素敵な旦那さんにゴハン作ってもらったら
私なら絶対裏切りませんよ!




7歳のローラを演じたMayline Duboisちゃん
(写真上)。
彼女がもの凄い美少女だったので、
大人になったローラはどんな美人になったの?
と期待してたので、心の中で思わず
「えっ⁈」と絶句してしまいました。
ごめんなさい、イジルド・ル・ベスコさん。。。
(棺の中の彼女は美しかった!)
でも、容姿はクレールのコンプレックスになってるはずなのでローラが華やかな美人であることは重要。


公式サイトはこちら👉彼は秘密の女ともだち | 『フランス映画祭2015』公式サイト

予告編はこちら👉亡くなった親友の旦那が女装!?映画『彼は秘密の女ともだち』予告編 - YouTube


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ナイトクローラー


サイコパスにうってつけの職業


人通りのない夜のロサンゼルス。
線路脇でフェンスを盗もうとしている男
ルー(ルイス)・ブルーム。
しかし、すぐに警備員に見つかってしまう。
道に迷っただけだと言い訳をしながら警備員の腕時計に目をつけたルーは突然警備員を襲い、腕時計を奪う。

盗んだフェンス、銅線、マンホールのフタをスクラップ工場に持ち込むルー。
盗品だと足元を見られたルーは市価を下回る価格での取引を余儀なくされるが、今度は自分を売り込む。

「仕事を探している。
学べて成長できる仕事をね。
僕は勤勉で志は高く粘り強い。」

「コソ泥は雇わない」

社長の返事は素気無いものだった。

ところがその帰路、
ルーは天職との出会いを果たす。
交通事故の現場。
警察官が負傷者を救出している。
それを撮影しているのは事故や犯罪現場を専門にする
パパラッチだ。
次の現場へ急ぐカメラマンに声をかけたルー。

「稼げるのかな?」

バンの中の沢山のカメラや機材を目にするルー。
少なくともこの機材を買えるくらいには儲かるらしい。

これだ!

翌日、早速ルーは高級自転車を盗み、
カメラと警察無線の傍受機を手に入れる。
運良く最初のカージャックの現場を撮影したルーは
映像を地元のテレビ局に持ち込む。
映像は250ドルで売れた。
ルーは他のパパラッチよりもいい位置で撮影出来たのだ。

「見る目を持ってる 何か撮ったら一番に見せて」

ルーはディレクターのニーナに励まされる。
彼女の求めるシナリオは、郊外に忍び寄る都市犯罪。
被害者は裕福な白人で、犯人は貧困層か少数派が好ましい。
彼女の要求をしっかり理解するルー。
彼は勤勉で志は高く粘り強いのだ。

ルー犯人は仕事もなく家もなく金に困っていた男リックをアシスタントとして雇う。
そして、次々と特ダネをものにするルーはニーナの信頼を勝ちとっていく。


ニーナを食事に誘ったルーは他所の局に映像を持ち込むと彼女を脅し、関係を強要する。
視聴率の調査期間が近づく中、
ルーの映像が是が非でも必要だったニーナは
彼の要求を拒絶することは出来なかった。
その一方で、事故現場で遺体を動かしたことを手始めにルーは次々と一線を越えていく。


いわゆる人の不幸が飯のタネである仕事をする中で次第に壊れていく男が主人公かと思っていたがまったく違った。
最初にルーの盗みの現場を見せる脚本が実に巧みで、
彼には最初から超えてはならない一線など存在しない。
倫理観もない、罪の意識もない。
金のためはもちろんだが、
ルーはこの仕事を純粋に楽しんでいる。
これはサイコパスの男が天職に出会う話なのだ。
そう気付いてサイコパスの定義を調べてみたら
すべてがルーというキャラクターに当てはまる。

犯罪心理学者のロバート・D・ヘアはサイコパスを次のように定義している。

・良心が異常に欠如している
・他者に冷淡で共感しない
・慢性的に平然と嘘をつく
・行動に対する責任が全く取れない
・罪悪感が皆無
・自尊心が過大で自己中心的
・口が達者で表面は魅力的


監督のダン・ギルロイはテレビで流される映像を見て事故や犯罪現場のパパラッチという職業に興味を持ったそうだ。
これを仕事にしているのは、
一体どういう人間なのか?
パパラッチが皆ルーのような人間だとは思わないが、
金のために倫理観や良心を封印している、
そうしなければ出来ない仕事であることは間違いない。
ただし、
この手の映像が視聴率を稼ぐこともまた事実であり、
彼らの仕事はそれを見る視聴者がいて初めて成り立つ。
視聴者である私たちもまた
彼らの仕事に加担しているのだ。
倫理観、被害者感情への配慮、良心、
考えなければならないのは私たちなのである。

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ナイトクローラー/Nightcrawler
(2014 アメリカ)
監督・脚本:ダン・ギルロイ
出演:ジェイク・ギレンホールレネ・ルッソ,リズ・アーメッド,ビル・パクストン,アン・キューザック,ケヴィン・ラーム,キャスリン・ヨーク,エリック・ランジ,キック・ヴァンデンヒューヴェル,ジョニー・コイン,マイケル・ハイアット,マイケル・パパジョン

ボーン・レガシー』『リアル・スティール』で知られるダン・ギルロイの監督デビュー作。
兄は脚本家で監督のトニー・ギルロイ
撮影のロバート・エルスウィットは、
ポール・トーマス・アンダーソン作品でおなじみ。
夜のLAの景色が禍々しくも美しく切り取られている。




この役を演じるにあたって12キロの減量をして臨んだというジェイク・ギレンホール
同業者ジョー・ローダーを重傷に追い込み、
その酷く傷ついた姿を撮影している姿は『ノーカントリー』の殺し屋アントン・シガー(ハビエル・バルデム)を、ルーの早口は『ソーシャル・ネットワーク』のマーク・ザッカーバーグジェシー・アイゼンバーグ)を思い起こさせる。
前者は完全なサイコパス、後者は他人と人間関係を築くのが不得手。
悪役を演じる俳優を観るといつも感じるが、
ジェイク・ギレンホールもまた実に楽しそうにサイコパスを演じている。
今後もジェイクは、
ジャン・マルク・ヴァレ監督『Demolition』、
デヴィッド・ゴードン・グリーン監督『Stronger』、
ポン・ジュノ監督『Okja』と気鋭の監督作品への出演が続く。



ルーに酷い目に遭わされるアシスタントのリックを演じたリズ・アーメッド。
サイコパスのルーに対して、リックは常識を持ち合わせている人間として描かれる。
リックには超えられない一線があるのだ。
学歴もなければ仕事もなく家もないという社会の底辺で生きる青年役だったが、本人はオックスフォード大学卒業のインテリ。
今後の出演作は『ジェイソン・ボーン』『ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー』と大作への出演が続いている。



キャリアの危機に直面している崖っぷちのテレビディレクター、ニーナ。
視聴率のためなら(自分のキャリアのためなら)ルーの手法にも目をつぶり、道徳的、倫理的にも問題がある(被害者感情などどこ吹く風)映像も流すニーナもまたルーと同じ穴のムジナだ。
ニーナを演じるのは、監督ダン・ギルロイの奥様レネ・ルッソ
御歳62歳には見えない妖艶さだが、
この役は若い女優には演じられないだろう。
他にも、監督の兄トニーはプロデューサーとして名を連ね、双子の兄弟ジョンは編集を担当している。


公式サイトはこちら👉映画『ナイトクローラー』公式サイト|大ヒット公開中!

予告編はこちら👉映画『ナイトクローラー』予告編 - YouTube


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アクトレス〜女たちの舞台〜


女優を演じる女優


列車でチューリッヒへ移動中の大物スター女優、
マリア・エンダースと個人秘書のヴァレンティン。
マリアのチューリッヒ行きは、
彼女の恩人である劇作家ヴィルヘルム・メルリオールの代理で彼の業績を讃える賞を受け取るためだ。
彼自身は賞をを受け取ることを断っていた。
20年前ヴィルヘルムは、
当時無名だったマリアを舞台『マローヤのヘビ』の主役シグリットに抜擢、映画化された際にも彼女を起用し、作品はマリアの出世作となった。

マリアがスピーチの原稿を練っていると
弁護士から連絡が入る。
彼女は離婚調停中でアパートの売却を巡り
夫と揉めていたのだ。
一方、ヴァレンティンの携帯にはヴィルヘルムが亡くなったという思いも寄らない知らせが入る。
突然の知らせに授賞式に出席すべきかどうか躊躇うマリアだったが、ヴィルヘルムの作品の常連である俳優ヘンリク・ヴァルトが出席し彼女の代わりに賞を受け取ってもいいと言っていると聞き、やはり出席を決める。
『マローヤのヘビ』でも共演していた二人は過去に関係があったのだ。

授賞式後のレセプションでヴァレンティンはマリアを新進気鋭の舞台演出家クラウスに引き合わせる。
クラウスは『マローヤのヘビ』の再演を企画しており
マリアに出演して欲しいと言う。

『マローヤのヘビ』は、
会社経営者で妻で母親でもあるヘレナが、
若く魅力的なシグリットに翻弄されやがて破滅するというストーリー。
クラウスは20年前シグリットを演じたマリアに
今度はヘレナを演じて欲しいと言う。
シグリットを演じるのは、ハリウッドの人気若手女優
19歳のジョアン・エリス。
マリアは当時ヘレナを演じたスーザン・ローゼンバーグがその後事故で亡くなったという事実がヘレナの運命と重なり、それがどうしても気になってこの話を断ってしまう。
しかし、『マローヤのヘビ』はヴィルヘルム自身が続編を構想していた作品。
彼が亡くなったということもあり、
マリアは結局オファーを受ける。

妻ローザの好意で、『マローヤのヘビ』が書かれた場所であるヴィルヘルムの自宅で役作りをすることにしたマリアはヴァレンティンを伴いスイス、シルス・マリアへと向かう。

しかし、ヴァレンティンを相手役に稽古を始めたマリアはどうしてもヘレナという役が掴めない。
ヘレナを理解することが出来ない。
ヴァレンティンはマリアをサポートしようと彼女なりの解釈を伝えるが、それをマリアに悉く否定され苛立ちが募る。

「私の解釈はあなたを混乱させるだけ。
それが悔しいし気まずく感じる。居づらいの」

「残って頂戴。あなたが必要よ」


シグリットという役の性格を考えれば、
どう考えてもクロエ・グレース・モレッツより
断然クリステン・スチュワートだし、
何故監督はクリステンをジョアンではなくヴァレンティンにキャスティングしたのだろう?
スキャンダルとは無縁のクロエだが、
クリステンは『トワイライト』シリーズで共演したロバート・パティンソンと交際中に出演作の監督(既婚)との不倫スキャンダルが話題になったり、
その後は同性の恋人と交際したりと何かとゴシップのネタになってきたし、どちらかといえばジョアンという役のイメージにも近い。
しかし、何故クリステンがヴァレンティン役なのか、
だんだん監督の意図が分かってくる。
ジョアン=シグリット
ではなく
ヴァレンティン=シグリット
マリア=ヘレナ
なのだ。

マリアとヴァレンティンの関係は、恋愛とまでは言えないものの、スターとアシスタントという関係よりももっと親密なものだ。
ヴァレンティン(シグリット)とマリア(ヘレナ)のセリフのやりとりを聞いているうちに、こちらにも二人がシグリットとヘレナに見えてくる。
シグリットとヘレナの関係がヴァレンティンとマリアの関係と重なってくるのだ。


ヴァレンティンはマリアに言い放つ。

「あなたは人間として完成され女優としても円熟してる。なのに若さの特権にしがみつく」

マリアはシグリットのままでいたかった。
自分はもうシグリットを演じることは出来ない、
自分はもう若くはない、ヘレナなのだということを受け容れることが出来ない。

マローヤのヘビ(MALOJA SNAKE)とは、
マローヤ峠に現れる珍しい自然現象(雲の形状)のことで、天気が崩れる前ぶれだと言われている。
この現象に魅せられたヴィルヘルムはこう語ったという。

「大自然の隠された本質が、
自らその姿を現す瞬間だ。」

この現象を戯曲のタイトルにしたヴィルヘルムの真意はどこにあったのだろうか?
ヘレナにとってシグリットとの出会いは
人生を崩壊させる前ぶれだったのか?
それともヴァレンティンが言ったように
姿を消したヘレナは何処か他の場所で
人生をリセットしたのだろうか?


女が歳をとるのは難しい。
とかく若いことに価値が置かれている(かのような)映画界ならなおのこと。
女が歳をとること以上に女優が歳をとることは難しいのだと思う。

ジュリエット・ビノシュ=マリア・エンダース
女優を演じることでより一層役と俳優の距離は縮まり、観る人はジュリエットとマリアを重ねる。
ジュリエットはマリアを演じるにあたり葛藤はなかったのだろうか?
女優が歳をとることをどう受け容れているのだろうか?

その答えは、最後のマリアの微笑にある、
そんな気がした。

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⚫︎アクトレス〜女たちの舞台〜
/CLOUDS OF SILS MARIA
(2014 フランス/スイス/ドイツ)
監督・脚本:オリヴィエ・アサイヤス
出演:ジュリエット・ビノシュクリステン・スチュワートクロエ・グレース・モレッツ,ラース・アイディンガー,ジョニー・フリン,ブラディ・コーベット,ハンス・ジシュラー,アンゲラ・ヴィングラー,ノラ・フォン・ヴァルトシュテッテン



有能なアシスタント、ヴァル(ヴァレンティン)をクールに演じたクリステン・スチュワート
ベテラン女優ジュリエット・ビノシュと堂々と渡り合い、高く評価された。
“あのトワイライトの”という枕詞はもう完全に払拭。
クリステンはオリヴィエ・アサイヤスの次の作品『Personal Shopper』にも出演している。


クロエ・グレース・モレッツはハリウッドの人気女優にはぴったりだが、この役はちょっと背伸びしすぎの印象。しかし、それもまた狙いなのか。

マリア=ジュリエット・ビノシュであるように、
ジョアン=クロエ・グレース・モレッツ
であり、同時に
ジョアン=クリステン・スチュワート
であり、
シグリット=クロエ・グレース・モレッツ
シグリット=クリステン・スチュワート

でもある。
彼女たちもいずれマリア、そしてヘレナの年齢を迎える時がくる。

クリステンもクロエも子役として幼い頃からハリウッドで生きてきたという共通点があるが、
クリステンは今作や『アリスのままで』の好演で一皮むけ、着々と実力派としてキャリアを積んでいる。
一方、クロエ・グレース・モレッツは先頃決まっていた作品を全てキャンセルしたというニュースがあったが、大人の女優になる過渡期であり、今は立ち止まって考えたい時期なのかもしれない。


公式サイトはこちら👉映画『アクトレス ~女たちの舞台~』(ACTRESS)公式サイト

予告編のこちら👉映画『アクトレス~女たちの舞台~』予告編 - YouTube


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ゲットハード Get Hard


マヨ&チョコレート


株の凄腕ディーラー、ジェームズ・キングは高級住宅街ベルエアーに豪邸を構え大勢の使用人を雇い、
勤務先の投資信託会社の社長令嬢アリッサと婚約中。
未来の義父である社長マーティンには共同経営者に指名され、正にこの世の春を謳歌していた。
(ジェームズはドビュッシーの「月の光」で起床するのだが、朝だっていうのに「月の光」というのは…。)


一方、洗車場(ジェームズも顧客の一人である)を経営するダーネルは、引っ越して一人娘のマケイラをもっと治安の良い地域の学校に通わせたいと考えていたが、
新居購入のための頭金の工面に苦労していた。
ある日、切羽詰まったダーネルは大金を稼ぐジェームズにこう申し出る。

「豪華な洗車を一生涯保証するカードを提供したい。
たったの3万ドルで」

「貨幣の時間的価値を考えるとその金を私が運用すれば23年後には300万ドルにになるだろう。
車が汚れるたびに新車が買える」

いい投資だろう?と売り込むダーネルに、
ジェームズの素気無い答えはぐうの音も出ないものだった。

ところが、得意の絶頂だったはずのジェームズの人生は急転直下転落へ。
婚約パーティーの席上、横領と証券詐欺の容疑でFBIに逮捕されてしまう。

全く身に覚えのないジェームズは弁護士から司法取引(罪を認めて1年の服役)を勧められるが、
証拠の書類は偽造されたものだとこれを断固拒否!
法廷で真実を明らかにすることを選ぶ。
しかし、彼の主張は受け入れられず、
(経済知能犯対しては通常警備の薄い刑務所での最低限の刑期が言い渡されていたにもかかわらず)
凶悪犯用の刑務所での10年の刑期が言い渡される。

収監までの猶予は30日間。
ネットで凶悪犯刑務所の荒れた様子を目にしたジェームズはとても耐えられないと婚約者アリッサに国外逃亡を持ちかけるが、彼の地位とお金が目当てだった彼女は別れを宣言する。

収監まで23日。
四面楚歌のジェームズは自分を立て直そうと車のトランクに立て籠もっていた(なぜトランク⁇)ところをダーネルに発見される。
ジェームズの逮捕は知っていたダーネルだったが、
ジェームズが収監されるのが凶悪犯用の刑務所
サン・クエンティンだと聞いて驚く。

すぐにヤられちまうよ!
みんなツッコミ合う
“サン・ファッキン”だ
とにかく最悪の場所だよ!

ダーネルが黒人というだけで前科持ちだと決めつけたジェームズは彼に助けを求める。

掘られない方法を教えてくれ!



前科者と決めつけられたことには憤慨したダーネル。
賢明な妻にも
「刑務所帰りじゃないってすぐバレる」
と諭されるが、
3万ドルの報酬に嫌とは言えなかった。
とはいうものの、交通違反さえしたことのないダーネルは前科者のいとこラッセルに連絡をとり情報収集。
かくして、刑務所暮らしをサバイブするための
授業が始まった。

収監まであと22日。
ジェームズは掘られない強さを手にすることが出来るのか?
無実を証明することはもう出来ないのか?


ダーネルがジェームズに課すサバイバルのためのトレーニングは役に立つのか立たないのか甚だ疑問だが、
しかし、確かなことはお互いがお互いを知り、
二人の間の距離が縮まっていったことである。
ジェームズは元々、車のキーを渡そうとしただけのダーネルをカージャックと勘違いしたり、
偏見なんて持ってませんよと口では言いながらも
実は偏見に満ちた嫌味な白人の金持ち。
一方、実は真面目な市民であるダーネルもお金のために(娘をために)、ステレオタイプな黒人に対するイメージを利用する。
ジェームズの転落がなければ交わるはずのなかった二人の人生が、どちらもお互いを利用しようと相棒になることで交わる。
四面楚歌だったジェームズはダーネルの家族やラッセルの仲間クレンショウ・キングスの中に居場所を見出し、
お金のプロであるジェームズは彼らに投資や年金プランのアドバイスといった専門知識を授ける。
正にWin-Winの関係を築くのである。

結局、偏見や差別は、
お互いが交わること、
知り合うことでしかなくならないのだ。

とにかくジェームズは
掘られたくない!の一心だから、
馬鹿馬鹿しいトレーニングも盛り沢山だが、
メッセージは実にストレートでシンプル。
これもまたひとつのバディ・ムービーである。

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●ゲットハード Get Hard/GET HARD
(2015 アメリカ)
監督:イータン・コーエン
原案:アダム・マッケイ,ジェイ・マーテル,イアン・ロバーツ
脚本:イータン・コーエン,ジェイ・マーテル,イアン・ロバーツ
出演:ウィル・フェレル,ケヴィン・ハート,ティップ・“T.I.”・ハリス,アリソン・ブリー,クレイグ・T・ネルソン,エドウィナ・フィンダレー・ディッカーソン,ジョン・メイヤー


人種も生きている世界も違う対照的なジェームズとダーネルを演じるのはウィル・フェレルとケヴィン・ハート。
この二人の身長、ウィル・フェレルは191センチ、
ケヴィン・ハートは163センチとかなりの凸凹コンビでもある。
合成写真みたいに顔の大きさも全然違う。

本作は『トロピックサンダー 史上最低の作戦』『メン・イン・ブラック3』の脚本家として知られるイータン・コーエン(イーサン・コーエンと紛らわしい!)の監督デビュー作。
日本では劇場未公開だが、全世界で興収1億ドル越えの大ヒット作!
個人的にウィル・フェレル主演のコメディの中では
一番楽しかった!
相棒ケヴィン・ハートはちゃんと出演作を観るのは初めてだったけれど、芸達者です!


プレーボーイとしてもその名を轟かせるシンガーソングライターのジョン・メイヤー
ジェームズの婚約パーティーのゲストとして実名で登場。
彼がこのシーンで歌う「Daughters」はとてもいい曲で、日本映画『八日目の蝉』の中でも使われています。

ジョン・メイヤーの「Daughters」のPVはこちら👉John Mayer - Daughters - YouTube


予告編はこちら👉Get Hard Official Trailer #1 (2015) - Will Ferrell, Kevin Hart Movie HD - YouTube

👇『ゲットハード Get Hard』は現在のところソフト未発売。Amazonビデオで見ることが出来ます。

ピエロがお前を嘲笑う

最後に嗤うのは誰だ

こうと分かっていたら違う行動をしていた
透明人間のままでいた
名無しのままで
でも今は名前がある
最重要指名手配ハッカー

僕は誰?
僕はベンヤミン
これは僕の物語


自称“WHO AM I”と名乗る男が
警察(ユーロポール)に出頭してくる。
ハッカー集団のことを話す」と。


全て繋がっている
それは一本の糸とは違う
張り巡らされた網(ネット)
それに僕は捕まった

〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜
スーパーヒーローに憧れていた少年ベンヤミン
彼が持っていた超能力は“透明人間”。
スーパーマンバットマンのように
不幸な生い立ちだって彼らに負けてなかった。
父親はフランスに蒸発、母親は8歳の時に自殺、
以来祖母に育てられ、今では年老いた彼女の面倒をみている孤独な青年ベンヤミン

宅配ピザの配達をしているベンヤミン
ある日配達先の大学の図書館で
中学の同級生マリと再会する。
ベンヤミンは当時マリのことが好きだったのだ。
マリは彼に気付かずふざけて言う。

「試験問題を盗めたらもう100ユーロ」

14歳の時にコンピューターに夢中になって以来ハッキングの技術を磨いてきたベンヤミンはインターネットの世界に無限の可能性を見い出す。
親しい友人もいないベンヤミンの居場所は
インターネットの世界、
ハッカー集うダークネットの世界だった。
ベンヤミンはマリのために試験問題を盗もうと大学に侵入するがあえなく警備員に捕まってしまう。
犯罪歴のなかった彼は50日間の社会奉仕作業を言い渡される。
しかし、そこで彼に大きな運命の転機が訪れる。
「何をやった?」
作業中に話しかけてきたのはマックス。
「サイバー犯罪」
答えたベンヤミンをマックスはあるパーティーに誘う。
マックスもハッカーだったのだ。
豪邸に集まった多くのパーティー客の中には
マリの姿もあった。
ベンヤミンを仲間のシュテファン、パウルに紹介したマックスは早速力を見せてみろと言う。
部屋にあったパソコンで
近隣一帯を停電させてみせるベンヤミン
しかし、その時パトカーのサイレンが聞こえてくる。
慌てるベンヤミンに停電のせいじゃないと言うマックス。
豪邸はマックスの家ではなかったのだ。
どさくさに紛れマリを連れ二手に分かれて逃げる5人。
そこでようやくベンヤミンに気付くマリ。

「思い出した、ベンヤミン・エンゲルね
修学旅行で置いていかれて1人で電車で帰った」

共にダークネット界のヒーロー、スーパースターであるMRXを崇拝するベンヤミンとマックスはすっかり意気投合する。
MRXのルールは3つ。

その1 安全なシステムはない
その2 不可能に挑め
その3 サイバー世界と現実世界を楽しめ

マックスはベンヤミンに言う。

ハッキングは騙し
ソーシャル・エンジニアリングだ。
人は騙されやすく、争いを避けたがる。
この2つを利用し欲しいものを手に入れる

Clown Laughing At You
ピエロがお前を嘲笑ってる
CLAY

ベンヤミン、マックス、シュテファン、パウルの四人はCLAYと名乗り、
極右政党の集会を皮切りに金融業界、
ネット通販、ポルノサイト、新聞社、大手家具チェーンと次々にハッキング攻撃を仕掛け
その名を知られる存在となっていく。

しかし、上には上がいた。
欧州中央銀行 、ドイツ連邦軍といった国際的な標的を次々と攻撃するFR13NDS
ロシアのサイバーマフィアとも言われる彼らは盗んだデータを闇サイトで売り渡していた。
メンバーの4つのハンドルネーム のうちセクテッド、トウボート、クリプトンの3つは判明していたが後の一人は分かっていなかった。

一方、マックスは焦れていた。
ネットの世界で有名になったCLAYの活躍に対しリスペクトするMRXはまったくの無反応だったのだ。
マックスはMRXに認めてもらいたかったのだ。

そんな時MRXから接触が。
彼からのプレゼントは欧州サイバー犯罪捜査責任者ハンネ・リンドベルクがユーロポールに送った特捜部の極秘捜査資料だった。
そこにはクレイについての記述も。

無害なグループ
大物ハッカー集団ではない

プレゼントの目的はひとつ。
CLAYなど眼中にないと思い知らせるためだった。

憤ったメンバーにベンヤミンはもっと大きな標的、
連邦情報局を狙うことを提案する。

計画では連邦捜査局のサーバーに侵入し、
コピー機を操作するだけのはずだった。
しかし、ベンヤミンは局員のリストも盗み出していた。

連邦捜査局侵入という大仕事を成し遂げた彼らはクラブに繰り出す。
人生最高の夜、得意絶頂のベンヤミンだったが、
マックスがマリにキスする場面を目撃、
腹を立てショックを受けた彼は
盗んだ局員リストをMRXに送ってしまう。

翌日、FR13NDSのメンバー、クリプトンが殺害される。
クリプトンは連邦捜査局の情報提供者だった。
MRXはFR13NDSの最後のメンバー。
彼がデータを売ったのだ。
遺体の傍にベンヤミンが盗んだ局員リストがあったことでクリプトン殺害の容疑がCLAYにかかる。

責任を感じたベンヤミンはMRXに接触を図る。

「FR13NDSの1人だな?僕らも入りたい」

するとMRXはこう命令する。

デカイ獲物をもう一度やってみろ
ユーロポールにトロイの木馬を仕込め

これでMRXは遠隔操作で捜査を監視、
操ることも出来る。
CLAYはMRXの正体を暴き濡れ衣を晴らすため
MRXのコンピュータにトリックを仕掛ける。
その名も妊婦の木馬
MRXがユーロポールのシステムに侵入するとMRXの端末に入れるのだ。

オランダ ハーグ ユーロポール本部
侵入の難易度は、連邦捜査局の比ではなかった。
侵入を諦め、ホテルの部屋で寝入っているメンバーを置いてベンヤミンは一人ユーロポール侵入を決行する。
彼は見学者のビジターパスを拾っていたのだ。
「食堂にサイフを置き忘れた」
昼間の見学者を装い、何とか警備員に中に入れてもらった彼は食堂のテーブルの下に偽のアクセスポイントを仕掛けることに成功する。

しかし、妊婦の木馬のトリックをMRXは見抜いていた。
居場所を知られたベンヤミンは謎の二人組の男(実はFR13NDSのメンバー)に追われる。
追っ手を振り切りようやくホテルに戻ったベンヤミンを待っていたのは、殺されたマックス、シュテファン、パウルの三人の遺体だった。

〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜
ここまでは出頭したベンヤミンが供述したこと。
(以下ネタバレにつき、本編をご覧になってからお読みになることをおすすめします。)


奴の話には大きな穴がある

証拠隠滅のため火をつけたとベンヤミンが言った祖母の家は焼けていなかった。
マリは卒業後ベンヤミンには会ってないと証言し、
医師は自殺したベンヤミンの母親は解離性同一性障害、四人の人格を持つ多重人格だったと言う。
この病気はトラウマや薬の過剰摂取によって遺伝することもあると。
殺されたはずの仲間の遺体は発見されなかった。

信頼できない語り手
小説では一人称の語り手をこう称し、
ストーリーをミスリードすることがある。
ベンヤミンもまた信頼できない語り手。
彼の供述が真実であるかどうかは疑わしい。

ベンヤミンが解決しなければならなかった事】

  1. “透明人間”に戻ること
  2. 仲間を守ること

MRXの逮捕に協力する代わりに証人保護を求める
👉しかし仲間の遺体がなかったことが説明出来ない
👉母親が患っていた多重人格という病気を利用する
👉仲間3人はベンヤミンの別人格ということになり最早存在しない
👉しかし精神疾患者には証人保護は適用されない
👉MRXを警察に売ったことで命を狙われる
👉「冷たくみられるけれど孤独なだけ」というハンネの良心に訴える

これを成し遂げるためには自らの物語、
ベンヤミンの物語を二転三転させる必要があったのだ。


本作のオリジナルタイトルは『WHO AM I』。
このタイトル自体が伏線であり、
スリードの要素でもある。
多重人格がオチになっている作品は他にもあるので、
そこで話が終わっていたら単なる二番煎じに終わっていただろう。
所々ご都合主義に感じるシーンはあれど、
もうひとひねりしたところにオリジナリティを感じた。

手の中の四つの角砂糖が一つになり、
再び四つになる。

これでハンネも真相に気付く。
ベンヤミンがハンネに見せるこのマジックがストーリー全体のネタバレになっているところもなかなかニクい。

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●ピエロがお前を嘲笑う
/Who An I - No System Is Safe
(2014 ドイツ)
監督:バラン・ボー・オダー
脚本:バラン・ボー・オダー,ヤンチェ・フリーゼ
出演:トム・シリング,エリアス・ムバレク,ヴォーダン・ヴィルケ・メーリング,アントニオ・モノー・Jr.,ハンナー・ヘルツシュブルンク,トリーネ・ディルホム



ハッカーが集うダークネットの世界を
地下鉄の車内に変換して見せているのが面白い。
ハッカー達が皆仮面をつけているのもネットの世界の匿名性を良く表している。
複数回観ることでいろいろ見えてくる作品。
冒頭取調室でのベンヤミンのナレーション(「全て繋がっている〜」のシーンとマックスがマリにキスしてるシーンをコマ送りで見てみることをおすすめします。
この監督、なかなか芸が細かい!


公式サイトはこちら👉映画『ピエロがお前を嘲笑う』公式サイト

予告編はこちら👉このトリックを見破れるか!?映画『ピエロがお前を嘲笑う』予告編 - YouTube

👇ハリウッドリメイクも決まっている『ピエロがお前を嘲笑う』のソフトは現在のところリリースされていない模様。
Amazonビデオでどうぞ!

ルック・オブ・サイレンス


彼らは何故殺人を再現出来たのか?


1965年、インドネシア政府は軍に権力を奪われた。
軍の独裁に逆らう者は組合員、小作農、知識人、
すべて共産主義者として告発された。
わずか1年弱で100万人以上の“共産主義者”が殺された。
今でもその加害者たちは国中で権力を握っている。



アディと母親のロハニ/虐殺の犠牲者ラムリの弟と母親

「裁くのは神様だよ。見てるがいい。
死後がある。犠牲者たちが復讐するよ」
「人殺しの子どもが苦しむよう祈ってる。
その子どもや孫も。
お前(ラムリ)を殺した人たちみんなが殺されるように人殺しどもが苦しむように祈ってる」

こう語るロハニは今も加害者たちに囲まれて暮らしている。
彼女の弟は収容所で看守をしていたが、
彼女はその事実をアディから聞くまで知らなかった。



ルクン/アディとラムリの父親
ラムリが殺された後彼の歯は毎朝一本ずつ抜けていったという。
彼は殺された息子を忘れ“17歳”に戻ってしまった。



アディ/ヘビ川で兄ラムリを殺された
母ロハニは彼を兄の生まれ変わりだという。

殺人を再現する加害者を映像で見せられたアディは最初「彼がこんな風に演じるのは理由がある。おそらく自分の行為を後悔してる。人を殺したことを悔やんでいるんだ。彼は罪の意識を感じている。だから殺しを再現する時感情を失っている」という。
しかし、ラムリの虐殺の状況を具体的に語る村の殺人部隊のリーダーの様子を見たアディの表情には明らかに怒りが浮かんでいた。


虐殺の加害者による殺人の再現という異様な姿を追ったドキュメンタリー『アクト・オブ・キリング』の続編。
被害者に対する取材は当局によって中止させられたと聞いていたが、本作の主人公は兄ラムリを殺された被害者家族メガネ技師アディだ。
収容所に収容されていたラムリはある夜村の殺人部隊(コマンド・アクシ)に連れ出され拷問された上で殺され遺体はヘビ川に投げ込まれた。
アディは被害者家族であるが、虐殺事件後の1968年に生まれた。
ここは当局にも盲点だったのかもしれない。
警戒されないように検眼のサービスを装いアディは加害者と対峙する。



イノン/村の殺人部隊のリーダー

「人の血を飲んでなかったら、おかしくなってた」

虐殺に加わった中には正気を失った者も大勢いたという。正気を保つ為に犠牲者の血を飲んだと語るイノン。

共産党員は信仰心がない」
「奴らは妻を交換してセックスしてた」

こんな根も葉もない噂を信じたというイノン。
虐殺という行為が正気を失わせると理解していた(善悪の判断は出来ていた?)のに、
彼は何故リーダーとして積極的に虐殺に加担し悪びれもせずに殺人を再現出来るのだろうか?



アミール・シアハーン/ヘビ川殺人部隊司令

「我々は国際的な問題を扱ったんだ。
だからそれを讃え我々に何か褒美をくれてもいいはずだ。
アメリカ旅行とかー飛行機がダメなら船旅でもいい。
そうだろ。アメリカのために共産主義者を殺した」

こう嘯く彼は司令官として“殺しのリスト”にサインし続けていた。
「兄が殺されたのはあなたの命令です」と言うアディに自らの責任を認めようとはしない。



M・Y・バスラン/コマンド・アクシ幹部
現在、地方議会議長

「あの当時の大虐殺は人民の間から自然と起きた。
共産主義者は嫌われていた。」

コマンド・アクシが政治犯収容所から犠牲者を選び警察の護衛付きでヘビ川まで運び殺したにもかかわらず言い逃れようとするバスラン。


共産主義者の撲滅に貢献したなんて父を誇らしく感じたわ」

父親が多くの共産主義者を殺したことを中学生の時に知ったという娘はこう語る。
ところが、父親が具体的に虐殺の状況を語ると顔色が変わる。
彼女は知らなかったのだ。
父親が実際何をしたのか。

アディの兄ラムリに直接手を下したコマンド・アクシのリーダー、アミール・ハサンは既にこの世にはなく、
アディはアミールが自ら書いて残した本(ヘビ川虐殺の記録)を遺族に見せ、ラムリの最期の様子を語る。
息子たちは何も知らなかったと言い、知っていたはずの妻も(アミールが本のことを話している傍らに妻もいたことが映像に残っている)知らなかったと言う。
息子たちは証拠の映像を観ることを拒否する。

「アディ、ごめんなさい。
私たちもあなたと同じように感じているわ」

「彼らがあの行為を後悔してるなら許せるかもしれない」

アミールの年老いた妻の言葉は、
母親にこう語ったアディの慰めになっただろうか?



まだいたのか⁈
これがこの映画を観た最初の印象だ。
100万人もの人が虐殺されたのだから加害者も大勢いる。
少し考えれば分かることだが、
しかし、殺人の再現をするなどという異様な行為を嬉々としてやる当時の加害者が他にもいたことにショックを受けたのだ。
何故彼らはそんなことが出来るのか?

「過去は過去だ」

ヘビ川の生き残りも虐殺の加害者も口を揃えてこう語る。
しかし、本当にもう終わったことなんだろうか?
コマンド・アクシの幹部だったバスランが長い間権力を握り、犠牲者の家族がひっそりと口をつぐんで暮らしているのは彼らがいまだに怯えているからだ。
「犠牲者家族が過去を蒸し返せばまた同じような虐殺が起こる」
バスランはそう言うが、これはまったくの逆だ。
歴史を歪め過去の過ちを認めようとしない、
誰も責任を認めない社会では、
また同じことが起きる。
加害者たちが過去の自分の行いを正しく認識出来ないのは、国全体で「過去は過去だ」と臭いものに蓋をしてしまったからだ。

共産主義者は残酷だ。
共産主義者は神様を信じていない。
だから政府は彼らを取り締まったんだ。

インドネシアの学校では今も歪められた歴史が教えられている。
虐殺の加害者が多く国の中枢で権力を握っている今この状況を変えることは難しいだろう。
犠牲者家族にとっても加害者家族にとっても事実を直視することは簡単な作業ではない。
しかし、事件後に生まれたアディがその勇気を持てたように、彼やその子供たちの世代ならそれが出来るかもしれない。
アディの二人の子供たちを登場させたのは、
監督のそんな願いが込められているからだと思う。

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●ルック・オブ・サイレンス
/THE LOOK OF SILENCE
(2014 デンマークフィンランドインドネシアノルウェー/イギリス)
監督:ジョシュア・オッペンハイマー
出演:アディ・ルクン,アミール・シアハーン,アミール・ハサン,イノン・シア,M・Y・バスラン

公式サイトはこちら👉映画『ルック・オブ・サイレンス』公式サイト

予告編はこちら👉『ルック・オブ・サイレンス』予告編 - YouTube

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